第3部 経済成長を実現する中小企業 

3 起業の促進に向けた課題と取組

 以上では、我が国の起業活動が、経済社会に新陳代謝をもたらし、経済成長を支え、社会をより多様なものにしていることを見てきた。我が国経済が長期的に低迷している中、起業活動を促進することは、経済を再生させ、日本経済の未来を切り拓く上で、非常に重要な課題となる。本項では、2010年12月に実施された起業実態調査を中心に、我が国の起業の現状を詳細に分析し、起業の実態や課題を抽出することで、起業を促進するためにはどのような取組が重要となるのか、起業を成功させるためには何が必要となるのかについて、論じていく。

●起業の動機・目的
 人は、様々な動機・目的によって起業家となると考えられるが、起業した動機・目的別に、起業家の類型化を行った場合、〔1〕所得増大や自己実現、裁量労働、社会貢献目的等の積極的理由から起業した「能動的起業家」、〔2〕生計目的等の消極的理由から起業した「受動的起業家」に区分できる。起業実態調査によると、起業家の8割以上は、能動的起業家であり、約2割の受動的起業家を大きく上回っていることが分かる(第3-1-30図)。
 
第3-1-30図 起業家の類型
〜起業家の8割以上は、能動的起業家である〜


第3-1-30図 起業家の類型


 起業の動機・目的について更に詳しく見ると、自己実現、裁量労働、社会貢献、専門技術・知識等の活用、アイディアの事業化のためといった理由が上位を占めており、起業という選択によって、個性や能力の発揮、社会への貢献等のための舞台を創り出していることが分かる(第3-1-31図)。
 
第3-1-31図 起業の動機・目的
〜自己実現、裁量労働、社会貢献、専門技術・知識等活用、アイディアの事業化といった動機・目的が多い〜


第3-1-31図 起業の動機・目的
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●起業のきっかけ
 起業家が誕生するまでのプロセスを詳細に分析すると、起業を考え始めた段階及び起業を決心した後の段階に分けることができる。第3-1-32図は、段階別に起業に踏み切ったきっかけを示したものである。起業を考え始めたきっかけとしては、「事業化できるアイディアを思いついた」が一番多く、次に、「以前の勤務先ではやりたいことができなかった」が続く。また、「一緒に起業する仲間を見つけた」、「既に起業している人に勧められた」、「取引先に勧められた」、「働き口を得る必要が生じた」、「以前の勤務先での待遇が悪化した」といった起業の引き金となった出来事(トリガーイベント)に誘発されて、起業を決心した者も多いことが分かる。起業を決心した後の段階では、「資金面のめどが立った」、「事業内容のめどが立った」、「独立に必要な技術やノウハウを習得した」ことをきっかけに、実際に起業に踏み切る者が多い。
 
第3-1-32図 起業に踏み切ったきっかけ
〜起業を考え始めた段階では、「事業化できるアイディアを思いついた」や「以前の勤務先ではやりたいことができなかった」が、起業を決心した後の段階では、「資金面のめどが立った」や「事業内容のめどが立った」が起業に踏み切ったきっかけとして多く挙げられる〜


第3-1-32図 起業に踏み切ったきっかけ
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●起業の経緯・形態
 起業の経緯であるが、多くは、「前職の企業を退職し、その企業とは関係を持たないで起業」した「スピンオフ型」であることが分かる(第3-1-33図)。また、2001年12月に中小企業庁が実施した「創業環境に関する実態調査13」と比べると、「前職の企業は退職したが、その企業との関係を保ちつつ独立して起業」した「のれん分け型」の起業が増えており、前職での経験や人脈を活かしつつ独立する起業家が増えていることがうかがわれる。

13 中小企業庁が実施。2001年12月に1991年以降に起業された企業15,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率33.7%。
 
第3-1-33図 起業の経緯
〜多くの起業は「スピンオフ型」であるが、近年「のれん分け型」が増加傾向にある〜


第3-1-33図 起業の経緯
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 起業の形態に関しては、「起業に係る手続が容易・低費用」、「事業の性格が個人事業に向いている」、「会社組織になる前段階」という理由から個人事業での起業を、「社会的信用が得られ、資金調達や販路拡大等が容易」という理由から会社組織での起業を選択する起業家が多いことが分かる(第3-1-34図)。
 
第3-1-34図 起業の形態選択の理由
〜「起業に係る手続が容易・低費用」等という理由で個人事業での起業を、「社会的信用が得られ、資金調達や販路拡大等が容易」という理由で会社組織での起業を選択する起業家が多い〜


第3-1-34図 起業の形態選択の理由
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●事業分野の選択理由
 事業分野の選択理由に関しては、多くの起業家が「専門的な技術・知識等を活かせる」、「以前の勤務先と同じ業種」、「起業前までの人脈が活かせる」と回答しており、起業前までに蓄積した専門技術・知識、経験、人脈を活かせる事業分野を選択していることが分かる(第3-1-35図)。
 
第3-1-35図 事業分野の選択理由
〜多くの起業家は、起業前までに蓄積した専門技術・知識、経験、人脈を活かせる事業分野を選択〜


第3-1-35図 事業分野の選択理由
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●起業時及び起業後の課題
 起業時に直面した課題及び起業後に直面した課題を比較すると、起業の前後で起業家が直面する課題が変化することが分かる(第3-1-36図)。特に、最大の課題として起業時には「資金調達」が、起業後には「質の高い人材の確保」が挙げられており、起業時と起業後で中心的な課題が変化している。また、起業時の課題として「起業に伴う各種手続」も上位に挙げられており、起業に必要な手続が煩雑であったと考える起業家も少なからず存在している。以下、課題として多く挙げられている起業時の資金調達及び人材確保に焦点を当てて詳細に論じていく。
 
第3-1-36図 起業時及び起業後の課題
〜最大の課題として起業時には「資金調達」が、起業後には「質の高い人材の確保」が挙げられており、起業時と起業後で中心的な課題が変化している〜


第3-1-36図 起業時及び起業後の課題
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●起業資金の調達及び人材の確保
 起業家の資金調達先の割合及び調達額(中央値)を示したものが第3-1-37図である。資金調達先の割合を見てみると、「自己資金」、「配偶者や親族からの出資金や借入金」、「友人や知人からの出資金や借入金」が上位を占めており、いわゆる3F(Founder, Family, Friends)からの融資が多い。また、約2割が「公的機関・政府系金融機関の助成金・借入金」を得ており、起業において政策金融が重要な役割を果たしていることが分かる。調達額の中央値を見てみると、ベンチャーキャピタル等からの出資の金額が最も大きく、ごく少数の起業家がベンチャーキャピタル等から大口の資金を得ていることがうかがわれる。
 
第3-1-37図 起業資金の調達先
〜多くの起業家は、自己資金、配偶者や親族、友人や知人からの出資金や借入金によって起業資金を調達している〜


第3-1-37図 起業資金の調達先
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 起業資金の調達に関して、金融機関の種類別に見ていくと、第3-1-38図が示すように、地方銀行、信用金庫・信用組合、政府系金融機関から融資を受けた起業家が多く、これらの金融機関が積極的に起業資金を融資していることが分かる。
 
第3-1-38図 金融機関からの起業資金の借入れ
〜地方銀行、信用金庫・信用組合、政府系金融機関が積極的に起業資金を融資している〜


第3-1-38図 金融機関からの起業資金の借入れ
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 次に、起業家の人材確保の手段について概観すると、「知人や友人を採用」、「知人からの紹介」、「家族や親戚を採用」などが多く、資金調達と同様に、知人や家族を中心として人材を確保していることが分かる(第3-1-39図)。
 
第3-1-39図 起業時の人材確保
〜多くの起業家は、知人や友人、知人からの紹介、家族や親戚を中心に人材を確保している〜


第3-1-39図 起業時の人材確保
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●業種別の傾向
 以上、我が国の起業活動の動向について概観してきたが、同じ起業活動でも、業種によってその実態や課題は多様であり、業種別に起業動向を把握する必要があるだろう。ここでは、〔1〕開業が特に活発で、起業後の成長が顕著14な情報通信業を「IT 型」、〔2〕開業が特に活発で、起業後の雇用創出能力に富む15医療,福祉分野を「医療・福祉型」、〔3〕開業及び廃業が活発であるが、開業による雇用創出能力が高い16小売業及び飲食・宿泊業を「生業型」、〔4〕開業率は低く廃業率は高いが、我が国の産業・技術の基盤となっている製造業を「ものづくり型」として、起業の動機・目的、起業時及び起業後の課題について分析を加える。

14 第3-1-3図及び第3-1-15図を参照。
15 第3-1-3図及び第3-1-19図を参照。
16 第3-1-3図及び第3-1-16図を参照。

 類型ごとの起業の動機・目的の特徴であるが、IT 型では「アイディアを事業化したい」、ものづくり型では「専門的な技術・知識等を活かしたい」と回答する割合が他業種と比べて高く、起業家が自己のアイディアや技術・知識等を活かすべく起業していることが考えられる。医療・福祉型では、「社会に貢献したい」と回答する割合が著しく、必ずしも営利目的ではない「社会起業家」が活躍していると推測される。また、生業型では、「仕事を通じて自己実現を目指したい」と考える起業家の割合が高い(第3-1-40図)。
 
第3-1-40図 類型別起業の動機・目的
〜IT 型では「アイディアを事業化したい」、ものづくり型では「専門的な技術・知識等を活かしたい」、医療・福祉型では「社会に貢献したい」、生業型では「仕事を通じて自己実現を目指したい」との動機・目的が比較的多いのが特徴である〜


第3-1-40図 類型別起業の動機・目的
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 次に、起業時及び起業後に直面した課題であるが、IT型及びものづくり型では、「販売先の確保」から「質の高い人材の確保」へと大きな課題が変化することは共通しているが、起業時において、ものづくり型では、「資金調達」が最大の課題となる一方、IT型では、「資金調達」を課題としている企業の割合は低く、少額資金での起業が可能であることが推測される。また、医療・福祉型では、一貫して「質の高い人材の確保」が課題となっていること、生業型では、他類型と比べて、起業時には「仕入先の確保」が、起業後には「製品・商品・サービス等の価格競争力の強化」及び「製品・商品・サービス等の高付加価値化」といった製品・商品・サービス等の改良が課題となっていることに特徴がある(第3-1-41図〔1〕、第3-1-41図〔2〕)。
 
第3-1-41図〔1〕 類型別起業時の課題
〜起業準備期間中の課題は、IT 型以外の類型で「資金調達」が最大、またIT 型やものづくり型では「販売先の確保」、医療・福祉では「質の高い人材確保」、生業型では「仕入先の確保」が多いことが特徴である〜


第3-1-41図〔1〕 類型別起業時の課題
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第3-1-41図〔2〕 類型別起業後の課題
〜起業後の課題は、全ての類型で「質の高い人材の確保」が最大となっている〜


第3-1-41図〔2〕 類型別起業後の課題
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●起業活動の促進
 以上、我が国の起業の実態や課題について、起業家に対するアンケート調査を中心に分析してきたが、数字の上では低調であるものの、我が国の経済成長に確実に寄与している起業活動を促進するためには、どのような取組が必要なのであろうか。
 前掲第3-1-6図が示すとおり、我が国には100万人を上回る潜在的な起業家が存在し、起業に関心を持つ人々は多い。まずは、そうした潜在的な起業家にとっての課題を除去することが、起業の促進には必要であろう。
 既に述べたとおり、起業家にとって起業時の最大の課題となっているのは、起業資金の調達である。資金に関しては、その大半を自己資金や身内、友人から調達しているのが現状であるが、起業活動が我が国経済に与える影響と起業のリスクを考えると、政策的な支援が必要とされる。日本公庫では、新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家向けに、1,000万円までの融資を無担保・無保証人で利用できる新創業融資制度を取り扱っており、2009年度には11,562件、総額約394億円、2010年度には10,522件、総額約358億円の融資を行っている(第3-1-42図)。既に示したとおり、起業家の17.0%が公的機関・政府系金融機関の助成金・借入金を利用しており(前掲第3-1-37図)、起業活動の促進に果たす政策金融の役割は大きい。
 
第3-1-42図 新創業融資制度の実績
〜日本公庫は、起業家向けに積極的に融資を行っている〜


第3-1-42図 新創業融資制度の実績
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 問題となるのは、融資を受けた企業が、起業に成功し、成長しているのかということである。日本公庫が融資時点で開業後1年以内の企業を対象に継続的に実施している「新規開業パネル調査17」によると、2006年に起業した企業は、開業4年目の2009年12月時点では、リーマン・ショックの影響を受けつつも、86.8%が存続している。また、61.0%が黒字基調、1企業当たりの従業者数も開業時の3.8人から4.9人に増加するなど、融資を得た起業家が着実に成長していることが分かる(第3-1-43図)。

17 2006年以降、毎年12月に2006年に起業した国民生活金融公庫(現・日本公庫)の取引先2,897社(不動産賃貸業を除く)を対象に実施しているアンケート調査。2009年12月調査では、1,411社が回答。

 
第3-1-43図 (株)日本政策金融公庫の融資を受けた2006年に起業した企業の動向
〜融資を得た起業家は、着実に成長している〜


第3-1-43図 (株)日本政策金融公庫の融資を受けた2006年に起業した企業の動向
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 前出第3-1-38図では、政府系金融機関のほかに、地方銀行、信用金庫・信用組合も積極的に起業資金を融資していることを示したが、特に開業率が高くない非大都市圏においては18、地域に密着した地方銀行や信用金庫・信用組合が、独自の技術や製品等のシーズを持つ潜在的な起業家に対して、より積極的に起業資金を融資し、起業活動を促進することが、地方経済の活性化につながるといえよう。

18 中小企業白書(2008年版)p.144では、北海道、東京、大阪、福岡等、人口100万人を超える都市を有するような都道府県は、比較的開業率が高い傾向にあることを指摘している。

 2011年3月11日に発生した東日本大震災によって、多くの中小企業が被災したが、特に地震や津波によって工場や店舗が壊滅した中小企業者にとって、事業の再建は、起業時と同様、資金調達の課題に直面する。震災によって直接・間接に被災した中小企業者等に対して、日本公庫では、災害復旧貸付及び東日本大震災復興特別貸付、(株)商工組合中央金庫では、危機対応業務として長期・低利の資金を融資し、また、保証協会では、災害関係保証及び東日本大震災復興緊急保証として、事業再建資金の借入に対する保証を行うなど、厳しい中にも事業の再建を図る企業家を支援している。
 また、起業時の課題として「起業に伴う各種手続」が多く挙げられるが、起業を促進するためには、起業に必要な手続の簡素化や規制の緩和等が重要であろう。2006年5月に施行された会社法では、最低資本金規制が撤廃されたが、今後とも起業を促進するためには、参入障壁を引き下げていく必要がある。同時に、参入障壁を引き下げるのみならず、企業が市場から撤退又は再生しやすい環境を整備することが必要であろう。中小企業白書(2003年版)によると、休廃業した倒産企業の経営者の多くが経済的負担や精神的負担から再起業を希望していないことが指摘されているが19、こうした負担を軽くし、起業のリスクを低減させることで、起業・再起業しやすい環境を整えることが必要といえる。

19 中小企業白書(2003年版)p.130を参照。

 他に起業時及び起業後の課題として、「質の高い人材の確保」や「販売先の確保」が多く挙げられているが、新規企業にとって人材や販路の確保は非常に難しく、この分野でも政策的な支援が必要とされる。人材の確保については、経済産業省等が地域の雇用・産業特性等に合った若者の就業促進及び能力向上を図るため、都道府県のマネジメントのもと、民間ノウハウを積極的に活用して、キャリアカウンセリングや人材育成研修等の一貫した就職支援サービスを一か所で受けられるジョブカフェ事業を実施し、同事業によって2010年度には約5.3万人の就職が決まっている。第1部でも述べたように、中小企業庁等は、中小企業と就職未内定の新卒者等を、職場実習を通じてマッチングする新卒者就職応援プロジェクトや合同就職説明会等の事業を実施している。また、(独)雇用・能力開発機構が創業・異業種進出に伴う人材の雇入れに対して助成金を給付しており、2010年度には、4,478人に対して、約37.3億円の助成が行われた20。また、販路の開拓についても、中小機構が企業OB等を販路ナビゲーターとして登録し、中小企業に対して製品等の評価及び販路候補先に係る情報を提供する販路ナビゲーター創出支援事業や、中小機構によって中小企業総合展等が実施され、販路拡大を支援している。新規企業にとっての人材や販路確保の難しさは、企業や企業の持つ製品・商品・サービスの情報が不足している点にあるといえよう。そうした意味でも政府、都道府県等が有望な新規企業を掘り起こしたり、支援したりすることは、新規企業の情報を求職者や取引先が得る上でも有効である。

20 2011年度からは、新成長戦略において重点強化の対象となっている健康・環境分野等に該当する事業への創業・異業種進出に伴う人材の雇い入れに対して、助成金を給付している。

 以上、起業活動を促進させる取組について論じてきたが、前述のとおりIT 型で人材や販路、医療・福祉型では人材、生業型では他業種と比べて仕入先確保や製品等の価格競争力・高付加価値化、ものづくり型では資金調達、人材、販路確保と、業種によって抱えている課題は異なっているように、起業家が有する課題は、多様である。起業の経済社会に与える影響の大きさと起業のリスクを鑑みると、起業活動の促進に果たす政府、都道府県、各種金融機関の役割は大きい。引き続き、有望な新規企業を掘り起こし、資金調達支援や人材確保・販路開拓支援、参入障壁の撤廃や市場からの撤退・再生制度の整備を中心として、起業家に応じたきめ細かい政策的な支援を工夫していく必要がある。

●起業の成功要因
 ここまで起業活動を促進するための取組について概観したが、成功した起業家は、起業した事業の成果が得られている要因についてどのように考えているのだろうか。第3-1-44図は、事業の成果が得られていると考える起業家に、その要因を尋ねた結果である。これによると、「過去の経験や人脈」が最も多く挙げられており、新規企業とはいえ、過去の経験や人脈等が重要な成功要因になったと考える起業家が多いことが分かる21。起業時及び起業後に直面した課題として圧倒的に多く挙げられた資金調達や人材確保も、成功要因として上位に挙げられているが、販売先の確保、事業内容の選定、専門知識・技能の習得と同じ程度に成功要因として認識されている。

21 女性では、管理職経験がある女性は、男性経営者と遜色ない経営成果や事業拡大意欲を有すること、管理職や事業管理の経験年数が長いほど、経営する企業の資本金規模や従業員規模が大きくなることが指摘されている。(鹿住倫世「女性企業家の企業家活動における職業経験の影響(日本ベンチャー学会2006)」)。

 
第3-1-44図 起業した事業の成果が得られている要因
〜起業した事業の成果が得られている要因として「過去の経験や人脈」が最も多く挙げられており、新規企業とはいえ、起業家の過去の経験や人脈等が重要な成功要因となっている〜


第3-1-44図 起業した事業の成果が得られている要因
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事例3-1-7 起業家が前職で培った大学研究者、技術者、職人との人脈や製品開発の経験を活かして、新薬開発や再生医療に貢献する細胞操作装置を開発した大学発ベンチャー企業

 大阪府豊中市の株式会社アイワークス(従業員1名、資本金550万円)は、誘電泳動の技術を利用して細胞を操作・選別・融合する装置「セルワークス」を開発した大学発ベンチャー企業である。現在は、大阪大学に研究拠点を構えて、バイオサイエンス研究ツールの研究開発や製造・販売を行っている。
 同社の横山拓也社長は、前職で顕微鏡の開発に従事していたが、大阪大学の脇坂嘉一氏と知り合い、不均一な電場にある物質に力が働く「誘電泳動」という電気力学現象に興味を抱いた。前職の企業からの資金援助等、各方面からの支援が得られたこともあり、脇坂氏と共同で2007年に株式会社アイワークスを起業した。経営面は横山社長が、技術面は脇坂氏が担当し、受託研究や実験器具の製造等を行っていたが、ついに誘電泳動を利用して顕微鏡下で細胞を自由に操作・選別・融合することができる細胞操作装置セルワークスの開発に成功、将来の新薬の開発や再生医療の分野での活躍が期待されている。
 「起業には、パートナーの存在、前職企業での経験や取引先、そして、精神的な支柱となってくれた家族が重要だった。」と横山社長は語る。とりわけ前職での経験から、製造の現場に実際に足を運ぶことの大切さ、そして、製品開発の初期段階で多額の費用をかけず、設計にある程度めどが立ってから製品化することの重要性を学んだという。横山社長は、「今後は、セルワークスを主軸にそのアプリケーションを増やすことに注力し、バイオサイエンスの発展に貢献したい。」と語る。
セルワークスの操作風景(左)と細胞を融合させている様子(右)

 
事例3-1-8 国・県・市から自社の独自技術とビジネスモデルの認定を受けることによって販路拡大に成功している企業

 福岡県福岡市の株式会社ファーストソリューション(従業員3名、資本金300万円)は、福岡市等のインキュベーション施設、(株)福岡ソフトリサーチパークセンタービルに入居する2005年に起業された企業である。汚泥の凝集沈殿・脱水・輸送までを一貫して行う独自の汚泥処理技術「MC(メッシュカット)工法」を活かして、コストを抑えた環境にも優しい小型の汚泥処理装置を武器に着々と成長を遂げている。
 同社の高田将文社長は、大学卒業後に、地元の総合設備工事業者に就職し、水処理関連の業務に従事していたが、管理職に昇進する直前に、現場のエンジニアであり続けたいとの思いから独立を決意し、環境ベンチャーとして同社を起業した。
 高田社長は、前職の経験から汚泥処理の技術には自信があったが、経験のない経営面については、(独)中小企業基盤整備機構のアドバイザーから助言を得ている。また、技術の認知やブランドも重要であると考え、経済産業省の新連携事業及び福岡県の経営革新計画の認定を受けるとともに、福岡市の福岡市ステップアップ助成事業の最優秀賞を受賞し、また、国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)への登録も行い、販路の拡大に成功している。現在は、東アジアへの海外展開も視野に入れており、より一層の成長が見込まれている。
同社が開発した小型汚泥処理装置(左)と汚泥の脱水に用いるエコポーチ(右)


 次に、起業家のどのような属性が起業後の成果(起業後からリーマン・ショック(2008年9月)までの売上高、経常利益及び収支)に影響を与えているのか、起業実態調査に基づいて分析すると、能動的起業家であること、起業時の年齢の若さ、大卒以上の学歴等の起業家の属性が、起業後の成果に有意に影響を与えているとの結果が得られた22。この結果を踏まえると、大学や勤め先等で、一定の経験や人脈、専門知識・技能を蓄えた後に、働き盛りの年齢で積極的に事業を起こした起業家が、その後に成功しやすいことが示唆される(第3-1-45図)。

22 詳細に関しては、付注3-1-1を参照。

 
第3-1-45図 起業家の属性が起業後の成果に与える影響
〜能動的起業家であること、起業時の年齢の若さ、大卒以上の学歴等の起業家の属性が、起業後の成果に有意に影響を与えている〜


第3-1-45図 起業家の属性が起業後の成果に与える影響


 我が国の起業家は、その大半が既存企業を退職した後に起業する「スピンオフ型」や「のれん分け型」に分類されるが(前掲第3-1-33図)、既存企業に勤めている被雇用者は、業務の中から起業のもととなるアイディア及びやりたい仕事を発見する機会並びに起業のパートナーと出会ったり、起業家や取引先と交渉する中で起業に興味を抱いたりとトリガーイベントに遭遇する機会に恵まれている。こうした経験や人脈を有する被雇用者にとっては、既にある程度の資金、経験、人脈を有しているため、資金や人材等が参入障壁となりにくく、また、起業後の課題や成功要因となる販売先の確保にも有利であるといえる。このように企業への勤務経験は、起業の成功に大きく作用することが推察される。
 また、起業の成功要因として、「事業に必要な専門知識・技能の習得」も多く挙げられており(前掲第3-1-44図)、回帰分析によると起業家の大卒以上の学歴や経営上の工夫(新技術、新生産方式、新商品・新サービスの導入等)を有して参入することが、起業後の成功に有意に影響を与えている(前掲第3-1-45図)ことから、大学や過去の職業等で得た専門知識や技能を活かして、新技術等を市場に持ち込むイノベーティブな起業家ほど、成功する確率が高いといえよう。
 以上から、教育や職歴によって経験や人脈、専門知識や技能を有する者が、若くして起業に挑戦するほど、成功しやすいといえる。今後は、こうした有能な若手の被雇用者が積極的に起業できる環境を整備することにこそ、起業による経済の新陳代謝を進めていく鍵があるといえよう。

 以上、第1節では、数字の上では低調であるが、確実に経済成長の源泉となっている我が国の起業活動について概観した後、起業活動を活性化させる取組について述べてきた。我が国経済は、震災前から、長期にわたって低成長が続いており、これまでの延長線上に明るい未来が見通せない現在、震災からの復興の担い手や、硬直した時代を打破し新しい未来を切り拓く旗手となるのは、間違いなく果敢な挑戦を続ける現在そして未来の起業家なのである。



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