結び 付加価値創造による生産性向上を目指して 

結び 付加価値創造による生産性向上を目指して

 本書では、第1部で2007年度における中小企業の景気動向を概観した後、第2部で生産性の向上、第3部で地域活性化、という2つの重要な政策課題をテーマとして採り上げ、中小企業の生産性の現状や地域の中小企業が形成しているネットワークの実態等を示すとともに、中小企業が現在直面している課題の分析を行った。本書の結びに当たって、各部での分析のポイントを振り返りながら、中小企業に期待される今後の取組の方向性や展望を探っていこう。

我が国経済と中小企業の景気動向
 第1部では、我が国経済が6年を超える景気回復局面にあるものの、家計消費が総じて伸び悩んでいること等により中小企業の多くが景気回復の実感に乏しい状況にあり、2007年度に入ってからは原油価格の急騰や建築着工件数の減少等を背景として中小企業の業況が悪化し始めたことを示した。我が国の雇用の場の7割は中小企業によって提供されており、中小企業の業況の悪化は中小企業で働く労働者の所得に影響を与え、家計消費を押し下げる恐れがあり、我が国経済は先行き不透明感を増大させている。
 しかしながら、我が国経済の先行きに不安をもたらしているものは、原油価格の高騰やサブプライム住宅ローン問題の発生に伴う世界経済の減速への懸念といった景気動向の問題だけでなく、我が国の少子高齢化・人口減少の急速な進行という、長期的・構造的な変化への漠然とした不安もあろう。第2部第1章では、少子高齢化・人口減少の影響に対して多少なりとも脅威を感じている中小企業が半数を上回っていることを見た(第2-1-2図)。

中小企業の生産性の向上と地域経済の活性化
 少子高齢化・人口減少が急速に進展していく中で、我が国経済が持続的な成長を達成し、豊かな国民生活を実現していくためには、労働者が産み出す付加価値を増大させること、すなわち労働生産性を向上させることが必要である。第2部では、こうした認識の下、我が国経済がサービス化、IT革命、グローバル化といった構造変化に直面する中で、中小企業が事業環境の変化に対応し、ITの活用や海外展開等を通じて付加価値の増大等に取り組むことにより労働生産性の向上を図っていく必要性を指摘した。
 中小企業が労働生産性を向上させることは、低迷する中小企業の利益率の向上や業況の改善に資する。第3部第1章では、地方圏が都市圏に比べて総じて厳しい状況にあることを示したが(第3-1-1図)、地域の再生を図り、活性化させていく観点からも、地域経済を支える中小企業が労働生産性を向上させ、業況を改善させていくことが重要である。第3部では、主として中小企業の事業再生、小規模企業の活性化、中小企業と地域金融機関の取引関係、中小企業のネットワークを採り上げて分析を行ったが、これらに共通した課題は、地域の中小企業が外部の主体との連携や取引関係の強化を通じて経営資源の不足を補完することにより、その潜在能力を十分に発揮させることができるかどうかである。農商工連携や商店街とコミュニティビジネスの連携など、新たな連携を模索する動きも出てきているが、地域の中小企業が経済社会の変化に対応してネットワークを再構築し、新たな付加価値の創造に挑戦していくことは、地域経済の活性化を図るための鍵であり、労働生産性の向上にも寄与していくこととなる。

付加価値創造への挑戦
 以上のとおり、生産性の向上と地域活性化を図っていくため、中小企業は付加価値の創造の原動力となることが強く期待されている。付加価値の創造とは、人々の切実なニーズに応えていく、ということである。アジアを始めとした新興国のマーケットの拡大、食品の安全・安心、高齢者福祉、地球環境問題など、新たな対応を求めるニーズは増大の一途を辿っており、これらは中小企業にとってもビジネスチャンスとなり得る。第3部第1章では、情報通信業や医療・福祉において開業率が高いことを示したが(第3-1-13図)、これはIT革命や高齢化の進展に伴ってニーズが高まっており、中小企業が活発に市場参入しているからであろう。今後、中小企業が時代のニーズを捉えて新たな付加価値を創出し、収益を獲得していけるかどうか。そして、それにより中小企業で働く労働者の所得が増大し、家計消費が増大し、そのようにして創出された新たな需要が、中小企業がさらに付加価値を産み出すことを可能とする、という好循環を作り出していけるかどうか。我が国は大いなる試練の時を迎えていると言えよう。

 結び 付加価値創造による生産性向上を目指して

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