第3部 地域経済と中小企業の活性化 

第3節 中小企業の情報開示とコーポレートガバナンス

 前節においては、金融機関が中小企業に対して担保や保証に過度に依存しない融資等を積極的に行っていくためには、金融機関が中小企業の事業内容や将来性を評価する能力を向上させる必要性を指摘したが、中小企業の側も金融機関に対して事業内容や財務状態に関して十分な情報を提供することが必要である。
 本節では、中小企業が自社の取引先等のステークホルダー(利害関係者)に対して事業内容や財務状態に関する情報をどのように開示しているのかという実態を概観する。そして、こうした情報開示と密接な関係にあると考えられるコーポレートガバナンス(企業統治)が中小企業ではどのように機能しているのか見ていく。

1 情報開示(ディスクロージャー)への取組
 第3-2-28図は、中小企業が関係者に対して決算書、事業計画書等の情報開示をどのように行っているのかを示している。これによると、中小企業の多くは取引先の金融機関に対して決算書を提供しているが、年次報告書、事業計画、リスク情報の提供は決算書に比べて行われていない実態が浮かび上がる。このように決算書に比べて年次報告書、事業計画、リスク情報の提供が低調である傾向は株主や主要取引先・顧客に対しても同様である。
 
第3-2-28図 企業情報の開示先
〜中小企業の企業情報の主たる開示先は取引金融機関、株主の割合が高い〜
第3-2-28図 企業情報の開示先
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 次に、こうした情報開示に取り組むことで中小企業はどのようなメリットがあると感じているのかについて、第3-2-29図に基づき見ていこう。従業員規模で小さな企業から中堅の企業までおおむね共通して「信用力の向上」や「金融機関からのスムーズな資金調達」を情報開示のメリットとして挙げる企業が多く、「メリットはない」という回答は少数である。
 
第3-2-29図 情報開示に伴うメリット(従業員規模別)
〜従業員規模が大きくなるほど、「企業イメージ」、小さくなるほど「金融機関からの資金調達」をメリットとしている〜
第3-2-29図 情報開示に伴うメリット(従業員規模別)
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 一方、情報開示に伴うデメリットについてはどうであろうか。第3-2-30図によると、「書類作成に時間がかかる」、「税理士、会計士、弁護士等に対する支払い費用の増加」、「人件費の増加」を挙げる中小企業の割合が高いが、「デメリットはない」との回答も一定程度ある。
 
第3-2-30図 情報開示に伴うデメリット(従業員規模別)
〜従業員規模が大きくなるほど、情報開示に時間的、人的コスト負担を感じている〜
第3-2-30図 情報開示に伴うデメリット(従業員規模別)
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 中小企業はこうしたメリットとデメリットを比較考慮しながら情報開示の意思決定をしていると考えられるが、前節で見たとおり金融機関は一定の情報開示等の条件の下で担保や保証に依存しない融資に取り組み始めており、情報開示のメリットが増大している。したがって、中小企業においては正確で信頼性の高い決算書を提供するとともに、事業計画の作成や事業内容のわかりやすい説明に一層積極的に取り組むことが望まれる。
 また、情報開示への積極的な取組は、代表者を含む経営者が情報開示先の外部の目を気にした経営に取り組むようになるという効果があり、企業経営の規律強化を通じて適切な経営判断が行われるのに資する面もある。先の第3-2-29図で見たように、中小企業が感じる情報開示のメリットの種類においても、こうした「適切な経営判断への寄与」をメリットとして挙げている中小企業は少なくない。

2 中小企業におけるコーポレートガバナンス
 前項では、中小企業の情報開示に関連して、積極的な情報開示が経営者の意識変化を通じて中小企業の経営規律に影響を与える面を指摘した。本項では、より一般的に中小企業の経営規律に関する問題、すなわち中小企業におけるコーポレートガバナンス(企業統治)について考えてみよう。
 コーポレートガバナンスとは、一般には、企業が内部や外部からの監視や規律を活用し、経営者、株主、債権者等のステークホルダー(利害関係者)のためにどのような活動を行うかを明確に示し、適切な経営判断や経営の効率化を促進する仕組みを指す。
 一般に大企業と中小企業ではコーポレートガバナンスの実態が異なると考えられている。例えば、上場している大企業については株主が非常に重要なステークホルダーであるのに対し、大多数の中小企業は株式を公開しておらず、第3-2-14図で見たように代表者自らが株式の大部分を保有している場合が多いことから、株主が経営の監視者として機能しないとされている。
 こうした中小企業におけるコーポレートガバナンスの実態を「中小企業向け調査」に基づき見ていこう。第3-2-31図は、中小企業が自社にとってのステークホルダーをどのように認識しているかを示している。最も利害関係があると認識している主体が代表者となっているのは当然の結果ともいえるが、取引金融機関と従業員をステークホルダーとして認識している度合いがおおむね同じような水準である点は興味深い。
 
第3-2-31図 中小企業が認識するステークホルダー(従業員規模別)
〜ステークホルダーは代表者であると認識している企業の割合が高い〜
第3-2-31図 中小企業が認識するステークホルダー(従業員規模別)
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 また、株主をステークホルダーとして認識している度合いが、従業員規模の大きな企業ほど高くなっているが、これは、大きな企業ほど代表者やその一族以外の主体が当該企業の株式を保有しており、株主をステークホルダーとして強く認識するようになる傾向を示すものと考えられよう。
 次に中小企業は自社のコーポレートガバンナンスを適切に構築するためにどのような取組を重要と感じているのかについて、第3-2-32図〔1〕に基づいて見ていこう。これによると、「企業理念の明確化」や「法令等遵守(コンプライアンス)の重視・徹底」をコーポレートガバナンスの構築のための取組として重要視している中小企業の割合が高い。一方で、「ステークホルダーへの説明責任の重視・徹底」、「迅速かつ適切なディスクロージャーの重視・徹底」について重要視する企業の割合は相対的に低く、「重要ではない」、「わからない」とする企業もそれぞれ25%程度存在する。
 これに対して、中小企業において重要なステークホルダーとして認識されている金融機関は、中小企業におけるコーポレートガバナンスの構築のための取組として何が重要と考えているのだろうか。第3-2-32図〔2〕が示しているとおり、金融機関は「法令等遵守(コンプライアンス)の重視・徹底」が最も重要と考えているが、「ステークホルダーへの説明責任の重視・徹底」、「迅速かつ適切なディスクロージャーの重視・徹底」についても中小企業の認識度合いに比べてより重視している姿が伺える。
 
第3-2-32図〔1〕 中小企業のコーポレートガバナンス構築における重要な取組(中小企業)
〜「企業理念の明確化」、「法令等遵守(コンプライアンス)の重視・徹底」に対する意識が高い〜
第3-2-32図〔1〕 中小企業のコーポレートガバナンス構築における重要な取組(中小企業)
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第3-2-32図〔2〕 中小企業のコーポレートガバナンス構築における重要な取組(金融機関)
〜金融機関は「ステークホルダーへの説明責任」「迅速かつ適切なディスクロージャー」「法令等遵守(コンプライアンス)」をより重視している〜
第3-2-32図〔2〕 中小企業のコーポレートガバナンス構築における重要な取組(金融機関)
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 以上で、中小企業における情報開示やコーポレートガバナンスの実態を見てきたが、今後、中小企業が金融機関から資金を円滑に調達できる環境を一層整備していくためには、中小企業と金融機関が情報開示やコーポレートガバナンスの在り方について認識を摺り合わせ、良好な取引関係を構築していくことが必要であるといえよう。

事例3-2-4 地域社会を積極的にステークホルダーに取り込み、企業価値向上に取り組んでいる企業

 兵庫県神戸市の神戸電子パーツ株式会社(従業員数8名)は、設備機器用の保守電子部品・各種現場計測器・工具等を取り扱う卸小売業者である。
 同社は、企業自らが存在意義や社会的な責任を企業理念として明確にすることが企業の存続につながると考え、コーポレートガバナンス構築への取組として、法令等を遵守して地域社会や環境との調和を図りながら事業活動を行うことを経営上の最重要課題としている。
 具体的な取組としては、中学生・高校生を対象とした社会体験学習活動や寄付授業の実施、環境保全活動への地域認証(KEMS:神戸環境マネジメントシステム)の取得と実践を通じた環境負荷の低減等に取り組んでおり、こうした活動により地域への貢献を目指している。
 現在、神戸市周辺の地元企業やNPO、教育機関、自治体等が集まり、地域への貢献度を示す新たな指標として「地域CSR/SR認証システム」の策定に向けた検討が行われている。同社社長は、この検討作業にも参加し、雇用・納税・環境・教育等の観点から議論に貢献している。
 同社社長は、「コーポレートガバナンス構築は、その過程において、課題やテーマの増加に伴うコスト負担も発生するが、外部のステークホルダーに評価を求めることで、企業価値の向上につながり、経営者および従業員の社会性の向上に資する。」としており、今後、中小企業の事業活動におけるコーポレートガバナンス構築への取組の重要性は一層高まっていくと見ている。

※ 「こうべ環境フォーラム」(事業者や事業者団体、市民等の有志と兵庫県、神戸市で構成される会議体)は、環境マネージメントの国際規格ISO14001の取得が費用や労力などの面で中小企業には難しいと言われているため、ISO14001とは異なる神戸独自の環境マネジメントシステムで、中小企業でも取り組みやすい「KEMS(ケムズ)」(神戸環境マネジメントシステム)審査登録制度を創設し、2004年1月に募集を開始した。

 第2章 地域における中小企業金融の機能強化

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