第3部 地域経済と中小企業の活性化 

第3節 中小企業の事業再生

 第2節において、開業が活性化傾向にある一方で、地域、業種によってばらつきが生じている事態が引き続き起こっている傾向が見て取れた。本節では、回避可能な退出を防ぐための中小企業の再生についての実態把握を行う。
 第1節において、近年、倒産が増加傾向にあることを示したが、倒産がすぐに廃業に結びつくというわけではなく、中には事業の継続に向けた枠組みも含まれている。倒産・再生手続きを分類すると、手続きが法定されている「法的手続き」33とそれ以外の「私的手続き」に大別され、「法的手続き」は更に、企業を消滅させる「清算型」と事業存続を図る「再建型」に分けられる34
 形態別に倒産件数の動向を見ると、法的倒産の割合が増加傾向にあることが見てとれる(第3-1-22図)。これは、銀行取引停止35が減少し、破産が増加していることによるものである。

33 本章では(株)東京商工リサーチが定義する「法的倒産」(「会社更生法」、「民事再生法(2000年より集計)」、「和議法(2000年まで集計)」、「商法整理(2006年5月廃止)」、「破産」、「特別清算」が含まれる)と同義とみなす。
34 付注3-1-12参照。また、中小企業白書(2006年版)第1-2-25図のように、最初に「清算型」と「再生(再建)型」に分類する手法もある。
35 (株)東京商工リサーチの定義によるもの。

 
第3-1-22図 形態別倒産件数の推移
〜破産件数の増加に伴い、法的倒産の構成比率が高くなっている〜
第3-1-22図 形態別倒産件数の推移
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 では、実際、中小企業の周辺にはどれくらい倒産等の現象が生じているのであろうか。アンケート調査36によると、多くの中小企業の周辺で、事業の継続が出来なくなった企業が存在しており、特に破産の申立てがあったと答えている割合が最も多い(第3-1-23図)。これは、中小企業者の身近に倒産等が存在していることを示すと共に、最近の倒産の動向にも類似するものであると思われる。

36 「地域中小企業の立地と経営実態に関するアンケート調査」。脚注26参照。

 
第3-1-23図 周囲で事業の継続ができなくなった企業の有無とその状況
〜破産の申立てを始め、何らかの形で事業の継続ができなくなった企業が中小企業の周囲に存在している〜
第3-1-23図 周囲で事業の継続ができなくなった企業の有無とその状況
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 一方、今度は自社の経営に関して、過去3年程度で経営の継続が困難であると感じたことがあるか否かを聞いたところ、約7割もの中小企業が「経営の継続が困難だと感じたことがある」と回答している。業種別に見ると、小売業や建設業の比率が高くなっており、従業員規模別に見ると、規模が小さい企業ほど高くなっている傾向にある(第3-1-24図)。また、これらの経営者の相談先としては、自社の役員や公認会計士・税理士等が多いが、「とても困難だと感じたことがある」企業に限定すると、経営者の家族や取引金融機関への相談を行う経営者が多くなっている(第3-1-25図)。
 
第3-1-24図 過去3年程度で経営の継続が困難だと感じたことがある中小企業の割合(業種別、従業員規模別)
〜約7割の中小企業が経営の継続が困難と感じたことがあり、「小売業」や「建設業」、また、従業員規模が小さい企業においてその割合が高い〜
第3-1-24図 過去3年程度で経営の継続が困難だと感じたことがある中小企業の割合(業種別、従業員規模別)
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第3-1-25図 経営継続困難時の相談先
〜役員や公認会計士・税理士に相談する割合が高い一方、より困難になると家族などの身内や債権者である金融機関などにも相談する傾向が高い〜
第3-1-25図 経営継続困難時の相談先
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 これらの企業が、経営困難時にどのような対策をとったかというと、第3-1-26図に見られるように、「少し困難に感じたことがある」企業と「とても困難だと感じたことがある」企業では、後者の方が「賃金カット」、「人員削減」によるコストの削減や「個人資産の投入」や「個人名義借入金の投入」などの資金繰り対策を始めとした、より緊急と思われる対策、また、より幅広い対策をとっている傾向にある。当然ながら、実際に直面した状況は企業によって内容も度合いも異なると思われることから、どのような方策をとることが望ましいということは言えないと思われるが、例えば、アンケート回答者の中で、「経営が困難だと感じたことがある」と答えた一方で、現在、黒字傾向にある企業を、経営の困難を乗り越えた企業と扱って、これらの企業がどのような対策を講じたのかを確認すると、コスト削減や資金繰りよりも、営業・販売方面での対策を行っている割合が高い傾向にある。
 
第3-1-26図 経営困難時に実際に講じた対策
〜経営が困難になるほど、より喫緊で、かつ幅広い対策をとっている傾向にある。また、黒字企業は販売強化にも、より力を入れている傾向にある〜
第3-1-26図 経営困難時に実際に講じた対策
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事例3-1-2 民事再生法の適用を受けたが再生を断念した事例

 電気・電子部品販売業を営むA社は、業績悪化により民事再生法の適用を受けたが、業績が回復せず、最終的に再生を断念し、清算結了した事例である。
 同社は、電気部品・電子材料等の販売で30年近くの業歴を有し、わずかな人数で10億円を超える年商を上げる優良会社であった。ところが、優良顧客から販売契約が打ち切られたために売上が急激に落ち込んだ。そのうえ、得意先の倒産により多額の売掛債権が焦げ付いたため、資金繰りがショートする危険性があり、民事再生手続開始の申立てをするに至った。
 民事再生法の適用を受け、事業の再生に乗り出すにあたり、不採算部門を廃止し、営業譲渡可能な部門を他社に譲渡し、その譲渡代金をもって債権者に弁済を行うなどのリストラを行った。少人数経営のため、わずかでも売上が回復すれば、事業の継続は可能となると思われた。しかし、同社は長い業歴を有するものの、独自の技術や開発力があったわけではなかったため、結局、顧客は離れてしまい、業績を回復できずに自力再建を断念せざるを得なかった。最終的に、解散手続きを開始し、清算して事業を終了した。
 本事例は、中小企業が事業再生に成功するためには、再生スキームを利用するだけでなく、事業の再構築によって利益を計上できる事業基盤を確保できるかが重要であることを示しているといえよう。

 先に述べたように、経営が困難であると感じる度合いが強いほど、事業継続のために、様々な手法を検討する傾向がある一方で、目先の資金繰りについても考えなければならないという厳しい状況に陥る可能性があることから、このような事態を防ぐために自社の事業に変調の兆しが見えた段階で、早めに対策にとりかかることが望ましいと思われる。
 特に、過剰債務等による資金繰りの悪化など、財務面での支援が必要になった場合、メインバンクをはじめとした債権者である金融機関の協力が不可欠であると考えられる。これに関して、金融庁は「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17年〜18年度)」において、具体的推進項目の一つとして「事業再生にむけた積極的な取組み」をあげており、金融機関に対し、「中小企業の過剰債務の解消や社会のニーズの変化に対応した事業の再構築など、事業再生に向けた積極的取組みを行うよう」要請してきた37。これらの取組の進捗状況の取りまとめとして金融庁は2007年7月に「地域密着型金融(平成15〜18年度 第2次アクションプログラム終了時まで)の進捗状況について」を公表し、そのなかで、事業再生に向けた取組に関して「全般的な傾向として、大口先からより規模の小さい先やより再生が困難な先へ対象が広がる中、中小企業再生支援協議会の活用件数は堅調に推移している」状況にあるとの認識を示しており38、様々な再生手法が堅実に利用されていると考えられる。以下では、これらの再生手法のうち、中小企業の事業再生を図るうえで、一翼を担うことを期待される中小企業再生支援協議会について採り上げることとする。
 事業の継続が困難となった、あるいはこのままでは困難となる恐れがある中小企業の再生に向けた取組を支援する目的で中小企業再生支援協議会(以下「協議会」という)が2003年2月以降、各都道府県に設置された。各協議会には再生の知識と経験を有する専門家(公認会計士、税理士、弁護士、中小企業診断士等)が常駐しており、中小企業の再生に係る相談などに対応する(一次対応)。また、必要であれば再生計画の策定支援を行う(二次対応)。設立以降の相談企業数と再生計画策定完了件数の推移を見ると、相談企業数は2007年12月末現在で約13,500社(直近1年間で約2,700社)、再生計画策定完了件数は約1,700件(直近1年間で約400件)となっており、一定の実績を残していると考えられる39(第3-1-27図)。

37 金融庁「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(平成17年〜18年度)」(2005年)
38 金融庁「地域密着型金融(平成15年〜18年度第2次アクションプログラム終了時まで)の進捗状況について」(2007年)。具体的な取組実績については付注3-1-13参照。なお、事業再生に関する取組については、金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(2008年3月現在)において、「とりわけ事業再生は、事業価値を見極める地域密着型金融の本質に関わる大きな課題であり、取組みに当たっては、単なる金融支援ではなく、事業そのものを再生するという本質を見失わないことが必要である」とされており(II-5 地域密着型金融の推進)、アクションプログラム終了後も引き続き、各金融機関が自主的に重点を定めて取り組むことが求められている。
39 以降、協議会の実績の詳細については付注3-1-14(〔1〕〜〔5〕)参照。

 
第3-1-27図 中小企業再生支援協議会の実績
第3-1-27図 中小企業再生支援協議会の実績
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事例3-1-3 中小企業再生支援協議会を活用して再生を順調に進めている中小企業

 株式会社富士屋ホテル(従業員57名、資本金2,000万円)は、千葉県内の老舗の割烹旅館であるが、バブル期の過剰投資により過剰債務を抱えていたため、千葉県中小企業再生支援協議会を活用することにより事業再生に取り組み、その後の経過は順調となっている。
 同社はバブル期に婚礼需要の増加を見込んで設備投資を行ったものの、バブル崩壊以降、不況や競合の激化等により、投資に見合う収益を上げることが困難となり、資金繰りに困難を生じるようになった。婚礼部門は低迷していたが、割烹部門の収益は確保できていたことから、事業継続を図るために千葉県中小企業再生支援協議会(以下「協議会」という)に相談した。
 同社では、協議会の仲介のもと、再生コンサルティング会社等の専門家から事業面・財務面の両面での協力を受けながら、再生計画を策定した。事業面の計画については、〔1〕経営陣の刷新による再スタート、〔2〕不採算部門である婚礼部門から撤退し、収益部門である割烹旅館へ経営資源を集中させる、〔3〕再生にあたり、新たなコンセプトを策定する、という内容である。また、財務面の計画については、〔1〕RCCファンド(※1)を利用した一部債務免除とRCCファンドに対する残存債務返済のための金融機関による新規融資、〔2〕政府系金融機関による一部債務免除とリスケジュール、〔3〕信用保証協会による求償権放棄及び求償権先への新規保証(求償権消滅保証)(※2)、〔4〕未稼働資産(婚礼会場)の除却、経営者による私財提供等の資産整理、〔5〕千葉中小企業再生ファンド(※3)及び個人による増資などである。これらのスキームは、協議会のような中立的な再生支援機関の関与がないと利用できないものもあり、こうした点でも協議会の役割は大きい。
 同社は、計画策定時の新コンセプトのもと、屋号を改め、一部内装のデザインを変えてリニューアルオープンしたところ、利用者の評判もよく、再生は順調に進んでいる。また、再生計画開始後も、定期的に経営会議を開くことにより、現状の把握や再生に向けた今後の取組についての打合せを行っているが、この会議に協議会などの外部の関係諸機関が参加することにより、形だけの会議になることを防ぎ、綿密な議論が行われている。

※1 当該ファンドは、(株)整理回収機構(RCC)が有する企業再生手法の一環として、RCCが金融機関等の有する債権を買い取るための資金の調達を行う。
※2 信用保証協会が金融機関に対して保証債務を履行したことによって発生する中小企業者に対する債権(求償権)を放棄するとともに、当該中小企業者への新規保証を可能とするもの。その適用のためには、協議会等による再生計画の策定等の制約条件が定められており、モラルハザードを防ぐ仕組みになっている。
※3 (独)中小企業基盤整備機構が出資する「地域中小企業再生ファンド」の一つ。同機構のほか、千葉県内すべての地域金融機関と千葉県が出資して組成した官民一体の再生ファンド。

 相談企業数を業種別、相談経路別に見た場合、業種では、製造業の相談割合が最も多く、次いで卸売・小売業、建設業となっており、この傾向は直近でも続いている。また、相談経路では企業本人の割合が最も高く、直近においてその傾向はより強まっていると言える。
 一方で、再生計画策定完了案件を業種別、相談経路別に見ると、業種別においては、相談企業数と同様に製造業の割合が高くなっており、その比率は相談企業数における製造業の割合よりも更に高くなっている。来訪経路別においては、金融機関を通じたものが約8割を占めるなど、相談件数における割合と逆転している。これは、再生計画策定支援のための二次対応が金融支援を要する企業が中心となっていることに関係していると思われる。
 これまで、協議会の活動内容について触れてきたが、中小企業白書(2007年版)によると、協議会による措置を受けた企業の半数近くが「もっと早く利用した方が良かった」と回答している40。一方、先に触れた第3-1-24図、第3-1-25図において、多くの企業が経営の継続が困難に陥ったことがあるにもかかわらず、協議会に相談を行った企業は多くはなかった。経営者に事業継続の意思があり、かつ、協議会などの支援機関を活用することにより、事業の再生の余地があるにもかかわらず、活用できず、結果的に退出につながってしまうケースが生じることは望ましくない。中小企業の経営者が自社の経営状態を踏まえて事業再生に早期に取り組み、中小企業再生支援協会を有効に利用することが重要と考えられる。

40 中小企業白書(2007年版)第2-3-35図参照。


 また、こうした中小企業の再生ニーズを踏まえながら中小企業再生支援協議会の機能強化が必要と考えられる。2007年6月からは各協議会の支援機関として、(独)中小企業基盤整備機構に中小企業再生支援全国本部が設置された。主な機能として〔1〕協議会の活動支援、〔2〕活動分析・標準化、〔3〕再生人材等の確保・派遣、〔4〕関係機関とのネットワーク構築等が取り組まれているが、今後とも中小企業の再生への効果的な支援により地域経済の活性化に向けて重要な役割を果たしていくことが期待されていると言えよう。

 第1章 地域を支える中小企業の事業再生と小規模企業の活性化

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