第2部 経済社会を支える中小企業 

1 中小企業の事業引継ぎ

 第2部第1章で見たように、急速な景気後退、円高、デフレ等による売上の減少という短期的な課題に加えて、国内需要の減少、グローバル化の進展による競争の激化等の様々な構造的課題により、我が国の中小企業の数は、1986年の約532万社から2006年には約420万社と21.4%減少した。特に、製造業では41.3%、小売業では39.3%と、全業種平均を大きく上回るペースで減少した(前掲第2-1-38図)。
 多数の製造業が立地する東京都大田区や静岡県浜松市、大阪府東大阪市を見ても、製造事業所数は1986年から2006年にかけて、東京都大田区で41.9%、静岡県浜松市で39.6%、大阪府東大阪市で31.7%減少した(第2-2-21図)。
 
第2-2-21図 東京都大田区、静岡県浜松市、大阪府東大阪市の製造事業所数
〜東京都大田区、静岡県浜松市、大阪府東大阪市といった我が国有数の中小企業の集積地でも製造事業所数が大幅に減少した〜


第2-2-21図 東京都大田区、静岡県浜松市、大阪府東大阪市の製造事業所数
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 このような製造事業所数の減少は、我が国の中小企業の競争力の低下につながることが懸念される。以下では、中小企業の事業引継ぎの現状、課題を分析し、中小企業の事業引継ぎのために必要な取組について論じていく。


●中小企業の事業引継ぎの現状、目的
 まず、中小企業の事業引継ぎの現状について見ていく。第2-2-22図は、事業引継ぎ総件数及び非上場企業間事業引継ぎ件数を示したものである。近年は、景気後退の影響もあり、事業引継ぎ総件数、非上場企業間事業引継ぎ件数ともに減少した。
 
第2-2-22図 事業引継ぎ件数
〜近年は、景気後退の影響もあり、事業引継ぎ総件数、非上場企業間事業引継ぎ件数ともに減少した〜


第2-2-22図 事業引継ぎ件数
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 次に、中小企業の事業引継ぎの目的について見ていく。「中小企業の事業引継ぎ実態調査8」によると、中小企業が事業を譲り受ける目的は、「既存事業の強化」、「既存分野での規模拡大」と回答する中小企業が約5割で、「新事業分野への進出」と回答する中小企業も約4割である(第2-2-23図)。

8 (財)中小企業総合研究機構が実施。2010年11月に中小企業約15,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率12.5%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。
 
第2-2-23図 事業を譲り受ける目的
〜「既存事業の強化」、「既存分野での規模拡大」と回答する中小企業が約5割となっている〜


第2-2-23図 事業を譲り受ける目的
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 一方、中小企業が事業を譲り渡す目的は、「適当な後継者が見つからない」が約7割と最も多く、次に「雇用を維持するためには事業の引継ぎが望ましい」が続く(第2-2-24図)。
 
第2-2-24図 事業を譲り渡す目的
〜「適当な後継者が見つからない」が約7割と最も多く、次いで「雇用を維持するためには事業の引継ぎが望ましい」が多い〜


第2-2-24図 事業を譲り渡す目的
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 それでは、中小企業が自分の代で廃業を検討する理由は、どのようなものであろうか。「事業の引継ぎに関する調査9」によると、財務状況の如何にかかわらず、「事業を引き継ぐ適当な人がいない」という理由で廃業を検討する企業が約3割存在している(第2-2-25図)。

9 中小企業庁の委託により(株)三菱総合研究所が実施。2009年12月に中小企業15,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率14.7%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。
 
第2-2-25図 自分の代で廃業を検討する理由
〜「資産超過」と回答した企業においても、3割の企業は「事業を引き継ぐ適当な人がいない」と回答している〜


第2-2-25図 自分の代で廃業を検討する理由
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●中小企業の事業引継ぎの課題と対応
 次に、中小企業の事業引継ぎの課題について見ていく。第2-2-26図によると、事業引継ぎ時の課題として、「事業の引継ぎ先を見つけるのが難しい」と回答する企業が最も多く、企業間のマッチングが事業引継ぎの最大の課題になっていることが分かる。
 
第2-2-26図 事業の引継ぎ時の課題
〜「事業の引継ぎ先を見つけるのが難しい」と回答する中小企業が最も多く、企業間のマッチングが最大の課題となっている〜


第2-2-26図 事業の引継ぎ時の課題
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 次に、中小企業の事業引継ぎの支援状況について見ていく。「中小企業のM&A 仲介・支援業務実態調査10」によると、中小企業支援機関が事業引継ぎを仲介する際の障壁は、「事業を譲り渡す候補が見つからない」という回答が最も多い(第2-2-27図)。

10 (財)中小企業総合研究機構が実施。2010年11月に2,528社の普通銀行、信用金庫、公認会計士、税理士、M&A 仲介専門会社を対象に実施したアンケート調査。回収率25.0%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。
 
第2-2-27図 事業引継ぎを仲介する際の障壁
〜「事業を譲り渡す候補が見つからない」という回答が約4割で最も多い〜


第2-2-27図 事業引継ぎを仲介する際の障壁
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 第2-2-28図は、事業引継ぎの相談を受けた際の対応を示したものであるが、中小企業支援機関は、「第三者機関と共同で対応」と回答した割合が最も高い。


 
第2-2-28図 事業引継ぎの相談を受けた際の対応
〜「第三者機関と共同で対応」と回答した支援機関が最も多くなっている〜


第2-2-28図 事業引継ぎの相談を受けた際の対応
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 これまで見てきたように、中小企業の事業引継ぎの現状や課題等を踏まえ、政府では、これまで中小企業の親族間の事業引継ぎを支援しているところであるが、親族外であっても、中小企業の経営資源を確実に引き継いでいくため、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の一部を改正する法律により、事業引継ぎを含む事業継続に係る相談を行うことのできる支援体制を整備していく予定である(第2-2-29図)。
 こうした支援体制を通じて、事業引継ぎに関する相談、適切な情報提供等の支援を行うことにより、事業継続、事業引継ぎについて悩みを抱えている中小企業の課題の解決が図られるとともに、そうした中小企業の経営資源を引き継ぐ中小企業の事業の新たな展開が加速されることが期待される。
 
第2-2-29図 地域中小企業の事業引継ぎ円滑化支援


第2-2-29図 地域中小企業の事業引継ぎ円滑化支援


事例2-2-1 事業を引き継いだ会社の設備、製品、取引先を活用して業績を回復させている企業

 大阪府東大阪市の有限会社三神製作所(従業員12名、資本金300万円)は、2009年7月に同業の金属プレス会社の事業を引き継いだ。事業引継ぎのきっかけは、仕入先から経営不振による事業売却希望の情報を入手したことである。売却希望企業は、工場面積が自社の3〜4倍の規模で、精密加工用の機械設備が装備されていた。また、同社は、部品のプレス加工を中心に製造・販売していたが、売却希望企業は、医療機器、事務機器、プリンター等の精密機器の部品を加工・製造しており、販売先の顧客に魅力を感じた。
 買収時期は、リーマン・ショック直後であったため周囲の反対もあったが、買収資金を金融機関から調達し買収を決断した。当初は、想定外の経費や固定費が掛かるなどしたが、従業員を再編し、引き継いだ会社の主力商品であった精密部品の継続受注にも成功したため、業績を回復させている。



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