第1部 最近の中小企業の動向 

第3節 原子力発電所事故の影響

 今回の震災では、これまで見てきた地震、津波の影響に加えて、原子力発電所事故が発生したことにより、中小企業でも、事業の継続が困難となり、先行きの見通しも立たないなど、非常に大きな影響を受けることとなった。また、原子力発電所事故の避難区域等の周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生し、輸出の際に海外メーカーから放射線検査を要求されるケースも生じることとなった。以下では、原子力発電所事故の避難区域等の特徴、原子力発電所事故の中小企業への影響について分析を行う。


●原子力発電所事故の避難区域等の特徴
 第1-2-1図〔1〕では、原子力発電所事故の避難区域等に、約8千社の企業が存在することを示したが、企業及び就業者の業種別割合には、どのような特徴が見られるのであろうか。
 第1-2-10図により、原子力発電所事故の避難区域等と全国、福島県を比較すると、企業数では、建設業、卸売業,小売業、農林漁業の割合が高い一方、就業者数では、農林漁業、建設業、電気・ガス・熱供給・水道業の割合が高くなっている。
 
第1-2-10図 原子力発電所事故の避難区域等における企業及び就業者の業種別割合
〜原子力発電所事故の避難区域等では、建設業、卸売業,小売業、農林漁業といった業種の割合が高い傾向にある。また、農林漁業、建設業、電気・ガス・熱供給・水道業に就業する者の割合が高い傾向にある〜


第1-2-10図 原子力発電所事故の避難区域等における企業及び就業者の業種別割合
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 また、原子力発電所事故の避難区域等では、化学部品、輸送機械部品、電子機器部品等の特定の分野において高いシェアを有する企業が存在し、当該企業の事業活動の継続が困難となり、自動車やエレクトロニクス等のサプライチェーン全体に影響が波及したとも考えられる。


●原子力発電所事故の中小企業への影響
 原子力発電所の避難区域等では、中小企業は、どのような影響を受けたのであろうか。
 第1-2-11図によると、原子力発電所の避難区域等の企業は、事業の継続が著しく困難にもかかわらず、人件費や固定費の負担が発生し、先行きの見通しも立たないなど、大変厳しい状況にあり、こうした企業の中には、他の事業所での代替生産や事業所の区域外への移転を検討する企業も存在した。
 また、原子力発電所事故の避難区域等の区域外であっても、その周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生し、また、国内外を問わず、風評被害が広がっており旅館、ホテルの予約のキャンセル等が相次ぐとともに、取引先から製品の安全性の検査、確認が求められた。
 
第1-2-11図 原子力発電所周辺地域の企業への影響
〜まず、原子力発電所事故の避難区域等の企業は、事業の継続が著しく困難にもかかわらず、人件費や固定費の負担が発生し、先行きの見通しも立たないなど、大変厳しい状況にあり、こうした企業の中には、他の事業所での代替生産や事業所の区域外への移転を検討する企業も存在した。また、原子力発電所事故の避難区域等の区域外であっても、その周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生し、また、国内外を問わず、風評被害が広がっており、旅館、ホテルの予約のキャンセル等が相次ぐとともに、取引先から製品の安全性の検査、確認が求められた〜


第1-2-11図 原子力発電所周辺地域の企業への影響


 以上、原子力発電所事故の避難区域等では、全国、福島県と比較して建設業の企業、就業者の割合が高いこと、全国のサプライチェーンに影響を及ぼし得る中小企業が存在することなどを示してきた。これまで見てきたように、原子力発電所周辺の避難区域等では、企業の事業活動が困難となり、先行きの見通しも立たない状況になっており、避難区域等の周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生するなど、津波、地震による被害とは異なる対応が必要となっており、被災中小企業のために特別な支援を行っていくことが重要である15

15 コラム1-2-4を参照。
 
コラム1-2-4 原子力発電所事故による影響を受けた中小企業に対する特別支援

 第3節で見たように、原子力発電所事故による影響は、避難区域等のみならず全国の中小企業に及んでおり、特別な金融支援、雇用支援、経営支援、風評被害への対応支援、仮払補償を実施等を行っている。

コラム1-2-4図 原子力発電所事故による影響を受けた中小企業に対する特別支援
〜政府では、特別な金融支援、雇用支援、経営支援、風評被害への対応支援、仮払い補償の実施等を行っている〜

【特別な金融支援】
警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域に事業所を有し、その移転を余儀なくされる中小企業等に対して、福島県内の移転先において事業を維持するために必要な事業資金を、(独)中小企業基盤整備機構の高度化融資スキームを活用して、20年を上限に無利子無担保で貸付。

* この他、(株)日本政策金融公庫、(株)商工組合中央金庫による東日本大震災復興特別貸付(利子補給により実質無利子化)、信用保証協会による東日本大震災復興緊急保証が利用可能。

【雇用支援、経営支援】
福島県内で、重点分野雇用創造事業による雇用創出、経済産業省・厚生労働省・福島県による産業界への地元雇用の要請、中小企業団体等による雇用機会の創出、福島県内の企業の事業継続のための支援等を実施。

【風評被害への対応支援】
日本から製品を輸出する際、製品の放射線検査を希望する輸出事業者に対して、指定検査機関で検査を受ける場合に、検査費用を補助(2011年度第1次補正予算約7億円:補助率は中小企業9/10・大企業1/2)。

【原子力災害被災中小企業者に対する仮払い補償の実施】
〔1〕仮払い対象:避難区域等1において中小企業者が被った営業損害
〔2〕仮払い金額:粗利額2(2011年3月12日〜5月末日の相当分)の1/2(上限は250万円)
〔3〕必要書類:(1)粗利額を証する書類3
      (2)避難区域等において2011年3月12日時点で事業を営んでいたことの証憑等
〔4〕請求受付:2011年6月1日から開始

(注)
1.「一次指針」の「第3政府による避難等の指示に係る損害について」に掲げる避難区域等。
2.粗利額(売上金額から売上原価を控除した金額)は、過去の実績額を基に算出。
3.粗利額を証する書類が提出されない場合でも、営業実態等を照明する書類等の提出があれば、20万円の仮払いが可能。

事例1-2-7 原子力発電所事故の発生直後から利用者へのガス供給を再開した企業

 福島県南相馬市の相馬ガス株式会社(従業員30名、資本金9,600万円)はグループ企業とともに、都市ガス、LP ガス、ガソリンスタンド等のエネルギー事業を経営している。
 原子力発電所事故によって管内が屋内退避地域に指定され、住民や社員の多くが避難し、都市ガス原料や石油製品の輸送が滞ったが、都市ガス等利用者1万軒の対応に備え、市民ボランティアの協力を得るなどして、震災直後から営業を再開した。
 現在は、緊急時避難準備区域となったが、いまだ売上見通しを立てにくい状況の中でも、同社の渋佐克之社長は、「エネルギー事業は、大切なインフラの一部であるという信念を持っている。今後も、利用者がいる限り、事業を継続していく。」と話す。

事例1-2-8 速やかに生産ラインを復旧させ全面稼働した企業

 福島県相馬市の株式会社アリーナ(従業員200名、資本金1,000万円)は、電子機器部品組立製造を行う企業で、チップ電子部品を基板に取り付ける技術で世界最先端の実績を誇っている。この技術は、世界有数の携帯電話製造企業の製品にも活かされており、当社の部品は全世界の携帯電話の約20%の製品に供給されている。
 同社の生産が止まると、取引先に大きな影響が出ることから、大震災直後、直ちに社内に災害対策本部を設置し、社員と家族の安否や家屋等の被災状況の把握、社員への支援体制の確立、工場復旧のためのプロジェクトチームの立ち上げを実施した。また、毎日状況報告会を実施し、情報の共有化に努めた。
 本部を中心にガソリン不足や地震、津波で家を失って出社できない社員のための支援を相馬市役所に要請し、職場復帰できる生活環境の改善に奔走した。生産設備の修理では、取引業者や機械製造業者の技術者が名古屋方面からも支援にかけつけ、社員と共に連日復旧作業に取り組み、3月22日には全面稼働することができた。同社は福島第一原子力発電所から50キロメートル弱の距離に立地しており、同社の高山慎也社長は、「放射能の安全宣言を出してほしい。」としている。
震災直後(左)と稼働再開後(右)の工場の様子



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