第2部 経済社会を支える中小企業 

1 中小製造業の位置付け

●製造業の付加価値額
 まず、製造業の付加価値額について見ていく。第1節で示したとおり、中小製造業は、製造業全体の約5割の付加価値額を生み出しており、特に食料品製造業、金属製品製造業、生産用機械器具製造業では、中小企業が多くの付加価値額を生み出している(第2-1-27図)。
 
第2-1-27図 規模別の付加価値額(製造業)
〜食料品製造業、金属製品製造業、生産用機械器具製造業では、中小企業が多くの付加価値額を生み出している〜


第2-1-27図 規模別の付加価値額(製造業)
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●輸送用機械器具製造業の取引構造
 以上では、中小製造業が製造業全体の約5割の付加価値額を生み出していることを見てきたが、以下では、製造業の中で、最も多くの付加価値額を生み出している輸送用機械器具製造業9を例に取引構造を見ていく10。第2-1-28図は、大企業を大きい丸、中小企業を小さい丸で、その企業同士の取引を線で示し、企業の主たる業種を産業小分類ごとに色で塗り分け、縦軸方向には、それぞれ仕入数の大きい企業を上に小さい企業を下に、横軸方向には、取引関係が密である企業同士は近くに粗である企業同士は遠くに配置したものである11。まず、大企業が多くの企業と取引を行っていることが確認され、その取引先には、中小企業が存在することが確認できる。左上には250近くの仕入数を有する企業が1社存在し、右側には約150の仕入数を有する企業が5社存在しており、これらの企業から下に伸びる線は直下の同一の企業群内に集中しており、企業ごとに仕入や販売関係を有する企業群が確認される一方、企業群外にも広がっており、その他の企業群との取引も確認することができる。

9 経済産業省「平成20年工業統計表」によると、製造業の付加価値額のうち、輸送用機械器具製造業が15.8%、化学工業が10.4%、食料品製造業が8.5%、生産用機械器具製造業が6.8%、電子部品・デバイス・電子回路製造業が5.9%を占める。付注2-1-3参照。
10 化学工業、食料品製造業、生産用機械器具製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業の取引構造は、付注2-1-4、付注2-1-5、付注2-1-6、付注2-1-7に代表的な企業とともに掲載している。
11 取引関係が密である企業同士とは、取引数が多くつながりが強い企業群のことをいう。取引関係が粗である企業同士とは、取引数が少なくつながりが弱い企業群のことをいう。取引関係が密な企業群の抽出方法については、付注2-1-8参照。

 次に、仕入数25以下の企業群の部分を拡大すると、裾野までにわたって多くの中小企業が存在し密度の濃い取引を行っていることが確認される。また、中小企業の中にも、多くの中小企業を取りまとめる企業や多種類の部品を製造する企業も存在する12。第1部第2章でも見たように、今回の震災でも、中核的な中小企業の生産停止によって、産業のサプライチェーンに影響が生じたこともあり、国内では2011年3月の自動車メーカーの生産台数が前年同月比約6割減に落ち込み、国外では欧米工場が生産を停止するなど、産業を支える中小企業の重要性が改めて認識された。このように、大企業が多くの付加価値額を生み出す産業においても、中小企業が我が国製造業の活動の根幹を担っていることが分かる。

12 事例2-1-3事例2-1-4を参照。

 
第2-1-28図 輸送用機械器具製造業の取引構造
〜輸送用機械器具製造業を例に取引構造を見てみると、仕入数の大きい自動車を製造する大企業を数多くの自動車部分品、付随品を製造する中小企業が支えており、中には多くの中小企業を取りまとめる企業や多種類の部品を製造する企業も存在する〜


第2-1-28図 輸送用機械器具製造業の取引構造

 
事例2-1-3 自社設備は自社で作るという方針で成長を続けている企業

 広島県広島市の株式会社ヒロテック(従業員1,340人、資本金2億8,000万円)は、自動車用部品から、部品製造のための金型・設備等の組立プラントまで製造する総合メーカーである。
 同社は、1932年の創業以来、広島の地でものづくりを続けてきた。1953年には、マツダ株式会社から自動車車体部品を受注し、1959年には、プレス金型やプレス機械の製作販売を開始した。1982年に、マツダ株式会社の全車種の製品設計も含めたドア生産を受注し、さらに、同80年代にはサーブやフォード等海外自動車会社のドア金型、車体組立設備を受注するなど、自動車部品生産だけでなく、自動車設備総合メーカーとしても世界的評価を受けるようになった。1985年からはマフラー生産も開始し、現在では、世界9か国21か所に工場を持ち、世界の自動車メーカーに量産部品、設備を供給している。
 同社は創業当初から、自社で使用する設備は自社で作るという方針のもと、社内で生産する部品の生産設備を自ら製作し、そのノウハウを活かして、自動車会社各社に自動車用ドアを中心に、プレス金型、車体組立設備の設計・製作・販売を行っている。
工場内の様子
 
事例2-1-4 独自の精密鋳造品の製造技術を基に、自動車部品等の取引を拡大させている企業

 長野県千曲市の森川産業株式会社(従業員250人、資本金2億3,500万円)は、自動車及び自動車関連の素加工一貫とした鋳造部品、環境機器、精密機械及び一般産業用機械の設計・製作、冷凍冷房用バルブの設計、製造を行う企業である。同社は、高度な精密鋳造技術を活かして、高精度の自動車部品だけでなく、ミクロン単位の精度を必要とするプリント基板製造関連の機械や、VOC13回収装置等の環境機器等も製造し、自動車から環境分野まで幅広い産業分野で活躍している。

13 揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略で、主に250度程度以下の沸点を持つ揮発性有機物をいう。大気中に排出されることで環境破壊や健康被害をもたらすことが指摘され、2004年の大気汚染防止法改正により、工場等からの排出が規制された。

 創業当初は、軽合金鋳造を行っていたが、1949年頃から、鋳鉄鋳造の精密鋳造品の製造を開始し、1952年に本田技研工業株式会社と取引を開始した。その後、いち早い電気炉の導入や新しい鋳造法の開発等により、生産技術の能力を高めるとともに自動車関連以外の分野にも進出した。
 特に同社が開発した砂と発泡スチロールを利用した消失模型鋳造法(ロストフォームプロセス)は、通常の鋳造では困難な複雑な形状の部品にも対応できることもあり、世界的にも高い評価を受けている。
 また、本田技研工業株式会社とは、エンジンやブレーキ関係部品を中心に取引を行っており、その品質・技術力は高い信頼を得ている。
 一方、プリントの多層基板に基準穴を加工するX線基準穴開け機は、国内トップレベルの性能を有し、国内外多数の基板製造企業で利用されているほか、1961年に「森川バルブ」でスタートした冷凍冷蔵バルブについても国内トップシェアを誇っている。


●系列組織
 以上では、中小企業が我が国製造業の根幹を担っていることを見てきたが、以下では、中小企業、大企業の系列取引について見ていく。第2-1-29図は、製造業のうち生み出す付加価値額の高い輸送用機械器具製造業、化学工業、食料品製造業、生産用機械器具製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業の系列組織への所属状況を示したものである。系列組織に所属していると回答した中小企業は、輸送用機械器具製造業で約4割、生産用機械器具製造業で約3割となっている。
 
第2-1-29図 自社の系列組織への所属状況
〜系列組織に所属していると回答した中小企業は、輸送用機械器具製造業で約4割、生産用機械器具製造業で約3割となっている〜


第2-1-29図 自社の系列組織への所属状況
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 第2-1-30図は、系列組織に所属していると回答した中小企業に対して、直近の系列組織内での取引の割合を聞いたものである。中小企業では、いずれの業種においても、6割を超える取引が系列組織内で行われている。
 
第2-1-30図 自社の系列取引(直近取引比率)
〜中小企業では、いずれの業種においても、6割を超える取引が系列組織内で行われている〜


第2-1-30図 自社の系列取引(直近取引比率)
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 第2-1-31図は、系列組織の取組内容を示したものであるが、中小企業は、大企業と比較して、各取組を行っている割合が総じて低いが、「親事業者の計画や見通しの共有」、「経営者相互の交流」には5割を超える企業が取り組んでおり、仕事につながる取組は積極的に行っていることがうかがえる。
 
第2-1-31図 系列組織の取組内容
〜中小企業では、「親事業者の計画や見通しの共有」、「経営者相互の交流」には5割を超える企業が取り組んでいる〜


第2-1-31図 系列組織の取組内容
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 第2-1-32図は、系列組織に属することのメリットを示したものであるが、中小企業は、大企業と比較して、「過去取引の経験やノウハウを活かせる」や「新たな販売先等営業活動をしなくてよい」といった仕事を安定的に確保できることをメリットとして挙げる割合が高い。
 
第2-1-32図 系列組織に属することのメリット
〜中小企業は、大企業と比較して、「過去取引の経験やノウハウを活かせる」や「新たな販売先等営業活動をしなくてよい」といった仕事を安定的に確保できることをメリットとして挙げる割合が高い〜


第2-1-32図 系列組織に属することのメリット
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 一方、系列組織に属することのデメリットについても、中小企業は、大企業と比較して、デメリットを感じている割合は総じて低いが、「価格条件等の取引条件の変更が難しい」や「過去の経緯等から無理な注文等を押し付けられる」といった従属的な立場に立たされることの不利益をデメリットとして挙げる割合が高い(第2-1-33図)。
 
第2-1-33図 系列組織に属することのデメリット
〜中小企業は、大企業と比較して、「価格条件等の取引条件の変更が難しい」や「過去の経緯等から無理な注文等を押し付けられる」といった従属的な立場に立たされることの不利益をデメリットとして挙げる割合が高い〜


第2-1-33図 系列組織に属することのデメリット
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 それでは、大企業は、系列組織内の中小企業の存在をどのように認識しているのであろうか。第2-1-34図は、大企業から見た系列組織に属する中小企業の存在について示したものであるが、4割の大企業が、「自社の生産体制を支える不可欠な存在」と回答しており、続いて、「自社の製品、サービスを提供する際の補完的な存在」、「自社製品、サービスのキーコンテンツを提供する不可欠な存在」という回答が多いことから、系列組織内において、中小企業は大企業にとってなくてはならない存在であるといえる。
 第2-1-35図は、系列組織内の企業との取引意向について、大企業と中小企業を比較したものである。大企業、中小企業ともに系列企業との取引を「今後も維持したい」と回答した割合が約4割となっており、特に中小企業では、系列企業との取引を今後も維持しつつ、系列組織外の企業との取引も増やしたいという企業も5割弱存在する。
 
第2-1-34図 系列組織に属する中小企業の存在(大企業の認識)
〜大企業は、系列組織に所属する中小企業を「自社の生産体制を支える不可欠な存在」と回答する割合が4割と最も高いが、約2割が「自社の製品、サービスを提供する際の補完的な存在」と回答している〜


第2-1-34図 系列組織に属する中小企業の存在(大企業の認識)
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第2-1-35図 系列組織内の企業との取引意向
〜中小企業では、系列企業との取引を今後も維持しつつ、系列組織外の企業との取引も増やしたいという企業も5割弱存在する〜


第2-1-35図 系列組織内の企業との取引意向
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 以上では、製造業を中心に付加価値額、取引構造、系列組織を取り上げて、中小企業の位置付けを概観してきた。中小企業は、多くの付加価値額を生み出しているとともに、中には、多くの企業と取引を行う中小企業や多くの種類の製品を製造する中小企業もおり、系列組織でも中小企業の存在なくして大企業の活動は成立しないなど、中小企業が我が国の産業の基盤を支えていることを見てきた。続く第2項では、系列組織に所属しない中小企業も含めて、中小企業の製品等について見ていく。

事例2-1-5 産官連携で開発したプレス用分割構造パンチを大手自動車メーカーに採用された企業

 宮城県遠田郡のキョーユー株式会社(従業員108人、資本金8,888万円)は、電子デバイス向け産業を中核とし、自動車関連産業のプレス金型やその部品も製造している企業である。
 同社は、設計・開発、試作品製造、製品生産、出荷までの工程を一貫して手掛けており、生産ラインは複数シフト制を導入し、ほぼ24時間操業をしている。こうした体制が、短期間かつ高精度の開発・生産の実現につながっており、同社の強みとなっている。
 同社は、地元の地方公共団体が開催したマーケティングの機会を通じて、東北地域に進出した大手自動車部品メーカーと知り合ったことがきっかけとなって、自らの強みである開発・生産体制を活かして、プレス用分割構造パンチ14を開発した。同パンチは、刃先のみを交換できて、工具コストを5割削減できるというメリットがあり、大手自動車部品メーカーに採用されることとなった。同社は、引き続き自らの強みである一貫生産体制を活かして、更なる製品開発に取り組んでいる。

14 プレス加工に利用するパンチと呼ばれる工具で、従来までは一体部品として、鋼材を削って作っていたが、刃先部分と土台部分に分け、かつ刃先部分は耐摩耗性材料を使用することで高寿命化が実現でき、刃先部分以外は長時間使用できるため、ランニングコストが従来の半分になった。

一体型パンチ 分割パンチ(ばらし) 分割パンチ(連結)

事例2-1-6 コネクタ部品へのインサート成型技術の応用により大手メーカーへの販路を開拓した企業

 岩手県北上市の株式会社ベスト(従業員46名、資本金1,650万円)は、超精密製品の金型や部品を製造する企業である。
 同社は、携帯電話等の部品を製造するための高い技術を有しており、短納期での開発生産一貫体制を強みとしている。取引先の企業から「こういうものはできないか。」と相談されても、自社の強みを背景に企画・設計・試作を通じて臆さず提案を行い、取引先の信頼を勝ち取ってきた。
 同社が、得意としている小型化したインサート成型15技術を活用して携帯電話に装着するマイクロSD カード16のカードスロットコネクタ部分の製造に成功した際にも、従来の取引先である大手電機メーカーから「信頼できる企業」として紹介され、大手自動車メーカーからの受注を新たに獲得している。

15 材料を金型に入れて成形する製造方法の一種で、樹脂を流し込んで成形する前に金属等別の素材を入れる。これにより、携帯電話等様々な製品に使われている、端子と樹脂が一体化したコネクタ部品等を生産することができる。
16 小型薄型の外部メモリで、画像や音声等を保存することができる。主に携帯電話など小型の機器で利用され、接続するためのスロット(端子)が装着されている。

携帯電話等のマイクロSD カードを差し込むカードスロットコネクタ

事例2-1-7 加工コストを低減する独自技術を開発し、自動車等の部品を製造する技術を確立した企業

 愛知県一宮市の株式会社ケーエスディー(従業員130名、資本金2,000万円)は、シフトレバーや顕微鏡等の精密機械部品の高精度アルミダイカスト製品等を生産する企業である。
 同社は、HAD17を用いることで、ダイカスト製品を製造する際に、後加工を最小化して、設計の自由度を上げることで製品精度を改善させるなど、鋳造方法の改善を自ら積極的に進めてきた。

17 High Ability in precision Die casting の略称で、同社が創業当時から有する精密鋳造製法である。一般的なダイカスト工法では精密部品等を金型を用いて鋳造する場合、金型から抜き取る際に、真っすぐ引き抜くと抵抗が大きく取り出せなくなる可能性があるため、本来必要な型に対して僅かな傾斜を設けて、抜きやすくする。その後、傾斜を設けた部分を切削削除等の後加工をして本来必要であった鋳造品を完成させる。HAD は、この抜きやすくするために余計な傾斜分を設けることなく、金型を抜き取ることができるようにした製法であり、余分な傾斜分を切削する後工程が不要になるだけでなく、切削分の金属が無駄にならない。さらに、本来必要な精密な金型で鋳造することができ、高精度を実現できるなどのメリットがある。

 このように、同社は、自らの開発力・技術力を積極的に活かして、他社が挑まない新たな製造方法を取り入れ、さらに、顧客の立場に立った改善の取組を模索し、高い歩留まり率の実現、費用削減、納期短縮をトータルメリットとして、取引先に積極的に提案することで多くの企業から信頼を得ている。
ダイカスト製品

事例2-1-8 徹底した自前主義で100%内製化を目指し、顧客中心のものづくりを行う企業

 大阪府枚方市の吉泉産業株式会社(従業員60人、資本金1,000万円)は、魚の切り身の大きさを映像情報で判断して常に一定の大きさに切り分けるスライサー等の食品加工用業務機械を製造する企業である。
 顧客数が限られる同社製品はオーダーメイドに近く、発注数が少ないことから外注しても割高なことが多いため、自社内に部品製造の機械を導入して製作を行うなど、徹底した自前主義を貫いている。また、営業社員が日々顧客を訪問してニーズを集め、納品後もメンテナンス時に機器改良の要望を聞くとすぐに開発や製造部門に伝え、短期間に新製品開発や改良部品の製造を行うなど、顧客中心のものづくりを実践している。
 このように徹底した自前主義と顧客中心のものづくりにより、製品の独自性を向上させることで、他社製品との価格競争に巻き込まれないだけでなく、独自の技術・経験を社内に蓄積することが可能になり、製品開発の速さと質の向上に貢献している。
食品加工用業務機械
 
コラム2-1-4 建設業と製造業の取引構造の違い

 第2-1-28図では、輸送用機械器具製造業の取引構造を示したが、本コラムでは、建設業と製造業の取引構造を比較する。コラム2-1-4図は、(株)東京商工リサーチ「TSR 企業相関ファイル(2006年)」を用いて、建設業及び製造業の企業、各業種内の取引構造を描いたものである18。左図は大企業、右図は中小企業と大企業を描いたものであり、色は地域を表す。

18 取引関係のある企業同士は接近し、取引関係のない企業は反発するという条件の下、三次元の空間で最も安定的な配置を求める分子動力学シミュレーションを応用した。

 まず、建設業では、製造業と比べて、放射状に伸びたブラシ状の構造が特徴的であり、親→子→孫といった垂直的な取引が多いことが示唆される19。この理由としては、建設業では、部材等を工事ごとに生産することが多いのに対し、製造業では、製品等を大量生産する場合が多いことが考えられる。次に、建設業では、製造業よりも、同じ色の企業同士がまとまっている特徴が見られ、地域内の企業同士の取引が多いことが示唆される20。この原因としては、建設業では、生コンクリートの使用時間制限があるため、一定の地域内に立地する必要があるなど21、特有の事情が存在することが考えられる。

19  建設業では、製造業と比較して、取引数が小さい企業が多数存在することが確認される。付注2-1-9を参照。
20  建設業の地域内取引の割合は、86%(402,237/470,035)であり、製造業の61%(200,683/326,808)より高い。
21  日本工業標準(JIS)規格により製造から型枠への流し込みを 90分以内に完了しなければならないとされている。

 こうした企業間の取引構造を把握することにより、次のコラム2-1-5で紹介する連鎖倒産を始め、ある現象が元請企業から下請企業にどのように伝播していくかを明らかにすることが可能となる。現在、経済物理学を始めとする研究が進んでいるところであるが、今後解析方法の更なる進歩により、企業間の取引構造がより詳細に把握されることが期待される。

コラム2-1-4図 建設業及び製造業の取引構造
〜建設業では、製造業と比べて、垂直的な取引が多く、地域内の企業同士の取引も多いことが示唆される〜

コラム2-1-4図 建設業及び製造業の取引構造
 
コラム2-1-5 取引先企業の倒産による連鎖倒産

 企業は、取引先企業から仕事を確保することができる一方、取引先企業の不振や倒産等のリスクに晒される。一般に、企業間取引は、信用の供与(貸し手・債権者)と接受(借り手・債務者)と表裏一体であるため、取引先の企業が倒産した場合、その企業に何らかの信用を与えていた企業は、売掛金が回収できないこと、商品が納入されないことなどにより連鎖倒産に至ることがある22

22 (財)企業共済協会「企業倒産調査年報(平成21年度倒産)」によると、他社倒産の余波及び売掛金回収難は、件数で約7%、負債額で約30%を占めている。また、連鎖倒産は、企業間の取引関係だけでなく、所有関係や特定の地域や業種内の相関関係等の様々な関係を介して、伝播し得る。

 コラム2-1-5図は、取引先企業の倒産による連鎖倒産の事例を示している23。中心のA 社(建設 総合工事業)は地方の建設工事に携わってきた有力な企業であるが、2006年2月に需要低迷により倒産した。この影響は、A 社の仕入先企業に及び、3月にはB 社(コンクリート 土石製品製造業)が、4月にはC 社(運輸 貨物運送業)とD 社(建設資材 建築材料卸売業)が連鎖倒産した。さらに、4月にはD 社の仕入先であるE 社(石材 土石製品製造業)とF 社(運輸 貨物運送業)も連鎖倒産した。

23 京都大学と(株)東京商工リサーチの共同研究。

 連鎖倒産しやすい企業は、取引先数が少なく取引先企業の倒産により致命的な影響を受ける企業であり、取引先数と企業規模には正の相関がある24ことから、中小企業であることが多い。本事例でも、倒産企業は、全て中小企業であり、各企業の従業者数と取引企業数はおおむね比例関係にあった。

24 大規模データの解析[1,Fig.2(b)] によると、取引数と企業規模には正の相関がある。詳細は、Y.Fujiwara, H.Aoyama[2010]「Large-Scale structure of anation-wide production network European Physical Journal B, VOL.77, NO.4, pp.565-580」を参照。

コラム2-1-5図 取引先企業の倒産による連鎖倒産の事例
〜倒産企業は、全て中小企業であり、各企業の従業者数と取引企業数はおおむね比例関係にあった〜

コラム2-1-5図 取引先企業の倒産による連鎖倒産の事例

 中小企業庁では、共済金の貸付を行う「中小企業倒産防止共済制度」、(株)日本政策金融公庫の関連企業の倒産により経営に困難を来している企業を対象にした「セーフティネット貸付(取引企業倒産対応資金)」、信用保証制度において一般保証との保証限度額の別枠化を行う「セーフティネット保証制度」により、中小企業の連鎖倒産の防止に努めているところである。
 
コラム2-1-5事例 元請企業の倒産を乗り越え、自社独自の製品メーカーへ進化した企業

 奈良県奈良市の君岡鉄工株式会社(従業員21名、資本金1,000万円)は、仮設足場製品を製造する企業である。
 同社は、1993年に売上の大部分を占める取引先が倒産し、突如大口得意先を失った。また、自社製品製造のための設備投資を行ったところに、売掛債権の焦げ付きが重なった。同社の君岡誠治社長は、中小企業倒産防止共済の貸付を受けるなどして運転資金を得て、既存の仮設足場の加工により売上を確保しながら、独自に開発した難地盤25にも対応できる高性能鋼管杭「くい丸」の販路開拓に励んだ。1993年の経験からも一つの取引先に大きく依存すると経営リスクが高まると考え、全国各地を営業して回り、小口の注文にも対応して地道に販路を拡大していった。製品性能の高さもあって、同社の製品の認知度は次第に高まり、取引先も順調に増加して、元請企業の倒産という危機を乗り越えることができた。

25 アスファルト、石混じりの固い地盤をいう。

 最近では、仮設足場であった「くい丸」が東海旅客鉄道株式会社のレール基準杭として700キロにわたり採用されるなど、建築業界以外にも取引先を拡大している。さらに、関西大学との共同研究を行うことで、「くい丸」が様々な工事に採用される機会を拡大することに尽力しており、自社製品メーカーとして安定的な取引構造を実現している。
高性能鋼管杭



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