第3部 地域経済と中小企業の活性化 

第4節 地域を支える小規模企業

 本節では、地域経済の活性化という観点から、小規模企業について、統計データとアンケート調査の結果を用いて、その実態と課題の把握を行う。各都道府県において、県庁所在市とその他の市町村を比べると、県庁所在市内の企業数に占める小規模企業の割合はその他の市町村の小規模企業の割合よりも低い(第3-1-28図)。このため、地方経済においては小規模企業の活性化がより重要な課題であると考えられる。
 
第3-1-28図 都道府県庁所在市とその他の市町村における小規模企業比率(非一次産業・民営・2006年)
〜都道府県庁所在市か否かで小規模企業比率の差は大きい〜
第3-1-28図 都道府県庁所在市とその他の市町村における小規模企業比率(非一次産業・民営・2006年)
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1 統計データに見る小規模企業の概観
 まず、総務省「事業所・企業統計調査」により従業者規模別に企業数の推移を見てみると、2001年から2006年にかけて、全企業が470.3万社から421.0万社に減少している一方、小規模企業は410.2万社(全企業の87.2%)から、366.3万社(同87.0%)へと減少しており、小規模企業の減少率が高くなっている。また、従業者数の推移41を見てみると、同じく2001年から2006年にかけて、全従業者数が4,265.6万人から4,012.7万人になっている一方、小規模企業の従業者数は1,079.3万人(全従業者の25.3%)から929.3万人(同23.2%)となっており、こちらも小規模企業の減少率が高くなっている。
 次に、従業員の観点で見ると、第3-1-29図のとおり、規模が大きいほど総雇用者数は増加傾向にあり、かつ正規雇用者比率が下がっている一方で規模の小さい企業は数年前までは総雇用者数が減少傾向にあったが、最近では回復傾向にあり、また正規雇用者比率も水準は低いものの、維持されている。これにより、小規模企業が正規雇用者の雇用を確保してきた姿がうかがえる。

41 ここでの従業者数とは、会社の常用雇用者数及び個人事業所の従業者総数の合計を指す。詳細及び2006年時点での実績は付属統計資料3表(3)を参照。

 
第3-1-29図 従業者規模別に見た雇用者数の推移及び正規雇用者の割合
〜規模が大きいほど、雇用者数の増加傾向が強いが、正規雇用者の割合が減少傾向にある一方、規模が小さいほど正規従業員の雇用を維持している〜
第3-1-29図 従業者規模別に見た雇用者数の推移及び正規雇用者の割合
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2 アンケートから見る小規模企業の概観
 次に、アンケート調査結果を中心に小規模企業についての分析を行う42
 まず、最近の動向に関しては、従業員規模の小さな企業ほど、赤字である割合や売上が縮小していく見通しである割合が高くなっている一方で、大幅な黒字や売上が増大すると見込んでいる企業も存在している(第3-1-30図)。これは、第3-1-31図で示すとおり、多くの小規模企業の売上高経常利益率は中規模企業43より低いものの、利益率の上位2割の小規模企業においては、同じく上位2割の中規模企業の利益率よりも高い利益率を生み出していることと整合的である。第1部では、資本金規模で比較した場合に、資本金規模の小さい企業の利益率が資本金規模の大きい企業と比べて低いことを示したが(第1-1-11図)、これは利益率の平均値がそうであって、中規模企業と小規模企業を比較した場合、利益率のばらつきは小規模企業の方が大きく、企業規模は小さいものの、自社の強みを活かすことにより、高い利益率を生み出している小規模企業も少なからず存在することを示していると言えよう。

42 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が2007年11月に実施した「小規模事業者に関するアンケート調査」。調査数:20,000、回収率:16.5%。なお、同アンケートにおいて、有効回答中、「従業員5人以下」の割合が約50%、「従業員6〜20人」の割合が約40%、「従業員21人以上」の割合が約10%となっている。名簿上で小規模企業であった企業向けにアンケートを送付していることから、従業員21人以上の割合が少なくなっている。以下同じ。
43 中小企業のうち、小規模企業を除いたものを指す。

 
第3-1-30図 従業員規模別に見た直近3年間の決算動向と今後の売上見通し
〜従業員規模が小さいほど、赤字傾向、売上縮小見込みの割合が高いが、中には黒字傾向、成長見込みの企業もある〜
第3-1-30図 従業員規模別に見た直近3年間の決算動向と今後の売上見通し
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第3-1-31図 規模別に見た中小企業の売上高経常利益率の分布
〜小規模企業の上位層における売上高経常利益率は中規模企業の上位層における売上高経常利益率を上回っている〜
第3-1-31図 規模別に見た中小企業の売上高経常利益率の分布
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 では、小規模企業の強みは何であろうか。第3-1-32図は、小規模企業が自社の強みと考えている項目をまとめたものであるが、これによると、小規模企業は中規模企業と比して、「少数精鋭」であること、「現場で培われた技術力・ノウハウ」等の点で相対的に優れていると考えているようである。一方で、「優れた設備の整備・活用」や「品揃えの充実」といった点では、相対的に劣っていると考えている傾向にある。
 
第3-1-32図 小規模企業が考える自社の相対的な強み・弱み
〜小規模企業は「少数精鋭」であること、「職場で培った技術力・ノウハウ」等を相対的に優れていると考えている〜
第3-1-32図 小規模企業が考える自社の相対的な強み・弱み
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 次に、小規模企業を中心とした経営者がどのような考えを持って経営に望んでいるかを分析する。まず、経営者に対し、どのような売上・利益指標を重視しているかをたずねたところ、従業員規模が小さい企業ほど粗利益(売上総利益)を重視しており、本業そのもののパフォーマンスに注目しているのに対し、従業員規模が大きい企業ほど経常利益やキャッシュフローを重視しており、企業体全体のパフォーマンスに注目しているという相違が見られる44(第3-1-33図)。

44 また、従業員規模が大きい企業ほど、売上高や利益、売上数量といった指標を短い間隔で把握し、目標の一つとして扱っている傾向にある(付注3-1-15)。

 
第3-1-33図 経営のうえで重視している指標
〜規模が小さい企業は売上高・粗利益、規模が大きい企業は経常利益・キャッシュフローを重視している傾向にある〜
第3-1-33図 経営のうえで重視している指標
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 経営者の経営に関する考え方を従業員規模別に見ると(第3-1-34図)、従業員規模にかかわらず、「雇用の場の提供」を重視している経営者が多い。また、従業員規模が大きい企業ほど「社会への貢献」を重視している割合が多い一方、従業員規模が小さい企業ほど「家業の承継」を重視している割合が多く、企業規模により経営方針に特徴があることが分かる。また、「雇用の場の提供」または「利益の最大化」のどちらかを重視している企業のうち、「雇用の場の提供」を重視している企業を「雇用型」、「利益の最大化」を重視している企業を「利益型」、「雇用の場の提供」と「利益の最大化」の両方を重視している企業を「中間型」に分類すると、「利益型」や利益と雇用のバランスを意識する「中間型」に比べて、「雇用型」の割合が顕著に高いことが見て取れる45(第3-1-35図)。

45 同様に、今後、自社の規模を拡大する意思の有無について確認すると、従業員規模が小さい企業ほど現状維持の割合が高くなっている(付注3-1-16)。本文中で述べた経営に対する考え方と対比させた場合、「事業の承継」や「伝統技能の維持」等を重視している企業ほど、現状の規模の維持を考えている割合が高いことからも、同様のことが見て取れると思われる(付注3-1-17)。

 
第3-1-34図 規模別に見た経営方針
〜雇用の場の提供を考えている経営者が多くなっている。また、規模が小さいほど、家業の承継と考えている割合が高い〜
第3-1-34図 規模別に見た経営方針
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第3-1-35図 経営方針における「雇用型」と「利益型」
〜「雇用型」と「利益型」に分類した場合、「雇用型」が大半を占めるが、一方では、「中間型」も存在している〜
第3-1-35図 経営方針における「雇用型」と「利益型」
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 次に、実際の企業経営においては、商品の開発や販売・仕入・資金調達など、様々な意思決定が必要であるが、第3-1-36図ではこれらの意思決定について、どのような主体が関与しているのかを示している。これによると、経営者が意思決定の項目のほとんどに関与しているのは当然のことであると言えるが、規模がある程度大きくなると、商品の開発・仕入・販売といった分野について自社の従業員が意思決定に関与する割合が比較的高くなっているようである。
 
第3-1-36図 企業における意思決定の参加者
〜意思決定に関しては、概ね経営者が中心となっているが、比較的規模が大きい企業は従業員の活用も進んでいる〜
第3-1-36図 企業における意思決定の参加者
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 また、意思決定に関わらず存在する、諸々の課題や問題意識に際して、経営者の相談相手の有無をたずねると、「会計」や「税務」に関しては、ほとんどの経営者に相談相手が存在している一方、「市場・販路」や「IT」、「法律」に関しては、特に規模が小さい企業において、相談したくても、相手が周囲にいないと考えている経営者がやや多い傾向にある(第3-1-37図)。では、各々の分野において「相談相手がいる」と考えている経営者はどのような相手に相談しているのであろうか。第3-1-38図によると、「商品・サービス開発」や「市場・販路」などについては、社内の人間や同業の知人に相談する一方で、「会計」や「税務」、「法律」、「労務」など、専門性を有すると思われる分野についてはそれぞれ、民間機関を中心とした専門家に相談する傾向にあるようである。ただし、「IT」については、専門家の割合が高いものの、家族や社内の人間に相談すると回答する経営者も多いのが特徴的である。
 
第3-1-37図 様々な分野における相談相手の有無
〜「市場・販路」や「IT」、「法律」について、相談したくても相手がいないと考えている企業が多い〜
第3-1-37図 様々な分野における相談相手の有無
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第3-1-38図 様々な分野における相談相手
〜会計分野や法律、労務などは専門家を利用している企業が多い〜
第3-1-38図 様々な分野における相談相手
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 以上のとおり、小規模企業の実態を様々な角度から見てきたが、小規模企業は高収益を上げているものもあれば、大幅な赤字となっているものもあり、ばらつきが大きい。小規模企業には少数精鋭の組織、現場で培った技術・ノウハウ、対応の柔軟性といった強みがある一方、資金調達力、品揃えの充実、優れた設備の整備・活用といった面の弱点もある。こうした小規模企業の実態を踏まえつつ、小規模企業の強みをどのように引き出し、弱点をいかに補完するかという視点に立って小規模企業の活性化を図っていくことが地域経済の活性化の鍵であると言えよう。

事例3-1-4 次々とユニークな工業用ゴム製品の開発を手がける小規模企業

 東京都葛飾区の株式会社杉野ゴム化学工業所(従業員5名、資本金1,200万円)は、工業用ゴム製品の製造を行う小規模企業である。中国大連に工場を持ち、建設・産業機械向けの防振用ゴムの製造を行う一方、国内では送電線用の耐高圧ゴムなど特殊なゴムの開発・製造を手がけている。ゴムに関する高度な知識や技術を武器に、難しい技術の相談に応じ、口コミで評判が高まって取引先が拡大し、事業を成長させてきた。同社社長は、葛飾区から「優良技能士」として、東京都から「東京都優秀技能者(東京マイスター)」として認定を受けており、その技術を若手後継者に伝承・育成すべく積極的に活動している。
 同社社長は、以前より、中国など海外諸国の技術力が急速に向上しているため、このままでは逆転されてしまうという危機感を持っていた。このため、中小企業における若手人材の育成や地域とのつながりを強化することとした。その一環として、ゴム製品関連業者が連携して発足させた「葛飾ゴム工業会」で勉強会を開催し、その中で地域の若手人材の育成を目的とした開発プロジェクトを立ち上げ、同社社長自らが講師を務めている。このプロジェクトは、単なる勉強会ではなく、あくまで開発・実践志向を貫いており、これまでの成果として、天然素材の消しゴム「けすぞう君」と地震の転倒防止ゴム「地震耐蔵」という2つの新製品を開発してきた。若者達は、各自のアイディアと技術で製品開発に挑戦し、独自のアイディアについて評価を受けることで、やる気を益々高め、さらなる製品開発に取り組むという好循環が生まれている。現在、同プロジェクトの第3弾として、水風船ヨーヨーの中を、水ではなく、スーパーボールにする製品を開発した。ヨーヨーの中に水ではないものを入れるというアイディアが好評で、現在、意匠登録の作業を進めている。
 大企業との競争が厳しさを増す中で、同社は、意匠だけでなく、実用新案、特許を含めた知的財産権の強化を図ることが重要と考えており、ゴム製品のさらなる進化を目指している。

 第1章 地域を支える中小企業の事業再生と小規模企業の活性化

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