第2部 中小企業の生産性の向上に向けて 

第5節 まとめ

 ITの革新と普及が急速に進む中、大企業に比べて中小企業ではソフトウェアを中心にIT資産の蓄積が進んでいない。
 第1章ではITの有効活用と中小企業の生産性に一定の相関が見られたが、本章第2節で見たとおり、ITは業務プロセスの合理化、コスト削減、省人化のツールとして期待されることが多かった。しかしながら、ITは企業の外部と地理的な制約を超えて情報の交換・蓄積・分析を行うことを可能とし、経営資源に乏しい中小企業の能力を補完し、向上させうるものである。単に省力化を図るだけにとどまらず、中小企業はITを有効に活用して組織内で情報の共有を行い、その情報を戦略的に活用して売上や付加価値を増大させていくことが期待される。第3節では、実際、ホームページの開設等により自社の情報発信のツールとして活用し、新たな販売機会を獲得した中小企業も見てきた。
 第4節では、中小企業がITの活用を図る上で直面しているIT人材の確保や育成、コスト負担等の課題を見てきたが、SaaS・ASPといった新たな情報システムの活用方法が開発され、普及し始めている一方、中小企業のIT化を政策的に支援する制度も充実してきており、これらを活用しつつ、ITを活用する上での課題に取り組んでいくことが期待される。
 ITの活用は目的ではなく手段である。中小企業は、自らの経営目標を明確に定め、その目標を達成するために情報の収集・蓄積・分析・発信等を行うツールとしてのITを戦略的に活用していくことが期待される。

コラム2-3-2 政府におけるIT分野の取組

 政府は、2001年に「e-Japan戦略」を策定する等、行政における情報化の推進ならびに各政策分野でのIT関連施策の推進に取り組んできた。
 行政における情報化の推進では、電子メールの利用等行政内部のIT利活用を進めるとともに、申請手続等の行政サービスの電子化に取り組んできている。こうした行政の電子化は「電子政府」と呼ばれており、2006年1月に政府のIT戦略本部が策定した「IT新改革戦略」においても、ITの構造改革力を追求する政策の一つとして、「世界一便利で効率的な電子行政」の実現が掲げられている。国の行政機関が扱う行政手続のオンライン化の状況を見ると、2006年度で対象手続14,149のうち13,448(全体の95%)の手続がオンライン化されている(総務省「平成18年度における行政手続オンライン化等の状況」)。各機関では、こうした行政手続をオンライン化するとともに、普及促進に努めている。例えば、国税電子申告・納税システム「e-Tax」では、本人の電子署名及び電子証明書を付して所得税の確定申告を「e-Tax」で行うと、最高5,000円の所得税の税額控除を受けることができる(2007年分又は2008年分のいずれか1回)。
 他方、中小企業のIT化を促進する施策として、経済産業省・中小企業庁がIT経営応援隊等を通じてIT化の有効性を示すため、企業の優れたIT利活用事例等の情報提供、IT経営の手法を学ぶための研修、ITコーディネータによる個別指導等を実施している。
 
コラム第2-3-2図 IT経営応援隊の概要
コラム第2-3-2図 IT経営応援隊の概要

コラム2-3-3 中小企業IT経営力大賞

 「中小企業IT経営力大賞」は、中小企業のIT利活用を推進するため、優れたIT経営を実現し、かつ、他の中小企業がIT経営に取り組む際の模範となるような中小企業を経済産業大臣が表彰する制度として、2007年度に創設された。2007年度は応募のあった429件の中から、ITの積極的な活用により、下請けからの脱却、多品種・少量生産や納期短縮への対応、業務の「見える化」を通じた経営の効率化等を実現した次の3件が「大賞(経済産業大臣賞)」に選ばれた。

○ 株式会社東洋ボデー(東京都武蔵村山市・トラック車体製造業・従業員105名)
 営業、受注から生産、納品までの各業務を一元管理し、生産計画に基づいて業務が効率的に進捗するシステムを導入し、短納期、高品質、低コストを実現し、顧客満足度を高めることに成功している。これに伴い、従来は1社専属型下請であったが、現在では6社の自動車メーカーからの受注を受けており、自立化が進んでいる。

○ 株式会社八幡ねじ(愛知県北名古屋市・ねじ卸売業・従業員244名)
 業界に先駆けたJANコード化による自動倉庫管理や、EDI(対ホームセンター取引はEDI比率が98%)などの全社統合生産システムにより業務の「見える化」と効率化を図っている。これにより、10万品種もある取扱商品の中から1本単位で出荷できる多品種・少量出荷や品質向上を実現する等、顧客満足度の向上と競争力強化に繋げている。

○ 株式会社ヤマサキ(広島市中区・化粧品製造販売業・従業員107名)
 通販部門でのCTIシステム(Computer Telephony Integration、電話やFAXをコンピュータに統合するシステム)の導入により、オペレーターの対応能力を1日当たり600件から1,500件へと向上させるとともに、配送業者とのシステムの連携やデジタルピッキング(在庫から商品を選び出す業務の効率化を行うシステム)等により1,000件当たりの出荷時間を15時間から5時間に短縮させるなど受注-製造-販売の全業務フローにおいてITを最大限に活用し、高い成果をあげている。

 第3章 中小企業によるITの活用

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