第1部 最近の中小企業の動向 

第2節 地震の影響

 今回の震災は、前節で見た津波に加え、地震の揺れの大きさも特徴的であり、最も激しい揺れを記録した宮城県栗原市で震度7、仙台市でも地域によっては震度6強が観測されたほか、広い範囲にわたって強い揺れが観測された。このため、津波の影響は受けていないが、地震により被害を受けた地域において、建物や設備の破損、物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないことなどにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じることとなった。以下では、地震被災地域の特徴、地震の中小企業への影響について分析を行う。


●地震被災地域の特徴
 第1-2-1図〔1〕では、地震被災地域では、約74万社の企業が存在することを示したが、企業及び就業者の業種別割合には、どのような傾向が見られるのであろうか。第1-2-8図により、 東京都を除く6県と全国を比較すると、企業数では、製造業の割合が低く、建設業、卸売業,小売業、生活関連サービス業,娯楽業の割合が高い一方、就業者数では、農林業、製造業の割合が高くなっている。また、東京都と全国を比較すると、企業数では製造業、就業者数では卸売・小売業の割合がやや高くなっている。
 
第1-2-8図 地震被災地域の企業及び就業者の業種別割合
〜地震被災地域では、東京都を除くと、全国の業種構成と比較して、製造業の割合が低く、建設業、卸売業, 小売業、生活関連サービス業, 娯楽業の割合が高い傾向にある。また、全国と比較して、農林業、製造業の就業者の割合が高い傾向にある〜


第1-2-8図 地震被災地域の企業及び就業者の業種別割合
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●地震の中小企業への影響
 地震被災地域では、どのような被害が発生したのであろうか。今回の地震による強い揺れの影響で、建物や設備の損壊、液状化、設備の保守・点検が専門家の不足で受けられないこと、物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないことなどにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じた。また、電子部品・デバイス・電子回路製造業や輸送用機械器具製造業では、精密な加工を行うために工作機械の精度調整等に時間が掛かる場合もあり、活発な余震活動の影響等により生産活動が停滞した。
 
第1-2-9図 地震の中小企業への影響
〜地震被災地域では、建物や設備の損壊、液状化、設備の保守・点検が専門家の不足で受けられないこと、物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないことなどにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じた〜


第1-2-9図 地震の中小企業への影響


 今回の震災では、津波により太平洋沿岸を中心にコミュニティ自体を喪失するほどの壊滅的被害を受けたのみならず、津波による影響がなかった地域においても、地震や液状化による建物・設備の損壊、物流の停滞による原材料・製品・商品の仕入・供給への影響等様々な被害が発生した。このような様々な被害状況に柔軟に対応し、ニーズに応じた適切な支援14を行うことが、早期復興のために重要である。

14 コラム1-2-1を参照。
 
コラム1-2-1 津波、地震の影響を受けた中小企業に対する支援

 第1節、第2節で見たように、津波、地震を始め、今回の震災により、各地の中小企業が甚大な影響を受けており、政府では、これまでに金融支援、雇用支援の大幅な拡充を行っている(コラム1-2-1図〔1〕)。

コラム1-2-1図〔1〕 津波、地震の影響を受けた中小企業に対する支援〔1〕
〜政府では、これまでに金融支援、雇用支援の大幅な拡充を行っている〜

【金融支援】
〔1〕(株)日本政策金融公庫、(株)商工組合中央金庫による東日本大震災復興特別貸付を創設。貸付限度額の別枠化、貸付期間・据置期間の延長、金利の引下げ等を実施。震災により事務所が全壊・流失した中小企業等に対しては、利子補給により実質無利子化。
〔2〕 小規模事業者向けの小規模事業者経営改善資金融資(マル経融資)についても、貸付限度額の別枠化、金利の引下げを実施。
〔3〕 信用保証協会による東日本大震災復興緊急保証を創設。セーフティネット保証、災害関係保証とは、保証枠を別枠化。

【雇用支援】
〔1〕 雇用保険失業給付では、震災による事業所の損壊等により、事業所が休止になり休業を余儀なくされた場合、従業者は、離職していなくても、失業給付を受けられる特例措置を実施。
〔2〕 雇用調整助成金で、震災の影響に伴う経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者の雇用を維持するために休業等をした場合、休業に係る手当等の負担相当額の2/3(中小企業の場合は4/5)を助成。
〔3〕 被災地で新卒者向け合同就職説明会を開催するとともに、新卒者応援プロジェクトの参加企業から、被災地の新卒者等の雇用の積極的な中小企業のリストを公表。


 以上の金融支援、雇用支援に加えて、一刻も早い復興のために、仮設店舗、仮設工場等の整備、地域経済の核
となる企業グループ支援、商店街の復旧支援、災害復興アドバイス支援事業等を進めている(コラム1-2-1図〔2〕)。


コラム1-2-1図〔2〕 津波、地震の影響を受けた中小企業に対する支援〔2〕
〜金融支援、雇用支援に加え、仮設店舗、仮設工場等の整備、地域経済の核となる企業グループ支援、商店街の復旧支援、災害復興アドバイス支援事業等を進めている〜

【仮設店舗、仮設工場等の整備】
(独)中小企業基盤整備機構が仮設店舗、仮設工場等を整備し、市町村を通じて中小企業等に原則無料で貸出し。

【地域経済の核となる企業グループ支援】
 産業ネットワークや雇用吸収力に着目して、「地域経済の核となる企業グループ※」に、政策資源を集中投入。
 Ⅰ 地域企業間の経済取引の広がりの観点から、地域にとって重要な産業のクラスター
 Ⅱ 雇用の規模の観点から、地域における重要な位置付けを有する中核企業とその周辺企業
 Ⅲ 我が国の主要産業にとって不可欠な部品供給を担うなど、地域はもとより我が国経済にとって重要なサプライチェーンを形成している企業グループ
 Ⅳ 地域コミュニティにとって不可欠な機能を提供している、地域の中心的な商店街等
〔1〕 複数の中小企業等から構成されるグループが復興事業計画を作成し、県の認定を受けた場合に、施設・設備の復旧・整備について、国が1/2、県が1/4の補助を行う措置を導入(2011年度第1次補正予算155億円)。
〔2〕 当該補助金を活用する企業グループに対して、無利子、返済期間20年以内、据置期間5年以内等の大幅に条件を優遇した貸付制度も創設。

【商店街の復旧支援】
〔1〕 被災した施設の補修や障害物除去に要する費用を補助。
〔2〕 被災したアーケード等の撤去や破損規模が大きい施設等の修繕等に相当程度期間を要する事業にかかる費用を補助。
【災害復興アドバイス等支援事業】
(独)中小企業基盤整備機構が被災地域に支援拠点を設置するとともに、現地派遣の専門家が経営相談、まちづくり、施設整備に係るアドバイス等を行い、中小企業からの相談に対応。

 以上、津波、地震の影響を受けた地域の特徴及び津波、地震の中小企業への影響について見てきたが、政府としては、被災地域の一刻も早い復興のために、引き続き中小企業支援に万全を期していく。
 続く第3節では、今回の震災の影響により発生した原子力発電所事故の影響について見ていく。
 
コラム1-2-2 BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)策定の重要性

 今回の津波及び地震によって被害を受けた企業の中には、緊急事態に備えてBCP を策定していたことにより早期復旧を果たした企業も存在しており、平時からBCP の策定を行い、緊急時の被害を最小限にとどめるための事業活動の方法・手段等を取り決めておくこと、企業間で積極的に連携することの重要性が改めて認識された。こうした中、政府では、引き続き中小企業におけるBCP 策定を促進するための取組を行っている。

コラム1-2-2図 中小企業におけるBCP 策定の重要性
〜今回の震災により、平時からBCP の策定を行い、緊急時の被害を最小限にとどめるための事業活動の方法・手段等を取り決めておくことの重要性が改めて認識された〜

● BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)
BCP とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃等の緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段等を取り決めておく計画をいう。

【中小企業のBCP 策定促進に向けた取組】
● 中小企業庁では、中小企業へのBCP の普及を目的として、中小企業BCP 策定運用指針1を策定し公表している。
● また、BCP を策定する際のポイントを整理し、様々な業種の災害対応事例を紹介した 「中小企業の事業継続計画(BCP)<災害対応事例からみるポイント>2」を取りまとめた。

(注)
1.詳細は経済産業省中小企業庁ホームページを参照。http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/index.html
2.詳細は経済産業省中小企業庁ホームページを参照。http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/download/110531Bcp-Reserch.pdf

事例1-2-1 緊急事態に備えてBCP を策定していたことにより早期復旧を果たした企業

 宮城県仙台市の鈴木工業株式会社(従業員67名、資本金6,000万円)は、産業廃棄物の収集運搬、リサイクル等の中間処理、上水・下水施設の清掃等を行う企業である。
 同社は、東日本大震災によって、中間処理施設の事務所、施設内で使用していた重機、車両、トラックスケール等といった主要設備のほとんどを流失し、処理施設の建屋の壁が半壊、施設内の焼却炉や水処理施設もヘドロやがれきに埋もれ、敷地内の廃棄物の保管場所等も地面が陥没する被害を受けた。
 同社では、2008年8月から緊急事態に備えてBCP の策定検討を始め、2009年9月に第1版を制定した。社内研修会では外部の専門家も参加してもらい、BCP の机上演習や模擬演習を実施したこともあって、中間処理施設からの円滑な避難やお客様のもとで作業している社員の安否確認が迅速に行われ、全員の無事を早い段階で確認することができた。
 またBCP 策定により緊急用の通信手段として衛星電話を設置していたことによって、処理施設の修理業者に速やかに連絡が取れ、震災の翌日には修理業者が復旧の確認作業に取り掛かることができた。衛星電話の効果は、お客様との連絡にも大いに役立ち、官公庁やお客様との連絡を行い、地震翌日から各市町の復旧作業及びお客様の復旧作業にも参加できた。自社の処理施設が復旧するまでは、県外の産廃業者の協力を得て円滑に廃棄物の処理を行った。
 本社の電話やパソコンは3月16日に復旧し、産業廃棄物の収集運搬及び清掃業務、リサイクル業務は震災後約1週間で復旧し、その他の中間処理業務についても約1か月で復旧し、早期に完全復旧を果たした。
 同社は、BCP を策定していたことで、今回の震災で事業の早期復旧に一定の効果があったと評価するものの、今回の震災を教訓に見直しを図りより精度の高いBCP の策定を急いでいる。
社内研修会における外部の専門家によるBCP の演習
 
コラム1-2-3 津波・地震の直接被害を受けた中でも頑張る中小企業等

 津波及び地震の影響により、事業継続が困難となっている企業が多数存在している。他方で、甚大な被害を受けながらも、地元での復興に強い意志を持って取り組んでいる企業、創意工夫により地元産品の生産を再開している企業、地域住民の消費を支え地元企業の活性化に貢献しているスーパーマーケット、内定を取り消された被災地域の高校の卒業生を積極的に採用する企業、中小企業の事業継続を支援している金融機関も存在する。

事例1-2-2 地元での復興に強い意志を持って取り組んでいる企業

 宮城県石巻市の株式会社ヤマニシ(従業員194名、資本金1億円)は、中型船を中心とした各種船舶を製造する企業である。2008年には、東北最大級の150トンクレーンを導入し、造船規模も最大2万4,000トン級に拡大するなど、近年は国際需要に対応する態勢を一段と強化してきていた。しかし、震災では、工場施設の1階部分が浸水して生産設備の多くが被害を受け、建造中の大型貨物船も2隻が流された。岸壁も地盤沈下している可能性があり、護岸修復をする必要があり、当面は製造を見合わせる予定であるが、2012年春頃の工場復旧を目指して懸命に復旧・復興に取り組んでいる。国内外の船主からも、同社の操業再開の暁には1番船を建造したいという申出が多く寄せられている。
 同社の前田英比古社長は、「漁業が盛んな石巻に根付き、地元で有数の雇用を担っていることを自負して経営してきた。事業が通常どおりに戻れば、利益も出てきて雇用機会も広がる。90年間培った造船の技術、技能、人材を活かすためにもこの石巻の地で必ず復興したい。」と話す。

事例1-2-3 創意工夫により地元産品の生産を再開している企業

 宮城県気仙沼市の株式会社男山本店(従業員17名、資本金1,500万円)は、1912年創業の老舗酒造メーカーである。同社の社屋は、昭和初期の洋風建築で、築80年の国の登録有形文化財であるが、今回の津波被害で1階・2階部分は崩れ、3階部分だけになり、電気・水道・ガスも不通になるなどの深刻な被害を受けたことから、震災直後は、社員全員が途方に暮れた。しかし、地酒を生産するために必要なもろみのタンクは無事であり、井戸水でタンクを冷やし、発電機で機械を動かすなどの工夫を行いながらもろみを搾り、3月下旬に製造再開にこぎつけ、全国からの注文に対応している。

事例1-2-4 地域住民の消費を支え、地元企業の活性化に貢献しているスーパーマーケット

 岩手県大船渡市の株式会社マイヤ(従業員700名・資本金9,600万円)は、岩手県沿岸部を中心に食品スーパーマーケットを展開する企業である。
 同社が展開する16店舗のうち6店舗が津波の被害にあったが、多くの店舗を有する陸前高田市等では他のスーパーはほとんどなく、同社が供給を止めると住民の生活が成り立たなくなるという状況にあったため、被害のなかった店舗では震災当日の夕方から駐車場で営業を行い、翌日も早朝6時から営業を開始した。また、被災した店舗があった地域には多くの出張店舗を設け、レジがなくても、50円や100円といった均一価格で商品を販売した。
 同社は、自社が被災しているにもかかわらず、風評被害を受ける農水産物を中心に、地元の中小企業から積極的に仕入れを行っている。また、震災後、早期に生産を再開した地元の名菓「かもめの玉子」を製造・販売するさいとう製菓株式会社(従業員169名、資本金5,000万円)に販売場所を提供するなど、相互に協力し、地域の早期復興に寄与している。
 同社の米谷春夫社長は、「地元は正に運命共同体であり、今回の被災に際し、地域のライフラインを守ることは当たり前の責務である。」と語る。
営業再開した株式会社マイヤの店舗で販売を行う さいとう製菓株式会社

事例1-2-5 内定を取り消された被災地域の高校の卒業生を積極的に採用する企業

 大阪府堺市の大起水産株式会社(従業員113名、資本金6,000万円)は、鮮魚・水産品の加工販売、回転寿司店の経営を行っている企業である。被災地域での内定取消の動きを見た同社は、大震災後すぐにハローワークを通じて、気仙沼市の向洋高校や水産高校と連絡を取り、最大で10名まで採用可能であることを伝えた。住居についても、家賃の約8割を補助する予定であり、既に具体的な動きも出てきている。
 同社の佐伯保信社長は、「故郷から送られた魚が、どのように生活者に届くのかを小売業や外食産業で勉強することで、故郷に戻ってから水産業に従事する際に、色んな面で役立つと思う。何より大消費地である近畿と三陸各県との交流が深まれば、今まで以上に距離感は縮まり、販路の拡大によって魚価を下支えすることができ、長い意味での復興支援につながる。」と考え、今後も被災地域の卒業生の採用を活発化させていく。

事例1-2-6 中小企業の事業継続を支援する金融機関

 岩手県盛岡市の株式会社岩手銀行は、三陸沿岸地方の店舗を中心に、建物の損傷・破壊等の被害が生じ、営業休止に追い込まれる店舗も出たが、震災直後から臨時出張所や臨時相談窓口を開設するなどしながら、中小企業からの資金繰り、雇用維持、店舗・工場の復興資金に関する相談に対応している。
 同行では、復興支援を専担業務とする「復興再生支援チーム」を設置し、中小企業の経営者が抱える多種多様で高度な悩みに一層踏み込んで迅速な課題解決を図っている。
 これまで地域の中小企業と共に歩んできた同行だが、「未曾有の震災直後の今こそ、経営者と一緒に悩み問題を解決していく姿勢が非常に大切な時期である。」と考え、全行が一体となって地域の復興支援に邁進している。



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