第2部 経済社会を支える中小企業 

1 中小企業金融対策

●リーマン・ショック直後の中小企業金融対策
 2008年秋以降、リーマン・ショックに端を発した世界的な金融危機の影響で、我が国の金融市場においても短期金融市場を中心に緊張度が急激に高まった。中小企業の資金繰りの不安が高まる中で、政府は、2008年度と2009年度に計4度にわたり補正予算を組み、景気対応緊急保証制度、セーフティネット貸付、危機対応貸付、条件変更の推進等の資金繰り対策を講じてきた3。その中で、景気対応緊急保証制度では、2.7兆円の予算4を投じ、手厚い措置を採ってきた。

3 中小企業白書(2010年版)p.60参照。
4 景気対応緊急保証制度実施のための予算措置は、中小企業白書(2010年版)p.62参照。

 景気対応緊急保証制度の実績は、当初は、単月の承諾実績が3兆円を超える月もあるなど高水準で推移し、中小企業の資金需要が急速に高まる中で、中小企業への潤沢な資金供給に一定の役割を果たしたものと考えられる(第2-2-1図)。
 
第2-2-1図 景気対応緊急保証制度の保証承諾実績
〜2008年10月の制度開始以来、保証承諾件数は150万件、保証承諾金額は27兆円を超えた〜


第2-2-1図 景気対応緊急保証制度の保証承諾実績
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 「経営環境実態調査5」を用いて、景気対応緊急保証制度を利用した理由について確認してみると、「手元流動性を手厚くするため」と回答した企業が4割を超えた(第2-2-2図)。

5 中小企業庁が実施。2010年11月に企業約3万社を対象に実施したアンケート調査。回収率20.2%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。
 
第2-2-2図 景気対応緊急保証制度を利用した理由
〜「手元流動性を手厚くするため」と回答した企業が4割を超えた〜


第2-2-2図 景気対応緊急保証制度を利用した理由
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 また、第2-2-3図は、景気対応緊急保証制度利用の最大のメリットを示したものであるが、規模にかかわらず「当面の運転資金が確保できた」と回答した企業が7割を超えた。
 
第2-2-3図 景気対応緊急保証制度利用の最大のメリット
〜規模にかかわらず「当面の運転資金が確保できた」と回答した企業が7割を超えた〜


第2-2-3図 景気対応緊急保証制度利用の最大のメリット
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 これらの結果からも、景気対応緊急保証制度は、リーマン・ショック直後に中小企業の短期的な資金需要に応えて、相応の効果を発揮したと考えられる。なお、(社)全国信用保証協会連合会によると、景気対応緊急保証制度は、2008年10月の制度開始以降、約85万社の中小企業に利用された。


●資金繰り支援に対するニーズの変化
 景気対応緊急保証制度の単月の実績を見ると、前述のとおり、制度創設当初は高水準で推移していたが、2009年4月以降は、多い月でも1兆円前後と低位で推移してきた。また、セーフティネット貸付及び中小企業向け危機対応貸付の単月の実績について見ると、2009年12月には、約9,000億円であったが、2010年1月以降は、4,000億円から7,000億円程度で推移しており、これらの資金繰り対策の利用ニーズは落ち着いてきていた。ただし、年度末の季節要因や今回の震災等の影響もあり、2011年3月は景気対応緊急保証制度は1兆5,000億円、セーフティネット貸付及び中小企業向け危機対応貸付は8,000億円を超える実績になっている(前掲第2-2-1図第2-2-4図)。
 
第2-2-4図 セーフティネット貸付及び中小企業向け危機対応貸付の実績
〜2011年3月31日には、貸付件数は69万件、貸付金額は15兆円を超えた〜


第2-2-4図 セーフティネット貸付及び中小企業向け危機対応貸付の実績
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 一方で、公的金融機関の貸付条件の変更実績を見ると、2010年度は単月で6,000億円から7,000億円程度で推移していたが、年度末の季節要因や今回の震災等の影響もあり、2011年3月は8,600億円を超え、2010年度は前年度比で33.4%増加した。なお、2008年12月から2011年3月までの累計実績は約120万件であった(第2-2-5図)。
 
第2-2-5図 公的金融機関の貸付条件の変更実績
〜2010年度は単月で6,000億円から7,000億円程度で推移してきたが、2011年3月は8,600億円を超えた〜


第2-2-5図 公的金融機関の貸付条件の変更実績
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 以上のように、2010年度に入ると、景気対応緊急保証制度やセーフティネット貸付等の実績が落ち着いてきた一方で、条件変更の実績が増加し、今回の震災前までは資金需要は新規借入よりも既往債務の月々の返済負担軽減にシフトしてきていた。
 このような中小企業の条件変更のニーズに対応するため、従来の取組に加えて、2010年9月10日に閣議決定した「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策〜円高、デフレへの緊急対応〜」(ステップ1)において、経済危機対応・地域活性化予備費から330億円を措置して信用保証協会による保証付き貸付の条件変更を推進した(第2-2-6図)。
 
第2-2-6図 中小企業の資金繰り支援策(新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策〜円高、デフレへの緊急対応〜(ステップ1))


第2-2-6図 中小企業の資金繰り支援策(新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策〜円高、デフレへの緊急対応〜(ステップ1))


 また、2009年12月4日には、金融機関による条件変更を促進するために、中小企業金融円滑化法6が施行された。以下では、中小企業金融円滑化法の効果について分析していく。

6 中小企業金融円滑化法の期限の延長等については、付注2-2-2を参照。

 まず、第2-2-7図で示すように、中小企業金融円滑化法の施行前後で、金融機関の約9割、中小企業の約5割が条件変更への対応が積極化していると回答しており、中小企業金融円滑化法によって、金融機関の条件変更等への対応姿勢に変化が現れていたことが分かる。
 
第2-2-7図 金融機関の貸出条件変更に対する姿勢の変化(中小企業金融円滑化法施行前後の比較)
〜中小企業金融円滑化法の施行前後で、金融機関の約9割、中小企業の約5割が条件変更への対応が積極化していると回答した〜


第2-2-7図 金融機関の貸出条件変更に対する姿勢の変化(中小企業金融円滑化法施行前後の比較)
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第2-2-8図 貸付条件変更申請時の金融機関の対応(中小企業の認識)
〜9割を超える中小企業が「金融機関は条件変更に応諾してくれた」と回答した〜


第2-2-8図 貸付条件変更申請時の金融機関の対応(中小企業の認識)
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 中小企業金融円滑化法の施行後、中小企業が条件変更の申請を行った際、金融機関はどのように対応したのであろうか。第2-2-8図は、中小企業が条件変更を申請した際の金融機関の対応を示したものであるが、9割を超える中小企業が「金融機関は条件変更に応諾してくれた」と回答しており、金融機関もほとんどの場合、条件変更に応じていたことが分かる。


 次に、条件変更の内容について見てみると、「元本が据置となった」、「毎月の返済元金が減少した」と回答した中小企業の割合が高いことが分かる(第2-2-9図)。
 
第2-2-9図 貸付条件の変更内容
〜「元本が据置となった」、「毎月の返済元金が減少した」と回答した中小企業の割合が高い〜


第2-2-9図 貸付条件の変更内容
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 また、中小企業は、元本据置や毎月の返済元金の減少等の条件変更を受けている間に、どのような経営努力を行ったのであろうか。第2-2-10図を見ると、「役員報酬の削減」が6割強と最も多く、続いて「人件費以外の販売管理費の削減」、「従業員給与の削減」が5割強を占めるなど、費用削減の取組が中心である一方、「既存事業の売上拡大・回復」、「新規事業分野への進出」を行った企業は一部にとどまった。
 
第2-2-10図 中小企業が条件変更期間中に行った経営努力
〜「役員報酬の削減」と回答した企業の割合が最も高い〜


第2-2-10図 中小企業が条件変更期間中に行った経営努力
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第2-2-11図 自社の経営に関する中小企業金融円滑化法の評価
〜条件変更を行った85%の中小企業が「非常に効果があった」、「やや効果があった」と回答した〜


第2-2-11図 自社の経営に関する中小企業金融円滑化法の評価
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 次に、第2-2-11図は、条件変更を行った中小企業の自社の経営に関する中小企業金融円滑化法の評価を示したものであるが、「非常に効果があった」、「やや効果があった」と回答する中小企業は約85%に上った。
 第2-2-12図は、条件変更を行った中小企業の中小企業金融円滑化法がなかった場合の影響を示したものである。直近決算が黒字の企業、赤字の企業ともに、「資金繰りの悪化」、「雇用維持への悪影響」と回答する割合が高い一方、特に赤字の企業においては、「倒産・廃業」の割合が約3割を占めた。
 「運転資金欠乏」を原因とする倒産件数の推移を見ても、2009年後半以降はおおむね前年同月比で減少しており、中小企業金融対策が倒産件数増加の抑制に一定程度寄与したと推察される(第2-2-13図)。しかし、足下では今回の震災等の影響もあり、増加傾向に転じている。
 
第2-2-12図 中小企業金融円滑化法がなかった場合の影響
〜直近決算が黒字の企業に比べて、赤字の企業は、「倒産・廃業」と回答した中小企業の割合が高い〜


第2-2-12図 中小企業金融円滑化法がなかった場合の影響
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第2-2-13図 運転資金欠乏を原因とする倒産件数
〜運転資金欠乏を原因とする倒産件数は、2009年後半以降、おおむね前年同月比で減少傾向で推移していたが、足下では増加傾向に転じている〜


第2-2-13図 運転資金欠乏を原因とする倒産件数
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第2-2-14図 貸付条件の変更を申請しない理由
〜「今後の新規借入への悪影響を懸念」と回答した中小企業が約半数と最も多い〜


第2-2-14図 貸付条件の変更を申請しない理由
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 他方、有利子負債を有し、借入の返済に支障のある中小企業が貸付条件の変更を申請しない理由について示したものが第2-2-14図である。「経営の抜本的な改善につながらない」が約4割を占め、条件変更を行っただけでは経営の抜本的な解決にならないと考えている中小企業も存在していたことが分かる。なお、「今後の新規借入への悪影響を懸念」が約半数と最も多く、中小企業金融円滑化法施行後も、条件変更を行うと、新規借入に何らかの影響があると懸念を持った中小企業が引き続き数多く存在したことが見て取れる。
 この「今後の新規借入への悪影響を懸念」への一つの対応策としては、2010年10月8日に閣議決定された「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策〜新成長戦略実現に向けたステップ2」に盛り込まれた借換保証制度がある。これは、信用保証協会の保証付き融資について、〔1〕借入債務の一本化、〔2〕条件変更、更には、金融審査が通れば、〔3〕「条件変更中の新たな資金の追加」を同時に実現することが可能な制度である(第2-2-15図、第2-2-16図)。
 
第2-2-15図 中小企業の資金繰り支援策(円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策〜新成長戦略実現に向けたステップ2)


第2-2-15図 中小企業の資金繰り支援策(円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策〜新成長戦略実現に向けたステップ2)

 
第2-2-16図 借換保証制度


第2-2-16図 借換保証制度


●成長に向けた金融支援の必要性
 リーマン・ショックのような急激な景気後退が起きた場合であっても、資金繰り支援策を講じた後において生じる成長資金に対するニーズに対応していく必要がある。
 第2-2-17図は、経営環境実態調査と「中小企業向け融資に関する調査7」を用いて、中小企業が今後金融機関から新規に融資を受けたい資金について、中小企業と金融機関の認識を示したものである。金融機関は、中小企業が「収支ズレを支える短期運転資金」、「手許現預金を補完する長期運転資金」、「返済を補填・継続するための折り返し資金」を望んでいると考えていた一方、中小企業は、金融機関と比較して「新規設備投資に係る資金」、「新規事業分野進出に係る資金」をより必要としていたことが分かる。

7 中小企業庁の委託により三菱UFJ リサーチ&コンサルティング(株)が実施。2010年11月に普通銀行、信託銀行、信用金庫、信用組合593社を対象に実施したアンケート調査。回収率90.7%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。

 
第2-2-17図 金融機関に融資を受けたい資金
〜金融機関は、中小企業が「収支ズレを支える短期運転資金」、「手許現預金を補完する長期運転資金」、「返済を補填・継続するための折り返し資金」を望んでいると考えていた一方、中小企業は、金融機関と比較して「新規設備投資に係る資金」、「新規事業分野進出に係る資金」をより必要としていた〜


第2-2-17図 金融機関に融資を受けたい資金
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 第2-2-18図は、金融機関が特に中小企業の成長基盤として重視・積極的に対応している分野について示したものである。それによると、「医療・介護・健康関連事業」、「高齢者向け事業」、「環境・エネルギー産業」を重視・積極的に対応していたことが分かる。足下は震災により大変厳しい状況にあるが、金融機関も、引き続き中小企業の成長分野に対する資金供給を行い、今後も中小企業の成長に向けた資金需要を掘り起こすべく対応していくことが期待される。
 
第2-2-18図 中小企業の成長基盤として重視・積極的に対応している分野
〜金融機関は、中小企業の成長基盤として、「医療・介護・健康関連事業」、「高齢者向け事業」、「環境・エネルギー産業」を重視・積極的に対応していた〜


第2-2-18図 中小企業の成長基盤として重視・積極的に対応している分野
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