第2部 経済社会を支える中小企業 

3 課題と対応

 第2項では、中小企業の位置付けやその製品等の重要性について見てきた。中小企業の数は減少傾向が続いており、1986年から2006年にかけては約2割減少しており、特に、製造業や小売業では約4割と大幅に減少している(第2-1-38図)29

29 近年、東京都大田区、静岡県浜松市、大阪府東大阪市といった我が国有数の中小企業の集積地でも製造事業所数が大幅に減少している。第2部第2章第2節第1項参照。
 
第2-1-38 図 中小企業の数(1986〜2006年)
〜中小企業の数は減少傾向が続いており、1986年から2006年にかけては約2割減少しており、特に製造業や小売業では約4割と大幅に減少している〜


第2-1-38 図中小企業の数(1986〜2006年)
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 第2-1-39図は、今後の世界市場の動向を示したものであるが、新興国は市場の拡大、先進国は市場の縮小が見込まれている。また、今後の日本の市場規模は、ほぼ横ばいで推移することが予想される。
 
第2-1-39図 主要国の実質GDP成長率(2010年及び2015年までの見通し)
〜世界経済は、新興国を中心に成長を続けるが、先進国は今後も低成長にとどまる見込みである〜


第2-1-39図 主要国の実質GDP 成長率(2010年及び2015年までの見通し)
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 また、第1部で見たとおり、足下急激な円高が進行しており、特に震災直後の2011年3月17日には戦後最高値となる1ドル76円25銭(瞬間値)をつけた。第2-1-40図は、経済産業省が実施した円高の影響に関する調査結果を示したものであるが、製造業の約6割が「海外生産の拡大」、約4割が「海外移転」と回答しており、円高が進行すると国内産業の空洞化が更に加速するおそれがあることが見て取れる。
 
第2-1-40図 1ドル85円の円高が継続した場合の影響
〜製造企業の約6割が「海外生産の拡大」、約4割が「海外移転」と回答している〜


第2-1-40図 1ドル85円の円高が継続した場合の影響
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 さらに、日々新たな製品やサービス、技術等が生み出されており、これまでの製品やサービス、技術等が陳腐化してしまう可能性もある。例えば、第2-1-41図は、電気自動車に代表される次世代自動車が普及した場合の影響についてまとめたものであるが、自動車の部品点数を3万点と仮定した場合、電気自動車の普及により約4割の部品が不要になることが想定され、電気自動車の普及の程度にもよるが、エンジン部品、駆動・伝達、操縦部品等の部品製造業者が大きな影響を受けるおそれがある。
 
第2-1-41図 電気自動車等の影響(自動車部品の変化)


第2-1-41図 電気自動車等の影響(自動車部品の変化)


 以上、中小企業数が減少していることを示すとともに、我が国を含む先進国から新興国への成長のシフト、急激な円高による国内産業の空洞化、製品、技術、サービスの変化による陳腐化等の中小企業を取り巻く環境変化について見てきたが、こうした状況の中で、中小企業はどのような意識を持っているのであろうか。以下では、中小企業が直面している課題や今後の取組について見ていく。
 第2-1-42図は、自社が直面している課題を示したものであるが、中小製造業、中小非製造業ともに、「景気低迷、円高、デフレ等による売上の減少」と回答する企業の割合が最も高く、続いて「国内需要の減少」が高い。業種別には、中小製造業では「グローバル化の進展による競争の激化」と回答する割合が高い一方、中小非製造業では「消費者ニーズの多様化」が高い。今回の震災後、こうした課題は更に深刻化していると考えられる。
 
第2-1-42図 自社が直面している課題(中小企業)
〜中小製造業、中小非製造業ともに、「景気低迷、円高、デフレ等による売上の減少」が最も高く、続いて「国内需要の減少」が高い〜


第2-1-42図 自社が直面している課題(中小企業)
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 それでは、中小企業は第2-1-42図で示したような課題に今後どのように取り組んでいくのだろうか。第2-1-43図を見ると、中小製造業、中小非製造業ともに、約6割が「新規需要の掘り起こし」、約5割が「既存事業の高付加価値化」と回答している。業種別には、中小製造業では「研究開発、技術開発」が高く、中小非製造業では「多様な人材の採用」が高くなる。
 
第2-1-43図 今後取り組むべきこと(中小企業)
〜中小製造業、中小非製造業ともに、約6割が「新規需要の掘り起こし」、約5割が「既存事業の高付加価値化」と回答している〜


第2-1-43図 今後取り組むべきこと(中小企業)
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 第1部第2章で示したように、今回の震災により、我が国の中小企業は、これまでに例のない甚大かつ広範な影響を受けることとなった。これまで見てきたように、中小企業は、我が国の経済社会を支えており、今回の震災の影響から日本経済が立ち直るためには、中小企業の果たす役割は大変重要である。歴史的に見ても、我が国の中小企業は、数々の試練を乗り越えて、我が国の産業の発展に大きく貢献してきた。このような時代にこそ、我が国の産業を支える中小企業が、これまで以上に意欲を持って、努力と創意を重ねて、更なる発展を遂げ、日本経済の復興・発展に貢献していくことが期待される。

事例2-1-12 電気自動車の基幹部品製造に関わるなど、最先端技術分野企業に対応発展している工業用熱処理炉メーカー

 岐阜県土岐市の高砂工業株式会社(従業員325人、資本金2億円)は、工業炉の製造を通じて電気自動車のリチウムイオン電池材料製造に携わる企業である。
 同社は、1953年に、窯業製品用工業炉の製造を開始し、1970年代には、韓国、台湾から、東南アジア、インド、中近東、南米、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカへ窯業プラントを輸出して海外展開を進めてきた。
 1980年代後半には、ファインセラミックスに対応し、1990年には、CAD システムを導入するなど、工業用熱処理炉メーカーとして、ガス、電気等の様々な方法による熱処理炉の開発・設計・製造・試験・施工の一貫対応を実現し、各年代の最先端技術を駆使した様々な企業の工場に納入実績を有している。
 このように、同社の熱処理炉は様々な製造分野で活躍しており、自動車部品製造にも利用されてきた。こうした中で、新たな需要として、リチウムイオン電池等の材料を製造するメーカーからの引き合いが増えてきた。
 そして、2007年からは、携帯電話・パソコン向け電池・電気自動車向けのリチウムイオン電池の材料製造に必要な工業炉を納入している。特に、電気自動車向けの電池は、今後の需要増加が見込まれ、高い注目を集めている分野であり、同社事業の中でも期待される事業といえる。同社の強みである開発から設計、製造までを一貫して手掛けることで、常に時代の最先端の製品の製造に深く携わっている。
同社開発の電気炉

事例2-1-13 インターネットで加工現場を動画発信することにより取引先を拡大し鯖江の眼鏡産業のゲートウェイを目指す企業

 福井県鯖江市の株式会社西村金属(従業員30人、資本金1,500万円)は、地場産業である眼鏡の部品となる 兆番30やねじ等の精密加工製品を製造している企業である。

30 眼鏡のレンズ等の前面部分と、耳に掛ける部分を自由に折れるように接続する部分をいう。

 同社は、中国メーカーの台頭等により眼鏡生産が落ち込んでいた中、全国の従来まで取引関係のなかった新たな取引先を確保するために、2003年にチタン合金の精密加工部品の製造技術のインターネット動画配信を開始した。チタン合金は、強度性、軽量性、耐食性、耐熱性に優れる一方で、精錬や加工が難しく、費用がかかるため、航空機や潜水艦、自動車等の高性能部品のほか、高級眼鏡の部品や高価格のゴルフクラブ等にも使われている。眼鏡部品として、チタン合金の精密加工を手掛けていた同社は、一般的には「チタン合金が高くて加工しにくい。」というイメージがあるとは思っていなかった。
 しかし、動画配信して自社技術を紹介した結果、全国の様々な企業から、チタン加工による製品、部品製造についての問い合わせが集まるようになり、改めて自社加工技術が他業界では様々な事業機会につながり得ることが分かった。
 このような問い合わせの中には、自社の技術だけでは対応できない相談もあったことから、地元の様々な加工技術を有する眼鏡加工業者に仕事を依頼するようになり、次第に取引先を拡大させていった。
 今後、同社は、自らが全国企業と地元企業をつなぐハブ企業となり、地元の中小企業の受注拡大による経済活性化に貢献したいと考えている。
NC旋盤加工で行うチタン合金に直径0.8mm、深さ8.0mm の微細深穴加工例

事例2-1-14 研究開発を行い、医療機器分野で新たな事業展開に成功した企業

 兵庫県加西市のトラストメディカル株式会社(従業員20人、資本金5,000万円)は、医療用機器や検査キットを製造する企業である。
 同社は、当初金型製造や成形加工を行っていたが、国内外の競争激化により、将来成長性の低いことから、新たな事業を開始したいと考えていた。社内外からアイディアを募集し、社長直々に事業可能性を検討するなど試行錯誤を繰り返した。その中で、同社の社員の大学時代の恩師から「研究中であるDNA 培養技術が高速化されると、人間や家畜の病気特定速度が飛躍的に向上し、早期治療や病気蔓延などを防ぐなど、絶大な効果が期待される。」という話を聞き、情報収集や技術開発に必要なノウハウや人材を探したところ、自社での開発が可能と判断し、事業化に取り組むことを決意した。その後、グループ内で新規技術開発に必要な資金を調達し、開発者が製品開発に専念できる環境を整備するとともに、創業以来常に注力してきたものづくりのノウハウを活用して、インフルエンザ等の病原菌ウイルスの超高速遺伝子検査技術を開発した。
 同検査技術は、十数分で病原体ウイルスの特定を可能とし、病気の蔓延を防ぐことが期待されている。同社が実証実験を重ねながら積極的に医療関係者を回ったことで、同検査技術は徐々にその効果が知られるようになり、現在では、大手メーカーや医療機関とも連携して更なる高速化に向けた取組を行っている。
同社が開発した超高速遺伝子検査キット



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