第3部 地域経済と中小企業の活性化 

第2節 地域中小企業の資金調達の多様化

 前節で見てきたように、地域の中小企業が円滑に資金を調達できる環境を整備するためには、中小企業と地域金融機関の取引関係の強化が重要である。
 こうした中、金融庁は「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム」18(以下「アクションプログラム」という)を公表し、地域金融機関に対し、地域密着型金融の機能強化のための具体的推進項目を掲げ、〔1〕事業再生・中小企業金融の円滑化、〔2〕経営力の強化、〔3〕地域の利用者の利便性向上を3つの柱とする計画策定・進捗状況の公表を求めてきた。
 また、政府系中小企業金融機関19や信用保証協会は、民間金融機関による資金供給を補完する観点から、担保や保証に過度に依存しない融資などの新たな手法を用いた資金供給等を積極的に推進してきた。
 本節では、地域における中小企業金融の円滑化のための取組として、地域密着型金融の進捗状況や新たに開発されてきた中小企業向けの多様な資金調達手法の普及状況を概観し、地域における中小企業金融の機能強化に向けた課題を考察していきたい。

18 金融庁(2005)。
19 政府系中小企業金融機関とは、国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫を指す。


1 地域密着型金融の進捗
 金融庁は、アクションプログラムの中で、中小企業金融の円滑化のための推進項目として、〔1〕創業・新事業支援機能等の強化、〔2〕取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化、〔3〕担保・保証に過度に依存しない融資の推進等の6項目を掲げている。本項では、この6項のうち上記の〔1〕から〔3〕に焦点を当て、地域金融機関の具体的な取組の状況を見ていく。
 〔1〕創業・新事業支援機能等の強化
 地域中小企業の創業・新事業支援のため各地域金融機関が独自の創業等支援融資商品を開発し、融資実績を伸ばしている。また、政府系金融機関との協調融資の他、地域資源に注目した地域企業育成ファンドの組成などの新たな取組も行われている20

20 付注3-2-8参照。


 〔2〕取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化
 中小企業への経営相談・支援機能の強化も積極的に進められている。具体的には、海外企業との交流会や事業承継セミナーの開催、外部の専門家等と連携した知的財産権の保護や活用推進等の取組が見られ、複数の金融機関合同による取引先交流会、商談会などを通したビジネスマッチングの成約件数は大幅に増加している21

 〔3〕担保・保証に過度に依存しない融資の推進等
 担保・保証に過度に依存しない融資の実績推移を見ると、クイックローンに代表される「スコアリングモデルを活用した商品による融資」22「シンジケートローン」23の実績が高い(第3-2-17図)。

21 地域金融機関によるビジネスマッチングの件数は2006年度において24,000件の実績がある。〈金融庁(2007)「地域密着型金融(平成15〜18年度 第2次アクションプログラム終了時まで)の進捗状況について」〉
22 「スコアリングモデルを活用した商品による融資」には〔1〕母集団となるデータから統計的に算出した倒産確率等によって融資審査を行う、〔2〕貸出案件毎にリスクを管理するのではなく、大数の法則に基づき貸出債権をポートフォリオ全体でリスク管理をする、〔3〕短時間で融資審査を行う、〔4〕貸出額に限度制限がある、〔5〕審査の多くの部分が自動化されるため、審査コストの軽減が図れる、等の特徴がある。(中小企業白書2005)
23 複数の金融機関が集まってシンジケート団を組成し、同一の契約書に全当事者が調印し、同一の条件の下、協調して信用供与を行う手法。

 
第3-2-17図 地域金融機関による担保・保証に過度に依存しない融資実績
〜「シンジケートローン」、「スコアリングモデルを活用した商品による融資」の実績が伸びている〜
第3-2-17図 地域金融機関による担保・保証に過度に依存しない融資実績
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 このような地域金融機関の取組について、中小企業を含む利用者も歓迎している。
 金融庁が行った「中小・地域金融機関に対する利用者等の評価に関するアンケート調査」(2006年度)24によると、利用者の52.6%が「大変進んでいる」「進んでいる」とする積極的評価を行っている。また中小企業金融の円滑化のための推進項目についても、それぞれ2004年度の評価と比較して積極的な評価の割合が大きく増加している。但し、「担保・保証に過度に依存しない融資等への取組」については「あまり進んでいない」「全く進んでいない」とする消極的評価が積極的評価を上回っている(第3-2-18図)。

24 金融庁(2007)。回答を行った利用者等とは、商工関係者、消費者等のほか、商工会議所等の経営指導員(中小企業診断士等)。

 
第3-2-18図 地域密着型金融の機能強化に関するアクションプログラム(2005年度〜2006年度)に対する利用者評価(2006年度)
〜「担保・保証に過度に依存しない融資への取組」に対する消極的評価が、積極的評価を上回る〜
第3-2-18図 地域密着型金融の機能強化に関するアクションプログラム(2005年度〜2006年度)に対する利用者評価(2006年度)

 第3-2-19図は、中小企業が金融機関に求める取組・サービスと、金融機関が中小企業に求められていると考える取組・サービスを比較したものである。資金の供給側である金融機関においては、「安定した資金供給」に次いで「経営指導・アドバイス」、「事業内容の理解」と回答した割合が高く、貸出以外のコンサルティング等も重視していると考えているが、資金の需要側の中小企業は「金利水準」、「担保・保証条件の柔軟さ」の割合が高く、借入条件に対する要求が高いことがうかがえる。
 
第3-2-19図 金融機関に求められている取組・サービス
〜金融機関は貸出条件以外の経営支援を重視しているが、中小企業は借入条件を重視している〜
第3-2-19図 金融機関に求められている取組・サービス
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 また、金融機関の業態別に見ると、地域金融機関をメインバンクとする企業は、メガバンク等をメインバンクとする企業と比べ「担保・保証条件の柔軟さ」への要求が高いことが分かる(第3-2-20図)。
 
第3-2-20図 取引金融機関に求める取組・サービス(金融機関業態別)
〜地域金融機関に対して 「担保保証条件の柔軟さ」を求める中小企業の割合が高い〜
第3-2-20図 取引金融機関に求める取組・サービス(金融機関業態別)
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 このように金融機関側の認識と中小企業側のニーズには一定のギャップがあると思われる。今後、地域金融機関が中小企業のニーズに一層応えるような資金供給手法やその他のサービスの提供に努力することにより、中小企業の成長を通じた地域経済の活性化に寄与するとともに、自らの収益力の向上につなげていくことが期待される。とりわけ、担保や保証に過度に依存しない融資への取組に対する中小企業のニーズが大きいと考えられることから、次項ではこの問題を採り上げることとしたい。

事例3-2-1 地域企業育成ファンドから資金調達を行った企業

 愛媛県松山市の株式会社活媛(従業員3名)は、2004年に設立され、あなごの養殖及び加工販売業を営む小規模企業である。同社の養殖あなご、「活媛あなご」は、養殖過程から餌に至るまで無投薬で徹底した生産管理を行っている。元来、あなごは養殖が難しいとされていたが、同社は研究開発の末、陸上の水槽等で、無投薬、さらに天然であれば2年かかるところをわずか6ヶ月で出荷最適サイズまでに成長させる養殖技術の開発に成功した。あなごの大きさを均一に保つことができるなど、安定的な品質の商品生産・供給が可能であることが同社の強みである。
 「活媛あなご」の安定生産が可能になり、事業の拡大を計画していた時、メインバンクである株式会社愛媛銀行に資金調達の相談を行ったところ、同行及び中小機構、日立キャピタル株式会社等が中心となって創設した「えひめガイヤファンド」(※)の紹介を受けた。それ以降、同ファンドのアドバイザーから事業計画の策定や、販路確保について支援を受け、2007年2月に出資を受けるに至った。その後も、同ファンドに対して月に1度は事業の報告を行っており、アドバイザーも頻繁に同社を訪れ、経営相談に乗ってもらっているという。
 同社は、「一般的な融資を受けることが難しい創業時に、ファンドから早期償還の必要のない安定資金の確保ができたこと、企業単独では難しい事業計画の策定や、販路確保について支援を受けられたことで、早期に事業を軌道に乗せられた。」としている。
 同社は、現在、国内のレストラン、料亭等に加工商品の販売を行っているほか、ロサンゼルスでの品評会に出店したことをきっかけに、小ロットであるが、ロサンゼルスやニューヨークの日本食レストラン向けにも販売を開始した。販路拡大とともに販売先のニーズに合わせた商品の開発を行っている。
 
「活媛あなご」の刺身
「活媛あなご」の刺身


※ えひめガイヤファンド
 「えひめガイヤファンド」は、愛媛県南西部(南予)をはじめとした地域の活性化を目指して、地域の基幹産業である農林漁業及びその関連産業分野(食品加工等)の事業を行う企業を対象に投資を行い、その事業成長を継続的に育成・支援(ハンズオン)する地域ファンドとして2006年11月に創設された。地域の活性化に資する新しいビジネスモデルを展開する企業が、地域のコア企業に成長するように支援することを目的としている。
 財務支援や販売支援、ビジネスマッチングなどのハンズオン支援の実施に当たっては、無限責任組合員であるひめぎん総合リース株式会社を中心に、有限責任組合員である株式会社愛媛銀行、中小機構及び日立キャピタル株式会社が連携しており、さらに愛媛県、市町村、農林漁業金融公庫、愛媛大学、愛媛経済同友会、TKC四国会、井関農機株式会社などとも連携し、投資先のニーズに応じた効果的なハンズオン支援に取り組んでいる。
 具体的には、投資の前段階から事業計画の策定支援、販路確保の支援等を行い、投資後も企業と販売先との勉強会の実施、情報提供等を行っているが、個々の企業によって課題は異なるので、緊密なコミュニケーションを取りながら、早期かつ持続的なハンズオン支援を行っている。

2 担保や保証に過度に依存しない融資
 金融機関が中小企業に対して融資を行う場合、土地等の資産を担保として徴求したり、代表者等に対して債務保証を求めることが多い。
 第3-2-21図〔1〕は、中小企業がメインバンクに対して不動産等の物的担保を提供している状況を示している。これによると、おおむね4社のうち3社が物的担保の提供を行っているとしている。業種別に見ると、サービス業(他に分類されないもの)、情報通信業において担保を提供している企業の割合が低いなど、業種間の差異が見られる。
 
第3-2-21図〔1〕 メインバンクへの担保提供状況(業種別)
〜「サービス業(他に分類されないもの)」、「情報通信業」において担保提供企業の割合が低い〜
第3-2-21図〔1〕 メインバンクへの担保提供状況(業種別)
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 また、第3-2-21図〔2〕は保証人の保証を提供している状況を示しているが、約8割の企業が保証の提供を行っており、業種間で担保提供ほどのばらつきは見られない。
 
第3-2-21図〔2〕 メインバンクへの保証人の保証提供状況(業種別)
〜担保提供と比べ業種間のばらつきは小さい〜
第3-2-21図〔2〕 メインバンクへの保証人の保証提供状況(業種別)
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 大企業が金融機関から借入をする場合、金融機関が当該大企業の代表者に対して借入に係る債務の保証を求めることは稀である。これに対して、中小規模の会社が金融機関から借入をする場合、金融機関が会社の代表者に対して当該会社の債務の保証を求めるのが一般的である。第3-2-14図で見たとおり、中小企業の場合、代表者及びその一族が自社の株式の大部分を所有し(所有と経営の未分離)、会社と代表者は実質的には同一人格と考えられるケースが多いことから、金融機関は融資の際に会社の借入金に係る責任を代表者に求め、会社経営におけるモラルハザードを防止しようとする傾向があるため、代表者の保証の徴求が一般的となっていると考えられる。
 それでは、金融機関が、このような代表者の保証に加え、物的担保や第三者の保証も徴求する場合があるのはどのような理由からであろうか。
 その理由としては、貸し手の金融機関と借り手の中小企業との間に存在する「情報の非対称性」が挙げられる。ここでいう情報の非対称性とは、貸し手である金融機関が借り手である中小企業の返済能力を見極めるために事業の内容や成長性等に関する正確な情報を入手することが困難であったり、入手するための多額の費用がかかるため、結果として情報が偏在している状態を指す。情報の非対称性のため、金融機関にとっては中小企業に対する融資のリスクが大きく、金融機関が物的担保や第三者の保証による債権保全を図るのは、こうしたリスクを回避するためであると考えられる。
 しかしながら、担保となるような資産や保証人となってくれるような第三者がいない中小企業でも、優れたアイディアや能力さえあれば金融機関から円滑に資金を借りることができる環境を整備することは、中小企業の潜在能力を発揮させ、我が国経済の活力を引き出していく上で非常に重要である。
 こうした観点から、中小企業の借入金のうち無担保かつ第三者保証なしの借入金の割合がどのくらいあるのかを示したのが、第3-2-22図〔1〕〜〔3〕図である。
 これによると、借入金の5割以上が無担保かつ第三者保証なしの借入金であるという中小企業は全体の3割弱であることが分かる。業種別に見ると情報通信業、次いでサービス業(他に分類されないもの)、卸売・小売業の割合が高い25(第3-2-22図〔1〕)。また、地域別に見ると関東、近畿、中部において無担保かつ第三者保証なし借入の割合が高いことが分かる(第3-2-22図〔2〕)。
25 第3-2-21図〔1〕でみたメインバンクへの担保提供状況と反比例の関係であることが分かる。

 
第3-2-22図〔1〕 無担保かつ第三者保証なし借入の割合(業種別)
〜「情報通信業」次いで「サービス業(他に分類されないもの)」において、無担保かつ第三者保証なし借入の割合が高い〜
第3-2-22図〔1〕 無担保かつ第三者保証なし借入の割合(業種別)
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第3-2-22図〔2〕 無担保かつ第三者保証なし借入の割合(地域別)
〜関東、近畿、中部の中小企業において無担保かつ第三者保証なし借入の割合が高い〜
第3-2-22図〔2〕 無担保かつ第三者保証なし借入の割合(地域別)
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第3-2-22図〔3〕 無担保かつ第三者保証なし借入の割合(従業員規模別)
〜従業員規模が小さくなるほど総借入における無担保かつ第三者保証なし借入の割合が低くなる〜
第3-2-22図〔3〕 無担保かつ第三者保証なし借入の割合(従業員規模別)
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 シンジケートローン等の担保や保証に過度に依存しない融資手法は、規模の経済を活かせる大手金融機関に比較優位があるといわれている26。第1節で見たように、首都圏、近畿圏等における中小企業は他地域に比べメガバンク等や、他都道府県の地域金融機関との取引割合が高く、担保や保証に過度に依存しない融資が積極的に行われている可能性がある。
 また、情報通信業、サービス業(他に分類されないもの)等は首都圏、近畿圏等の都市圏に集積が見られる。資産背景に乏しく、担保や保証に過度に依存しない融資の需要があるこれらの業種に対し、資産背景に即した資金供給が行われていることも考えられる。
一方で、従業員規模が小さくなるほど無担保かつ第三者保証なし借入の割合は低く(第3-2-22図〔3〕)、ニーズも高い(第3-2-23図)。

26 小野(2007)は、シンジケートローン、クイックローン等の新たな資金供給手法について、『財務情報等の定量的かつ認証可能な「ハード」情報に基づいて与信判断がなされるトランザクション型貸出に属するもの』であり、『組織内での情報伝達が容易なため、融資担当者との間のエージェンシーコストは小さく、融資担当者間の内部競争が活発な大手金融機関の方がこうした貸出手法に向いている。加えて、管理システムの構築・整備など、多額のITシステム投資が必要とされることも、規模の経済を活かせる大手金融機関に比較優位がある一因となっている』としている。

 
第3-2-23図 無担保かつ第三者保証なし借入のニーズ(従業員規模別)
〜従業員規模が小さくなるほど無担保かつ第三者保証なし借入のニーズは高い〜
第3-2-23図 無担保かつ第三者保証なし借入のニーズ(従業員規模別)
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 第3-2-24図は、地域金融機関が担保や保証に過度に依存しない融資を推進する上での課題として認識しているものを示したものであるが、最も課題と考えられているのが「中小企業の技術力や将来性を見る目利き能力の不足」となっている。今後、中小企業に対して担保や保証に過度に依存しない融資を拡大していくためには、金融機関が中小企業の技術力や将来性に関する正確な情報を入手し、評価する能力を向上させていくことが必要である。こうした観点から、第1項で見た地域密着型金融の推進は、金融機関が中小企業と密接な取引関係を構築することにより、中小企業に関する正確な情報を入手するのを促進する点で、中小企業の円滑な資金調達のために非常に重要であるといえよう。
 
第3-2-24図 地域金融機関における担保・保証に過度に依存しない融資推進上の課題
〜地域金融機関は「中小企業の技術力や将来性を見る目利き能力の不足」を担保・保証に過度に依存しない融資推進上の課題としている〜
第3-2-24図 地域金融機関における担保・保証に過度に依存しない融資推進上の課題
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 とりわけ、地域に密着した経営を行っている地域金融機関は、地域の産業、企業、資源に関する情報を蓄積している。また、地域金融機関の中には自治体、教育機関、他業種等との連携を進め、情報交換や共同で中小企業向けの商品開発を行うなどの動きも見られる。今後、地域金融機関がこうした取組やその他の努力を通じて中小企業に関する情報を蓄積し、目利き能力を向上させることにより、地域の中小企業に対して担保や保証に過度に依存しない資金供給を拡大していくことが期待される。

3 資金調達手法の多様化
 近年、メガバンク等や大手の地域金融機関を中心に、前項で詳しく見た担保や保証に過度に依存しない融資のほか、多様な資金供給手法が開発され、導入されてきている。
 第3-2-25図は、様々な種類の資金調達手法に対する中小企業の認知度を示したものである。2005年に実施された同様の調査27と比較すると、いずれの資金調達手法も認知度が高まっており、特に流動資産担保融資(以下「ABL」28という)の認知度が大幅に高まっている。また、ファクタリング29、コミットメントライン融資30については、中小企業による実際の利用はなお少ないとされているが、認知度は低くないようである。

27 (独)経済産業研究所(委託先:(株)東京商工リサーチ)「中小企業金融環境に関する実態調査」(2005年12月)
28 ABL(アセット・ベースト・レンディング)は、事業活動が産み出す様々な資産の価値を見極めて貸出を行う手法であり、具体的には売掛金や在庫などの流動資産や営業用機械設備等の動産を担保とした貸付手法である。ABLの普及に対する措置として2007年8月に経済産業省 中小企業庁により流動資産担保融資(ABL)保証制度が制定されており、全国の信用保証協会で取り扱いが始まっている。
29 ここでは、企業が保有する売掛債権を金融サービス会社に売却し、金融サービス会社が企業に代わって売掛債権の回収を行う金融サービスを指す。
30 ここでは、金融機関との間であらかじめ一定の融資枠を設定・契約し、枠内であれば審査なしでいつでも融資を受けられる仕組みを指す。

 
第3-2-25図 中小企業における資金調達手法の認知度
〜多様な資金調達手法の認知度は高まっている〜
第3-2-25図 中小企業における資金調達手法の認知度
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 これらの資金調達手法を実際に利用したいと考えているのかどうかについて、中小企業の関心を見てみる(第3-2-26図)。多様な資金調達手法に対する実際の利用への関心度は従業員規模が小さい企業ほど低く、信用保証協会、政府系中小企業金融機関、地方自治体等が取り扱う公的融資制度への関心が高い傾向があるが、コミットメントライン融資、私募債、ファクタリングといった多様な資金調達手法に対しても、2割を超える中小企業が関心を示している。
 
第3-2-26図 資金調達手法利用への関心(従業員規模別)
〜従業員規模が小さくなるほど公的融資制度への関心が高い〜
第3-2-26図 資金調達手法利用への関心(従業員規模別)
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 第3-2-27図〔1〕〔2〕は、地域金融機関が中小企業向けの新たな資金供給手法に取り組んでいる状況を地域金融機関の業態別に示したものである。規模で勝る地方銀行・第二地方銀行による取り扱いの割合が高いものの、信用金庫・信用組合においても幅広い取組が見られ、多様な金融手法が商品として定着しつつあることがうかがえる。また、ABLについて、現時点では実績は低調であるものの、地方銀行・第二地方銀行の6割、信用金庫・信用組合で2割強が、「取り扱っていないが今後取り扱う予定」との回答していることは注目に値する。
 
第3-2-27図〔1〕 地方銀行・第二地方銀行における中小企業向け金融手法の取り扱い
〜多様な金融手法が商品として定着しつつあり、ABLの取り扱いに対し積極的な姿勢が見られる〜
第3-2-27図〔1〕 地方銀行・第二地方銀行における中小企業向け金融手法の取り扱い
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第3-2-27図〔2〕 信用金庫・信用組合における中小企業向け金融手法の取り扱い
〜地方銀行・第二地方銀行と比べて取り扱い割合は総じて低いものの、幅広い取組が見られる〜
第3-2-27図〔2〕 信用金庫・信用組合における中小企業向け金融手法の取り扱い
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事例3-2-2 流動資産担保融資(ABL)保証制度を活用して資金調達を行っている企業

 栃木県宇都宮市の日光ゆば製造株式会社(従業員11名)は、手作り「ゆば」の製造業者である。「日光ゆば」は栃木県の名産品であり、地元観光地区及び商社向けの販路を構築している。生ゆば、味付ゆば、缶詰ゆばなどオリジナル商品を多数製造・販売しており、近年は人工フカヒレの商品化など新商品開発にも積極的に取り組んでいる。
 同社は、過去に大口の設備投資を行った際には不動産担保融資を受けたこともあったが、メインバンクである商工組合中央金庫から、売掛債権や在庫といった流動資産を一体として担保提供することで資金調達できる新たな仕組みとして、流動資産担保融資(ABL)保証制度の紹介を受け、興味を持った。一見、ABLの仕組みが複雑なように感じられたが、安定した資金調達枠の確保ができることや、同社の特徴あるオリジナル商品を担保にできる新規性に着目して利用することとした。
 ABLの利用に際しては、担保提供だけでなく正確な売掛金、在庫等の管理・評価が必要であるが、同社の場合、売掛金、在庫等の管理と、取引金融機関へ毎月試算表を提出するなどの情報開示は頻繁に行っていたので、事務関係のわずらわしさは感じられないという。
 同社は、「中小・零細企業の場合、技術やノウハウがあっても、不動産担保による資金調達には限界があり、流動資産を担保とした新たな資金調達手法が普及することにより、中小・零細企業の資金調達の幅が広がるのではないか。事業や商品が評価され、それらを担保にできれば、資金調達の多様化だけでなく、対外的な企業評価も高まる。」としている。

 ABLは事業活動が産み出す資産の価値への評価に基づき融資を行うものであるため、借り手にとっても不動産担保や保証の提供に依存しない資金調達手法であるという点でメリットがあり、今後、中小企業の資金調達手段として定着していくことが期待される。
 なお、中小企業の資金調達手法の多様化を図る観点からは、預金取扱金融機関以外の信用供与主体として、ファイナンス会社やリース会社といったノンバンクの役割も重要であることに留意が必要である31
 とりわけリースについては中小企業の約8割が利用しており、重要な役割を果たしている32
 また、創業や新規事業への取組等、将来高い収益性が見込めるものの、リスクも高い事業への資金(リスクマネー)を供給する新たな仕組みとして、「成功払い型融資」や「新株予約権(ワラント)付社債」などが政府系中小企業金融機関を中心に導入され、推進されてきている。

31 中小企業白書(2003)は、ノンバンクを利用している企業の特徴について『〔1〕財務良好ではなく、〔2〕メインバンクとの関係が円滑でない企業がノンバンクを利用している、〔3〕不動産業やサービス業で多く利用されており、ノンバンクの利用には業種によって特性がある一方で、〔4〕ノンバンク借入の「迅速さ」や「簡便さ」というメリットを感じている企業も存在する。』としている。
32 中小企業におけるリースの活用状況については付注3-2-9参照。


事例3-2-3 リースの活用により設備投資を行っている企業

 愛知県田原市の株式会社オガワ農材(従業員数10名)は、有機肥料の製造・販売業を営んできたが、新たに固形燃料(RDF)の製造事業を開始するのに当たり、リースの活用により設備投資を行った中小企業である。
 同社は、食品工場から排出される廃棄物(食品残渣・食品汚泥)や地元畜産農家から持ち込まれる家畜ふん尿に加え、有価で購入している木質系チップ材等を混合し、発酵・熟成の過程を経て有機肥料を製造している。販売先は農家やゴルフ場等である。
 近年、環境問題、循環型社会の形成、食品の安全性に対して国民の意識が高まっており、同社の有機肥料事業への注目度は高い。日本国内のみならず、海外からの引き合いも多く、上海に設立した現地法人を通じ、中国・マレーシア・モンゴル等への輸出を計画している。また、動植物性残渣や有機性汚泥等の多様な再利用をテーマとした研究・事業化も進めている。
 同社は、従来からの有機肥料事業に加え、新規事業として、食品残渣や木質系チップ材等を用いた固形燃料(RDF)の製造を開始した。その際、有機肥料とRDFの両方の事業に一度に対応することが可能な自動包装機(肥料又はRDFを自動で袋詰めする機械)の導入を計画し、従前からの取引先である日立キャピタル株式会社からリースで設備の導入を行った。
 同社がリースを利用するのにあたり評価している点としては、リース会社は機械設備等に関する豊富な知見を有しており、決算書だけでなく、リース物件を用いた事業の計画やリース物件の処分価値を考慮した与信を行ってくれることや、設備調達までのスピードが早いこと、物件管理にかかる事務の省力化が図られること(保険契約や固定資産税納付等)がある。
 同社は、「中小企業にとって提供できる担保等には限りがあるため、必要な資金、設備の種類・用途や財務バランスを考えて、借入とリースの使い分けを行っている。」としている。
 
自動包装機
自動包装機

コラム3-2-1 リスクマネー供給への取組

 地域経済の活性化のためには、創業を計画している個人、先進的な研究開発に取り組む中小企業、事業再生の過程にある中小企業等をバックアップしていくことが重要であるが、こうしたプロジェクトにリスクを取って挑戦している中小企業に対し、どのように資金を供給するのかが課題となっている。政府系中小企業金融機関を中心に、創業時には低利で融資を行い、一定の成功要件等が発生した場合には通常よりも高い金利へ切り替えが行われる手法や、借り手の状況に応じて返済条件が柔軟化する手法等、株式公開を前提としない企業でも利用可能な負債と資本の中間に位置する新たな資金供給手法(ハイブリッド型ファイナンス)が導入され、推進されてきている。

(1)成功払い型貸付
 当初数年の金利を低利に抑え、その後の事業の成功度合いに応じて金利が変化する融資手法。国民生活金融公庫や中小企業金融公庫が取り扱っている「再挑戦支援資金融資制度」(※)においては、事業を立ち上げた直後の資金負担を軽減するため、借入後2年間の元利金返済を抑制し、3年目以降は、売上高を基準とする事業の成功度合いに応じて金利が変化する手法を選択できる。

(2)新株予約権(ワラント)付社債
 社債発行時に定められた価額で、社債引受人が所定の株数の新株を所定の期間内に取得することができる権利を付与された社債。新株予約権付社債の償還は社債部分と新株予約権に分けられ、社債部分は定時償還されるが、新株予約権は株式公開時など一定の条件に達した場合に経営責任者等に売却することで、社債引受人はキャピタルゲインを得ることができる。
 中小企業向けには、中小企業金融公庫が「成長新事業育成特別融資制度」の一部で取り扱っている「新株予約権付融資(社債)制度」がある。

 こうしたハイブリッド型ファイナンスは、中小企業にとっては、資本性の高い資金を調達できることにより、初期段階はキャッシュフローを生み出さない事業等に取り組むことができる一方、金融機関にとっては、リスクが高いものの、事業成功時に相応のリターンを確保できるというメリットがある。現状では、政府系中小企業金融機関等の取組が中心であるが、中小企業の資金調達の多様化を図る観点から、民間金融機関においても積極的な取組が期待される。

※2008年度からは、対象融資制度が拡充される予定。

 中小企業に対する多様な資金供給手法の更なる広がりに向けて地域金融機関の果たす役割は大きい。しかしながら、第3-2-24図で見たように「中小企業の技術力や将来性を見る目利き能力の不足」などの理由から、地域金融機関における担保や保証に過度に依存しない融資を中心とした新たな資金供給手法の導入状況にはばらつきがあり、中小企業における関心度にも影響を与えていると考えられる。
 各地域金融機関が地域におけるプレゼンスを高め、地域中小企業の円滑な資金調達をさらに推進するためには、画一的な資金供給手法によらず、地域中小企業の特性、事業内容、企業規模に応じた、資金供給手法を開発・導入していくことが重要と考えられる。
 また、中小企業においても、多様な資金調達手法に目を向け、事業計画や必要資金の性格に応じた調達手法を選択していくことが必要であるといえる。

4 地域金融機関と政府系金融機関の連携
 地域金融機関が地域金融の円滑化に向けた取組を進める中で、政府系中小企業金融機関との連携も進んでいる。2003年以降、各政府系中小企業金融機関が地域金融機関と業務提携・協力に関する覚書を締結し33、ビジネスマッチングのための交流会の共同開催や創業支援や新事業支援での協調融資、担保や保証に過度に依存しない融資手法での協調融資などに注力している34
 今後とも各分野での連携が進み、地域金融機関が新たな資金供給手法への取組等を通じて地域の中小企業への資金供給機能を強化していくことが期待される35

33 商工組合中央金庫が363機関、中小企業金融公庫が458機関(2007年3月末時点)、国民生活金融公庫が412機関(2007年7月末時点)と業務提携・協力に関する覚書を締結している(各機関ホームページより)。
34 中小企業金融公庫は、地域金融機関50機関と協調し、計3回のCLOをコーディネートし、1,572件、388億円の融資を実行(2006年度)。商工組合中央金庫は地域金融機関との協調によるABL、シンジケートローンに積極的に取り組んでおり、ABLにおいて12件、12.5億円(うち単独2件1億、2006年度)、シンジケートローン主幹事組成において99件、1,092億の実績がある(2006年度)。また、付注3-2-10から地域金融機関が政府系中小企業金融機関の貸付業務に対して高い期待を持っていることがうかがえる。
35 政府が進めてきている政策金融改革により、2008年10月に国民生活金融公庫と中小企業金融公庫は、農林漁業金融公庫と国際協力銀行の国際金融等業務部門と統合し、株式会社日本政策金融公庫(政策金融を実施する機関として政府がその株式の総数を保有し、監督を行う)が発足し、商工組合中央金庫は株式会社化することとなっている。しかし、今後とも地域金融機関との連携も図りつつ、中小企業の円滑な資金調達を確保するための役割を担っていくこととなっている。


 第2章 地域における中小企業金融の機能強化

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