第1部 最近の中小企業の動向 

第5節 その他の全国的な影響

 今回の震災は、地震、津波による影響、原子力発電所事故、電力供給制約等による直接的な影響を及ぼすにとどまらず、被災地域以外の企業にも、様々な影響が全国的に波及した。
 第1-2-14図の日本公庫「全国小企業月次動向調査」では、全国の中小企業1,395社に震災の影響について聞いているが、現在影響が出ている及び今後影響が出そうと回答した企業数の割合は、「取扱商品の不足・価格高騰」が5割弱と最も高く、次いで「自粛ムード、節約意識の高まり」が約3割、「取引先が被災」が約1割を占めている。以下では、このように多くの中小企業が影響を受けることとなった物流の停滞や取引先の被災等によるサプライチェーンへの影響、企業や消費者の自粛等の消費マインドの低下といった震災の中小企業への全国的な影響について見ていくこととする。
 
第1-2-14図 東日本大震災の影響
〜取扱商品の不足・価格高騰、自粛ムード、節約意識の高まり等により全国的に影響が及んだ〜


第1-2-14図 東日本大震災の影響
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●サプライチェーンへの影響
 今回の震災は、被災した企業の操業停止や交通インフラの寸断による物流の停滞によって被災地域からの製品供給及び被災地域への製品販売が困難となり、サプライチェーンに多大な影響を与えた。
 第1-2-15図は、青森県、岩手県、宮城県、福島県の被災地域において出荷金額が高い品目上位5位を示したものであるが、自動車部分品・附属品、その他の電子部品・デバイス・電子回路、集積回路の出荷額が大きく、産業に不可欠な品目を供給する企業との取引が困難になることにより、サプライチェーンに影響が及んだケースもあった。
 
第1-2-15図 被災地域における出荷金額上位5品目
〜被災地域では、自動車部分品・附属品、その他の電子部品・デバイス・電子回路、集積回路といった品目の出荷額が大きい〜


第1-2-15図 被災地域における出荷金額上位5品目


 震災が発生した2011年3月の鉱工業生産指数を見ると、直接被害の大きかった東北地方では、前月からの減少率が石油製品工業が9割以上、家具工業、鉄鋼業、パルプ・紙・紙加工製造業が6割前後と大きくなっている一方で、四国を除くその他の地域では、輸送機械工業の減少率が約3〜5割と、他の業種と比較して突出しており、被災地域の企業からの原材料、部品等の供給が滞ったため、全国的な影響が広がることとなったと考えられる(第1-2-16図)。
 
第1-2-16図 2011年3月の鉱工業生産指数(地域別)及び中小企業への影響
〜輸送機械工業は、関東のみならず、2011年3月の落ち込みが全国的に大きかった〜


第1-2-16図 2011年3月の鉱工業生産指数(地域別)及び中小企業への影響


 このように、被災地域からの原材料、部品等の供給が停滞することによるサプライチェーンへの影響は全国に及んだが、被災した中小企業の中には、大きな被害を受けた取引先を支援することにより供給体制を維持した企業や自社の金型を他社工場に持ち込んで生産を行い取引先への影響を抑えた企業、供給メーカーとしての自覚を持ち自動車部品供給力の維持に全力を挙げる企業も存在した。

事例1-2-10 取引先を支援することにより供給体制を維持した企業

 宮城県石巻市の株式会社堀尾製作所(従業員52名、資本金2,000万円)は、亜鉛ダイカスト22での高精度鋳造を実現し、光ピックアップ23部品で世界シェアの約30%を占めている。同社は、高台に立地していたために津波の被害は免れたが、協力会社の宮城県石巻市の有限会社雄勝無線(従業員14名、資本金300万円)は、最終工程の部品加工や検査を担ってきたその工場が設備ごと流された。有限会社雄勝無線は廃業の危機にあったが、株式会社堀尾製作所から工場の空きスペースと生産設備を無償で借り受けたため、廃業を免れた。一方、株式会社堀尾製作所は、自動車向け部品の在庫に余剰がなくなり、納期が逼迫した状況に陥った。しかし、有限会社雄勝無線の協力を得て、突貫で工作設備を作り、徐々に納期遅延がなくなり、納入先のラインストップは免れることができた。同社は、「他社に仕事を頼んでも対応することは困難であったと思う。雄勝無線さんに作業を続けてもらったおかげで、部品製造が滞らなかった。」と感謝している。

22 ダイカストとは、溶融金属を精密な金型に圧入することにより、高精度で鋳肌の優れた鋳物を大量生産する鋳造方法の一種。
23 光ピックアップとは、CD やDVD 等の光ディスクにレーザー光を照射し、データの記録や読み取りを行うための装置。

事例1-2-11 自社の金型を他社工場に持ち込んで生産を行い、取引先への影響を抑えた企業

 宮城県岩沼市の株式会岩沼精工(従業員50名、資本金1,000万円)は、精密プレス加工、金型製作、省力化機器の設計・製造を行い、民生用リチウムイオンバッテリー向け端子で高いシェアを有する企業である。
 今回の震災により工場が約1.2メートル浸水し、500種類以上の金型や機械設備が被害を受け、同社の千葉喜代志社長は、「工場の被災状況を見た時、一瞬再開の断念も考えたが、取引先への供給責任や従業員とその家族の将来を思い、操業継続を決断した。」と言う。
 同社は、取引先への影響を最小限に抑えるべく震災以前の受注には無事だった在庫等で対応し、量産品に不可欠な金型の洗浄と錆び防止を最優先に行い、自社の金型と従業員を借用した同業者の工場に送って生産を行った。自社工場は、被害を受けた機械設備を中古品の購入で代替して生産体制を整え、電力供給が再開するまでは、大型発電機を借り入れるなどの工夫を行い、震災から約1か月で操業を再開した。
 同社の千葉社長は、「被害は大きかったが、取引先に迷惑は掛けられないので、客先、同業者の協力、仲間に支えられて早期復旧に全社一丸で取り組み、やっとここまできた。本当に感謝している。」と語る。

事例1-2-12 供給メーカーとしての自覚を持ち、自動車部品供給力の維持に全力を挙げる企業

 宮城県亘理郡の岩機ダイカスト工業株式会社(従業員328名、資本金2億円)は、自動車業界向けのダイカスト製品、モルダロイ製品の製造を手掛けている企業である。震災後、操業再開までは約3週間を要したが、同社の斎藤吉雄社長は、「大半は電力供給の開始を待っていた時間であり、電力供給さえあれば震災後1週間で操業できた。」としている。同社は津波で甚大な被害を受けた山元町に立地しているが、沿岸から数キロメートル離れた場所にあり、津波の影響をほとんど受けていない。現在は震災前の受注をフル生産でこなしているが、「操業は無理だろうと取引先が拙速に判断して、他の企業に離れていくことが何より怖い。」と考えている。


●消費マインドの低下による影響
 今回の震災は、被災地への配慮等からの自粛ムードや長引く余震及び計画停電等の影響により小売業や旅館、ホテル等のサービス業を中心に消費マインドの低下を引き起こした。
 第1-2-17図の(株)帝国データバンク「震災の影響と復興支援に対する企業の意識調査24」によると、今回の震災が中小企業に及ぼした需要への影響について、需要が減少又はやや減少と回答した企業の割合が小売業で約65%、サービス業で60%強と高くなっており、消費マインドの低下による需要の減少の影響が小売業、サービス業で大きかったと考えられる。また、小売業、サービス業への影響を地域別に見ると、東北、関東に加えて、北海道、東海、中国でも、6割以上の企業が、需要が減少又はやや減少と回答しており、影響が全国的に波及したことが分かる。

24 (株)帝国データバンクが2011年3月に22,097社を対象に実施した調査。回収率は48.6%。
 
第1-2-17図 震災による中小企業の需要への影響
〜業種別に見ると、小売業、サービス業で、需要が減少又はやや減少と回答した企業の割合が高く、小売業、サービス業の中では、東北、関東に加えて、北海道、東海、中国でも、6割以上の企業が、需要が減少又はやや減少と回答しており、全国的に影響が及んだ〜


第1-2-17図 震災による中小企業の需要への影響
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 ここまで、今回の震災による消費マインドの低下が小売業やサービス業を中心に全国的に影響を及ぼしたことを述べてきたが、ここからは、小売業と旅館、ホテル等のサービス業のそれぞれへの影響について見ていく。
 第1-2-18図は、大型小売店を除く小売業販売額の前年同月比増減率の推移を示したものであるが、震災が発生した2011年3月は前年同月比が8.9%と大きく低下しており、震災による消費マインドの低下が中小小売業販売額に大きな影響を及ぼしたと考えられる25

25 総務省「家計調査」によると、震災発生後に食料への支出は増加した一方、被服及び履物、教養娯楽への支出は減少した。付注1-2-2参照。
 
第1-2-18図 小売業販売額(大型小売店を除く)の前年同月比増減率
〜震災が発生した2011年3月に、大幅な落ち込みが見られる〜


第1-2-18図 小売業販売額(大型小売店を除く)の前年同月比増減率
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 次に、サービス業の中で、地震及び原子力発電所事故の影響等による国内外からの観光客の減少により、大きな影響を受けた旅館、ホテル等への影響を見ていく。
 第1-2-19図は、(独)国際観光振興機構が公表している訪日外国人数を示したものであるが、2011年3月の訪日外国人数は前年同月比で50.3%減と調査開始以降最も大きく減少した。震災前後を見ると、訪日外国人数は震災の影響を受けていない3月1〜11日が約21万5千人で前年同期比4%増である一方で、影響を受けた3月12〜31日が約13万7千人で同73%減となった。さらに、4月の前年同月比は62.5%減となり、2か月連続で単月の減少幅が最大となった。
 また、国内でも、旅行の取りやめや自粛が相次いでいおり、観光庁によると、2011年3〜4月の旅館、ホテルの宿泊予約のうち、東北では約61%、関東では約48%、全国では約36%が取りやめとなった。
 
第1-2-19図 訪日外国人数及び中小観光業への影響
〜2011年3月以降の訪日外国人数は落ち込みが見られる〜


第1-2-19図 訪日外国人数及び中小観光業への影響
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 以上、小売業、旅館、ホテル等のサービス業を中心に、消費マインドの低下が我が国の消費を冷え込ませていることを見てきたが、こうした中でも、自粛ムードを取り払う取組を行っている商店街や消費マインドの低下の中でも売上回復に尽力する企業も存在する。

事例1-2-13 自粛ムードを取り払う取組を行っている商店街

 東京都杉並区の高円寺銀座商店会協同組合の飲食店経営者が中心となり、顧客とともに行う被災地支援チャリティプロジェクト「オー・ド・ヴィー」を立ち上げた。
 消費者に外食や飲酒を自粛するのではなく、飲食店を利用する際に、店舗ごとのチャリティメニューや「もう一品」、「もう一杯」を注文してもらうことで、売上の一部を被災地域に送ろうという事業である。飲食店ならではの募金活動として被災地域への直接支援ができる上に、消費マインドの低下により売上が大きく影響を受ける街を活性化させることにもつながることから、同商店街は、この活動を積極的に支援している。さらに、各方面に働きかけをしたところ、高円寺の10商店街が加盟する「高円寺商店街連合会」の後援を得ることもでき、同商店街の取組の認知度が高まり、更なる取組につながることが期待される。

事例1-2-14 消費マインドの低下の中でも、売上回復に尽力する企業

 宮城県石巻市の株式会社モビーディック(従業員81名、資本金8,300万円)は、人体工学に基づいた高品質のウェットスーツで国内トップシェアを占める企業である。震災の影響でリードタイムは平時を下回っている状況であるが、震災前から取引先と強い信頼関係を有しており、消費マインドが低下する中でも、全国の取引先からの支援を受けて、受注を確保している。
 同社の保田守社長は、「当社はレジャー関連製品が中心なので、早期に消費マインドが回復してほしい。」と考えており、工場の稼働状況も徐々に戻していく予定である。

 本節では、被災地域からの原材料、部品等の供給停滞によるサプライチェーンへの影響や被災地域への配慮からの自粛等による消費マインドの低下の小売業、サービス業等への影響が、全国的に波及したことを見てきた。こうした影響の全国的な広がりを受け、政府は、融資や保証による資金繰り支援、雇用調整助成金や雇用保険による雇用支援に加えて、窓口や電話による相談体制設置等の支援を行っている26

26 コラム1-2-6を参照。
 
コラム1-2-6 相談体制設置等の支援

 政府では、こうした影響の全国的な広がりを受けて、全国の公的金融機関や商工会議所等に特別相談窓口を設置して、中小企業等からの相談に応じている(コラム1-2-6図〔1〕)。

コラム1-2-6図〔1〕 全国的な相談体制の整備
〜影響の全国的な広がりを受け、窓口や電話による相談体制設置等により、広範多岐にわたる相談に親身かつ迅速に対応している〜

【特別支援窓口の設置】
 全国の公的金融機関や商工会議所等において特別相談窓口を設置。震災に関し、広範多岐にわたる相談が寄せられている。
【中小企業電話相談ナビダイヤル】
 資金繰り、雇用面、税制面等における各種支援策の相談・問い合わせが寄せられている。

【中小企業の状況】
○ 事事業所が被災し、現在休業中であるが、金融機関への借入金の返済、資金繰り、下請事業者への支払等で悩んでいる。
 〔4月下旬〕(宮城県石巻市、製造業)
○ 運転代行業をしているが、震災以降利用客が激減して運転資金が回らない。〔4月下旬〕(栃木県宇都宮市、運送業)
○ 避難地域にはなっていないが、お客さんも来ない状況で売上が大幅に減少しており、当面の資金が必要。〔4月中旬〕(福島県田村市、飲食業)
○ 観光業をしているが、地震以降の予約が全てキャンセルになり、また今後も全く予約が入ってこない状況。〔4月中旬〕(茨城県土浦市、サービス業)

お問い合わせ先
各種相談「中小企業電話相談ナビダイヤル」 0570-064-350(9:00〜17:30)
※融資については、(株)日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、(株)商工組合中央金庫、
 保証については、最寄りの信用保証協会で対応1

(注)
1.詳細は経済産業省中小企業庁ホームページを参照。http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/download/110526NDC.pdf

 特別相談窓口には、多岐にわたる相談が寄せられており、2011年6月13日時点で、累計相談実績が105,538件となっている(コラム1-2-6図〔2〕)。
 
コラム1-2-6図〔2〕 特別相談窓口における相談実績等
〜 特別相談窓口には、多岐にわたる相談が寄せられており、2011年6月13日時点で、累計相談実績が105,538件となっている〜


特別相談窓口における相談実績等



 本章では、今回の東日本大震災の被害が東日本の極めて広域に及ぶだけでなく、大規模な地震と津波に加え原子力発電所事故が重なるという、未曾有の複合的な大災害であり、その影響が被災地域の中小企業のみならず、被災地域の企業と取引のある中小企業等に広範に及んでいることを見てきた。被災地域の社会生活や経済活動の一刻も早い復興を図り、東日本大震災が我が国経済に与える影響を最小限のものとするためにも、政府としては中小企業の多様なニーズに対応し、中小企業支援に万全を期していく。
 こうした状況を踏まえて、続く第2部では、中小企業が、我が国の産業、生活の基盤をどのように支えているのか、急速な景気低迷や深刻化する構造的課題にどのように対応しているのかを示し、我が国の経済社会における中小企業の重要性について分析を行い、第3部では、震災による厳しい状況の中で、我が国経済が持続的に成長するための取組として、起業、転業、労働生産性の向上、国外からの事業機会の取り込みの現状と課題について分析を行っていく。



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