第2部 中小企業の更なる発展の方策 

1 少子高齢化が中小企業に及ぼす影響

 まず、我が国の人口構造の現状と展望を見ていく。我が国では、2005年に戦後初めて総人口が前年を下回り、人口減少時代に突入した。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2006年12月中位推計)」によると、2035年の総人口は、2008年の総人口の約87%の1億1,067万人になると見込まれている。また、15〜64歳までのいわゆる生産年齢人口は、1996年から減少に転じており、2035年には、2008年の生産年齢人口の約76%の6,292万人になると見込まれている(第2-1-35図)。
 
第2-1-35図 我が国の将来推計人口
〜2005年から総人口が、1996年から15〜64歳人口が減少に転じている〜

第2-1-35図 我が国の将来推計人口


 少子高齢化の進行に伴い、生産年齢人口の年齢構成も大きく変化することが予想される。生産年齢人口は、2008年から2035年までに、15〜29歳の若年層が16.4%から12.4%に、30〜54歳の壮年層が33.4%から29.1%に低下する一方、55〜64歳の高齢層は14.7%から15.4%に上昇すると見込まれている(第2-1-36図)。
 
第2-1-36図 生産年齢人口の年齢層別構成割合の見通し(中位推計)
〜生産年齢人口のうち、若年層と壮年層の割合が低下することが見込まれている〜

第2-1-36図 生産年齢人口の年齢層別構成割合の見通し(中位推計)


 以上で見てきた少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少及びその高齢化は、中小企業にとっては、若年層の採用難や従業員の高齢化等といった雇用問題の深刻化や、事業承継や技能承継の困難化による経営資源の散逸48等が懸念される。

48 第2部第1章第1節を参照。

 次に、2008年の我が国の年齢別の人口及び就業者数を見ていく。我が国の人口は、第一次、第二次ベビーブームの影響により、55〜59歳と35〜39歳で際立った二山を有しており、第一次ベビーブーマーが60歳代前半を迎える2010年頃からの約10年間には、65歳以上の人口が急増することが見込まれる。また、就業者数も、人口と同様、二山の特徴を有し、年齢を重ねるほど、中小企業で働く者の割合が増加している(第2-1-37図)。
 
第2-1-37図 年齢別の人口及び就業者数(2008年)
〜我が国の人口及び就業者数は、第一次、第二次ベビーブームの影響により、55〜59歳と35〜39歳で際立った二山を描いている〜

第2-1-37図 年齢別の人口及び就業者数(2008年)


 こうした少子高齢化の進行に加えて、我が国では、就業意識の多様化、産業構造の変化、経済のグローバル化、労働市場の規制緩和等により、労働力が多様化しており、中小企業においても女性や高齢者、非正社員の活用が進展49している。

49 非正規雇用が拡大している要因としては、〔1〕IT技術の発達に言及したもの(内閣府「経済財政白書(平成19年版)」、阿部正浩「日本経済の環境変化と労働市場」)、〔2〕家事・育児の事情に言及したもの(厚生労働省「労働経済白書(平成18年版)」)、〔3〕労働者側の意識に言及したもの((株)ニッセイ基礎研究所「非正規雇用の拡大が意味するもの」)、〔4〕社会保障負担に言及したもの((独)労働政策研究・研修機構「多様な働き方をめぐる論点分析報告書」)、〔5〕構造不況に言及したもの(山口一男、樋口美雄「論争日本のワーク・ライフ・バランス」)等がある。

 第2-1-38図は、大企業と中小企業における全就業者に占める女性と高齢者の割合を示したものである。女性割合については、大企業で1992年の36.1%から2007年の41.9%に上昇している一方で、中小企業では、1992年から2007年まで4割強で推移しており、従来から女性の活用が進展していることが分かる。また、高齢者割合については、大企業と中小企業ともに、近年上昇しているが、2007年に大企業で2.5%であるのに対し、中小企業では14.5%と、高齢者の活用が進んでいることが分かる。
 
第2-1-38図 就業者に占める女性と高齢者の割合
〜中小企業では、女性や高齢者の活用が進展している〜

第2-1-38図 就業者に占める女性と高齢者の割合
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 第2-1-39図は、雇用者に占める非正社員の割合を示したものであるが、2003年から2009年にかけて、大企業において28.8%から34.2%に、中小企業において32.7%から34.5%に上昇しており、雇用形態においても労働力の多様化が進展していることがうかがえる。
 
第2-1-39図 雇用者に占める非正社員の割合
〜雇用者に占める非正社員の割合は、2003年から2009年にかけて、大企業で28.8%から34.2%に、中小企業で32.7%から34.5%に上昇した〜

第2-1-39図 雇用者に占める非正社員の割合
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 以上では、女性や高齢者、非正社員の活用等の労働力の多様化が大企業のみならず、中小企業においても進展していることを見てきた。今後、少子高齢化が一層進行する中で、女性のライフステージに合った働き方を実現できるようにするなど、中小企業は、より多くの人材がより多様な働き方を実現できる場を提供する上で、重要な役割を果たしていくことが期待される(第2-1-40図)。
 
第2-1-40図 女性の結婚や子どもの状況による理想の働き方
〜女性は、結婚や子どもの状況等、ライフステージにより理想の働き方が異なる〜

第2-1-40図 女性の結婚や子どもの状況による理想の働き方
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 中小企業が持続的な成長を遂げるためには、これまでに見てきた女性や高齢者、非正社員の活用のみならず、多様な人材を活用していくことが不可欠である。そのためには、多様なニーズを持つ従業員が個人の希望に合った働き方を選択できる機会を提供することが必要である。また、現在、企業が有する技術や知識を次世代に引き継いでいくことや製品・サービスの付加価値を向上させていくために必要な人材を育成していくことも必要である。

事例2-1-19 主婦をネットワーク化して事業を展開する企業

 北海道札幌市の有限会社PLAN-A(従業員5名、資本金300万円)は、主婦をネットワーク化し、主婦の観点から商品開発等を行う企業である。同社の竹本相良社長は、起業前に北海道のラジオ番組でフリーランスのパーソナリティーを務めている際に、出産を経験した。当時、フリーランスのパーソナリティーが長期の休暇を取った後にラジオ番組に復帰するのは前例が無く、復帰に大変苦労した経験を持つ。また、出産後には、子どもを通して専業主婦と付き合う中で、「専業主婦にはすばらしい能力があるのに、社会復帰をあきらめていたのでもったいない。」と思い、専業主婦の社会復帰の手助けをしたいと考えるようになった。その後、ラジオ番組で子育てを取り上げたり、自分自身のホームページを立ち上げて、主婦の社会復帰を積極的に呼びかけるようになった。そして、自ら主婦のライフステージに合った働き方ができるように支援する事業を起こすことを決意し、2004年に経済産業省の補助事業「ドリームゲート」を活用して、主婦のネットワークである「MaM-CaN」の運営を開始した。MaM-CaNと名付けたのは「主婦の可能性」と「主婦の才能が缶詰みたいにいっぱい詰まっている」という意味からで、現時点では、札幌市を中心に20〜60歳代の主婦約2,000名が参加している。
 MaM-CaNの主な事業は、マーケティング調査やイベント企画等である。具体的には、まず、有限会社PLAN-Aが企業からの商品企画等の依頼を受けると、MaM-CaNに登録している主婦の属性情報から適切な会員を選んで調査協力を依頼する。そして、調査報告後に、企業から対価を受け取り、その一部を協力した会員に報酬として支払う。また、最近では、会員による起業の可能性も視野に入れて、会員の購買力を活用したビジネスモデルの構築に取り組んでいる。
 これまでの活動としては、北海道雨竜郡沼田町から依頼された規格外のトマトの有効活用の提案や住宅メーカーから依頼された北海道の主婦が理想とする家の企画等の実績がある。
規格外のトマトを活用したトマトソース
規格外のトマトを活用したトマトソース

事例2-1-20 病児保育に取り組み仕事と家庭の両立を支える法人

 東京都新宿区の特定非営利活動法人フローレンス(従業員70名)は、病児保育という社会問題の解決を目指す法人である。同法人の駒崎弘樹代表理事は、ベビーシッターである母より、子どもの病気で会社を休んだために解雇された女性がいることを聞き、2005年に働く家庭をサポートするために病児保育事業を開始した。現在では、東京23区と千葉県浦安市で事業を展開しており、1日約20件の会員からの病児保育のニーズに確実に対応している。
 同事業の特徴は、〔1〕施設を持たずに「こどもレスキュー隊」という保育スタッフが病児のもとに駆けつけること、〔2〕地域の小児科との連携による医療機関の支援体制があること、〔3〕月会費制で積み立てた資金から病児保育に必要な経費をまかなう「共済型」の仕組みを採用していることが挙げられる。同事業の利用者は、当日朝8時までに依頼すれば1時間以内に確実に支援を受けることができ、1人の子どもに保育スタッフ1人が派遣されるため安心感がある。
 同法人の社員には、子育てを経験した主婦が多く、週2日程度からフルタイムまでの多様な働き方を選択している。また、病児保育が無かったため苦労した人も多く、同事業に参加することで仕事と子育てが両立できる社会の実現に貢献していきたいと考えている。
 同法人の駒崎代表理事は、「病児保育が当然の社会インフラになると同時に、企業での働き方が変わることによって『子育てと仕事の両立なんて当たり前』という社会が実現できる。国民全体が働き方を変え、日本を変えていくことが必要だ。」と話す。このような取組に対する政策的な後押しも重要と考えられる。
病児保育の様子
病児保育の様子

事例2-1-21 育児経験をヒントに少子化時代のビジネスで成功した企業

 静岡県静岡市の北極しろくま堂有限会社(従業員13名、資本金300万円)は、だっことおんぶの用具に関する専門会社である。同社の園田正世社長は、自らの育児経験から、アメリカのだっこひも「スリング」の良さに気づき、個人輸入でネット販売を始め、その後、日本人の体型や日本の気候を考慮して、母親の肩や腰の負担を軽減し、寒暖の差に対応できるように素材を工夫した、同社独自のだっこひも「キュットミー!」を開発した。
 母親にとって初めての子育ては不安が多いが、赤ちゃんの顔を見れば不安が取り除かれる。同社の園田社長は、問題解決のためには密着するようなおんぶやだっこが必要だと説く。同社のだっこひもを使うと赤ちゃんと密着してだっこできるために、赤ちゃんも安心して育ち、成長を促すことになる。
 現在では、多くの大手百貨店で同社のだっこひもが取り扱われるようになり、雑誌やテレビでも頻繁に取り上げられるようになった。こうした育児経験をヒントにしたビジネス展開が評価され、2005年に日本商工会議所「女性起業家大賞」の最優秀賞を受賞した。2010年には「特定非営利活動法人だっことおんぶの研究所」を設立して、赤ちゃんをだっこやおんぶをすることの啓発と普及活動に努めていく方針である。
だっこひもの使用例
だっこひもの使用例

事例2-1-22 高齢者を活用したビジネスモデルを構築した企業

 東京都千代田区の株式会社高齢社(従業員19名、資本金1,000万円)は、定年退職者を登録し企業に派遣する、高齢者が運営する人材派遣会社である。同社の上田研二会長は、定年退職者に「働く場」と「生きがい」を提供したいと思い、2000年に62歳で同社を設立した。同社の2010年1月末の登録者数は361名と、設立当初の約14倍に到達しており、事業は順調に拡大している。こうした取組は、日本で生まれた高齢化社会を勝ち抜くビジネスモデルとして、国外の報道機関や研究所からも注目されている。
 同社の強みは、高齢者が有する経験や技能を企業に魅力的に売り込む営業力にある。定年を迎えた高齢者が、豊富な経験と実績があることや自由に時間が使えるため柔軟性が高いことなどをうまくアピールして、仕事を確保する。こうして、同社は、これまで63業務を受託した実績を持つ。同社の上田会長は、「今後は、高齢者が働くための労働環境の整備や高齢の女性が働く機会の拡大などに精力的に取り組んでいきたい。」と話す。
高齢者による作業風景
高齢者による作業風景

事例2-1-23 社会的使命の実現と企業の発展の両立に成功した企業

 東京都大田区の日本理化学工業株式会社(従業員74名、資本金2,000万円)は、日本で初めて粉の出ないダストレスチョークを開発した老舗のチョークメーカーである。同社の主力製品であるダストレスチョークは、ホタテの貝殻を再生利用している。2009年には、粉が出ない固型マーカーである「キットパス」で「日本文具大賞」を受賞するなど、業界内で新商品の開発力の高さには定評がある。
 現在では、同社のこうした環境に優しいものづくりに加えて、先代社長の大山泰弘会長が1960年より開始した障害者雇用の取組が注目を集めている。同社の生産工程は、知的障害者だけで生産ラインを稼働させるために、時間を計る際に砂時計を使うこと、材料の配合を間違えないように材料の容器に色を付けること、材料の重さを量る際に容器とおもりに色をつけることなど、様々な工夫が凝らされている。こうした努力により、2010年1月末の同社の障害者雇用率は74%に達している。2008年4月に三代目社長に就任した大山隆久氏は、「現会長が日本に一つくらいこういう会社が存在しても良いではないかと経営を続ける中で、多くの企業や地域の応援を受けこれまで事業が継続することができた。これからも経営を安定させて障害者の雇用を支えていきたい。」と話す。
ダストレスチョークの生産ライン
ダストレスチョークの生産ライン

事例2-1-24 半世紀にわたり持続的な成長を遂げている企業

 長野県伊那市の伊那食品工業株式会社(従業員397名、資本金9,680万円)は、1958年の創業以来48年間増収増益を続けた寒天を製造する企業であり、国内販売シェアは約80%を誇る。寒天は、日本で発見・発明され、江戸時代に寒さが厳しく空気が乾燥している諏訪地方で盛んに作られるようになった。その後、伝統的な和菓子への利用から、医薬品やバイオテクノロジー向けの製品等の最先端の分野への活用が進み、最近では健康食品としても注目を集めている。
 同社の事実上の創業者である塚越寛会長は、「社員の幸せのために経営されている会社がいい会社であり、いい会社を作るためには、安定して成長を持続させる『末広がり経営』がよい。」と言う。また、成果主義や能力給といった制度では、表面的な個人の結果を評価することになり、何代にもわたって従業員が研究開発してきた成果を正しく評価することができないと考えており、年功序列型の給与・評価制度を維持している。同社の塚越会長は、「会社は、社員が一丸となって初めて力が発揮できる。そのためには、能力の差ではなく努力の在り方を評価する姿勢を全社員の意識に浸透させることが重要である。」と言う。



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