第2部 中小企業の生産性の向上に向けて 

第4節 取引環境と生産効率向上の取組

 前節においては、サービスの付加価値の向上に向けた取組について見てきた。ここでは、サービス産業に内在する課題として、サービス産業におけるその品質や価値を価格に結びつける取引環境と生産効率の向上に関する取組について見ていきたい。

1 サービス産業における取引環境
 まず、サービス産業の取引環境として、サービスの価格について見てみる。
 総務省「消費者物価指数」に基づき対消費者向けサービスの価格の動向を見てみると、サービス指数は1998年以降、おおむね横ばいで推移している(第2-2-24図)。
 
第2-2-24図 消費者物価指数の推移
〜サービス指数は、98年以降、概ね横ばいで推移している〜
第2-2-24図 消費者物価指数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 また、日本銀行「企業向けサービス価格指数」及び「企業物価指数」に基づき対事業所向けサービスの価格の動向を見てみると、企業物価指数は2002年の景気回復局面以降において徐々に上昇しているのに対し、企業向けサービス価格指数についてはおおむね横ばいである22(第2-2-25図)。

22 ただし、2006年IV期から上昇傾向にあることに注意が必要である。

 
第2-2-25図 企業向けサービス価格指数の推移
〜企業向けサービス価格指数は、企業物価指数と比較して、2002年以降もあまり上昇していない〜
第2-2-25図 企業向けサービス価格指数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 一般にサービスの価格は需要と供給の関係によって決まるが、市場において適切なサービス価格の形成がなされるためには、サービスの品質や価値に関する情報が十分に提供され、評価や交渉が行われ、サービスの品質や価値が価格に適切に反映されることが必要である。
 こうした観点から、サービスの価格の実際の決定方法とサービスの品質や価値を価格へ反映させるための取組について、対消費者向けサービス及び対事業所向けサービスのそれぞれについて見ていく。

(1)対消費者向けサービスの価格
 対消費者向けサービスの価格の決定方法について見てみると、市場価格を参考に決定するほか、コスト計算に基づき決定したり、競合他社の動向で決定する企業の割合が高くなっている(第2-2-26図)。商品・サービスの品質や価値の価格への反映状況については、ほぼ反映されているとする企業の割合が最も高いが、あまり反映されていない、あるいは全く反映されていないとする企業の合計も約4社に1社の割合となっており、業種による差異はあまり見られない(第2-2-27図)。
 
第2-2-26図 価格の決定方法(対消費者向けサービス)
〜対消費者向けサービスの価格の決定方法は、「市場価格を参考に決定する」とする企業の割合が高い〜
第2-2-26図 価格の決定方法(対消費者向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-2-27図 価格への反映状況(対消費者向けサービス)
〜対消費者向けサービスの品質や価値の価格への反映状況は、業種による大きな差はみられない〜
第2-2-27図 価格への反映状況(対消費者向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら

 サービスの品質や価値が価格へ反映できていない原因について見てみると、価格競争の激化や景気の低迷、需要の減少を挙げる企業の割合が高い(第2-2-28図)。対消費者向けサービスの価格は、厳しい価格競争という市場環境に加え、第一部で見たとおり雇用者所得が伸び悩む中で消費需要に力強さがないという景気動向の影響を受けていると考えられる。
 
第2-2-28図 サービスの品質や価値が価格に反映されない原因(対消費者向けサービス)
〜対消費者向けサービスにおいては、サービスの品質や価値が価格へ反映されない原因として、「価格競争の激化」および「景気の低迷」など市場環境を挙げる企業の割合が高い〜
第2-2-28図 サービスの品質や価値が価格に反映されない原因(対消費者向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら

 次に、商品・サービスの品質や価値を価格へ反映させる取組を見てみると、顧客への説明強化を挙げる企業の割合が最も高くなっており、価格への反映状況との関係で見てみると、反映されているとする企業ほど、顧客への説明の強化を挙げる企業の割合が高くなっている23(第2-2-29図)。

23 全く反映されていないとする企業においては、サービスの品質や価値を価格へ反映するために必要な取組として、業界の慣行や慣例の改正を挙げる割合が最も高くなっている。一部の業界における慣行や慣例が、サービスの品質や価値の価格反映の妨げとなり、結果として個々の企業がサービスの品質や価値を高めていくインセンティブを阻害する要因となり兼ねないことは懸念点として示唆される。

 
第2-2-29図 反映状況別価格反映の為の取組(対消費者向けサービス)
〜対消費者向けサービスにおけるサービスの品質や価値を価格へ反映するために必要な取組としては、「顧客への説明の強化」を挙げる企業の割合が高い〜
第2-2-29図 反映状況別価格反映の為の取組(対消費者向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら

 サービスの品質や価値は、その「無形性」という特性により、消費者も直接的に評価しにくいという面があるため、顧客に対しその内容について適切な情報を伝える取組が必要であることがうかがえる。
 また、業種別に見てみると、不動産業において、契約内容の明確化・詳細化を挙げる企業の割合が相対的に高くなっており、飲食店,宿泊業においては、自社の実績の増大を挙げる企業の割合が相対的に高くなっているなど、業種によって取組内容に相違が見られる(第2-2-30図)。
 
第2-2-30図 業種別価格反映の為の取組(対消費者向けサービス)
〜対消費者向けサービスにおけるサービスの品質や価値を価格へ反映するために必要な取組は業種により異なる〜
第2-2-30図 業種別価格反映の為の取組(対消費者向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら

 例えば、飲食店におけるサービスの品質や価値の一つである味覚などの情報は、個人の主観によるものであるため、その品質や価値をサービスの提供前に正確に伝えることは困難である。実績などの手懸かりから品質や価値が類推されるサービスの特性がうかがえる。
 対消費者向けサービスの価格は、市場環境や景気動向等に左右される面はあるものの、サービスの品質や価値を価格へ反映させていく取組としては、その品質や価値が正当に評価されるよう顧客へ適切な情報を伝える取組が必要である。しかし、サービスの種類によっては、その特性から、事業者において客観性をもった情報が提供できるとは限らず、結果としてサービスの品質や価値を高めていこうとするインセンティブが阻害されることが懸念される。

(2)対事業所向けサービスの価格
 次に、対事業所向けサービスの価格の決定方法について見てみると、34.4%の企業が取引先主導で価格が決定されるとしており、外的な要因によるとしているものも17.4%にのぼる(第2-2-31図)。
 
第2-2-31図 価格の決定方法(対事業所向けサービス)
〜対事業所向けサービスにおいては、取引先の主導で価格が決まる場合が1/3を超える。外的要因により決定される場合も17.4%存在する〜
第2-2-31図 価格の決定方法(対事業所向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら

 商品・サービスの価格への反映状況について見てみると、ほぼ反映されているとする企業の割合が44.4%と最も高くなっているが、あまり反映されていないという企業の割合も26.1%となっている。業種別に見てみると、情報通信業では反映されているとする企業の割合が高いのに対し、運輸業ではあまり反映されていないとする企業の割合が高くなっているように、業種毎にばらつきが見られる(第2-2-32図)。
 
第2-2-32図 価格への反映状況(対事業所向けサービス)
〜対事業所向けサービスの品質や価値の価格への反映状況は、業種により異なる。情報通信業で反映されているという割合が高いのに対し、運輸業では低くなっている〜
第2-2-32図 価格への反映状況(対事業所向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら

 サービスの品質や価値が価格へ反映できていない原因について見てみると、価格競争の激化を挙げる企業の割合が最も高いが、取引先の一方的な価格要求や、業界の慣行や慣例による制約を挙げる企業の割合も低くない(第2-2-33図)。
 
第2-2-33図 品質や価値が価格へ反映されない原因(対事業所向けサービス)
〜サービスの品質や価値が価格へ反映されない原因として、価格競争の激化の他に取引先の一方的な価格要求の割合も高い〜
第2-2-33図 品質や価値が価格へ反映されない原因(対事業所向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら

 対事業所向けサービスの価格は、対消費者向けサービスの価格と異なり、市場環境や景気の動向だけでなく、取引先や業界との関係に大きく影響を受けていることがうかがえる。
 また、商品・サービスの品質や価値を価格へ反映させる取組を見てみると、販売先への説明強化を挙げる企業の割合が最も高く、次に契約内容の明確化・詳細化を挙げる割合が高くなっている。しかし、業種別に見てみると、運輸業において業界の慣行や慣例の改正を挙げる企業の割合が相対的に高くなっているなど、業種によって取組内容に相違が見られる(第2-2-34図)。
 
第2-2-34図 業種別価格反映の為の取組(対事業所向けサービス)
〜対事業所向けサービスにおけるサービスの品質や価値を価格へ反映するために必要な取組は業種により異なる。全業種において「販売先への説明の強化」を挙げる企業の割合が高く、総計では次に「契約内容の明確化・詳細化」を挙げる企業の割合が高い〜
第2-2-34図 業種別価格反映の為の取組(対事業所向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら

 同様に、商品・サービスの品質や価値を価格へ反映させる取組を価格への反映状況との関係で見てみると、品質が価格に「全く反映されていない」とする企業においては、業界の慣行や慣例の改正を挙げている割合が最も高い(第2-2-35図)。
 
第2-2-35図 反映状況別価格反映の為の取組(対事業所向けサービス)
〜対事業所向けサービスにおけるサービスの品質や価値を価格へ反映するために必要な取組としては、「販売先への説明の強化」を挙げる企業の割合が高い。品質や価値が全く反映されていない企業においては、「業界の慣行や慣例の改正」を挙げる企業の割合が最も高くなっている〜
第2-2-35図 反映状況別価格反映の為の取組(対事業所向けサービス)
Excel形式のファイルはこちら

 対事業所向けサービスにおいて、サービスの品質や価値を価格へ反映させていく取組としては、対消費者向けサービスと同様に、顧客に対しその品質や価値を伝えるとともに、契約内容を明確・詳細にする取組が必要であることが示唆される。また、一部の業種においては慣行や慣例がサービスの品質や価値の価格反映の妨げとなっており24、結果として個々の企業が自らのサービスの品質や価値を高めていこうとするインセンティブを失わせている恐れがある。

24 公正取引委員会「平成18年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化の取組」および「平成19年度上期における下請法の運用状況及び今後の取組」によれば、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)の違反被疑事件の処置状況において、平成18年度の役務委託等における処置件数について業種別にみると、運輸業等が全体の41.3%を占めている。また、下請法違反行為に対する勧告のうち役務提供等に関するものは、平成18年度に3件、平成19年度10月までに3件あるが、いずれも道路貨物運送分野におけるものである。


(3)サービス産業の企業間取引における取組
 次に、対事業所向けサービスの企業間取引における書面化の状況と、サービスの品質や価値の価格への反映状況との関係について見てみる。全ての取引について書面の交付を受けている企業ほど、サービスの品質や価値が反映されているとする企業の割合が高い(第2-2-36図)。
 
第2-2-36図 取引の書面化と品質や価値の価格への反映状況
〜取引の書面化が進んでいる企業ほどサービスの品質や価値を価格へ反映できているとする割合が高い〜
第2-2-36図 取引の書面化と品質や価値の価格への反映状況
Excel形式のファイルはこちら

 また、書面化の状況と労働生産性の関係について見てみると、全ての取引について書面の交付を受けている企業ほど、労働生産性が高い企業の割合が高い25(第2-2-37図)。

25 取引の書面化と販売先の増減の関係を見てみると、販売先を増加させている企業についても取引の書面化は進展している(付注2-2-7参照)。

 
第2-2-37図 書面の交付状況と労働生産性
〜事業所向けサービスにおいて、取引内容を明確に記載した書面等の交付を受けている企業ほど、労働生産性が高い傾向にある〜
第2-2-37図 書面の交付状況と労働生産性
Excel形式のファイルはこちら

 中小企業白書(2007年版)によれば、サービス業の受発注時の取引条件は徐々に良くなっているとされるが、取引条件を書面で明確にすることで、不当に不利な取引条件を強いられるリスクは低減すると思われる。中小サービス事業者においては、前項で見た契約内容の明確化・詳細化といった取組と同様に、その内容を書面化する取組が望まれる。
 以上のような契約内容の書面化等を通じて公正な取引環境を整備し、サービスの品質が価格に適切に反映される環境の実現を図ることは、サービスを提供する中小企業の意欲と能力を引き出し、中小サービス産業の生産性の向上を図る上で非常に重要であるといえよう。

2 サービス産業の効率化の取組
 サービス産業の生産性向上のための方策の一つが効率の向上であることは第2節で述べた。また、サービスは「同時性」の特性から、在庫として保存できず、品質が一定に保たれにくいため、サービスの安定的な品質の確保が重要であることは第3節で述べた。この方策として、業務を標準化し、業務プロセスを合理化することにより、安定的な品質を効率的に担保していくこと等が考えられる。こうした観点から、本項では、サービス産業における業務の標準化や業務プロセスの見直し、ITの導入への取組等26について見ていく。

26 業務の効率化の取組としては、他にアウトソーシングの活用等も挙げられる。アウトソーシングの活用に関して、業務を委託するに至るまでの取組については、付注2-2-8を参照。


(1)業務の標準化
 まず、業務の標準化について見てみる。業務の標準化の度合いの指標の一つとして、マニュアルの導入状況について見てみると、21人以上の従業員規模の企業では、導入している業務もあるとする企業を含めると半数以上の企業で何らかのマニュアルを導入しており、従業員規模が大きい企業ほどマニュアルを導入している度合いが高い企業の割合が高くなっている(第2-2-38図)。また、マニュアルを導入しない理由を見てみると、従業員規模が小さい企業ほど、導入しない理由として従業員が少なく導入する必要がないことを挙げる割合が高くなっており、サービス内容にマニュアルが適さないことやマニュアル化する汎用的な業務がないことを挙げる企業も一定割合存在する27(第2-2-39図)。

27 マニュアルを導入した理由については、業務の効率化を挙げる企業の割合が最も高いが、顧客の属性別に見ると対事業所向けサービスにおいて特に高い。また、対消費者向けサービスにおいては、サービスの品質の向上やサービスの品質の均質化を挙げる企業の割合が相対的に高くなっている(付注2-2-9参照)。

 
第2-2-38図 マニュアルの導入状況(従業員規模別)
〜101人以上の従業員規模の企業では、約80%の企業において何らかの業務にマニュアルを導入している。規模が小さい企業ではあまり導入されていない〜
第2-2-38図 マニュアルの導入状況(従業員規模別)
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-2-39図 マニュアルを導入しない理由(従業員規模別)
〜従業員規模が小さい企業では、従業員が少なくマニュアルは必要がないとする。51人以上の従業員規模では、「作成する労力・時間がない」ことを導入しない理由に挙げている〜
第2-2-39図 マニュアルを導入しない理由(従業員規模別)
Excel形式のファイルはこちら

 また、マニュアルの導入状況と労働生産性の関係について見てみると、全く導入していないとする企業よりも多くの業務について導入しているとする企業の方が、労働生産性が高い企業の割合が高くなっているが、全ての業務において導入しているとする企業では、むしろ労働生産性が低い企業の割合が高くなっており、マニュアルの導入と労働生産性との強い相関関係は見られない(第2-2-40図)。
 
第2-2-40図 マニュアルの導入状況と労働生産性
〜多くの業務についてマニュアルを導入している企業では、労働生産性が高い企業の割合が高いが、全ての業務において導入している企業では、労働生産性が低い企業の割合が高くなっている〜
第2-2-40図 マニュアルの導入状況と労働生産性
Excel形式のファイルはこちら

 マニュアルの導入は業務の効率化の観点から一定程度重要な取組といえるが、顧客の多様なニーズに対して柔軟に対応したサービスを提供することが求められる面もあり、必ずしもマニュアル化が馴染むとは限らない業務も多い。むしろ、個々の顧客のニーズの相違に柔軟に対応したサービスを提供できる能力が高い付加価値を生み出す源泉となりうる。また、マニュアルを導入する目的はサービスの内容により異なってくる。したがって、サービスを提供する企業が業務の標準化を行うのに当たっては、画一的な取組ではなく、自社のサービスの内容を勘案して業務の標準化と顧客ニーズへの柔軟な対応のバランスを追求することが求められているといえよう。

(2)業務プロセスの見直し
 次に、業務の構造や手順を見直す取組について見てみる。業務プロセスの見直しの実施状況について見てみると、「ある程度実施している」とする企業は半数を超えるものの、「実施している」とする企業は11.8%に過ぎない(第2-2-41図)。他方、業務プロセスの見直しと業況感の関係について見てみると、業務プロセスの見直しを積極的に実施している企業ほど、業況感が良いとする企業の割合は高くなっている(第2-2-42図)。良い業績を挙げていくため、業務プロセスを改善していく取組が重要であろう。
 
第2-2-41図 業務プロセスの見直しの実施状況
〜業務プロセスの見直しについて、ある程度実施しているとする企業は過半数を超えるが、実施しているとする企業は11.8%に過ぎない〜
第2-2-41図 業務プロセスの見直しの実施状況
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-2-42図 業務プロセスの見直しと業況感
〜業務プロセスの見直しを実施している企業ほど、業況感が良い企業は多い〜
第2-2-42図 業務プロセスの見直しと業況感
Excel形式のファイルはこちら

 それでは、業務プロセスの見直しとしては具体的にどのような取組を行っているのだろうか。業務プロセスの見直しの実施内容について見てみると、業務の手順や工程を具体的に明らかにする取組や各工程における適切な人員配置を行っているとする企業の割合が高くなっている(第2-2-43図)。しかし、ITの導入による業務プロセスの見直しや共通業務の集約化、アウトソーシングの活用といった業務プロセスの変更を伴う内容を実施している企業の割合は高くない。
 
第2-2-43図 業務プロセスの見直しに関する実施内容
〜業務プロセスの見直しの実施内容としては、業務の手順や工程を具体的に明らかにすることに取り組んでいるとする企業の割合が最も高い。
 一方、ITの導入による業務プロセスの変更や共通業務の集約化、アウトソーシングの活用などを実施している企業の割合は高くない〜
第2-2-43図 業務プロセスの見直しに関する実施内容
Excel形式のファイルはこちら

事例2-2-5 顧客ニーズに即した業務の効率化

 東京都中央区のキュービーネット株式会社(従業員53名)は、「QBハウス」というブランド名を用いたヘアカット専門店のフランチャイズ事業および店舗経営を行う中小企業である。1995年設立の同社は、10分で調髪が完了するサービスを1,000円で提供しており、2006年時点では、国内でのフランチャイズ加盟店を含めた店舗数が300店舗を突破している。
 同社は、大幅な髪型の変更ではなく、ヘアスタイルを整える「調髪」を求める顧客にターゲットを絞って、「カットだけで十分」というニーズを捉えたサービスを展開しており、こうしたニーズに忠実に対応するための徹底した業務の効率化を図っている。
 短時間で効率的な調髪を可能とするために、同社はシステム・仕組みの構築に特化し、直営店又はフランチャイズ加盟店の技術者は調髪に特化するという役割分担となっている。技術者が調髪だけに特化する環境を作りだすために、「顔剃り」、「洗髪」、「マッサージ」のサービスを省略している。また、店舗での代金の受領・精算業務は技術者が行わず、自動券売機で対応している。店舗には顧客からの受信用の電話を設けておらず、予約も受け付けていないため、電話対応業務に時間を割かれることもない。トイレもないためトイレ掃除等の労力も必要がない。従来の理髪業界に見られる業務プロセスを大きく変革することで、効率化を実現している。
 店舗数が急速に拡大しているが、サービスの品質の維持・均等化のために、全店舗共通のマニュアルを作成し、接客や技術のマニュアルに沿った業務遂行を徹底している。さらに、同社の理念や業務遂行方法などを拡大するフランチャイズ加盟店に対して浸透させるために、これらを熟知した教育指導担当者を置き、店舗への直接指導に当たらせ、人材育成にも力を入れている。
 同社は、「ヘアカットだけで十分」というニーズは世界共通であると考えており、香港やシンガポールに進出し、海外展開も始めている。
 
キュービーネット株式会社

(3)ITの導入
 業務プロセスの見直しとして、ITを導入する企業の割合はさほど高くなかった。ITの導入の目的や効果等については、第3章で詳しく見ていくが、ここではサービス産業におけるITの活用状況について簡潔に見てみたい。
 IT活用の基礎的な事例として事業用ホームページの設置状況と掲載内容について見てみると、60.7%の企業では事業用のホームページはないとしている。また、あるとした企業の掲載内容についても、事業内容や所在地、商品内容、問い合わせ先等を掲載している企業は多いものの、例えば、電子商取引機能を付加している企業の割合は3.1%と低い(第2-2-44図)。
 
第2-2-44図 事業用ホームページの設置と掲載内容
〜約40%の企業で事業用ホームページを設置している。電子商取引機能など付加的な機能を設置する企業は少ない〜
第2-2-44図 事業用ホームページの設置と掲載内容
Excel形式のファイルはこちら

 また、顧客の所在地との関係を見てみると、電子商取引を実施した企業の方が、顧客の所在地が広範囲に渡っている(第2-2-45図)。一般にサービスは「同時性」の特性から、製造物のように輸送ができず商圏は狭くなる傾向にあるが、第1章第3節で述べたとおり、商圏を広域化させることが規模の経済性等を通じて労働生産性の向上につながる可能性がある28。商品・サービスの主な市場と労働生産性の関係を見てみると、サービス産業においても市場が広範囲に渡るほど、労働生産性が高い傾向がうかがえる(第2-2-46図)。
28 中小サービス産業における電子商取引の実施の有無と労働生産性の関係についても、電子商取引を実施した企業の方が、労働生産性が高くなっている(付注2-2-10参照)。
 
第2-2-45図 顧客の所在地域と電子商取引の実施
〜電子商取引を実施している企業ほど、顧客の所在地域が広範囲に渡る傾向にある〜
第2-2-45図 顧客の所在地域と電子商取引の実施
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-2-46図 商品・サービスの主な市場と労働生産性
〜商品・サービスの主な市場(顧客の所在地域)が広範囲に渡るほど、労働生産性が高い傾向にある〜
第2-2-46図 商品・サービスの主な市場と労働生産性
Excel形式のファイルはこちら

 全ての業種で電子商取引を行うことが有効であるとは言い難いが、サービス産業においても電子商取引を実施することで、ニッチな分野を扱う規模の小さい企業でも広範囲な地域の顧客と取引ができるという可能性を示唆するものといえよう。

事例2-2-6 ITの活用による多様な決済手段の提供と付加価値の創造

 北海道札幌市のウェルネット株式会社(従業員51名)は、ITの活用により代行決済等のサービスを提供し、急成長を遂げている企業である。
 1983年に設立された同社は、1996年に新規事業に特化するために事業再編を行い、消費者が電子商取引や通信販売で購入した商品や航空券などの代金をコンビニエンスストアで支払うことができる決済システムを提供し、2000年にはそのサービスを更に発展させた「マルチペイメントサービス」を開始した。これは、コンビニエンスストアのマルチメディア端末等を利用することにより、請求書を電子化して支払を行うことができるサービスである。紙の請求書を排除することにより、請求書送付にかかるコストや時間が削減されるなど、クライアント(顧客企業)と消費者の双方にとってメリットがある。現在では、ATMやインターネットバンキングなどにも同サービスが拡充され、ITを活用した多様な決済手段を提供している。また、2002年に携帯電話を活用した「ケータイチケットサービス」を実用化し、同サービスは航空会社やコンサート等のチケットで導入され、クライアントの業務の効率化と消費者の利便性の向上に貢献している。
 同社では自社のサービスの品質を保証し、向上していくため、システムの開発・運用を全て自社で行い、24時間体制でシステム運用の監視を行っている。こうしたシステムを独自に有していることが、新たなサービスの企画や柔軟・迅速な事業展開を支えている。以上のとおり、同社は自らに真に求められている業務に重点的に経営資源を配分しており、サービスの品質の向上に取り組んでいることが生産性向上につながっている。
 同社が提供するシステムの導入により、消費者の利便性が向上するとともに、コンビニエンスストア等の代行機関は顧客の増加や手数料収入等のメリットを享受できる。同社は、代行機関やクライアントと連携しつつ、これら多くの関係者にメリットを与えることにより、高い付加価値を共同で創造しているといえよう。
 
ウェルネット株式会社

 第2章 経済のサービス化と中小サービス産業

前の項目に戻る     次の項目に進む