2. 中小企業で働く人材の現状
前項では、中小企業を巡る雇用情勢の動向と今後の見通しを概観してきたが、これらを踏まえ、中小企業は人材の確保・育成に関してどのように取り組んでいくべきなのだろうか。
具体的には、第2 節以降で考えていくこととするが、それに先立ち、そもそも中小企業は雇用の場の提供としてどのような役割を果たしているかを改めて確認し、その上で、中小企業で働く人材の実態はどのようになっているのかをより詳しく見ていくこととしよう。具体的には、中小企業の雇用形態、賃金動向、労働時間等がどのように推移しているのか等を採り上げる。
(1)中小企業の雇用維持・創出機能
まず、中小企業が雇用の維持・創出でどのような役割を果たしているか見ていくこととする。総務省「事業所・企業統計調査」の再編加工結果に基づくと、中小企業は2006年時点で2,784万人に就業の場を提供しており6 、非一次産業(公務を除く)の就業の場の約7割を担っている。ただし、「事業所・企業統計調査」は全数調査であるものの、従業員の特性等に係る情報が総務省「就業構造基本調査」等の労働関連統計に比べて少ないことから、本章では主として労働関連統計を用いて分析を行っていく。なお、「就業構造基本調査」の再編加工結果によれば、中小企業が2007年時点で2,081万人の雇用を生み出しており、非一次産業の企業(公務を除く)における雇用の場の過半数を担っている。
それでは、これまで一企業の従業員規模がどのように推移してきたかを見るために、財務省「法人企業統計年報」を用いて、中小企業と大企業における1社当たり従業員数の推移を見てみると第3-1-12図のようになり、大企業においては、非製造業の1社当たり従業員数はほぼ横ばいで推移している一方、製造業において、1社当たりの従業員数は大きく減少してきた。また、中小企業では、製造業、非製造業とも1990年代は1社当たりの従業員数がわずかながら減少してきたが、2000年代前半から中盤にかけて、増加傾向が見られた。
第3-1-12図 規模別1社当たり従業員数の推移
〜大企業、中小企業とも1社当たりの従業員数は減少傾向にあり、主に製造業による影響が大きいように思われる〜
一方、経済産業省「企業活動基本調査」のパネルデータを用いて、1996年度から2006年度にかけての従業員数の推移を見てみると、1996年度における従業員数が301人以上であった企業の約60%が2006年度にかけて従業員数が減少しているのに対して、1996年度における従業員数が50〜100人であった企業の半数以上が2006年度にかけて従業員数が増加している。また、同じく1996年度における従業員数が50〜100人であった企業においては、10年間での平均従業員数の伸びが大きくなっており、こうした点から、中小企業が事業を継続することによる雇用の維持・創出の効果は大企業を上回っているといえよう7 (第3-1-13図)。
第3-1-13図 10年間における従業員数の増減(1996 年度〜2006年度)
〜従業員規模が小さいほど、10年前と比べて従業員数が増加した企業の割合が高くなっている〜
(2)中小企業の人員構成
次に中小企業で働く従業員の構成について分析する。
総務省「就業構造基本調査」を用いて中小企業と大企業との人員構成を比較すると、2007年10月時点での中小企業の雇用者は2,081万人、大企業の雇用者は1,876万人となっている(第3-1-14図)。正社員・非正社員比率を見た場合、中小企業の正社員比率は2007年10月時点で62.9%、大企業で63.5%と大企業の方が正社員比率は高いが、2002年から2007年にかけての推移を見ると、大企業の方が非正社員比率の伸びが大きくなっていることが見て取れる8 。正社員の業種分布を見た場合、大企業と比べて中小企業の正社員は建設業の割合が高く、情報通信業や金融・保険の割合が低くなっている一方で、製造業の割合はあまり差が出ていないことが見て取れる(第3-1-15図)。
第3-1-14図 中小企業の雇用形態
第3-1-15図 規模別正社員の就業業種分布(2007年)
〜中小企業の正社員は大企業の正社員と比べて建設業の割合が高くなっている〜
非正社員のうち、派遣社員に着目すると、我が国における派遣社員数 は、総務省「就業構造基本調査」によれば、2002年時点の72万人から2007年時点の161万人へと大幅に増加してきた 9。これを規模別に見ると、第3-1-14図にあるとおり、2007年時点に中小企業で45万人の派遣社員 が働いており、2002年と比べて倍増したが 10、現下の景気後退局面で派遣社員の過剰感が高まっており、中小企業においても派遣社員の雇用調整が行われている(先の第3-1-3図)。
また、中小企業で働く外国人労働者については、厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況(平成20年10月末現在)について」(2009年1月)によると、我が国で雇用されている外国人労働者は2008年10月末現在で約49万人であり、そのうちの51.5%が事業所規模99人以下の事業所で雇用されている 11 (第3-1-16図)。在留資格別に見た場合、技能実習生を含む「特定活動」においては約70%の外国人労働者が事業所規模99人以下の事業所で雇用されている 12。
第3-1-16図 事業所規模別・在留資格別外国人労働者数
〜我が国で雇用されている外国人労働者は約49万人〜

コラム3-1-2 外国人研修生について
本文中で触れた外国人労働者に関連して、外国人労働者ではないが、研修生として企業が受け入れている外国人(以下「外国人研修生」という)に関する現状を見てみよう。2007年において我が国に入国した外国人研修生は102,018人であり、このうち、(財)国際研修協力機構1 が入国を支援した研修生が71,762人である2 。この約7万人についての、受入れ先を見てみると、約83%にあたる59,344人の受入れ先が従業員300人未満の企業となっており、その多くが技能実習に移行していると考えられることから、外国人研修・技能実習制度3 が中小企業において活発に活用されていると考えられる(コラム3-1-2図)。しかし、一方では、「研修生の不法残留」4 や「技能実習生に係る労働災害」5 、「研修・技能実習に関する不正行為」6といった問題も指摘されている。コラム3-1-2事例で示すとおり、地域住民や自社の従業員と良好な関係を築くなどの環境整備も重要といえよう。
コラム3-1-2図 中小企業における外国人研修生の受入れ状況(2007年)
コラム3-1-2事例 外国人(中国人)研修生の活用実績のある中小企業
福岡県大牟田市の信号電材株式会社(従業員102名、資本金8,000万円)は、1972年に創業し、交通信号灯器及び関連機器を製造・販売する中小企業である。高度な設計・開発力を有し、西日の照射による信号機の擬似点灯を防止する「西日対策信号灯器」や、視認範囲を限定することにより信号の誤認を防ぐ「視角制限灯器」などを開発し、交通事故防止対策に大きく貢献しており、「2006年元気なモノ作り中小企業300社」に選定されている。同社は、国内市場にとどまらず、中国、マレーシア、タイなどアジアにも進出している。
同社が、初めて海外展開を行う際、台湾の現地企業と合弁会社を設立し、この現地企業との親交を得たことがきっかけとなって、中国の企業への生産の委託に繋がったことから、外国人研修生の受入れに関心を持つようになり、数年前より受入れを実施している。
同社に勤務していた現地企業の経営者の親族が、同社と研修生の橋渡し役となり、研修生が日本の文化や習慣を学習することへの支援を行った結果、研修生は日本人とのコミュニケーション能力を向上させ、地域の行事への参加など地域住民との交流を行うことができるようになった。研修生を受け入れた当初は、地域住民との関係や、ゴミ処理問題などの課題が浮上したが、上述した現地企業の関係者の協力により、研修生が地域住民との交流を深め、これらの課題も解決された。今では、こうした経験を活かして、同社内で対応できるようになっている。
また、外国人研修生を受け入れるのに当たり、同社に派遣されている派遣社員が、外国人研修生を受け入れることにより、自分の雇用が維持されるかどうか不安を感じる可能性もあったが、こうした派遣社員に対しては、面接でケアを行うこと等を通じて、不安を除去するように努めてきている。
同社では、これらの取組を通じて外国人研修生を受け入れるための環境を整えてきたところであり、今後とも外国人研修生の受入れを継続していく意向である。

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(3)中小企業の労働状況
次に、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の再編加工結果を中心に、中小企業の労働時間、賃金、労働分配率について見ていこう。
〔1〕労働時間の現状
初めに、企業規模別・正社員非正社員別13 に1ヶ月当たりの労働時間数の推移を見ると、2007年における中小企業の平均労働時間数は正社員が184.3時間(大企業175.3時間)、非正社員が113.3時間(大企業116.2時間)となっており、中小企業の正社員の労働時間は大企業の正社員の労働時間を上回っていることが分かる(第3-1-17図)。製造業、非製造業に分けて見ると、同じ規模、同じ雇用・就業形態の場合、製造業の方が非製造業に比べて労働時間は長くなっており、特に、非正社員において顕著である14 。
第3-1-17図 規模別正社員・非正社員の労働時間数推移
〜中小企業の正社員の労働時間数は、大企業の正社員の労働時間数を上回っている〜
〔2〕賃金の現状
次に、企業規模別・正社員非正社員別に平均給与額15 の推移を見ると、2007年における中小企業の正社員の平均給与額は29.8万円(大企業38.3万円)、非正社員の平均賃金は12.1万円(大企業13.4万円)となり、正社員と非正社員の間での給与額の差が顕著である一方、正社員における中小企業と大企業の間の差が徐々に広がってきた(第3-1-18図)。また、製造業と非製造業に分けて見た場合、大企業の製造業と中小企業の製造業の間での差が大きくなっている16 。
第3-1-18図 規模別正社員・非正社員の給与額推移
〜大企業と中小企業での正社員における給与額の差は徐々に広がっている〜
また、労働時間1時間当たりの給与額の推移を見てみると、2007年における中小企業の平均額は、正社員が1時間当たり1,618円(大企業2,187円)、非正社員が1,067円(大企業1,154円)となっており、1990年と比較すると増加したものの、特に正社員において大企業との差は2007年にかけて拡大してきたことが見て取れる(第3-1-19図)。製造業と非製造業に分けた場合、大企業の製造業と中小企業の製造業の間での差が大きくなっている17 。
第3-1-19図 規模別正社員・非正社員の労働時間1時間当たり給与額推移
〜労働時間1時間当たり給与額は徐々に増加している〜
これらのことから、中小企業の給与額は、総額で見た場合、あるいは、1時間当たりで見た場合共に大企業よりも低い水準で推移してきたことが分かる。一方、2007年における正社員の給与額の分布を規模別に見てみると、大企業の平均給与額を上回る給与を得ている中小企業の正社員もおり、中小企業であるからといって、一概に給与水準が低いというわけではないことが分かる(第3-1-20図)。
第3-1-20図 規模別正社員の給与額の分布(2007年)
〜中小企業の労働者のうち19.5%が大企業の労働者の平均賃金を上回る賃金を獲得している〜
〔3〕労働分配率の現状
ここで、企業の付加価値額が給与等による分配を通じてどれだけ従業員等に分配されたかを示す指標である労働分配率18 の推移を見てみると、中小企業の方が、大企業より高くなっていることが見て取れる(第3-1-21図)。製造業と非製造業での違いは、中小企業ではあまり差がなく、大企業においても、以前は製造業と非製造業で大きな差があったが、近年では、製造業と非製造業の差は縮小してきた。一方、この労働分配率の増減の要因を「売上高」、「付加価値率」、「従業員1人当たり人件費」、「従業員数」の4種類に分類して見てみると19 、1995年度までは、大企業、中小企業共に上記の4要因が全て増加しており、その上昇度合いの差に応じて労働分配率が増減しているように見える20 。また、1995年度以降については、大企業と中小企業の動きに違いが生じているが、大企業においては「従業員数の増加」が労働分配率を押し上げる方向、また、「売上高の増加」が労働分配率を押し下げる方向で作用していることが傾向として見て取れる。
第3-1-21図 規模別労働分配率の推移
〜中小企業の労働分配率は製造業、非製造業ともに下げ止まりが見られる〜
このように大企業を中心とした「従業員数の増加」かつ「従業員1人当たり人件費の減少」が生じる一因として、第3-1-14図で見たように、大企業では従業員数は増えている一方で、正社員比率が減少していること等が考えられる。