第3部 地域経済と中小企業の活性化 

第2節 農林水産資源活用に向けた地域中小企業のネットワーク

 前節では、中小企業の水平的な連携のネットワークの全般的な現状と課題を概観したが、その連携の具体的な内容は業種によって大きく異なることは既に見たとおりである。地域経済の活性化をどのように図っていくのかという観点からは、農林水産業が地方圏の産業構造に占める比重が相対的に大きく、また、製造業に占める食料品製造業の割合も地方圏で高いことから(第3-3-28図)、地域の農林水産資源を有効活用し、農林水産関連産業が活性化していくことが重要である。そこで本節では、農林水産型の地域資源の活用に焦点を絞り、その商品化に向けた連携等の実態や現在直面している課題を具体的に見ていくこととしよう。
 
第3-3-28図 都道府県別中小製造業に占める中小食料品製造業の付加価値額の割合
〜中小製造業全体に占める中小食料品製造業の付加価値額の割合は、地方圏で相対的に高い〜
第3-3-28図 都道府県別中小製造業に占める中小食料品製造業の付加価値額の割合
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1 農林水産型の地域資源活用に向けた取組
 中小企業庁は2007年に「中小企業地域資源活用プログラム」10を創設し、地域資源を活用して付加価値の高い商品・サービスを開発し、その市場化に取り組む中小企業の支援をスタートした。都道府県が策定した基本構想において指定された地域資源の数は、10,05911となっており、そのうち農林水産型は3割を占め、事業計画の認定を受けた数は123件12となっている。

10 地域資源とは、〔1〕地域の特産物として相当程度認識されている農林水産物又は鉱工業品、〔2〕特産物となる鉱工業品の生産にかかわる技術、〔3〕地域の観光資源として相当程度認識されているものを指す。
11 2007年12月26日時点。内訳は、農林水産物3,010、鉱工業品2,293、観光資源4,756となっている。
12 2008年3月27日時点。事業計画認定数は328件であり、その内訳は農林水産物123件、鉱工業品181件、観光資源24件となっている。


 また、地域の産品の付加価値を高めるため、地域ブランドとしての確立を可能とする「地域団体商標制度」があるが、その商標出願件数の5割以上を農林水産一次品や加工食品が占めている(第3-3-29図)。
 
第3-3-29図 産品別地域団体商標出願件数の内訳
〜農林水産一次品や加工食品が全体の5割以上を占める〜
第3-3-29図 産品別地域団体商標出願件数の内訳
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2 商品開発に向けた連携の状況
 (株)三菱総合研究所が行った「地域中小企業の地域資源活用に向けた取組に関するアンケート調査」13(以下「地域資源アンケート調査」という)によると、調査対象である食料品製造業に属する中小企業の約7割が地域資源を活用した地域特産商品を取り扱っている。当該地域資源を活用した商品が総売上高に占める割合は10%未満である企業が多く、販売割合はまだ低い状況であるが(第3-3-30図)、5年前と比較すると販売量は着実に増えており、地域資源の活用による成果が今後現れてくることが期待しうる状況である(第3-3-31図)。

13 2007年12月、中小企業基本法に基づく中小企業のうち、食料品製造業3,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率15.9%。

 
第3-3-30図 総売上高に占める地域資源を活用した商品の割合
〜販売割合は10%未満が多い〜
第3-3-30図 総売上高に占める地域資源を活用した商品の割合
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第3-3-31図 5年前と比較した地域資源を活用した商品の売上高の推移
〜成果が出るまで時間がかかる〜
第3-3-31図 5年前と比較した地域資源を活用した商品の売上高の推移
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 こうした地域資源を一層活用していく上での課題は何であろうか。「地域資源アンケート調査」によると、地域資源の価格が高いことや産出量、質が安定しないなどの他に、商品は開発できても有効なマーケティング活動が行えないといった点も挙げられている(第3-3-32図)。
 
第3-3-32図 地域資源を活用する際の問題点
〜価格が高いことや質・量が安定しないという問題の他、有効なマーケティングが行えないといった問題もある〜
第3-3-32図 地域資源を活用する際の問題点
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 次に、農林水産資源を活用して商品を開発するため、現在、他の主体と連携する場合における相手先を見てみると、商品開発の各段階により重視する連携先が異なっていることが分かる(第3-3-33図)。まず、シーズの検索では、地元農家や漁業者、農協等との連携が目立つ。次に試験研究・技術開発といった段階では、国や自治体の産業支援機関との連携が多い。このことは、まず、産業支援機関が窓口となり、商品開発に最適な相手を見つけている可能性がある。商品の試作段階では、地域外の同業他社と、販売マーケティング・量産化の段階では、大手企業との連携が多く見られる。連携先として地域内の異業種他社や地域外の同業他社を挙げていることは、商品開発に当たり、地元の同業他社は基本的にライバルであり、「真似される」などの警戒感から異業種他社や地域外の同業他社を挙げているのではないかと推測される14。また、販売・マーケティングや量産化の段階で大手企業との連携が高いのは、大手企業の持つ情報や販路が魅力的であり、全国展開の販売を念頭に置いているためと考えられる15

14 中小企業が地域資源を活用した商品を販売するに当たり、最も脅威を感じている競合品として挙げられているのは、同一地域内の非大手企業の商品である(付注3-3-6)。
15 販売・マーケティングや量産化の段階で、大手企業と連携している企業の念頭に置く販売先を見ると、自社と隣接しない都道府県が多くなっている(付注3-3-7)。

 
第3-3-33図 商品開発に向けた各段階別の連携相手
第3-3-33図 商品開発に向けた各段階別の連携相手
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 こうした連携を進めていく上で仲介者として期待されている主体としては、「農家、漁業者、農協等」が最も高く、次いで「小売店等バイヤー」となっている(第3-3-34図)。商品開発という点で原材料調達が大きな鍵となっているため、地元有力農家や漁業者、農協等が仲介者として期待されていると考えられる。また、小売店等バイヤーに対する期待が高いことは、販路等の確保において重視されている結果であると考えられる。
 
第3-3-34図 商品開発において連携を進めるに当たり期待する仲介者
〜農家、漁業者、農協等の生産者や小売店等バイヤーへの仲介者としての期待が高い〜
第3-3-34図 商品開発において連携を進めるに当たり期待する仲介者
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 今後地域資源を活用した商品開発の中で、農家や漁業者等の生産者や生産者団体との連携を考えている企業は63.3%となっており、仲介者としてだけでなく連携先としても期待が高いことが分かる(第3-3-35図)。その内容としては、地域ブランド・商品ブランドの形成や原材料の直接購入以外に、トレーサビリティの実現など食の安全や消費者の信頼の確保に向けた取組の一環として生産者を巻き込んだ商品開発を目指している企業もある(第3-3-36図)。
 
第3-3-35図 食料品製造業者の農林漁業者との連携の意向
〜6割強の食料品製造業者が、農林漁業者との連携に意欲的である〜
第3-3-35図 食料品製造業者の農林漁業者との連携の意向
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第3-3-36図 農林漁業者と連携する具体的な内容
〜ブランド形成や原材料の確保の他、トレーサビリティの実現など食の安全や消費者の信頼の確保のために農林漁業者との連携を考える企業も見られる〜
第3-3-36図 農林漁業者と連携する具体的な内容
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事例3-3-3 地域資源(農林型)を活用し、公設試験場や大学との連携により成功した中小企業

 北海道南幌町の株式会社スリービー(従業員15名、資本金1,000万円)は、「たもぎ茸」の生産で全国の8割のシェアを誇るバイオベンチャーである。同社は、道立林産試験場との共同研究で、北海道の短い夏のわずかな間にしか採れなかったヒラタケ科の食用キノコ「たもぎ茸」の人工栽培技術の開発に成功した。また、北海道大学と連携して、天然濃縮エキスで、免疫力をサポートするβ-グルカンが多く含まれている健康食品の開発に成功し、大手医薬品メーカー太田胃散のOEM(相手先ブランドでの製品の製造)を手がけている。同社は、林産試験場や大学との共同研究を行うことで、商品に関する科学的なエビデンスの提示が可能となり、消費者が安心して購入することができるという好循環があると考え、今後も積極的に連携を行っていく方針である。
 
食用きのこ「たもぎ茸」由来の栄養補助食品「セラミド3000」
食用きのこ「たもぎ茸」由来の栄養補助食品「セラミド3000」

3 消費者に選択されるための連携の重要性
 これまで農林水産資源を活用した商品開発に向けた農林水産品の生産者、食料品製造業者、販売業者との連携を中心とした供給サイドの取組状況を見てきたが、ここでは需要サイドの視点、すなわち農林水産品や食品を購入する消費者の行動を見ていこう。
 (株)三菱総合研究所が行った「全国消費者意識調査」16によれば、消費者が食品を購入する際に重視する項目は価格、品質、安全性が挙げられているが、こうした中で、原産地あるいは加工・製造された地域名が明示されていることが購買あるいは商品選択の決定要因となる食品としては、肉加工品や塩干魚介類、水産練製品が挙げられている17(第3-3-37図)。こうした食品では、地域名が明示されていることにより、消費者は、安全・安心、性能(おいしさ)、新鮮、美しさが優れていると強く意識しているようである(第3-3-38図)。

16 2007年12月、全国の消費者を対象に実施したインターネットを活用したweb調査。回答数3,638人。
17 付注3-3-8参照。

 
第3-3-37図 食品を購入する際に重視する項目
〜価格、品質、安全性が重視されている〜
第3-3-37図 食品を購入する際に重視する項目
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第3-3-38図 地域名が明示されていることで優れていると意識する項目
〜安全・安心、性能(おいしさ)、新鮮、美しさやトレーサビリティが地域名により優位性が増す〜
第3-3-38図 地域名が明示されていることで優れていると意識する項目
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 しかし一方で、特定の地域や企業がつくっているからといって必ずしも選ばれるというわけではないようであり、地域を明らかにした上で、さらにその商品の良さを的確にアピールしていくことが求められているといえる18。この点に関連し、消費者が地域名を冠した商品選択の際に影響力をもつ紹介者として上位に挙げているのは、消費者(口コミ、ブログ等)、メディア(新聞、テレビ、ラジオ、雑誌等)、生産者・メーカーであり、こうしたルートを意識した情報発信も意識する必要があるだろう。特に消費者のインターネットにおける商品情報の受発信が活発化している中で、地域名を冠した食品についてはメディア、生産者・メーカーからの情報発信も期待されていることがうかがえる(第3-3-39図)。

18 「全国消費者意識調査」によると、「地域名を冠した食品を購入する際、製造企業や販売企業の所在地についてどの程度気にしますか」という質問に、「商品記載の地域名にこだわらない」と回答した消費者が6割から7割を占めており、単に地域名だけでは、消費者が商品を購入するわけではないことがうかがえる。

 
第3-3-39図 食品購入意欲を駆り立てるのに影響力を持つ紹介者
〜消費者情報以外にメディアや生産者、メーカーからの情報も期待されている〜
第3-3-39図 食品購入意欲を駆り立てるのに影響力を持つ紹介者
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 消費者の安全性、品質への意識の高まりもあり、地域ブランド商品自体への関心は高いとはいえ、折角の付加価値をもった商品であったとしても、生産者・産地側は単に商品を販売業者に委ねるだけでは消費者の購買にはつながらない。その付加価値を伝えるべく、これまで以上に情報発信をしていく必要がある。そして販売業者側は、消費者の感度の高まり、地域ブランド食品に対する情報ニーズに応えるため、こうした情報にアンテナを張り巡らし、商品を販売していく方法が必要である。

4 農商工連携に向けて
 以上のとおり本節では、農林水産型の地域資源をいかに活用していくかという観点から、農林水産品の生産者、食品の製造業者や販売業者を中心に見てきた。
 農林水産型の地域資源の活用にあたっては、「地元の農林水産品をもっと販売できないか」という生産者(農)の発想だけでなく、「農林水産品を用いて新しい商品開発等を行うことにより付加価値を生み出せないか」という視点からアイディアを持ち、技術力のある製造業者(工)、そして消費者のニーズを掴むという観点から消費者の声に接している販売業者(商)との連携は有効である。
 特に新たな商品開発を行い、一定の規模と安定的な販売量を確保し、地域資源を活用した地域産業に発展させるためには、生産・流通・販売のノウハウを総合的に活用していく上で、農商工連携は極めて重要である。
 メーカーにとっては、農家や漁業者等の生産者と連携して商品開発に取り組むことは、安定的な原材料の確保の他、トレーサビリティの実現など食の安全や消費者の信頼の確保といった点でメリットがある一方で、販売業者にとっては、消費者への訴求力のある産地名を冠することでより魅力的で高付加価値な商品を確保することができるメリットがある。
 原材料等の産地名を冠した産地ブランド商品は、消費者にとって魅力的な付加価値商品ではあるが、生産者やメーカーは、単によりよい販売業者に販売すればよいというものではない。消費者が産地ブランド商品への購買意欲を持ち続けるためには、販売業者(商)だけでなく、生産者(農)やメーカー(工)が「商品コンセプトや情報」を消費者に直接伝えていくべく、積極的な情報発信が重要である。この意味からも、高付加価値商品を販売しようとすればするほど、農商工連携はさらに重要となってくるといえる。

事例3-3-4 市が主導したネットワークから生まれた農商工事例「江別小麦めん」

 株式会社菊水(従業員600名、資本金1億8,000万円)は、北海道シェアトップの生産規模を誇る製麺会社である。同社は、地元江別市の小麦「ハルユタカ」を活用した「江別小麦めん」を、素材特性を生かす新技術の手打ち式製麺法で開発し、地域ブランドとしての確立に成功した。そのきっかけとなったのは、江別市がとりまとめた「江別経済ネットワーク」である。地元産小麦の付加価値を高めるため、農家、食品製造業者、流通業者、農協、公設試験研究機関、大学、住民(消費者)、行政(江別市)など地域の多様な主体が連携して、小麦の生産から加工、流通、さらには消費まで一貫して江別市内で行われている。この「江別小麦めん」は260万食の売上(2006年実績)で地域活性化に貢献し、長距離輸送の輸入小麦ではなく、地元の地域資源を活用することで環境負荷の軽減にも寄与している。
 同社では、今後も農家と消費者の間の距離を縮め、農家、消費者その他の関係主体との連携によるモノ作りの強化に取り組んでいきたいとしている。
 
地元の小麦「ハルユタカ」を活用した「江別小麦めん」
地元の小麦「ハルユタカ」を活用した「江別小麦めん」

事例3-3-5 農商工学官連携による新しい地域ブランドの形成への取組

 青森県八戸市の水産加工会社である丸竹八戸水産株式会社(従業員126名、資本金7,200万円)と八戸大学ビジネス学部の石原慎士准教授は、八戸前沖の太平洋で漁獲されるさばの旨みを科学的に明らかにするとともに、大手百貨店と連携して商品開発を進め、さらに地元商工会議所と協力して、「八戸前沖さば」という新しい地域ブランドの形成に取り組んでいる。
 八戸港に水揚げされるさばは、イカに次ぐ主力魚種であるが、その漁価は他の漁港に比して相対的に安かった。「脂の乗っている八戸前沖のさばがなぜ安いのか。何とか付加価値を高めたい。」と考えた石原准教授は、地元飲食店の紹介で同社社長と知り合い、産学連携による「八戸前沖さば」のブランド化に取り組むこととなる。はじめに、公設試験研究所で最も脂の乗っている時期のさばの旨みを分析し、さばの北限である八戸前沖では、秋の時期に回遊するさばの脂が25%以上になることを科学的に証明することに成功した。そして、同社が守り続けてきた無添加によるしめさばの製造技術を活かして新たな商品の開発を行った。さらに、こうして開発したしめさばを高付加価値品として首都圏の消費者に購入してもらうため、地域ブランド産品の開発を通じて知り合った東京の大手百貨店のバイヤーと連携して、商品の大きさ、パッケージ、商品コンセプトを含めた商品の再開発に取り組んだ。こうした努力が結実し、新たに開発したしめさばは九州地区で販売を開始し、売上を順調に伸ばしている。
 さらに、しめさばの成功を一企業の成功物語に終わらせないために、地元商工会議所と連携して、「さばのまち八戸」のイメージ作りや、地元住民のさばの消費拡大を目指して、「さば料理コンテスト」といった様々なイベントを開催した。特に「さば料理コンテスト」では、地元の高校生が多数応募したほか、地元飲食店の料理人が一つ一つ吟味して評価することで話題となり、多くの町中でさば料理が見られるようになった。
 このように、地元で埋もれていた地域資源を活用した高付加価値商品を開発するという中小企業の取組は、大学との連携をきっかけとして始まり、地域の様々な主体を巻き込みながら、地域ブランドの確立を目指した地域社会全体の運動へと発展している。
 
「八戸前沖北緯四〇度三〇分海域限定鯖使用」のしめさば
「八戸前沖北緯四〇度三〇分海域限定鯖使用」のしめさば

 第3章 新たな連携やネットワークの形成に取り組む中小企業

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