第1部 最近の中小企業の動向 

第1節 我が国経済の動向

 本節では、リーマン・ショック後の景気後退から持ち直しに向けた動きが見られていた我が国経済が、震災の影響により弱い動きとなっていることを概観する。

●我が国の景況感
 2007年夏以降、アメリカのサブプライム住宅ローン等の問題が、金融・資本市場に混乱をもたらし、2008年9月のリーマン・ショックを契機に世界経済は急速に悪化した。2010年6月7日付内閣府発表の景気基準日付(暫定)によれば、我が国経済は、2007年10月を山に景気後退局面に入った後、2009年3月に谷を付け、拡張局面へと移行した。この2009年春以降の拡張局面は外需と政策効果に牽引され、2010年夏には、猛暑効果も加わったが、輸出の弱さが明確になり、急激な円高が企業マインドへ影響を及ぼし、先行きへの不安が生じた。秋には、猛暑効果の反動や環境対応車普及促進事業(以下「エコカー補助金」という)の終了の影響も加わって、景気は足踏み状態になった。その後、世界経済の復調を受けての輸出、生産の持ち直し、政策効果の終了の反動等により減少した自動車販売が2010年末にかけて底を打つなど、2011年初めより、我が国経済は足踏み状態から脱しつつあった。このような景気の拡張局面において、東日本大震災が発生し、建物や設備の損壊等の直接的な被害のみならず、原材料調達や商品配送の停滞、自粛ムード等による消費マインドの低下等により、広範な分野にわたって、我が国経済に影響を与えることとなった。

 この動きを内閣府「景気ウォッチャー調査」を使って見てみよう。
 現状判断DI は、リーマン・ショックの落ち込みから上昇傾向にあったが、2010年夏から秋にかけて落ち込み、その後回復したが、2011年3月には、震災の影響により大きく低下した。しかし、震災の影響により厳しい状況が続いているものの、復旧需要や被災企業に代わる代替生産増が見られたことなどから、5月には上向きの動きが見られるようになってきた(第1-1-1図)。
 
第1-1-1図 全国の現状判断DI
〜景気の現状判断DI は、リーマン・ショック以降、足踏み状態を経ながらも持ち直してきたが、震災の影響により2011年3月には大幅に低下した〜

第1-1-1図 全国の現状判断DI
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●震災までの景気回復を牽引した輸出・家計
 震災の影響により弱い動きとなるまで、我が国経済は、持ち直しの動きが見られていた。
 実質GDP 成長率は、2009年1-3月期に大幅に落ち込んだ後、2009年4-6月期にはプラスに転じ、2009年7-9月期に一旦マイナス成長に戻ったが、その後2010年7-9月期までは、前期比プラス成長を続けた。実質GDP 成長率の伸び率の要因分解を見ると、リーマン・ショック後の景気回復を牽引してきたのは、主として輸出と家計(消費+住宅)であった。特に、2010年7-9月期は、エコカー補助金の終了及びたばこの値上げを控えた駆け込み需要もあり前期比季節調整値0.9%の成長となった。その後、2010年10-12月期には、2010年7-9月期の反動もありマイナス成長に転じた。2011年1-3月期は、震災の影響により、更に成長率は低下した(第1-1-2図)。
 
第1-1-2図 実質GDP 成長率の伸び率の要因分解(前期比寄与度)
〜輸出・家計(消費+住宅)がリーマン・ショック後の景気回復を牽引したが、震災が発生した2011年1-3月期には、GDP 成長率は低下した〜


第1-1-2図 実質GDP 成長率の伸び率の要因分解(前期比寄与度)
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●輸出の動向
 リーマン・ショック後の景気回復を牽引してきた輸出について、その動向を見ていく。我が国の輸出は、財務省「貿易統計」によれば、前年同月比で2009年2月に底を打った後、アジア向けを中心に持ち直しの動きが見られた。2010年夏には、前年同月比で伸び率の縮小が続くなど、輸出は弱い動きとなった。年末には、再度回復傾向にあったが、2011年3月の貿易額は、震災の影響もあり16か月ぶりに前年同月比で減少に転じた(第1-1-3図)。
 
第1-1-3図 我が国の輸出
〜輸出は、アジアを中心に前年同月比で増加してきていたが、2011年3月に震災の影響により減少に転じた〜


第1-1-3図 我が国の輸出
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●為替
 リーマン・ショック後の景気後退からの回復は、家計とともに、輸出が牽引してきた面が大きかったが、輸出の動向に影響を与えるのが為替相場である。
 2010年度の為替相場は、急激に円高が進行した。2010年4月初旬に1ドル93円前後であった為替レートは、2010年8月下旬には1ドル85円を割り込み、その後も多少の増減を繰り返しながら円高傾向は続き、2010年11月1日に瞬間値で1ドル80円21銭を付けた。これは、1973年に日本が実質的に変動為替相場へ移行して以降の最高値であった1995年4月19日の瞬間値1ドル79円75銭に次ぐ、円高局面となり、その後、為替レートは1ドル83円前後で推移した。そして、東日本大震災後の3月17日には、瞬間値で1ドル76円25銭を付け、最高値を更新した。
 1995年の円高局面は、バブル崩壊後の日本の経常黒字の拡大、アメリカ経済の後退による円高基調が続く中、1994年末にメキシコ通貨危機が発生し、ドルへの信認が低下したことが背景にあった。それに比べて、今回の円高局面は、リーマン・ショック後の世界的な景気後退の中で、国際金融市場でリスク回避的な傾向が強まり、逃避通貨としての円が選好されるようになったこと、欧州財政危機の発生によるユーロへの信認の低下からその傾向が更に強まったことが背景にあった。そして、震災後、内外の投資家が米国資産を円に換える換金売りの増加が予想されたことに加え、中東の混乱の鎮静の兆しが見えないことなど、リスク回避姿勢が強まったことにより、戦後最高値が更新されたと考えられる(第1-1-4図)。
 
第1-1-4図 為替レート
〜対ドルで1995年以来の円高水準となった〜


第1-1-4図 為替レート
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 それでは、逃避通貨として選好された円の変動は、我が国の輸出競争力にどのような影響を与えたのであろうか。円高は、企業マインドに影響を及ぼし、少なくとも短期的には景気にマイナスの影響を与えるが、ここで1995年と今回の円高局面を為替レートの輸出競争力への影響を表す実質実効為替レートを用いて比較してみよう。実質実効為替レート1を見ると、1995年の円高局面では、一時150を超える水準であったが、今回の円高局面では、105程度であり、はるかに円安となっている。第1-1-4図で見た名目の為替レートでは、ほぼ同水準であるにもかかわらず、1995年と比べて、輸出競争力に余り影響を与えていないように見えるが、これはバブル崩壊後の日本においてデフレが進行したためである。

1 実質実効為替レートは、特定の2通貨間の為替レートを見ているだけでは捉えられない、相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標。具体的には、対象となる全ての通貨と日本円との間の2通貨間為替レートを、貿易額等で計った相対的な重要度でウエイト付けして集計・算出する。

 2010年度以降に焦点を当てて見てみよう。元が通貨高となっているが、中国は、急速な経済発展による人民元の切上げへの圧力の中で、緩やかな人民元改革を目指しているため、急激な上昇とはなっていない。ユーロ、ウォンでは、2010年4〜6月にかけて、一時的に通貨安となり、ドルは2010年6月から通貨安傾向が続いた。それに比べて円は、2010年4月以降、独歩高が急速に進行し、我が国の企業の輸出競争力に一定の影響を及ぼすこととなった(第1-1-5図)。
 
第1-1-5図 実質実効為替レート
〜2010年度は、円の独歩高が進行した〜


第1-1-5図 実質実効為替レート
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●原油価格・食料価格指数
 2010年度は、原油価格・食料価格指数が共に上昇した。世界の原油価格の指標として用いられるWTI 原油価格は、足下では2008年の原油高局面以来の高水準となっている。また、国際連合食糧農業機関による食料価格指数は、2011年1月に、公表し始めた1995年以降の最高値となり、同年2月に更に最高値を更新した(第1-1-6図)。原油価格・食料価格指数が高止まることは、景気の下振れリスクとなるだけでなく、震災からの早期復興にも影響を与える可能性があると考えられ、今後も注視していく必要がある。
 
第1-1-6図 原油価格・食料価格指数
〜原油価格・食料価格指数共に2010年度は上昇傾向であり、高水準が続いている〜


原油価格・食料価格指数
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●各種経済対策の政策効果
 輸出に加えて、リーマン・ショック後の景気後退からの回復を牽引してきたのは、各種経済対策に支えられた個人消費であった。リーマン・ショック後の景気後退局面で実施された消費刺激策には、耐久財の消費を直接刺激すると考えられるエコカー補助金、エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業(以下「家電エコポイント」という)、エコポイントの活用による環境対応住宅普及促進事業(以下「住宅エコポイント」という)等がある。以下では、これらの事業が、景気回復の牽引役として、どのような役割を果たしたかを見ていこう。


● GDP 成長率への寄与
 前掲第1-1-2図では、実質GDP 成長率と各要因の寄与度を見た。実質GDP は、家計(消費+住宅)、民間在庫増加、民間企業投資、公需、輸出、輸入に分けられる。このうち、家計(消費)から、日本の居住者の国外での直接購入を控除し、日本の居住者以外の者の国内での直接購入を付加したものが、国内家計最終消費支出である。
 この国内家計最終消費支出の支出項目を見ると、2009年4-6月期以降、エコカー補助金や家電エコポイントの対象であった財が含まれる耐久財への支出が大きく伸びていたが、2010年9月にエコカー補助金が終了したことなどにより、2010年10-12月期に減少に転じ、2011年1-3月期には震災の影響による消費マインドの低下等から、更に減少した(第1-1-7図)。
 
第1-1-7図 国内家計最終消費支出
〜民間消費は、2010年7-9月期に、耐久財を中心に大幅に増加した後、2010年10-12月期には減少に転じ、2011年1-3月期には震災の影響により更に減少した〜


国内家計最終消費支出
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●エコカー補助金
 エコカー補助金は、一定の環境性能を有する車を購入する場合に、乗用車で最大25万円の補助金を交付する制度として、2009年4月10日以降に新規登録を行った車両を補助対象として開始し、2009年12月の経済対策における延長を経て、2010年9月7日に申請受付を終了した。新車の販売台数は、エコカー補助金の交付が始まった2009年4月から、持ち直しの動きが見られるようになり、2009年9月には、前年同月比で増加に転じた。その後、エコカー補助金終了直前の2010年8月には、前年同月比で大幅に増加したが、9月には、減少に転じた2。しかし、駆け込み需要の反動による減少は、2010年後半に底を打ち、前年同月比の減少率が縮小してきていた。しかし、その後の2011年3月以降、震災による生産活動の停滞といった供給面からの影響等により、前年同月比で大幅に減少した(第1-1-8図)。

2 エコカー補助金のほか、環境性能に優れた自動車に対する自動車重量税・自動車取得税の減免措置は、自動車重量税が2012年4月30日まで、自動車取得税が2012年3月31日までの措置であるため、引き続き需要の下支え効果が期待される。
 
第1-1-8図 新車販売状況
〜新車販売は、エコカー補助金開始から受付が終了した2010年9月の前月まで改善した。2010年後半には、反動減から持ち直しの動きが見られたが、2011年3月以降、震災の影響により大きく落ち込んだ〜


第1-1-8図 新車販売状況
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●家電エコポイント
 家電エコポイントは、統一省エネルギーラベル4★3相当以上の地上デジタル放送対応テレビ、エアコン、冷蔵庫の購入により、様々な商品・サービスと交換できる家電エコポイントを取得できる制度であり、2009年5月に開始した。その後、2009年12月及び2010年9月の経済対策において、2度の期限延長が行われた。2011年1月1日以降は、統一省エネルギーラベル5★の製品を購入し、買い換えてリサイクルを行った場合に限定され、同年3月で制度は終了した。家電エコポイントの対象の一つである薄型テレビの出荷状況を見ると、2011年7月の地上デジタル放送への移行を控えた買換え需要も加わり、2010年の出荷台数は、前年比85%増の約2,500万台に達した(第1-1-9図)。

3 統一省エネルギーラベルは、〔1〕多段階評価、〔2〕省エネルギーラベル、〔3〕年間の目安電気料等を組み合せた表示。このうち〔1〕多段階評価は、市販されている製品の省エネ基準達成率の分布状況に応じて定められており、省エネ性能を5段階の星で表示している(省エネ性能の高い順に5つ星から1つ星で表示)。
 
第1-1-9図 薄型テレビの出荷状況
〜2011年7月の地上デジタル放送への移行を控えた買換え需要も加わり、2010年の出荷台数は、前年比85%増の約2,500万台に達した〜


第1-1-9図 薄型テレビの出荷状況
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●住宅エコポイント
 住宅エコポイントは、環境性能の高いエコ住宅の新築やエコリフォームに対して、多様な商品・サービスに交換可能なポイントを発行する制度で、2010年3月より申請受付を開始している。2010年9月及び同年10月の経済対策において、制度を延長するとともにエコリフォーム等に併せて設置する住宅設備(太陽熱利用システム、節水型トイレ、高断熱浴槽)にもポイント発行対象を拡充した。これにより、関連産業の裾野の広い住宅分野での投資を増やし、景気浮揚効果を誘発するとともに、省エネ性能の優れた住宅の増加を目指している。住宅エコリフォームのポイント発行対象のうち、内窓とリフォーム用ガラスの出荷量は、2010年3月以降、前年同月比で増加傾向が見られ、住宅関連産業で一定の効果を上げたと考えられる(第1-1-10図)。
 
第1-1-10図 内窓・リフォーム用ガラスの出荷状況
〜住宅エコポイントの対象の内窓、リフォーム用ガラスの出荷量は、前年同月比で、増加傾向が見られる〜


第1-1-10図 内窓・リフォーム用ガラスの出荷状況
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●建設工事の減少
 建設工事の受注高は、2009年始めから景気対策等により公共工事が前年同月比で増加したが、受注額が公共工事を大幅に上回る民間工事が、公共工事の増加分以上に減少したことにより、全体として大幅に減少した。2010年後半は、民間工事が前年同月比で増加に転じたが、2010年4月以降、公共工事が減少に転じており、前年同月比で減少が続いた。しかし、今回の震災の建物や設備、インフラへの被害は大きく、今後の復興支援により建設工事の受注機会も増加する可能性がある(第1-1-11図)。
 
第1-1-11図 建設工事の受注高
〜建設工事の受注高は、減少傾向である。2010年後半から民間工事が増加に転じたが、公共工事が減少に転じており、前年同月比で減少が続いた〜


第1-1-11図 建設工事の受注高
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 以上、2010年度の我が国経済の動向を概観し、震災前までの景気回復局面では、輸出や家計がその回復を牽引してきたこと、2010年度に実施されていた各種経済対策の政策効果、建設工事が公共工事を中心に減少基調が続いてきたこと、震災後は、我が国経済は弱い動きに転じていることなどを見てきた。第2節では、こうした中での我が国の中小企業の景況感、生産、資金繰り、雇用等の状況について見ていく。


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