第3節 中小企業における知的財産の保護・活用

2.中小企業の知的財産活動
 前項で見たように、我が国の特許出願件数は高い水準にあるが、内国人出願に占める中小企業の比率は、出願件数ベースで約12%となっている42。これは、第1節の第2-1-11図において、法人企業が生み出している付加価値額のうち中小企業が寄与している割合は約半分であり、その割合と比べると、特許出願における中小企業の比重は小さいように思われる43

42 特許庁「特許行政年次報告書2008年版」p.71。また特許庁「平成19年知的財産活動調査」(再編加工)によると中小企業1社当たりの国内特許出願件数は5.7件であるのに対し、大企業は156.0件となっている。付注2-3-3参照。
43 特許出願における中小企業の比重に対する評価に関しては、多面的な検討が必要であることには留意が必要である。例えば、総務省「科学技術研究調査」(2008年)によれば、会社に属する研究関係従業者数が619,540人、そのうち中小企業(従業員数1人〜299人)の研究関係従業者数が79,855人となっており、中小企業が占める比率は12.9%である。中小企業以外の会社の特許出願件数が不明なため、厳密な比較はできないが、研究関係従業者一人あたりの特許出願数で見ると、中小企業はそれ以外の会社と同程度である可能性が示唆される。

 本項では、中小企業の知的財産の創造、保護、活用等に関する活動(以下「知的財産活動」という)の現状を把握するべく、特許庁「知的財産活動調査」44及び三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が実施した「市場攻略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」45(以下「市場攻略と知財調査」という)をもとに、分析を進めていく。

44 データ分析の手法については付注2-3-4参照。
45 2008年12月、営利法人55,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率15.7%。

(1)中小企業の特許出願の現状
 特許出願の総件数に占める中小企業の割合が小さい理由の一つとして、中小企業は自らの技術・ノウハウについて、特許の出願により保護をするのではなく、営業秘密 46として保護している可能性が考えられる。

46 ここでの営業秘密は、特許庁「知的財産活動調査」でいう「企業秘密・ノウハウ」と同義である。以下においては、特許庁「知的財産活動調査」からの引用については「企業秘密・ノウハウ」として記載し、それ以外は「営業秘密」と記載する。

 第2-3-3図は、「市場攻略と知財調査」をもとに、中小企業が知的財産の保護に関してどのような方針を持っているかを示したものである。これによると、中小企業は、「特に方針は定めていない」とする企業が多いが、大企業と比べて、「特許出願は最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護」と回答する企業が多いという特徴が見られる。また、中小企業のうち、下請としての受注がある企業(以下「下請企業」という)と下請としての受注がない企業(以下「非下請企業」という)を分けて見てみると、下請企業の方が、「特に方針は定めていない」、または、「特許出願は最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護」する企業が多い。

第2-3-3図 特許出願、営業秘密に対する戦略
〜中小企業は総じて特許出願、営業秘密に対して方針を定めていないが、大企業と比べると、「特許出願は最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護」する企業割合が相対的に高くなっている。また、下請企業の方が、「特許出願は最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護」する企業が多い〜
第2-3-3図 特許出願、営業秘密に対する戦略
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 また、中小企業が特許出願をするより営業秘密として保護をするという傾向は、特許庁「知的財産活動調査」でも確認できる。第2-3-4図は、同調査をもとに、大企業と中小企業が、2006年度に企業内で発明・考案したもののうち、企業秘密・ノウハウとしたものの割合を示したものであるが、中小企業の当該割合は大企業の当該割合の約3倍の大きさとなっている。業種ごとに見ると、特に情報通信業、輸送機械工業、電気機械工業といった業種において、中小企業は発明・考案したものを企業秘密・ノウハウとして保護している割合が高くなっている。

第2-3-4図 企業内で発明・考案されたもののうち企業秘密・ノウハウとしたものの割合
〜中小企業は大企業よりも約3倍高い割合で、企業秘密、ノウハウとしている。また、業種ごとに特徴がみられ、特に情報通信業、輸送機械工業、電気機械工業といった業種において企業秘密・ノウハウとしている企業割合が高くなっている〜
第2-3-4図 企業内で発明・考案されたもののうち企業秘密・ノウハウとしたものの割合
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 それでは、中小企業が特許出願を最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護している理由は何だろうか。第2-3-5図によると、中小企業は、その理由として「技術流出につながる恐れがある」、「コスト負担が大きい」といった項目を挙げる企業が多く、特に「コスト負担が大きい」という理由は大企業に比べて顕著に多い47

第2-3-5図 特許出願を最小限にとどめ、営業秘密として保護する理由
〜中小企業は、大企業に比して技術流出やコスト負担を理由に「特許出願は最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護」している企業の割合が相対的に高い〜
第2-3-5図 特許出願を最小限にとどめ、営業秘密として保護する理由
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47 特許出願費用の軽減措置として、個別支援法の認定等を伴わないものに、資力の乏しい法人を対象に、審査請求料の1/2の軽減措置及び第1年分から第3年分の特許料の3年間猶予措置が、また研究開発型中小企業を対象に、審査請求料及び特許料(第1年から第3年分)の半額軽減措置がある。簡易な要件判定については下記URLにて行うことが可能。http://www.jpo.go.jp/cgi/zangenmen2/exempt_chk.cgi

 次に、海外への特許出願の状況について見てみよう。中小企業による海外出願比率は、大企業を大きく下回っている(第2-3-6図)。業種別に見ても、情報通信業以外のすべての業種において、中小企業による海外出願比率が大企業よりも低くなっているが、医薬品工業においては、中小企業もかなり高い比率で海外出願している状況にあることが分かる。

第2-3-6図 特許出願を行った企業のうち海外出願を行った企業割合
〜中小企業による海外特許出願比率は、大企業を大きく下回っている。業種別に見ても情報通信業以外のすべての業種において、中小企業による海外出願比率は大企業よりも低くなっている。一方で、医薬品工業においては、中小企業もかなり高い比率で海外出願している〜
第2-3-6図 特許出願を行った企業のうち海外出願を行った企業割合
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 最後に、企業が特許出願はしたものの、最終的に審査請求に至らないものも約1/3見られる48 。その理由としては、第2-3-7図において示されているとおり、大企業も中小企業も、「費用対効果を考慮した」という理由を挙げる企業が最も多い。また、中小企業では「事業戦略に変更が生じた」という理由を挙げる企業が大企業に比べて少ないのが特徴的である。その背景としては、中小企業が、事業戦略に沿った発明を早期に特許出願し、審査請求をしている可能性が考えられる。

第2-3-7図 審査請求未実施の理由
〜大企業、中小企業とも費用対効果を考慮して、審査請求していない企業が多いが、中小企業は、大企業と比べると事業戦略に変更が生じたという理由の割合が相対的に低い〜
第2-3-7図 審査請求未実施の理由
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48 特許庁「特許行政年次報告書2008年版」p.4参照。

(2)下請企業の知的財産活動の現状
 上の(1)では、中小企業一般の特許出願の現状を見たが、その実態をより詳しく見ていく観点から、ここでは、下請企業に着目し、その特許出願等の現状を見てみよう。
 企業内で発明・考案されたものについて、企業1社当たりの件数は、下請企業と非下請企業でほとんど同じ水準であるが、下請企業1社当たりの特許権・実用新案権の出願件数は、4.97件となっており、非下請企業の5.93件に比べると少ない(第2-3-8図)。他方、下請企業が、企業内で発明・考案したもののうち、企業秘密・ノウハウとしたものの割合4.58%は、非下請企業の2.57%よりも高い。以上のデータから、下請企業は、非下請企業と比べて、特許出願よりも「企業秘密・ノウハウ」としての保護を志向する傾向があることが分かる。下請企業では特に「技術流出」を警戒して49 、営業秘密としていると考えられる。営業秘密については、不正競争防止法(平成5年法律第47号)により一定の法的保護がなされており、社内での管理体制を強化していくことが、技術流出の防止の観点から重要である50

第2-3-8図 知的財産活動の状況(下請の有無別)
〜下請企業は、1社当たりの特許権・実用新案権出願件数は少ないものの、企業内での発明・考案件数は非下請企業と比べても差はない。下請企業は発明・考案活動は活発であるが、企業秘密・ノウハウとする傾向にある〜
第2-3-8図 知的財産活動の状況(下請の有無別)
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49 下請企業が特許出願を最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護する理由については、付注2-3-5参照。
50 不正競争防止法第2条第6項の規定において、「営業秘密」の要件としては、〔1〕秘密として管理されていること(秘密管理性)、〔2〕有用な営業上又は技術上の情報であること(有用性)、〔3〕公然と知られていないこと(非公知性)が挙げられている。同法では、こうした「営業秘密」の不正な取得・使用・開示行為に対して、差止請求権(第3条)、損害賠償請求権(第4条)、信頼回復措置請求権(第14条)などが認められている。また、特に悪質な行為については、刑事罰の対象にもなる。

(3)中小企業の特許取得の状況
 先の(1)では、中小企業の特許出願の現状を見たが、次に、中小企業の特許保有の状況を見てみよう。
 特許保有の総件数に占める中小企業の特許保有件数の割合は17.6%となっている51

51 特許庁「特許行政年次報告書2008年版」p.69を参照。また、特許庁「知的財産活動調査」の再編加工結果によると、中小企業1社当たりの国内特許保有件数は17.7件であるのに対し、大企業は209.3件となっている。付注2-3-6参照。

 また、第2-3-9図は、「市場攻略と知財調査」をもとに、大企業と中小企業の特許取得の状況を示したものである。中小企業は、大企業に比べて特許を取得している企業の割合が低く、特に下請企業は低くなっている52

第2-3-9図 特許取得の状況
〜中小企業は大企業と比較すると、特許取得している企業割合が低くなっている。また、下請企業については、非下請企業に比べて特許を取得している企業は割合は低く、「過去には取得していたが現在はない」とする企業割合が高い傾向にある〜
第2-3-9図 特許取得の状況
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52 従業員規模別に見てみると、規模の大きい企業ほど特許取得している企業は多い傾向にある。付注2-3-7を参照。

(4)中小企業の特許利用の状況
 これまで、中小企業による特許の出願や取得の件数が、大企業に比べて少ないことを見てきたが、最後に、特許の利用率を見てみよう。第2-3-10図によると、ほとんどの業種において中小企業の特許利用率が大企業よりも高いことが分かる。また、第2-3-11図は、保有特許の利用状況をより詳しく示したものであるが、これによると、大企業は、未利用ではあるが、防衛目的で特許を保有している割合が高くなっており、利用率が高い中小企業と比較すると、大企業の特許戦略の特徴が見てとれる。中小企業は、自ら開発した技術等を厳選して、特許の出願を行っているため、特許出願件数は少ないものの、特許権を取得した以上は有効に利用していると考えられる。

第2-3-10図 国内保有特許権利数に占める利用件数の割合
〜中小企業は大企業と比較すると、保有権利の利用率は高い傾向にある。また業種別に見ると、卸・小売業等、その他の非製造業以外の業種において大企業よりも特許利用率は高くなっている〜
第2-3-10図 国内保有特許権利数に占める利用件数の割合
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第2-3-11図 保有権利(特許)の利用状況
〜大企業は未利用ではあるが、防衛目的で権利を保有する傾向が高い。また保有権利の約1割は開放可能な特許となっている〜
第2-3-11図 保有権利(特許)の利用状況
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 なお、第2-3-11図において、大企業の保有特許の1割が開放特許であることも注目に値する。中小企業が、イノベーションを実現していく上で、こうした大企業の開放可能な特許を有効に活用していくことも重要な方策であると考えられる。この点については、後の4.で詳しく見ていこう。

 第2章 中小企業による市場の創造と開拓

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