第2部 中小企業の生産性の向上に向けて 

第2節 中小企業におけるITの活用状況

1 IT資産の装備状況
 前節では、ITが普及して中小企業の経営に大きな影響を与えていることを見たが、実際に中小企業はITをどの程度活用しているのであろうか。
 まず、IT活用の基礎的ツールであるパソコンの保有状況を確認する7(第2-3-5図)。製造業の従業員一人当たりのパソコン保有台数が非製造業に比べて少ない傾向が見られるが、その背景としては製造業では製造工程に従事する従業員がパソコンを使用しない場合が多いこと等が考えられる。また、製造業・非製造業のいずれも、比較的小規模な企業でパソコンが装備されていないところが目立つ。

7 ITの活用は、単にパソコンを所有してワープロソフトや表計算ソフトを使用することに限定されるものではなく、パソコンの保有状況がそのままITの活用状況に繋がるものではないことに留意が必要である。また、パソコンを保有していなくても、専用端末等によりIT活用を行っているケースもありうる。

 
第2-3-5図 パソコンの装備状況
〜小規模な企業の一部では、パソコンは装備されていない〜
第2-3-5図 パソコンの装備状況
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 次に、「法人企業統計年報」に基づき総資産に占めるソフトウェアの割合を見てみると、大企業と中小企業の間に大きな格差がある(第2-3-6図)。また、「情報処理実態調査」に基づき、年間事業収入に占める情報処理に関する支出額の割合を見ると、ハードウェア関連への支出は、製造業・非製造業のいずれも、大企業と中小企業との間には大きな差が見られないが、ソフトウェア関連への支出は、特に非製造業において、中小企業の支出割合が比較的少なくなっている(第2-3-7図)。「情報処理実態調査」の結果はあくまで単年度における支出額を確認したものであり、過去に十分なIT投資を実施した結果、調査年度における情報処理支出額が少なくなる可能性もあるが、中小企業のソフトウェア残高が比較的小さいことをあわせて考慮すると、中小企業ではソフトウェアの蓄積が大企業と比べて進んでいないと言えよう。さらに、第2-3-8図は企業のIT資本の充足度を示したものであるが、同一規模の企業のソフトウェアとハードウェアの充足度を比較すると、ソフトウェアの充足度の方が低くなっていることが分かる。仮にパソコン等のハードウェアを装備しても、ソフトウェアの導入が遅れてしまうことで、所有するハード資産が有効に活用されない懸念がある。
 
第2-3-6図 ソフトウェア残高が、総資産に占める割合
〜製造業、非製造業とも、中小企業ではソフトウェアの蓄積が進んでいない〜
第2-3-6図 ソフトウェア残高が、総資産に占める割合
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第2-3-7図 情報処理関連支出が、年間事業収入に占める割合
〜中小企業では、ソフトウェアへの支出が大企業と比較して少ない傾向にある〜
第2-3-7図 情報処理関連支出が、年間事業収入に占める割合
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 他方、第2-3-8図における従業員20名以下の企業について見ると、IT資本のうちハードウェアの蓄積は必要ないと考えている企業が3割近くを占めている。IT資本の蓄積が必要ない理由としては、「事業規模が小さく、高度な情報処理は必要ない」ことが高い割合で挙げられている(第2-3-9図)。これは、小規模な企業の場合、業務の内容がシンプルなためにIT化による合理化の余地がない可能性が考えられる。
 
第2-3-8図 IT資本の蓄積
〜ハードウェアに比べてソフトウェアの充足度が低くなっている〜
第2-3-8図 IT資本の蓄積
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第2-3-9図 IT資本の蓄積の必要がない理由
〜事業規模が小さく、高度な情報処理は必要がないと考えている企業が多い〜
第2-3-9図 IT資本の蓄積の必要がない理由
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 次に、業務領域ごとの情報システム8の導入状況と、導入している場合の情報システムの構築方法を見る。中小企業における情報システムの導入割合は、全般的に大企業に比べて低い(第2-3-10図)。中小企業が導入している情報システムを見ると、「財務・会計」の導入割合が最も高く、そのほとんどがパッケージソフトである(第2-3-11図)。一方で、「在庫管理」や「生産」、「物流」といった領域では、自社開発やオーダーメイドによる導入が多くなっている。こうした領域では、企業ごとに業務フローが異なることが多いため、ITを戦略的に活用しようとする企業では、自社に適合した情報システムを独自に開発し、導入していると考えられる(事例2-3-1)。

8 ここでの「情報システム」とは、コンピュータを使用して情報を適切に保存・管理するための仕組みを指す。

 
第2-3-10図 情報システムの導入状況
〜中小企業における情報システムの導入割合は、全般的に大企業に比べて低い〜
第2-3-10図 情報システムの導入状況
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第2-3-11図 情報システムの構築方法
〜財務・会計システムではパッケージソフトが、在庫管理、生産システムでは自社開発やオーダーメイドの割合が高い〜
第2-3-11図 情報システムの構築方法
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事例2-3-1 ボトムアップ経営の社風のもと自社主導の開発によりIT化を進めている米菓製造会社

 埼玉県春日部市の三州製菓株式会社(従業員220名)は米菓の製造を営む会社であるが、現場の従業員が中心となって改善活動に取り組むボトムアップ経営を重視しており、現場の社員が「IT委員会」を構成し、米菓の原材料のトレーサビリティシステムを自社主導で開発し、同システムを業界内でいち早く導入する等IT経営を進めている。また、ボトムアップ経営を実現するために、全社的な情報の共有を推進しており、企業風土としても根付いている。
 同社は、社内に部署横断的な組織としてIT委員会を含めて12の委員会を設け、現場の声を吸い上げて改善活動を全社的に推進している。中小企業ではIT専門の担当者を雇用することは難しいことから、同社では、ITの専門部署を設けるのではなく、社員で構成されるIT委員会がITの企画・実行を担っている。様々な現場の業務に携わる社員が委員となっており、IT専門部署を設ける場合に比べて現場に詳しく、全社的に最適なITシステムを検討し、導入しやすい体制になっている。
 同社は、食品の安心・安全の重要性を強く認識し、業界内でも早期に原材料のトレーサビリティシステムの導入の検討を始め、埼玉県から紹介を受けたITコーディネータのアドバイスを受けながら、IT委員会が1年間かけて現状分析を行い、システムの必要条件を検討した。そして、ベンダー任せにすることなく、自社主導でトレーサビリティシステムの開発・導入を行った。同社では、米菓の製造設備も自社で設計しているが、自社設計により社内にノウハウを蓄積することができ、他社には真似のできない製品を作り出すことに成功していると考えている。
 
事例2-3-1図 トレーサビリティシステムの概要
事例2-3-1図 トレーサビリティシステムの概要

2 IT投資の経営上の位置付け
 前項では、中小企業は大企業に比べて、ソフトウェアを中心にIT資産の装備が低調となっている状況を見た。本項では、中小企業がIT投資を経営上どのように位置付けているかについて見ていく。
 はじめに、企業は自らの経営課題としてITの活用やITへの投資をどのように位置付けているのであろうか。アンケート調査によれば、ITの活用やITへの投資を「経営の最重要課題として位置づけている」、「重要な課題の一つとして位置づけている」企業の割合は、規模が小さな企業ほど低くなっていることが分かる(第2-3-12図)。
 
第2-3-12図 ITの活用やITへの投資の位置づけ
〜規模の大きな企業ほど、ITの活用やITへの投資は重要課題として位置づけられている〜
第2-3-12図 ITの活用やITへの投資の位置づけ
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 他方で、ITの活用に対して経営課題としてより重要な位置付けを与えている企業ほど、実際にIT活用の効果を得られている傾向がある(第2-3-13図)。さらに、ITの活用を経営課題として重視している企業ほど、過去5年間の売上高が増加傾向にあり、売上高経常利益率が上昇傾向にある(第2-3-14図)。
 
第2-3-13図 ITの活用やITへの投資の位置づけと、IT活用の効果
〜ITの活用を重要課題として位置づけている企業の方が、IT活用の効果を得られている〜
第2-3-13図 ITの活用やITへの投資の位置づけと、IT活用の効果
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第2-3-14図 ITの活用やITへの投資の位置づけと、過去5年間の企業業績
〜ITの活用を重要課題と位置づけている企業ほど、売上高、売上高経常利益率は良化している〜
第2-3-14図 ITの活用やITへの投資の位置づけと、過去5年間の企業業績
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 以上のとおり、中小企業は大企業と比べるとITの活用を経営課題として重視している割合が低いが、ITの活用を経営課題として重視している企業ほど増収増益となっていることを踏まえ、より多くの中小企業が経営上の課題としてITの活用を十分重視していくことが望まれる。

3 ITの活用状況
 ここでは、電子商取引の実施状況等ITの活用状況について、大企業と中小企業を比較しながら概観する。
 電子商取引が近年急速に普及している状況は第1節で既に見たとおりであるが、中小企業における電子商取引の実施割合は大企業に比べて低い(第2-3-15図)。
 
第2-3-15図 電子商取引の実施状況
〜中小企業では、電子商取引の実施割合は低い〜
第2-3-15図 電子商取引の実施状況
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 また、「電子メールの利用」については、9割を超える中小企業で実施されているが、「自社ホームページの開設」については、大企業の実施割合が8割を超えていることに対し、中小企業の実施割合は7割に届かない低い水準にとどまっている9(第2-3-16図)。他方で、インターネット・バンキングの利用状況やビジネス・ブログの実施状況については大企業と中小企業でほとんど差がない。

9 自社ホームページの開設割合は、製造業と非製造業の間で大きな違いはない。第2-2-44図ではサービス産業に属する中小企業の事業用ホームページの設置状況が約4割であることを見たが、本章のアンケート調査の対象は法人企業であり、個人事業主を含む中小サービス産業全体を調査対象とした第2-2-44図とは調査対象範囲が異なることに注意が必要である。

 
第2-3-16図 業務に関連して実施していること
〜中小企業では、ホームページの開設は比較的実施されていない〜
第2-3-16図 業務に関連して実施していること
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4 ITを活用したネットワークの構築
 ITは、情報通信網を通じて地理的に離れている主体との情報の共有や商取引を可能とするものであり、企業はこれを活用することで社内・社外のネットワークを強化することができる。ここでは、企業がITを活用して構築しているネットワークの状況を見ていく。
 第2-3-17図は「情報処理実態調査」をもとに企業の情報システムの活用状況を示したものであるが、企業の部門内での業務の利便性向上や生産性向上等の効果が実現できているとする企業に比べて、全社レベルでのITの活用10や、調達先・販売先を含めたITの活用11が実現できているとする企業は少数である。また、大企業に比べて中小企業ではすべての項目において活用状況が低いことも分かる。さらに、第2-3-18図はアンケート調査をもとに情報システムの連携状況を示したものであるが、社内の他の業務領域との連携12と社外のシステムとの連携13のいずれにおいても、企業の従業員規模が小さくなるほど連携状況が低くなる傾向がある。社内の他の業務領域との連携では、従業員20人以下の企業では、「大部分の業務領域の情報システムが、通信ネットワークを通じて連携している」企業の割合が1割、「他の業務領域とは連携せず、独立している」、あるいは「情報システムは導入していない」企業が7割となっている。社外のシステムとの連携状況では、「大部分の取引先と通信ネットワークを通じて連携している」企業は4.6%まで下がっている。

10 ここでの「全社レベルでのITの活用」とは、ITの活用により、製品やサービス等の調達から販売に関わる全社的な一連の業務フローにおいて、利便性向上、生産性向上等の効果が実現できていることを指す。
11 ここでの「調達先・販売先を含めたITの活用」とは、調達先・販売先等複数企業が参加する業務連携の仕組み(電子商取引やサプライチェーンマネジメント等)をITの活用により構築していることを指す。
12 ここでの「社内の他の業務領域との連携」とは、在庫管理システムや生産管理システム等との間で、通信ネットワークを通じてデータの連携を行うこと等を指す。
13 ここでの「社外の情報システムとの連携」とは、通信ネットワークを通じて、社外のシステムと在庫情報等の情報を共有すること等を指す。

 
第2-3-17図 情報システムの活用状況
〜特に中小企業では、調達先や販売先を含めたITの活用は、あまり行われていない〜
第2-3-17図 情報システムの活用状況
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第2-3-18図 情報システムの連携状況
〜比較的小規模な企業では、情報システムの連携状況は低い〜
第2-3-18図 情報システムの連携状況
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 次に、情報システムの連携状況とIT活用の効果の関係を見ると、社内における連携でも社外との連携でも、連携の度合いが高い企業ほどIT活用による効果を実感していることが分かる(第2-3-19図)。
 
第2-3-19図 情報システムの連携状況と、IT活用の効果
〜連携の度合いが高い企業ほど、IT活用の効果を実感している〜
第2-3-19図 情報システムの連携状況と、IT活用の効果
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 以上のとおり、中小企業がIT活用のメリットを享受するためには、ハードウェアやソフトウェアを導入するだけでなく、自社の業務領域間の連携や社外のシステムとの連携をした情報システムの構築に取り組むことが必要である。

 第3章 中小企業によるITの活用

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