第2部 中小企業の更なる発展の方策 

3 中小企業の省エネへの取組の現状

 第2項では、中小製造業のエネルギー効率が大企業に比べて改善していないことを見た。それでは、現在中小企業は、どのように省エネに取り組んでいるのであろうか。「エネルギー環境問題への対応に関する調査25」の結果を中心に見ていこう。

25 中小企業庁委託により(株)三菱総合研究所が実施。2009年11月に事業所20,000か所を対象に実施したアンケート調査。回収率35.9%。

●規模別の省エネへの取組状況
 第2-1-22図は、規模別の省エネへの取組状況を示したものである。これによると、空室時の消灯の徹底や温湿度設定の適正管理等の「運用による省エネ」には、従業員規模にかかわらず99%以上のほとんどの事業所が取り組んでいると回答している。一方、高効率な設備機器や制御装置の導入等の「投資による省エネ」には、従業員数1〜9人の規模で22.6%、200〜299人の規模で51.9%の事業所が取り組んでおり、総じて従業員規模が大きいほど取組割合が高くなっている。この結果から、投資による省エネへの取組は、運用による省エネに比べて進んでおらず、従業員規模が小さいほど進んでいないことがうかがえる。
 
第2-1-22図 規模別の省エネへの取組状況
〜投資による省エネへの取組は、運用による省エネに比べて進んでおらず、従業員規模が小さいほど進んでいない〜

第2-1-22図 規模別の省エネへの取組状況
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●業種別の省エネへの取組
 それでは、投資による省エネへの取組状況は、業種により違いがあるのだろうか。第2-1-23図は、製造業、商業、サービス業の投資による省エネへの取組割合を示したものである。事業所の従業員数20〜29人以上の規模では、製造業の取組割合が最も高く、100〜199人の規模で60.7%、200〜299人の規模で63.8%と非常に高くなっており、総じて規模が大きいほど割合が高くなる傾向にある。一方、商業及びサービス業では、200〜299人の規模の割合が最も高くそれぞれ44.4%及び45.5%となっているが、製造業と比較すると取組割合は低く、100〜199人以下の規模でも2割弱から3割程度の低い割合にとどまっている。
 
第2-1-23図 規模別に見た投資による省エネへの取組状況(業種別)
〜投資による省エネへの取組割合は、20〜29人以上の事業所では製造業が高く、全業種で200〜299人の事業所が最も高い〜

第2-1-23図 規模別に見た投資による省エネへの取組状況(業種別)
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●運用による省エネへの取組
 第2-1-24図は、運用による省エネの取組項目を示したものである。これによると、「空室時の消灯の徹底」が93.1%、「温湿度設定の適正管理」が68.5%と高い割合で、次いで「機器の待機電力削減」が49.8%と比較的高い割合となっており、省エネ意識を持てば容易に取り組める項目は取組が進んでいるといえる。一方で、「管理目標を設定して管理している」及び「エネルギー需要管理の実施」、「ISO1400126の認証取得及び管理」の取組割合は、それぞれ14.0%、12.3%、8.0%と低い水準にとどまっており、省エネ効果は見込まれるが、知識や技術、企業としての体制づくりを必要とする取組はあまり進んでいないことがうかがえる。

26 組織活動が環境に及ぼす影響を最小化することを目的に定められた環境に関する国際的な標準規格の一つで、環境マネジメントシステムを構築するための要求事項が規定されている。事例2-1-10を参照。
 
第2-1-24図 運用による省エネの取組項目
〜「空室時の消灯の徹底」や「温湿度設定の適正管理」等省エネ意識を持てば容易に取り組める項目の割合が高い〜

第2-1-24図 運用による省エネの取組項目
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 運用による省エネに取り組んでいない理由を見ると、「何をしていいか分からない」が21.3%と最も多く、省エネについての情報や知識の不足が大きな課題となっていることが分かる。省エネに効果的に取り組むための情報提供やアドバイスは、経済産業省の補助事業である無料省エネ診断サービス(2010年度は(財)省エネルギーセンターが実施)27等で得ることができる。このようなサービスを活用することで、より効率的な省エネへの取組の促進が期待される。次に多い理由は、「費用削減につながらないから」が20.8%となっており、中小企業が省エネによる費用削減効果に疑問を持っていることがうかがえる。その他では、「本業が忙しく取り組む余裕がないから」が14.7%、「テナントビルに入っており自社で取り組めないから」が12.2%となっており、日々の営業が多忙で時間的余裕のないことやテナント単独での省エネへの取組の難しさ等が課題となっていることもうかがえる(第2-1-25図)。

27 コラム2-1-4を参照。
 
第2-1-25図 運用による省エネに取り組んでいない理由
〜「何をしていいか分からないから」及び「費用削減につながらないから」がそれぞれ約2割を占める〜

第2-1-25図 運用による省エネに取り組んでいない理由
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事例2-1-10 ISO14001の認証取得により二酸化炭素排出量の削減と競争力向上に成功した企業

 東京都港区の株式会社光文社(従業員20名、資本金2,080万円)は、CTP28による印刷から納品までの一貫したシステムを持ち、ISO14001により二酸化炭素排出量の削減に努めている企業である。

28 Computer to Plateの略で、コンピューターを用いた直接製版をいう。

 同社は、2000年にISO14001の認証取得活動を開始、その過程で法規制遵守やMSDS29管理等の知識を社内で共有、社員の意識改革につなげた。また、PDCAサイクル30による継続的改善の成果として、ISO14001の認証を取得した2004年から2009年までに、一般廃棄物排出量を体積で81%削減し、電力使用による二酸化炭素排出量を27%削減した。リーマン・ショック後の景気後退にも同社への顧客の信頼は揺らぐことなく、健全経営を続けている。

29 Material Safety Data Sheetの略で、化学物質の安全データシートをいう。
30 Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の4段階からなる事業活動において生産管理や品質管理等を円滑に進める手法をいう。

 同社は、全日本印刷工業組合連合会がインターネットによりISO14001の認証取得支援を行う「環境経営印刷ネットワーク」を活用した。同ネットワークには、認証取得に必要な規程、手順書、帳票類などの雛形やeラーニングのシステムが用意されている。これらを用いて、参加企業は、各社の事情に合わせて環境マネジメントシステムを構築できる。また、ネット審査によって現地での審査の負担を減らすことができ、従来に比べて認証取得に係る費用や期間を大幅に低減し、最短4か月での取得が可能となった。
 2010年10月には、中小企業向けにISO1400531の発行が予定されており、ISO14001の認証取得につながる段階的な国際規格として注目されている。

31 環境マネジメントシステム段階的適用の指針をいう。環境マネジメントシステムを段階的に構築し、ISO14001の認証を円滑に取得することを目的としたガイドライン。新たに環境マネジメントシステムを導入する中小企業での活用が期待されている。

・ISO14005〜環境マネジメントシステム(ISO14001)の段階的適用の指針
 ISO14001の要求事項を複数の段階に分割し、段階ごとに構築していくことで、中小企業でも円滑にISO14001認証取得レベルに到達できるようにするもの

中小企業における活用が期待されるISO14005の概念図
中小企業における活用が期待されるISO14005の概念図

コラム2-1-4 無料省エネ診断サービス

 国は、優れた技術と豊富な経験を持つ専門家を全国の事業所に派遣し、省エネと地球温暖化対策に役立つ省エネ診断サービスを提供するものに対して補助を行っている32

32 国が補助を行う省エネ診断は中立的な立場で公正・公平な助言・提案を行うものであり、その申込者に関する情報や診断の内容は当該事業の実施に関する利用を除き、秘密厳守となっている。

 2010年度の実施機関である(財)省エネルギーセンターにおける実績は1997年度から2008年度までの累積で工場約3,200件、ビル約3,000件に達しており、診断先からは、「すぐにできる運用改善や効果の大きい設備改善が分かり、コストダウンに役立つ。」と、高い評価を得ている。
 2010年度も全国規模で実施しており、その概要は次のとおりである。
1.対象
 ◇工場でもビルでも業種や施設の種類は問わない。
 ◇年間のエネルギー使用量33等による受診条件がある。

33 原則として原油換算100キロリットル/年以上1,500キロリットル/年未満の工場・ビルが対象(2010年度)。

2.費用
 ◇申込者の費用負担は不要。
3.申込方法
 ◇(財)省エネルギーセンターのホームページから申込書をダウンロードして郵送、FAX、メールのいずれかの方法で申し込む。
 HP : http://www.eccj.or.jp/
 TEL : 03-5543-3016
 FAX : 03-5543-3021
 E-MAIL : ene@eccj.or.jp
 
省エネ診断の流れ


事例2-1-11 エネルギー運用管理システムを開発し、運用による省エネ支援に注力する企業

 大阪府大阪市の株式会社ピコエイダ(従業員14名、資本金3億2,190万円)は、電気・ガス・水道の総合運用管理システムや節水・省エネ機器の製造・販売及び省エネコンサルティングサービス等を行う企業である。
 同社が大阪大学と共同で開発した電気・ガス・水道の総合運用管理システム「ECOIS(エコイス)」は、飲食店等の業務施設の電気・ガス・水道使用状況を可視化し、その結果に基づく設備の省エネ改善から、運用や修理に関する支援までの一括支援を行うものである。
 同社は、顧客に対して電気・ガス・水道使用量を可視化するための機器を販売するだけでなく、可視化したデータを分析するサービス業務(省エネ診断、設備運転アドバイス、メンテナンス、削減効果・運用改善アドバイスの週間レポート作成等)を継続して請け負っている。ECOISの導入効果の事例は、以下の表のとおりである。

ECOISの導入効果の事例
ECOISの導入効果の事例

 同社は、2009年度から経済産業省の「スマートハウス実証プロジェクト」に参加するとともに、東京大学と「業務施設の電気・ガス・水道最適化モデルの開発」及び「民生部門における省エネ・二酸化炭素削減効果の評価方法に関する研究」について共同研究を開始している。
 同社の堀武代表取締役は、「当社は、日々進歩して、他社より常に先を行くことを重視している。また、安心のブランドを大切にし、当社に任せれば大丈夫という認識を顧客に持ってもらえるような仕事を積み重ねていきたい。」と語っており、今後も積極的な事業展開を行い、省エネの促進に寄与したいとしている。
ECOISで可視化された電気・ガス・水道使用状況のデータ画面
ECOISで可視化された電気・ガス・水道使用状況のデータ画面

●投資による省エネへの取組
 投資による省エネの取組項目を見ると、「高効率な照明機器の導入(LED34等)」が9.7%と最も高く、続いて「照明制御装置の導入(人感センサー等)」が7.5%、「空調機器制御装置の導入(インバーター35等)」が7.4%となっており、最も取組割合の高い項目でも全体の約1割で、中小企業では、投資による省エネへの取組が進んでいないことがうかがえる(第2-1-26図)。それでは、なぜ投資による省エネへの取組は進んでいないのであろうか。

34 Light Emitting Diodeの略で、発光する半導体素子をいう。発光ダイオードとも呼ばれる。従来の白熱電球と比べて寿命がはるかに長く、消費電力も少ないため、高効率の照明機器に利用されている。
35 制御装置と組み合わせることなどにより、省エネ効果をもたらす電力変換装置をいう。
 
第2-1-26図 投資による省エネの取組項目
〜投資による省エネの取組割合は、最も高い「高効率な照明機器の導入(LED等)」でも約1割と低い〜

第2-1-26図 投資による省エネの取組項目
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 第2-1-27図は、投資による省エネに取り組んでいない理由を示したものである。これを見ると、「投資費用が大きいから」が49.6%を占めており、資金面での制約が最大の理由であることが分かる。「費用削減につながらないから」が15.8%と次に多く、次いで「テナントビルに入っており自社で取り組めないから」が10.6%となっており、ここでも運用面同様、テナントビルに入っていることが取組促進の阻害要因の一つとなっていることが分かる。
 
第2-1-27図 投資による省エネに取り組んでいない理由
〜「投資費用が大きいから」が最も多く約5割を占める〜

第2-1-27図 投資による省エネに取り組んでいない理由
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 今後取り組む意向のある投資による省エネ項目の内容を見ると、1位では「高効率な照明機器の導入(LED等)」が64.8%と過半を占めており、比較的低い投資額で取り組める項目への意向が強く、資金面の制約が省エネへの取組の大きな課題であることがうかがえる。一方で、3位では、「高効率な空調機器の導入(ビル用マルチエアコン等)」が13.8%、「高効率な熱源機器の導入(高効率ボイラー等)」が9.9%、「高効率なエネルギー供給システムの導入(コージェネレーション36等)」が5.2%と投資費用が高額になる項目への意向も高くなっており、支援策の強化等により、資金制約を解消することができれば、省エネの促進につながると考えられる。また、「太陽光発電の導入」が1位で10.2%、2位で14.3%、3位で27.1%と総じて高い割合となっており、再生可能エネルギーへの関心の高さがうかがえる(第2-1-28図)。

36 燃料を用いて発電するとともに、その際に発生する排熱を冷暖房や給湯、蒸気等に有効利用するシステムをいう。
 
第2-1-28図 今後取り組む意向のある投資による省エネ項目
〜1位では「高効率な照明機器の導入(LED等)」が過半を占めるが、2位、3位では投資費用が高額になる項目の割合が高くなる〜

第2-1-28図 今後取り組む意向のある投資による省エネ項目
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●テナントビルにおける省エネへの取組
 第2-1-25図と第2-1-27図を見ると、省エネに取り組んでいない理由を「テナントビルに入っており自社で取り組めないから」としている企業が、運用面・投資面ともに、10%を超えている。この結果から、テナントビルに入っている企業は、照明や空調機器等がビル管理会社等によって管理されているため、自社単独では省エネに取り組むことができず、省エネの推進において大きな課題となっていると考えられる。今後、テナントビルのオーナー、ビル管理会社、テナントが連携して省エネに取り組むことが求められる。

事例2-1-12 テナント・オーナー一体となってテナントビルの省エネに取り組む企業

 東京都港区の株式会社黒龍堂(従業員130名、資本金3,150万円)は、化粧品事業や不動産事業等を行う企業である。同社が所有・運営する「黒龍芝公園ビル」は、テナントとビル側が一体となった取組により、2006年には取組前の1994年と比較して年間約22%の省エネを達成している。
 同ビルは、テナントに継続的な省エネ行動を促すために、老朽化に伴う空調や照明設備等の更新を契機に、全テナントが省エネをテーマに年に一度議論する「温暖化対策推進委員会」を発足させた。同委員会は、省エネに積極的なテナントが自らの取組を紹介することで、テナント間の情報交換や水平展開を促進している。この結果、同ビルでは、設備更新による12%の省エネに加えて、各テナントの運用改善による10%の省エネを達成した。削減した費用は、テナントの光熱費の割引やビル管理会社の管理費の上乗せで、その成果を両者に還元している。
 同社は、一般的に省エネが難しいといわれるテナントビルで大きな効果をあげたこと、テナント側と一体となった継続的な取組であることなどが評価され、東京都より「温暖化対策の優秀事業所」として表彰された。また、(財)省エネルギーセンター主催の「平成20年度省エネルギー優秀事例全国大会」で関東経済産業局長賞を受賞するなど、高い評価を受けている。東京都からの表彰後、このビルに入居したいとの問い合わせもあったという。
 貸ビル事業を担当する同社の間中昭司次長は、「当初から省エネを目的にしたわけではなく、中小ビルの生き残り戦略として、どうすればビルの付加価値が向上し、テナントが入ってくれるかを検討した結果だ。」と語る。また、成功要因は、中小企業の人材不足を建設会社やコンサルティング会社等の外部ネットワークの活用によって補ったことにあるという。
 テナントやオーナー単独での取組には限界がある。テナント・オーナー一体となった本事例に学ぶべきものは多い。
「温暖化対策推進委員会」の会議風景
「温暖化対策推進委員会」の会議風景



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