3 課題と対応
第2項では、中小企業の位置付けやその製品等の重要性について見てきた。中小企業の数は減少傾向が続いており、1986年から2006年にかけては約2割減少しており、特に、製造業や小売業では約4割と大幅に減少している(第2-1-38図)29。
第2部 経済社会を支える中小企業 |
事例2-1-12 電気自動車の基幹部品製造に関わるなど、最先端技術分野企業に対応発展している工業用熱処理炉メーカー 岐阜県土岐市の高砂工業株式会社(従業員325人、資本金2億円)は、工業炉の製造を通じて電気自動車のリチウムイオン電池材料製造に携わる企業である。 同社は、1953年に、窯業製品用工業炉の製造を開始し、1970年代には、韓国、台湾から、東南アジア、インド、中近東、南米、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカへ窯業プラントを輸出して海外展開を進めてきた。 1980年代後半には、ファインセラミックスに対応し、1990年には、CAD システムを導入するなど、工業用熱処理炉メーカーとして、ガス、電気等の様々な方法による熱処理炉の開発・設計・製造・試験・施工の一貫対応を実現し、各年代の最先端技術を駆使した様々な企業の工場に納入実績を有している。 このように、同社の熱処理炉は様々な製造分野で活躍しており、自動車部品製造にも利用されてきた。こうした中で、新たな需要として、リチウムイオン電池等の材料を製造するメーカーからの引き合いが増えてきた。 そして、2007年からは、携帯電話・パソコン向け電池・電気自動車向けのリチウムイオン電池の材料製造に必要な工業炉を納入している。特に、電気自動車向けの電池は、今後の需要増加が見込まれ、高い注目を集めている分野であり、同社事業の中でも期待される事業といえる。同社の強みである開発から設計、製造までを一貫して手掛けることで、常に時代の最先端の製品の製造に深く携わっている。 ![]() |
事例2-1-13 インターネットで加工現場を動画発信することにより取引先を拡大し鯖江の眼鏡産業のゲートウェイを目指す企業
福井県鯖江市の株式会社西村金属(従業員30人、資本金1,500万円)は、地場産業である眼鏡の部品となる 兆番30やねじ等の精密加工製品を製造している企業である。 30 眼鏡のレンズ等の前面部分と、耳に掛ける部分を自由に折れるように接続する部分をいう。
同社は、中国メーカーの台頭等により眼鏡生産が落ち込んでいた中、全国の従来まで取引関係のなかった新たな取引先を確保するために、2003年にチタン合金の精密加工部品の製造技術のインターネット動画配信を開始した。チタン合金は、強度性、軽量性、耐食性、耐熱性に優れる一方で、精錬や加工が難しく、費用がかかるため、航空機や潜水艦、自動車等の高性能部品のほか、高級眼鏡の部品や高価格のゴルフクラブ等にも使われている。眼鏡部品として、チタン合金の精密加工を手掛けていた同社は、一般的には「チタン合金が高くて加工しにくい。」というイメージがあるとは思っていなかった。 しかし、動画配信して自社技術を紹介した結果、全国の様々な企業から、チタン加工による製品、部品製造についての問い合わせが集まるようになり、改めて自社加工技術が他業界では様々な事業機会につながり得ることが分かった。 このような問い合わせの中には、自社の技術だけでは対応できない相談もあったことから、地元の様々な加工技術を有する眼鏡加工業者に仕事を依頼するようになり、次第に取引先を拡大させていった。 今後、同社は、自らが全国企業と地元企業をつなぐハブ企業となり、地元の中小企業の受注拡大による経済活性化に貢献したいと考えている。 ![]() |
事例2-1-14 研究開発を行い、医療機器分野で新たな事業展開に成功した企業 兵庫県加西市のトラストメディカル株式会社(従業員20人、資本金5,000万円)は、医療用機器や検査キットを製造する企業である。 同社は、当初金型製造や成形加工を行っていたが、国内外の競争激化により、将来成長性の低いことから、新たな事業を開始したいと考えていた。社内外からアイディアを募集し、社長直々に事業可能性を検討するなど試行錯誤を繰り返した。その中で、同社の社員の大学時代の恩師から「研究中であるDNA 培養技術が高速化されると、人間や家畜の病気特定速度が飛躍的に向上し、早期治療や病気蔓延などを防ぐなど、絶大な効果が期待される。」という話を聞き、情報収集や技術開発に必要なノウハウや人材を探したところ、自社での開発が可能と判断し、事業化に取り組むことを決意した。その後、グループ内で新規技術開発に必要な資金を調達し、開発者が製品開発に専念できる環境を整備するとともに、創業以来常に注力してきたものづくりのノウハウを活用して、インフルエンザ等の病原菌ウイルスの超高速遺伝子検査技術を開発した。 同検査技術は、十数分で病原体ウイルスの特定を可能とし、病気の蔓延を防ぐことが期待されている。同社が実証実験を重ねながら積極的に医療関係者を回ったことで、同検査技術は徐々にその効果が知られるようになり、現在では、大手メーカーや医療機関とも連携して更なる高速化に向けた取組を行っている。 ![]() |
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