第4節 人材の意欲と能力の向上 

2.経営者と従業員のコミュニケーション

(1)経営者と従業員のコミュニケーションの現状
 前項の(1)で見たとおり、中小企業の正社員は大企業の正社員と同様に、仕事のやりがいの源泉として「自分がした仕事に対する社内の評価」を重視する者が3番目に多く、社内評価を行う体制を整備することが従業員の意欲を引き出す上で有効であることを指摘した。
 こうした社内での評価を行う体制を考える上で、経営者と従業員のコミュニケーションの在り方を考えることも重要であろう。特に中小企業の場合、従業員数が少ないことから、経営者と従業員の間で直接コミュニケーションを行うことが大企業に比べて容易と推察される。
 第3-4-7図は、大企業・中小企業に対し、経営者と従業員との間のコミュニケーションを活発に行う上でどのような問題点があるかについて尋ねた回答を示したものであるが、実際、「従業員の数が多いため、経営者が個々の従業員と活発なコミュニケーションを行うことが困難」という項目については、従業員規模が大きい企業ほど問題点として挙げる企業の割合が高くなっており、従業員規模301人以上の企業については、約半数が挙げている。また、経営者と従業員の間のコミュニケーションを活発に行うことについて「特に問題はない」と回答する企業の割合も、従業員規模が小さくなればなるほど高くなっており、従業員規模20人以下の企業では7割弱が「特に問題はない」としている。このような明確な相関関係は、中小企業の方が、従業員数が少ないことから、経営者と従業員の間のコミュニケーションを活発に行うことが可能であることを裏付けていると考えられる。

第3-4-7図 企業が感じる労使間のコミュニケーションを活発に行うに当たっての問題点
〜従業員規模の小さい企業ほど特に問題はないと考える企業の割合が高い〜
第3-4-7図 企業が感じる労使間のコミュニケーションを活発に行うに当たっての問題点
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  それでは、経営者と従業員とのコミュニケーションを活発に行うため、具体的にどのような取組が行われているのであろうか。
 第3-4-8図を見ると、経営者と従業員のコミュニケーションを活発に行うための取組として、「経営方針、事業計画等を従業員に説明する場(朝礼その他の場)を設けている」を挙げる企業の割合が最も高い。そして、この取組や、「社内報、社内メール、社内イントラネット等で経営者が経営方針等を説明している」、「従業員からの提案制度を導入している」といった取組は、従業員規模の小さい企業ほど実施されていないという傾向が見られる。他方、「個々の従業員が社長等の経営トップと直接面談する機会を設けている」と回答した企業の割合は、概ね従業員規模の小さな企業ほど高くなっている傾向が見られることから、中小企業は大企業に比べて、経営者が直接従業員とコミュニケーションを取ることができるため、「社内報等で経営方針を説明」したり、「従業員向けのアンケート調査を実施し、従業員の意識、意見等を把握」するといった間接的な手法は採られていないと考えられる。

第3-4-8図 企業における経営者と従業員のコミュニケーションを活発に行うための取組
〜従業員規模の小さな企業ほど、経営トップと従業員が直接面談する機会を設けている企業の割合が高い〜
第3-4-8図 企業における経営者と従業員のコミュニケーションを活発に行うための取組
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  以上のように、中小企業では、日々の業務の中で経営者と従業員のコミュニケーションが日常的に行われていることが大企業に比べて多いと考えられるが、こうしたコミュニケーションに中小企業の経営者が意識的・戦略的に取り組むことにより、従業員の仕事のやりがい感を高め、従業員の意欲を引き出すことが重要といえよう。

事例 3-4-3 経営者と従業員のコミュニケーション向上への取組を積極的に行っている中小企業

 兵庫県尼崎市の株式会社ヤマシタワークス(従業員48名、資本金1,000万円)は、主に金型及び部品の製造・加工、自社開発による鏡面加工装置の製造・販売等を行う中小企業である。同社は、自社開発した鏡面加工装置「エアロラップ」の技術を評価され、(財)日本発明振興協会・(株)日刊工業新聞社が主催する「第34回発明大賞」において発明大賞本賞を受賞し、「2006年元気なモノ作り中小企業300社」にも選定されている。
 従業員のほとんどは、入社当初はモノ作りを知らない素人ばかりであるが、同社の山下健治社長が先頭に立ち、日々のOJTで従業員にモノ作りに必要な技術を伝授している。山下社長は、経営者が従業員一人ひとりとのコミュニケーションを図ることが非常に重要と考えており、日中、自分のデスクにいることはほとんどなく、時間があれば工場に足を運び、従業員の働く様子を確認している。同社の工場内は作業スペースを壁等で区切っておらず、作業している従業員の様子を一望できる構造となっている。普段と様子の違う従業員がいれば、個別に声をかけて相談に乗るなど、従業員に対して常に気を配っている。そのような取組を通じて、従業員からの意見に積極的に耳を傾ける機会を設けるとともに、もっともな意見については、その対応のためにすぐに行動に移すなど、経営者と従業員の間の風通しは非常に良い。「従業員一人ひとりにまで経営者の目が行き届くのは、50人という小さな従業員規模だからこそできることである。」と山下社長は語っている。
 従業員の山下社長に対する信頼も厚く、経営者と従業員の一体感は非常に高い。以上のような取組が評価され、「雇用創出企業1,400社」(コラム3-1-1参照)にも選出されている。こうした企業風土が、従業員の意欲と能力を高め、モノ作りの世界で優れた成果を生み出すことを可能にしていると考えられよう。
従業員を指導する山下社長
従業員を指導する山下社長

(2)中小企業における経営者と従業員のコミュニケーションを活発に行うに当たっての課題
 (1)において経営者と従業員のコミュニケーションの実態について示したが、中小企業が経営者と従業員のコミュニケーションを活発に行うに当たっての課題は何だろうか。大企業を含めた企業が感じている課題については、前述の第3-4-7図で従業員規模別に示したが、ここでは中小企業に絞った上で、企業と従業員双方の立場から再度その現状を見てみる。第3-4-9図は、中小企業とその従業員の双方に対して、経営者と従業員のコミュニケーションを活発に行う上での課題を聞いた結果を示したものである。これによると、「コミュニケーションによるメリットが小さい」と考える中小企業は少ないが、中小企業の従業員では2割程度存在し、両者でギャップがあることが分かる。これは、コミュニケーションを行った成果が、経営者が思っているほど、従業員に浸透しにくいことを示している可能性があり、経営者はこうした意識のギャップを踏まえ、自らの経営理念や経営方針、仕事の意義等に関して、粘り強く従業員とのコミュニケーションを行い、浸透させていく必要がありそうである。

第3-4-9図 経営者と従業員が活発にコミュニケーションを行う上での課題におけるギャップ
〜コミュニケーションによるメリットは従業員において感じられていないという回答が相対的に多い〜
第3-4-9図 経営者と従業員が活発にコミュニケーションを行う上での課題におけるギャップ
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  また、コミュニケーションを行う上で「特に問題ない」という回答が最も多かったものの、中小企業とその従業員の双方で「経営者が、通常業務の多忙さ等のため時間を割くことが困難」という回答よりも、「従業員が、通常業務の多忙さ等のため時間を割くことが困難」という回答が多かった。中小企業においては、従業員が通常業務に割く時間と経営者とのコミュニケーションを行う時間とのバランスをうまくとることができるような職場作りを行うことが、両者のコミュニケーションを活発化させ、従業員の意欲を向上させるために重要であると考えられる。

 第3章 中小企業の雇用動向と人材の確保・育成

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