第2部 経済社会を支える中小企業 

2 中小企業の事業再生

 第1項では、中小企業の数が減少する中、我が国の中小企業の事業を確実に引き継ぐための取組を示してきたが、本項では、窮境に陥った企業が再建を目指し債権者調整を行いながら事業再生11計画を実行していく際の実態や課題を示していく。

11 経済的に非常に苦しい立場にある債務者について、その債権者の多数の同意を得て、かつ裁判所の認可を受けた再生計画を定めることなどにより、当該債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ることを目的にして、2000年に民事再生法が施行された。その後、会社更正法改正、破産法改正のほか、中小企業再生支援協議会の設置、事業再生ADR 制度の創設等、着々と事業再生関連制度が整備されてきた。一方、経営者責任として個人保証の履行が請求されることによって、個人の自己破産を余儀なくされたり、企業の再生自体が困難になったりするケースが存在する。

 第2-2-30図は、2000年度以降の中小企業の民事再生申請件数を示したものであるが、累計実績は2010年3月までに7,100件を超え、事業再生手続として活用されている。
 
第2-2-30図 中小企業の民事再生申請件数
〜2000年の民事再生法施行以来、2010年3月末には、申請件数は7,100件を超え、事業再生手続として活用されている〜


第2-2-30図 中小企業の民事再生申請件数
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●民事再生の内容
 民事再生を申請した中小企業の概要と、計画の具体的な内容について見ていく。第2-2-31図は、民事再生を申請した中小企業の窮境原因を示したものである。「中小企業の企業再生調査12」によると、「本業の経営不振」と回答した企業が54.5%と最も多く、「過去の経営判断の誤り」、「本業以外の事業への過剰な投資」等の内部要因を挙げる企業が多い一方、「金融機関による貸し渋り・貸しはがし」、「取引先の倒産・事業縮小」、「親会社の倒産・事業縮小」等の外部要因を挙げる企業も存在している。

12 中小企業庁の委託により三菱UFJ リサーチ&コンサルティング(株)が実施。2010年11月に民事再生法を申請した企業3,627社を対象に実施したアンケート調査。回収率16.9%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。
 
第2-2-31図 中小企業の窮境原因
〜「本業の経営不振」と回答した中小企業が約5割、「金融機関による貸し渋り、貸しはがし」、「過去の経営判断の誤り」と回答した中小企業も約3割存在する〜


第2-2-31図 中小企業の窮境原因
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 苦境に陥った中小企業は、どのような再生計画を立てたのであろうか。第2-2-32図によると、「人員整理」が62.0%、「費用の見直し」が55.8%、「不採算事業からの撤退」が33.3%となっており、再生計画作成では既存事業を厳しく見直し、費用削減を行っていることが分かる。
 
第2-2-32図 再生計画の内容
〜「人員整理」、「費用の見直し」、「不採算事業からの撤退」等、再生計画の作成に当たっては厳しく事業を見直している〜


第2-2-32図 再生計画の内容
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 一方、債権者である金融機関は、中小企業の再生支援をどのような基準に基づいて判断するのであろうか。第2-2-33図は、中小企業の再生支援に際して金融機関が重視する基準を示したものであるが、「経営者の資質・経営改善への意欲」、「再建計画の実現可能性」、「既存事業(主たる事業)の技術力、競争力」を重視していることが分かる。
 
第2-2-33図 再生支援に際して重視する判断基準
〜「経営者の資質・経営改善への意欲」、「再建計画の実現可能性」、「既存事業(主たる事業)の技術力、競争力」と回答した金融機関の割合が高い〜


第2-2-33図 再生支援に際して重視する判断基準
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第2-2-34図 再生計画の内容(債務免除)
〜7割超の債務免除になった中小企業は76.7%存在している〜


第2-2-34図 再生計画の内容(債務免除)
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 では、こうした基準を基に、金融機関等債権者の合意が得られ、中小企業の事業再生計画が認められた場合、実際にどのような支援を受けられるのであろうか。第2-2-34図によると、76.7%の企業が7割超の債務免除を受けていることが分かる。

 以上、民事再生手続を活用し、金融機関等の債権者の協力が得られれば、債務免除を始めとした支援を受け、事業再生に取り組むことができることを示してきた。


●中小企業における民事再生の課題
 次に、民事再生に当たって、中小企業が直面する課題について見ていく。第2-2-35図は、金融機関が再生支援を開始した後、金融機関にとって支援継続の障害となる要因を示したものであるが、「経営者の経営改善に対する意欲の弱さ」が最も高く、次いで「経営実態の把握が困難」となっている。
 
第2-2-35図 再生支援開始後支援の継続に障害となる要素
〜「経営者の経営改善に対する意欲の弱さ」が最も高く、次いで「経営実態の把握が困難」となっている〜


第2-2-35図 再生支援開始後支援の継続に障害となる要素
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 「経営者の経営改善に対する意欲の弱さ」の一因に、経営者の個人保証が影響しているという指摘もある13。第2-2-36図によると、民事再生を申請した中小企業は、約8割が個人資産より多い個人保証債務を負っており、大変重い負担を抱えながら、事業再生に臨んでいることが分かる。

13 個人保証を巡る状況は、コラム2-2-1を参照。
 
第2-2-36図 個人保証債務額と個人資産額との比較
〜「個人資産額より多い」と回答した企業の割合は約8割となっている〜


第2-2-36図 個人保証債務額と個人資産額との比較
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 民事再生手続では、法人債務が免除されたとしても、個人保証債務までは免除されない。第2-2-36図でも見たように、大半の経営者が個人資産で個人保証債務を弁済できていない。また、第2-2-37図によると、取引金融機関の数が多くなるほど、金融機関やサービサーと任意で交渉・対応することは困難となり、「個人で民事再生手続を行った」、「個人で破産手続を行った」と回答する中小企業の割合が高くなっている。
 
第2-2-37図 取引行数による個人保証債務の整理状況
〜取引金融機関の数が多くなるほど、「個人で民事再生手続を行った」、「個人で破産手続を行った」と回答する中小企業の割合が高い〜


第2-2-37図 取引行数による個人保証債務の整理状況
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第2-2-38図 経営者の交代の有無
〜民事再生手続後も、約6割の中小企業で民事再生申請時の経営者が交代せずにそのまま残っている〜


第2-2-38図 経営者の交代の有無
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 一方、第2-2-38図によると、民事再生手続後も、約6割の企業で民事再生申請時の経営者が交代せずにそのまま残っている。
 また、第2-2-39図のように、同じ経営者が再生企業の経営を行う場合、レピュテーションリスクの観点から個人破産を避けたがる傾向があると推測される。その場合、法人の民事再生手続とは別に、金融機関及びサービサーと任意で交渉・対応を行うほか、保証債務の処理をせず保証債務が残存しているケースも多い。
 
第2-2-39図 経営者の交代の有無別に見た個人保証整理手続
〜同じ経営者が再生企業の経営を行う場合、レピュテーションリスクの観点から個人破産を避けたがる傾向があると推測される〜


第2-2-39図 経営者の交代の有無別に見た個人保証整理手続
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第2-2-40図 私的整理における債務免除状況
〜私的整理によって個人保証債務が「全て無くなった」と回答した経営者は約2割に過ぎない〜


第2-2-40図 私的整理における債務免除状況
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 個人で法的整理を行わない場合、金融機関やサービサーと任意で交渉することで、個人保証債務を免除してもらうことは可能なのだろうか。第2-2-40図によると、私的整理によって個人保証債務が「全て無くなった」と答える経営者は約2割に過ぎない。
 第2-2-41図は、金融機関やサービサーの満足する弁済に応じなかった中小企業の個人保証債務の請求状況及び請求理由を示したものである。それによると、金融機関やサービサーの満足する弁済に応じられない場合でも、8割強の中小企業が個人保証債務の履行を引き続き請求されていることが分かる。中小企業は金融機関やサービサーと任意で交渉を行っているが、依然履行請求されている理由として、「全ての個人資産提供を行っているが理解が得られない」、「分割弁済を行っているが理解を得られない」という回答がそれぞれ約4割で、可能な限り保証債務を弁済しても個人保証債務の免除は難しいことが分かる。
 
第2-2-41図 個人保証の履行
〜金融機関やサービサーの満足する弁済に応じない場合、8割強の中小企業が個人保証の履行を請求されており、主な理由としては、「全ての個人資産提供を行っているが理解が得られない」、「分割弁済を行っているが理解が得られない」がそれぞれ4割となっている〜


第2-2-41図 個人保証の履行
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 第2-2-42図は、残存している保証債務について、金融機関やサービサーからの履行請求を受けることによって代表者が感じる負担を示したものであるが、「新規融資が受けられない」、「精神的負担が大きい」と回答する企業の割合が高くなっている。
 
第2-2-42図 履行請求による負担
〜「新規融資が受けられない」、「精神的負担が大きい」と回答する企業の割合が高い〜


第2-2-42図 履行請求による負担
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●民事再生の効果
 第2-2-43図、第2-2-44図は、民事再生を行った中小企業について、民事再生手続開始を申し立てた直前3期と直近3期の貸借対照表、損益計算書を比較したものである。債務超過企業の比率は、申立の直前3期の60.8%から直近3期の41.2%に減少しており、黒字企業の比率は、申立の直前3期の26.8%から直近3期の48.4%に増加している。民事再生の過程を経ることで、全体として業績の改善が見られることが分かる。
 
第2-2-43図 貸借対照表
〜債務超過企業の比率は申立の直前3期の60.8%から直近3期の41.2%に減少している〜

第2-2-43図 貸借対照表
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第2-2-44図 損益計算書
〜黒字収支企業の比率も、申立の直前3期の26.8%から直近3期の48.4%に増加している〜


第2-2-44図 損益計算書
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 以上のように、大幅な費用削減を行い、金融機関から債務免除、弁済期間猶予等の支援を受け、業績改善によって事業継続が可能となった中小企業が事業再生によって実現できた内容を示したものが第2-2-45図である。「従業員の雇用維持」が84.5%と最も多く、「顧客満足」、「経営権の維持」、「地域社会への貢献」と続いている。
 
第2-2-45図 事業再生により実現できた内容
〜「従業員の雇用維持」が84.5%と最も多く、「顧客満足」、「経営権の維持」、「地域社会への貢献」と続いている〜


第2-2-45図 事業再生により実現できた内容
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 以上、中小企業の民事再生の内容と、課題、効果について分析を行ってきた。民事再生制度をうまく活用し、再建計画を進める中で、業績回復につなげている中小企業がある一方、経営責任による個人保証債務の履行や、履行後に個人保証債務が残ってしまうことによって、再生企業や経営者にとって引き続き大きな負担が残っているケースもあることが分かった。

 
コラム2-2-1 個人保証を巡る状況

 中小企業金融における個人保証14の位置付けは大きい。コラム2-2-1図〔1〕によると、個人保証の有無が「融資の可否判断」に影響を及ぼすとする金融機関が過半を占めている。「融資金額」、「金利、返済条件」に影響があるとする金融機関も多く、個人保証の有無は金融機関の貸出審査に大きな影響を与えていることが分かる。

14 中小企業に対する融資では、金融機関は個人保証の差し入れを求めることが多い。以前は、包括根保証契約により、保証人が無期限・無限度で連帯責任を負う場合もあり、保証人が過大な負担を負いがちであると指摘されてきた。そこで、2005年4月に施行された「民法の一部を改正する法律」では、口頭での約束を無効とすること、保証する金額の上限を契約で定めること、5年以内(定めが無いときは3年)に発生する債務のみ保証すること等が定められ、保証契約の適正化が図られた。

コラム2-2-1図〔1〕 個人保証の有無による貸出審査姿勢の違い
〜個人保証の有無が「融資の可否判断」に影響を及ぼすとする金融機関が過半を占めている〜


コラム2-2-1図〔1〕 個人保証の有無による貸出審査姿勢の違い
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 コラム2-2-1図〔2〕によると、大企業、中小企業ともに、個人保証債務があることによる影響を、「経営責任の明確化、経営規律の向上」、「金融機関との信頼関係向上・維持」、「金融機関からの借入の行いやすさ」と前向きに捉える企業が多い。一方、中小企業では、「後継者への事業承継が困難になる」、「大きな設備投資に慎重になる」、「新事業への進出に慎重になる」、「廃業がしづらくなる」の回答が大企業と比べて多くなっている。


コラム2-2-1図〔2〕 個人保証債務があることによる影響
〜大企業、中小企業ともに、「経営責任の明確化、経営規律の向上」、「金融機関との信頼関係向上・維持」、「金融機関からの借入の行いやすさ」という回答が多い一方、中小企業では、「後継者への事業承継が困難になる」、「大きな設備投資に慎重になる」、「新事業への進出に慎重になる」、「廃業がしづらくなる」という回答が大企業に比べて多い〜


コラム2-2-1図〔2〕 個人保証債務があることによる影響
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事例2-2-2 民事再生法の適用を受け、オンリーワンの商品を開発し、業績を回復させた企業

 東京都大田区のアルタン株式会社(従業員20名、資本金2,000万円)は、エタノール除菌製剤、離型油スプレー、食品添加物等を製造する企業である。
 同社は、1981年に殺菌スプレーの販売を開始して以来、食品産業向けに業務用環境衛生関連製品を研究開発・販売している。1998年度には、13億円の売上を計上したが、2002年度には、ライバル会社の出現により売上が10億円に落ち込み、資金繰りが逼迫したことから、2003年1月に民事再生手続の申請を行った。
 2003年9月に民事再生計画の認可を受けたが、当時の代表者は辞職し、借入金の保証債務を弁済できずに法的整理を余儀なくされた。一方で、社員の給与は削減せずに、本社移転等により経費を削減し、売上が減少しても黒字経営ができるように体質を改善した。その後の経営努力等もあり、2007年9月には民事再生手続を終了した。
 同社の主要製品であるアルコール製品は、販売先としている食品業界の長期不況によって販売不振が続く可能性があった。再生後の経営では、経営基盤を健全化させるため、これまで培ってきた技術・情報・人脈を活用して、新たに製品を開発して事業を立ち上げる必要があった。そこで、2006年4月から広島大学と共同研究を開始し、2007年6月には柿渋含有の除菌製品(アルタンノロエース)を開発し、特許を出願した。柿渋は、ノロウイルスやインフルエンザ、多剤耐性菌にも消毒効果があることから話題となり、発売直前にメディアで取り上げられるなど、好評を博した。
 その他にも、水を電解しアルカリ性を保った電解アルカリ水を添加した洗浄機用洗剤や食品改良剤、親水部がイオン化していない非イオン系の界面活性剤を主成分とする中性洗剤が高評価を得ており、今後の事業展開が期待される。
民事再生法の適用を受け、オンリーワンの商品を開発し、業績を回復させた企業

事例2-2-3 中小企業の早期再生支援に取り組んでいる金融機関

 青森県青森市の株式会社青森銀行は、積極的に早期再生に取り組んでいる金融機関である。
 早期再生支援は、主に同行がメインバンクの要注意先で、大口貸出先を対象にしている。同行の貸出担当者だけでなく、役員や上席役員も取引先中小企業と面談を行い、同行全体で取引先中小企業の現状把握に努めている。また、事業の具体的な内容に踏み込んだ提案を行うために、コンサルタント、会計士、税理士等の外部の専門家とも連携し、取引先の中小企業の課題発見に尽力している。
 地域で長年事業を続けていると、割高な仕入先に固定化したり、古いしがらみで不要な支出が継続している場合がある。同行は、企業の経営者や担当者に対して、仕入先の変更や合見積もりの導入、ゼロベースでの支出の見直し等の助言を行い、取引先の中小企業の収益改善を図っている。
 また、会社内部の組織が形骸化し意志決定を行えない企業に対しては、行員が企業内部の会議に出席し、経営者の意識改革を促すこともある。同行は、「経営改善の必要性を企業自らが認識し、経営者も自ら行動することが重要である。」という認識の下、今後も経営者と協力しながら早期再生支援に取り組んでいこうと考えている。



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