第3部 経済成長を実現する中小企業 

1 我が国の転業の現状

●転業の定義
 転業とは、一般的に「職業や営業内容をかえること」をいうが24、転業には様々な態様が考えられる。ここでは、転業の態様を、事業内容の変更程度によって、〔1〕「新分野進出」、〔2〕「事業転換」、〔3〕「業種転換」に分類し、分析していく。

24 岩波書店「広辞苑(第六版)」

 〔1〕「新分野進出」とは、既存企業が主な業種や事業を変更することなく、関連事業又は新規事業に進出することである。例えば、ある製品を製造又はある商品・サービスを販売している企業が、その事業を継続しつつ、関連事業や新規分野で別の製品を製造又は商品・サービスを販売することである。
 〔2〕「事業転換」とは、「新分野進出」のうち、同じ業種内で売上高構成比が最も高い事業が変化することである。具体的には、企業が製造又は販売している売上高構成比の最も高い主な製品・商品・サービスが変化することをいう。
 〔3〕「業種転換」とは、「事業転換」のうち、売上高構成比が最も高い業種が変化することをいう。つまり、主な製品・商品・サービスが業種を超えて変化することである。業種について、ここでは、総務省「日本標準産業分類」を用いることにする。日本標準産業分類には、大分類、中分類、小分類、細分類と四段階の区分が存在しており、大分類では20業種、中分類では99業種、小分類では529業種、細分類では1,455業種に分類されている。例えば、大分類には、「建設業」、「製造業」、「卸売業,小売業25」等が、中分類には、「製造業」の中で例示すると、「繊維工業」、「鉄鋼業」、「輸送用機械器具製造業」等が存在する。業種転換の定義は、業種分類の段階により異なることに留意する必要がある。

25 日本標準産業分類によると「卸売業,小売業」で一つの大分類であるが、便宜上、以下では「卸売業」と「小売業」に区分して分析する。
 
事例3-1-9 超精密切削加工技術を活かして医療機器関連分野へ進出した企業

 大阪府大阪市のハリキ精工株式会社(従業員102名、資本金6,000万円)は、1952年に起業された精密機器部品を製造・販売する企業である。
 会社設立以来、超精密切削加工技術をコア技術としてAV 関連部品を製造していたが、1990年頃にはIT 関連部品、2000年頃には自動車関連部品と次々に時代の潮流に合わせた新分野進出を果たし成長を遂げてきた。2007年頃からは、国内及び海外で需要が見込まれる医療機器分野に進出し、卓越した最先端の加工技術を活かして、医療機器用の精密部品を製造・販売している。
 医療機器分野への進出に際しては、従来の大量の部品を高い精度で安定して生産する方式から、少量で複雑な部品を精密に生産する体制への転換や、新しい部品の生産や検査のための従業員の再教育等のいくつかの課題に直面した。しかしながら、医療機器分野を事業の柱とすべく、長年培ってきた切削加工技術を核に医療機器用精密部品を製造し、大阪商工会議所や(独)日本貿易振興機構等と共に参加した見本市では、アメリカの企業との商談を成立させ、新分野における成功の足掛かりを作っている。
 同社の榛木竜社長は、「医療機器分野への進出を機に、今後は自社の裁量を増やすべく、部品から商品へと展開していきたい。」と話している。
同社の製造した医療機器用の精密部品
 
事例3-1-10 事業転換後にハイパワーLED を開発し、太陽の塔を40年ぶりに開眼させた企業

 大阪府守口市の株式会社WDN(従業員7名、資本金1,000万円)は、2001年に起業されたLED 照明や投光器の開発・製造・販売等を行う企業である。
 同社は、従来、液晶ディスプレイのバックライトや特殊な磁石を製造する大企業の下請企業であったが、親企業の海外展開によって受注が減少した。2006年に就任した同社の望月初博社長は、事業転換を決意し、成長が見込まれる環境分野での事業展開を目指し、約1年半の間、休業してLED 照明の開発に挑戦した。技術者出身であった望月社長は、転業前のバックライトの偏光板や反射板、放熱の技術を活かして試行錯誤の末に開発に成功し、2008年にLED 事業を開始した。2010年の大阪万博開催40周年記念事業で、万博記念公園の太陽の塔の目玉を点灯させるプロジェクトに参加、自社のLED 照明を用いて40年ぶりに太陽の塔を開眼させた。
 望月社長は、「転業には領域を限定して自社の強みを活かすこと、そして、資金繰りが重要である。」と語る。同社は、2010年7月に経営革新計画の承認を取得し、中小企業応援センターを活用しつつ、新たに特許申請中のフレキシブル面LED26により、更に事業を成長させている。
同社のLED 照明によって40年ぶりに開眼した太陽の塔

26 照明範囲を調整することができる発光ダイオードのこと。
 
事例3-1-11 店頭販売からインターネット通信販売に業種転換して成長を続ける企業

 東京都八王子市のタンタンコーポレーション株式会社(従業員15名、資本金4,700万円)は、1946年に設立された家電を販売する企業である。地元八王子市を中心に店舗販売で業績を伸ばし、バブル絶頂期には10店舗まで成長した。その後、景気の急速な悪化や郊外型のディスカウントショップの台頭に伴い、店舗の閉鎖を行い、1999年には3店舗にまで減少した。その頃に始めたのが、インターネット通信販売事業である。現在では、全ての店舗を閉鎖してインターネット通信販売専門事業者へと転業し、年商40億円まで成長させることに成功した。
 成長の秘訣は、店舗販売で培われた対面販売の心地よさを、インターネット通信販売という仮想の市場で実現できたことである。象徴的な取組として、電話応対を行う社員には、店舗販売経験者のみを採用しており、また、顧客に返信するメールの内容について、1時間以上議論をして推敲することが度々あるという。同社は、こうした顧客満足を向上させる取組を、システムにも反映している。まず、インターネット上に氾濫する価格情報を自動検索システムによって1日1万回以上検索し、自社の価格に反映させている。また、インターネット通信販売利用者が申込ボタンをクリックした瞬間から感じる不安を払拭するため、申込から商品到着まで進捗を知らせるメールを4回以上送信している。さらに、注文のページ上に自由記述欄を設けており、「お祝い用の包装を施して出荷してほしい。」など、定型的な要求では満たせない注文にも対応している。こうした取組が奏功し、一般の消費者以外にも学校、病院、電気工事事業者から多数の注文が寄せられるようになった。
 これらは、「顧客満足度を引き上げることが自らの成長につながる。」という強い経営理念に基づく対応だといえる。とかく価格だけが注目されがちなインターネット通信販売だが、同社は血の通った知恵を盛り込むことで更なる成長を目指している。
顧客に返信するメールを推敲する様子


 以上で定義した新分野進出、事業転換、業種転換に基づいて、以下、我が国における転業の現状の分析を行う。ここでは、転業のうち、統計や民間の企業データベースで捕捉することが可能な業種転換に焦点を絞って、我が国では、どのような業種転換が起きているのかについて詳しく見ていく。

●業種転換の実態
 まずは、業種転換による産業構造の転換について見ていく。日本標準産業分類の大分類で、業種別の事業所数の変動を示した第3-1-46図によると、開業や廃業と比べて、他業種からの転出や転入による事業所数の変動幅は小さく、大分類での業種転換による新陳代謝は、開廃業によるものと比べて小さいといえる。
 
第3-1-46図 業種別の転出入率及び開廃業率(2004〜2006年、事業所単位、年平均)
〜開廃業と比べて、他業種からの転出や転入による事業所数の変動幅は小さい〜


第3-1-46図 業種別の転出入率及び開廃業率(2004〜2006年、事業所単位、年平均)


 また、企業単位で、どの業種からどの業種への転換が起きているのかを把握すべく、(株)帝国データバンクのデータベースを用いて、2千企業以上の転換があった業種間について詳細に見てみると、卸売業と小売業及び卸売業と製造業の間での業種転換が多く、卸売業を中心に川上展開、川下展開が起きていることがうかがわれる(第3-1-47図)。
 
コラム3-1-3 総務省「経済センサス−基礎調査」を用いた転出入率の算出

 コラム3-1-3図は、事業所・企業統計調査及び経済センサス−基礎調査を用いて、2006〜2009年の事業所の転出入率及び開廃業率を示したものである。これによると、依然として多くの業種で、転出入による事業所の変動幅が小さいことが分かる。

コラム3-1-3図 業種別の転出入率及び開廃業率(2006〜2009年、事業所単位、年平均)
〜多くの業種で、転出入による事業所数の変動幅が小さい〜


コラム3-1-3図 業種別の転出入率及び開廃業率(2006〜2009年、事業所単位、年平均)

 
第3-1-47図 産業大分類間での業種転換(1997〜2007年、企業単位)
〜産業大分類では、卸売業と小売業及び卸売業と製造業の間での業種転換が多い〜


第3-1-47図 産業大分類間での業種転換(1997〜2007年、企業単位)


 以上では、日本標準産業分類の大分類間での業種転換について見てきたが、業種転換の単位を中分類間や小分類間にまで拡大すると、業種転換した企業の割合は、大分類間では毎年約1%、小分類間では毎年2〜3%であることが分かる(第3-1-48図)。
 
第3-1-48図 産業分類別の業種転換した企業の割合
〜産業小分類ベースでは、毎年2〜3%の企業が業種転換を行っている〜


第3-1-48図 産業分類別の業種転換した企業の割合
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●製造業内及び卸売・小売業内での業種転換
 以上では、産業大分類間の業種転換の現状を見てきたが、以下では、経済産業省「工業統計表」及び「商業統計表」を用いて、製造業内及び卸売・小売業内での中分類間での業種転換について見ていく。
 第3-1-49図は、製造業内の産業中分類間での200以上の事業所の業種転換を示したものである。これによると、金属製品と一般機械器具間の業種転換、一般機械器具、金属製品から輸送用機械器具への業種転換、電気機械器具から一般機械器具、電子部品・デバイスへの業種転換が多いことが分かる。
 
第3-1-49図 製造業内の業種転換(1997〜2007年、事業所単位)
〜製造業内では、金属製品と一般機械器具間の業種転換、一般機械器具、金属製品から輸送用機械器具への業種転換、電気機械器具から一般機械器具、電子部品・デバイスへの業種転換が多い〜


第3-1-49図 製造業内の業種転換(1997〜2007年、事業所単位)


 また、卸売・小売業内の産業中分類間での500以上の事業所の業種転換を示した第3-1-50図によると、飲食料品卸売と飲食料品小売、機械器具卸売と自動車自転車小売の間で盛んに業種転換が起きていることが分かる。
 
第3-1-50図 卸売・小売業内の業種転換(1997〜2007年、事業所単位)
〜卸売・小売業内では、飲食料品卸売と飲食料品小売、機械器具卸売と自動車自転車小売の間で盛んに業種転換が起きている〜


第3-1-50図 卸売・小売業内の業種転換(1997〜2007年、事業所単位)



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