第3節 試練に直面する中小企業 

4. 活路を求めての挑戦
 以上で見てきたとおり、世界経済が減速する中、中小企業を巡る経営環境は極めて厳しい状況にある。先の第1-2-7図〔2〕では、中小企業の売上高経常利益率が、大企業に比べて低く、2005年末頃から、低下し続けていることを見た。これは、利益率の平均値を見たものであるが、中小企業のうち経常利益がマイナスとなっている企業が占める割合を見ると、中小企業の4割程度で経常利益がマイナスとなっており、2004年以降、その割合が上昇しており、中小企業の収益環境の厳しさを物語っている(第1-3-25図)。

 
第1-3-25図 赤字企業比率の推移
〜大企業に比べ中小企業は赤字企業の割合が高い〜
第1-3-25図 赤字企業比率の推移
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  また、今後の見通しについても、中小企業の約75%が、今後1〜2年程度先の業況が悪化すると予想している(第1-3-26図)。自社の属する業界についても、さらに悲観的な予想がなされている。
 このような厳しい経営環境の下で、中小企業は、どのようにこの難局を乗り越えようとしているのであろうか。

 
第1-3-26図 中小企業の業況感の短期見通し(1〜2年程度先)
〜 1 〜 2年程度先の業況の見通しが「悪い」、「やや悪い」とする回答は、自社については合わせて75%、属する業界については合わせて86.3%に上る〜
第1-3-26図 中小企業の業況感(短期見通し:1〜2年程度先)
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(1)中小企業の経営方針
 第1-3-27図は、「経営実態調査」をもとに、業況が大幅に改善した中小企業と悪化した中小企業が、それぞれどのような経営方針を有していたかについて、「収益戦略」、「事業スタンス」等の項目ごとに指数化して示したものである。同図では、例えば「事業スタンス」について見ると、経常利益率が大幅に改善した中小企業のグループでは、「長期志向」と回答した企業の割合が「短期志向」と回答した企業の割合を46.5%ポイント上回っていることを示している。また、経常利益率が大幅に悪化した中小企業のグループでは、「長期志向」と回答した企業の割合が「短期志向」と回答した企業の割合を27.5%ポイント上回っている。すなわち、いずれのグループでも、「長期志向」が相対的に強いが、経常利益率が大幅に改善した中小企業のグループは、特に長期志向が強いことを意味する。

 
第1-3-27図 企業業績と経営スタンス
〜経常利益率が過去3年間に大幅に改善した企業の経営スタンスは、長期志向、拡大志向、高付加価値の追求等に特徴付けられる〜
第1-3-27図 企業業績と経営スタンス
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  同図によれば、「付加価値戦略」については、両グループで経営方針に差異が見られ、経常利益率が改善した企業は「高付加価値の追求」という考えが強いことがわかる。また、「成長スタンス」について、経常利益率が改善した企業は「拡大志向」であるのに対し、悪化した企業は「現状維持」である点が好対照となっている。

(2)事業環境の変化に対応した経営方針の見直し
 次に、第1-3-28図は、中小企業が過去に経営方針を転換したことがあるかどうか、また、2008年12月の時点で、今後、経営方針を転換する予定があるかどうかを聞いた結果を示したものである。それによると、過去に経営方針を転換した経験がある企業や今後経営方針を転換する予定であるとする企業の方が、そうでない企業に比べて経常利益率が改善したと回答する企業が多い。
  2008年秋以降、経営環境が急速に、一段と厳しくなってきた中、経常利益率が改善している企業でも、経営方針を見直すことを考えていることを示している。

 
第1-3-28図 経営方針の転換と経常利益率の状況
〜過去に経営方針を転換した経験のある中小企業や今後経営方針を転換する予定のある中小企業の方が、経常利益率が改善してきたとする割合が高い〜
第1-3-28図 経営方針の転換と経常利益率状況
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 企業が競争力を維持し、持続的な発展を遂げていくためには、事業環境の変化に適応しながら、最善の戦略を選択していくことが重要である。とりわけ、現在、内外需が急速に減少し、市場ニーズの変化が生じた可能性が高いことから、中小企業は、変化したニーズを的確に把握し、それに対応した製品・サービスを開発し、提供していくための経営方針や経営戦略の立案・実行が重要となっていると考えられる。
 我が国経済の屋台骨を支える中小企業が、100年に一度と言われる危機にある今、変化するニーズに対応した、新たな価値を創造していくこと、すなわちイノベーションに果敢に挑戦していくことが強く期待されている。
 次章では、市場の創造と開拓の原動力となる、中小企業のイノベーションについて分析することとしよう。
事例 1-3-5 経済情勢が悪化する中での発想の転換

 1974年に創業し、大阪府東大阪市に本社を構えるハードロック工業株式会社(従業員45名、資本金1,000万円)は、緩まないナットである「ハードロックナット」の開発、製造、販売を行っている。同社の若林克彦社長は、「なにわのエジソン」との異名を持つ発明家である。
 同社のハードロックナットは、日本の神社の鳥居の柱で緩み止めに使用されている楔(くさび)にヒントを得たものである。具体的には、2個のナットを使用する基本構造において、凸型の下ナットの凸部をボルトの中心軸から僅かにずらし、そこに凹型の上ナットを「ロックナット」としてねじ込むと、強力なロック効果が得られる仕組みとなっている。
 このハードロックナットの価格は、通常のダブルナットより倍近く高い。このため、当初は多くの企業から拒絶されたが、様々な試験でねじ緩み防止効果が高く評価されると、同社のナットは徐々に世界中で採用されるようになった。現在では、国内外の新幹線、高速道路、原子力発電所、大手メーカーの生産設備などで幅広く活用されている。
 現下の内外経済の悪化は、同社にも影響を与えており、大手メーカー等による新規設備投資の減少に伴ってナットの注文が減少している。しかし、同社は、大手メーカーの生産ラインが止まったことを「緩み止めナットへの交換を促すチャンス」と捉え、まさにピンチをチャンスとして活かすべく、従業員一丸となって営業活動に取り組んでいる。
 
ハードロックナット

事例 1-3-6 日本のモノ作りの強さを活かしたデジタル顕微鏡装置の開発

 青森県弘前市に本社を構える株式会社クラーロ(従業員7名、資本金2億1,725万円)は、スライドガラスに乗せた癌(がん)の組織などの標本を丸ごとデジタル化できる「バーチャルスライド」を製品化し、販売を行っている企業である。
 同社が開発した「バーチャルスライド」は、標本の全体を高解像で分割して撮影し、デジタル処理で貼り合わせを行い、組織標本の全面を任意に縮小、拡大や位置移動を行い、モニターで閲覧することを可能とする。この結果、従来の手動による顕微鏡観察と比べ、効率性を飛躍的に高めることに成功した。加えて、組織標本をデジタル画像化することで、遠隔地との画像情報の交換なども可能とした。同社によれば、こうした最先端の製品開発に成功できたのは、研磨技術などについて世界に誇る技術を有する技能工が日本国内に多数存在していることが大きいとしており、同製品には全て国産の加工部品が使われている。同社の高松輝賢社長は、日本のモノ作りの品質の高さとメイド・イン・ジャパンのブランド力を最大限に活かすことで、最先端の製品開発を続け、世界に販売していきたいと意欲を燃やしている。  
バーチャルスライド

 第1章 2008年度における中小企業を巡る経済金融情勢

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