第2部 中小企業の生産性の向上に向けて 

第3節 付加価値の向上に向けた取組

1 サービスにおける品質や付加価値
 サービス産業の生産性向上のために必要な方策の一つが付加価値の向上であることは前節で述べた。それでは、サービス産業に属する事業を営む企業は付加価値の向上について、どのように考えているのであろうか。
 企業が重視する経営戦略について見てみると、これまでの戦略としては、規模拡大を重視するとした企業が65.9%にのぼり、付加価値向上を重視するとした企業は22.2%に過ぎない。しかし、今後の戦略としては、41.7%の企業が付加価値向上を重視するとしている(第2-2-9図)。
 
第2-2-9図 重視する経営戦略の変化
〜これまでの経営戦略としては、規模拡大を重視してきた企業の割合が高く、対事業所向けサービスよりも対消費者向けサービスの方が、付加価値向上を重視する企業の割合は低かった。今後としては付加価値向上を重視する企業の割合が増えている〜
第2-2-9図 重視する経営戦略の変化
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 また、事業展開において力を入れている取組について見てみると、人材の育成・モチベーションの向上とする企業の割合が最も高い。しかし、「最も重視」する取組としては、商品・サービスの付加価値の向上を挙げる企業の割合が最も高くなっている(第2-2-10図)。
 
第2-2-10図 事業展開において力を入れている取組
〜人材の育成・モチベーションの向上に取り組む企業が多いが、最も重視するものとしては、付加価値の向上や品質の担保・保証に取り組むとする企業が多い〜
第2-2-10図 事業展開において力を入れている取組
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 次に、商品力や付加価値の水準と業況感の関係について見てみると、商品力や付加価値が目標とする水準に達しているとする企業ほど業況感は良いとする企業の割合が高くなっている(第2-2-11図)。
 
第2-2-11図 商品力・付加価値の水準と業況感
〜商品力・付加価値が目標とする水準に達しているとする企業ほど、業況感を良いとする企業の割合が高い〜
第2-2-11図 商品力・付加価値の水準と業況感
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 サービス産業の業績において、商品やサービスの付加価値向上の取組は重要な要素であり、企業においても付加価値の向上の重要性に対する認識が高まってきていることがうかがえる。
 他方で、企業が今後の経営戦略として特に重視している取組の具体的な内容を見てみると、コスト構造の把握とコスト削減策の実施や自社の属する業界の将来性の分析・把握といった取組を重視する割合が高く、顧客ニーズの定量的な分析・把握やターゲットの明確化と言った顧客に視点をおいた取組を重視する割合は低くなっている(第2-2-12図)。
 
第2-2-12図 経営に関する取組の重視度
〜顧客ニーズの把握やターゲットの明確化といった「顧客」に視点をおいた取組を特に重視している企業の割合は低い〜
第2-2-12図 経営に関する取組の重視度
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 しかしながら、サービスは、その「無形性」という特性から製造物のように物理的な測定が困難であるため、サービスの評価は顧客の主観によらざるを得ず、顧客のニーズやサービスに対する評価を把握・分析することは付加価値の向上の観点から重要と考えられる。実際、顧客ニーズの定量的な分析・把握を重視している企業ほど業況感を良いとする企業の割合は高い17(第2-2-13図)。したがって、実際に付加価値の向上を図っていくために顧客という視点を重視した取組を具体的に行っていくことが求められているといえよう。

17 経営戦略に関する取組内容として、コスト構造の把握とコスト削減策の実施を挙げる企業の割合が最も高いが、業況感との相関は見られない(付注2-2-6参照)。

 
第2-2-13図 顧客ニーズの分析・把握と業況感
〜経営戦略に関する取組として、顧客ニーズの定量的な分析・把握を重視している企業ほど、業況感を良いとする企業の割合が高い〜
第2-2-13図 顧客ニーズの分析・把握と業況感
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事例2-2-1 顧客の視点に立った付加価値の高い住宅リフォーム

 北海道札幌市の株式会社アクシエ(従業員11名)は、2002年に設立され、不動産仲介業務、不動産コンサルティング業務、新築・リフォーム・設計・企画プロデュースを中核的業務とする中小企業である。同社は、中古物件を新築物件並みに再生し、付加価値の高いリノベーションハウスとして提供することにより、これまでの中古住宅とは差別化された、高品質の住宅を提供している。一方で、その価格帯は新築住宅と比べて低い価格に設定しており、高品質を低価格で提供するビジネスモデルで業績を向上させている。
 ビジネスの発端は、「北海道内には使われないまま眠っている住宅が多いが、これらを流通させることで住宅市場の活性化を図りたい」という同社社長の強い思いであった。中古物件の売買を仲介するという従来型のビジネスモデルとは異なり、同社は買い手が確定していない段階で中古住宅を買い取り、その再生(リノベーション)を行うことにより高い付加価値を創出することに成功している。再生を行う際には、モデル住宅において見学者との対面でニーズを収集するほか、メールマガジン等のWebを活用したニーズ収集を行うことにより、提案型の営業を実践しており、顧客にとっての価値を高めている。顧客ニーズの把握においては、同社は「顧客ニーズは潜在的であり、顧客自身が具体的な住まいのイメージを持っているわけではない。潜在ニーズをいかにして汲み取るかが重要」と考えている。このため、顧客に対して「比較材料」を提供しており、3次元画像を活用した様々なリノベーションパターンの提示やモデルルームの活用を行うほか、メールマガジンによるリノベーションイメージの喚起などに取り組んでいる。また、使われないまま眠っている住宅を発掘・再生し、市場に流通させることにより、顧客にとっての選択肢の拡大につなげている。
 一般に、顧客が中古物件を購入しリフォームする際には、顧客が中古物件を購入後、別途リフォームを実施するため、リフォーム部分には担保価値がなく、大規模なリフォームのローンは組みにくかった。そのため、需要に対して供給は伸び悩んでいた。一方、同社の住宅リフォームの仕組みは、一旦、中古物件を同社が買い取り、顧客ニーズを踏まえてリフォームを実施し、リフォーム済みの物件を顧客に販売するが、リフォームを実施する際に日本住宅保証検査機構の検査保証を行っている。そのため、実質的にリフォーム部分についても担保価値が発生し、ローンが組みやすくなるなど、顧客にとってのメリットとなっている。
 同社は、将来的に顧客の更なる開拓を志向しており、今後、北海道以外の地域で事業を展開することを検討している。以上のとおり、同社は、顧客の潜在的なニーズを具体化した提案を行うことにより、顧客の視点に立って再生した住宅の提供という高い付加価値を実現している。
 
同社のイメージカラーで統一されたミーティングルーム
同社のイメージカラーで統一されたミーティングルーム

2 サービスに対する不満やトラブル
 サービスの付加価値の向上を図る上で顧客による評価は重要であるが、顧客はサービスに対してどのような点で不満を抱くのであろうか。対消費者向けサービス及び対事業所向けサービスのそれぞれについて、サービスに対する顧客の不満やトラブルの状況について見てみる。

(1)対消費者向けサービスにおける顧客の不満
 消費者がサービスに対して感じる不満について(株)野村総合研究所「生活・余暇に関連するサービスに関するアンケート」18(2007年12月)に基づき見てみると、多くの消費者がサービスに不満を感じることがあるとしており、生活関連サービスについての方が余暇関連サービスよりも不満を感じることがあるとする者の割合は高くなっている(第2-2-14図)。次に、どのような点に不満を持つのか見てみると、サービスの品質にばらつきがあることを挙げる者の割合が最も高く、次いで価格が高いこと、サービスの品質が期待する水準に達していないことを挙げる者の割合が高くなっている(第2-2-15図)。

18 消費者を対象に行ったインターネットアンケート。回答数3,000人。

 
第2-2-14図 消費者のサービスに対する不満
〜多くの消費者がサービスに不満を感じることがあるとしている〜
第2-2-14図 消費者のサービスに対する不満
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第2-2-15図 消費者がサービスに対し不満を持つ点
〜消費者は、サービスの品質にばらつきがある、期待する水準にサービスの品質が達していないなどの理由で不満を持っている〜
第2-2-15図 消費者がサービスに対し不満を持つ点
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 サービスの品質のばらつきに対する不満が多い原因としては、サービスの「同時性」という特性から、消費される時に人の行為により提供される場合が多く、品質が一定に保たれにくいという性質が挙げられる。また、サービスの品質が事前に期待した水準に達していなかったという不満が多い原因としては、サービスの「無形性」という特性から、実際に利用するまでその品質を把握しにくいという性質が挙げられる。
 次に、サービスに不満を感じた顧客の行動について見てみる。生活関連サービスにおいては、半数近くの消費者が、不満を感じたサービスを再び利用したことがあるとするが、その理由について見てみると、他に同様のサービスを提供する事業者がいないなど消極的な理由を挙げる者の割合が高くなっている(第2-2-16図)。また、余暇関連サービスにおいては、再び利用したことがあるとする者の割合は42.0%と生活関連サービスよりも低くなっている。そして、その理由についても価格が安いからといったことや立地などの利便性が高いことなど消極的な理由を挙げる者の割合が高くなっている(第2-2-17図)。生活関連サービスと余暇関連サービスのいずれも、サービスに対して不満を感じたものの、積極的な理由により再び利用したという者は少ない状況がうかがえる。
 
第2-2-16図 サービスに不満を感じても再び利用する理由(生活関連サービス)
〜半数近くの消費者が、不満を感じた生活関連サービスを再び利用したことがあるとするが、その理由は消極的なものである〜
第2-2-16図 サービスに不満を感じても再び利用する理由(生活関連サービス)
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第2-2-17図 サービスに不満を感じても再び利用する理由(余暇関連サービス)
〜不満を感じたサービスを再び利用したことがあるとする比率は余暇関連では低く、その理由は消極的なものである〜
第2-2-17図 サービスに不満を感じても再び利用する理由(余暇関連サービス)
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 サービスに対する消費者の不満が品質のばらつきや期待した水準との乖離であったことを踏まえれば、サービスを提供する企業には、消費者が求める品質の安定したサービスを提供することや消費者が期待する水準のサービスを提供する技術や組織体制を構築していくことが求められているといえよう。サービスの付加価値向上のためには、こうした取組により消費者の評価を上げ、他社との差別化を図り、顧客を継続的に獲得していくことが重要であると考えられる。

事例2-2-2 おもてなしの心で付加価値の創造

 東京都江東区のハロー・トーキョー株式会社(従業員380名、資本金4,250万円)は、2002年に設立され、「おもてなしの心」を重視したタクシー業を展開している中小企業であり、幅広い顧客層から多くのファンを獲得することに成功し、高いリピート率を達成している。
 同社では、「有形のサービスは模倣可能であり、無形のサービスは模倣しづらい。顧客との接点において無形の付加価値をどれだけ高められるかが鍵となる。」と考えている。顧客との接点での付加価値向上のためには、車や運賃といったモノよりもソフトウェアが重要であり、タクシー業界での重要なソフトウェアは「おもてなしの心」であると考えている。目指すべきは「感動してもらうこと」であり、そのためにはプラスαのおもてなしが必要になる。同社では、プラスαのおもてなしを実現するために、「理念」と「行動規範」の徹底した浸透を図っている。プラスαのおもてなしとして、顧客のわがままを歓迎し、要望をできる限り聞き入れることを志向している。また、プラスαのおもてなしという理念やそのための行動規範の浸透のためには、対話等で直接語りかけるだけでなく、システムを通じて伝達することが重要であり、プラスαのおもてなしを奨励する評価システムを導入している。社員の評価は顧客からの指名数、顧客からのCSカード、手紙・ハガキの獲得数、電話での感謝の声等の顧客からの評価で試算される。このため、社員は顧客に常に見られている意識を持つようになり、顧客に対するプラスαを実現するための行動を社員一人ひとりが工夫して考えるようになっている。
 もっとも、同社では、「顧客に尽くす」ことは目的ではなく手段であると捉えている。究極の理念は、「社員として誇り、尊厳、自信をもつこと」としており、社員が安心して働くことができ、幸せになってこそ付加価値の高いサービスができると考えている。同社では社員を「乗務員」ではなく「乗務担当社員」と呼んでおり、同社社員は、運転手ではなく社員としての意識で業務に従事している。
 同社では、プラスαのおもてなしという付加価値向上とともに、ハードウェアの効率化にも取り組んでいる。GPS(全地球測位システム)を活用した科学的・工学的アプローチで稼働率向上を実現している。タクシーに搭載したGPSシステムを活用して走行10m、分単位で各車の走行軌跡を割り出して優れた乗務行動分析を実施しており、分析結果を理論化し、他の社員に伝達・共有している。その結果、実車率約50%という高い水準を実現している。
 同社は、ハードウェアの整備とともに、ソフトウェアを重視することで社員の幸せが付加価値の高いサービスに結びつき、顧客満足を高め、収益に結びつくという好循環を作り出すことに成功している。
 
ハロートーキョー株式会社

(2)対事業所向けサービスにおけるトラブル
 次に、対事業所サービスにおけるトラブルについて見てみる。(株)野村総合研究所「業務委託に関するアンケート調査」19(2007年12月)に基づき企業が業務委託をした際のトラブルについて見てみると、約3社のうち1社の企業が過去3年間に自社の業務の外部委託でトラブルがあったとしている。そのトラブルの内容について見てみると、サービスが期待する水準に達しなかったとする企業の割合が最も高く、次にサービス品質にばらつきがあったとする企業の割合が高くなっている(第2-2-18図)。

19 法人企業10,000社を対象に実施したアンケート。回収率17.1%。

 
第2-2-18図 業務委託に関するトラブルの発生内容
〜約1/3の企業が業務委託に関して過去3年間にトラブルが発生したとする。トラブルの内容としては、サービスの水準や品質に関するものが多い〜
第2-2-18図 業務委託に関するトラブルの発生内容
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 対消費者向けサービスにおける不満と同様に、対事業所向けサービスにおいても、サービスの付加価値向上のためには、安定した品質のサービスを提供することや顧客が期待する高い価値のサービスを提供していくことによりサービスを利用した顧客の評価を上げていく取組が求められているといえよう。

3 サービスに対する顧客の期待
 前節ではサービスの付加価値向上のためには安定した品質のサービスの提供や顧客が期待する高い価値のサービスの提供が求められていることを指摘したが、それでは、サービスを受ける顧客はサービスに対して具体的にどのような期待を持っているのであろうか。対消費者向けサービス及び対事業所向けサービスそれぞれについて見てみたい。

(1)対消費者向けサービス
 消費者がサービスを利用する際に重視する点を見ると、生活関連サービスと余暇関連サービスのいずれもサービスの価格やサービスの具体的な内容を重視する割合が高くなっている(第2-2-19図)。また、生活関連サービスについては立地等の利便性を重視する割合が高いのに対し、余暇関連サービスではサービスのメニュー(種類のラインナップ)を重視する割合が高くなっている。消費者はその目的に応じて、日常的な生活関連サービスに対しては利便性を求め、個々人により嗜好が大きく異なる余暇関連サービスに対しては個々の嗜好に対応して選択し得るメニューを求めていると推測される。
 
第2-2-19図 消費者がサービスを利用する際に重視する点
〜サービスの価格を重視する消費者は多いが、生活関連サービスでは立地等の利便性を重視し、余暇関連ではサービスの具体的な内容の他、サービスのメニューといった多彩な選択肢を求めている〜
第2-2-19図 消費者がサービスを利用する際に重視する点
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(2)対事業所向けサービス
 企業が業務委託を行う場合の目的や効果を見てみると、コストの削減や高度な専門性の活用を重視している項目として挙げる割合が高くなっている(第2-2-20図)。また、委託を行う業務の機能別20に目的や効果を見てみると、全体で割合の高かったコスト削減はライン業務や付加・補助的業務において割合が高くなっており、一方、次に割合が高かった高度な専門性の活用は高度専門的業務で割合が高く、経営・マネジメント業務でやや高くなっている(第2-2-21図)。
 以上のとおり、企業が自社の業務を外部に委託する場合、その委託する業務の内容によって期待する目的や効果が大きく異なっており、対事業所サービスを提供する企業には、顧客たる企業の経営戦略に対応できる価値の高いサービスを提供することが求められているといえよう。

20 ここでは、委託を行う業務の機能を、4つの機能(〔1〕経営・マネジメント、〔2〕高度専門的業務、〔3〕ライン業務、〔4〕付加・補助的業務)に分類し、以下のとおり定義した。
 〔1〕経営・マネジメントとは、経営幹部や企画関連部門等の経営の方針策定や管理を担う業務。
 〔2〕高度専門的業務とは、法務、会計などの専門性の高い業務。
 〔3〕ライン業務とは、営業や物流、店舗運営などの現場の営業・生産活動等。
 〔4〕付加・補助的業務とは、清掃や社員給食提供、福利厚生などの付加・補助的な業務全般。

 
第2-2-20図 業務委託の目的や効果
〜「コスト削減」を目的として、業務委託を行う企業が多い。提供事業者が考える「業務品質の向上」や「競争力の強化」を重視する企業は少ない〜
第2-2-20図 業務委託の目的や効果
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第2-2-21図 業務機能別の業務委託の目的や効果
〜委託する業務機能別にみると目的は区々であり、「コスト削減」を目的として業務委託を行うのは、「ライン業務」「付加・補助的業務」において顕著〜
第2-2-21図 業務機能別の業務委託の目的や効果
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事例2-2-3 地域発のフリーペーパーで全国展開

 北海道札幌市の有限会社百景広告社(従業員8名)は、2004年の会社発足後、1ヶ月分の料理のレシピを掲載したフリーペーパー(無料の情報誌)の編集・発行で全国に事業を展開するまでに急成長を遂げた中小企業である。以前は広告のデザイン等を手掛けていたが、札幌市内に200社以上ある広告代理店の中での生き残りをかけるため、1ヶ月分の料理のレシピを掲載するという独自の情報媒体を自ら企画・作成し、当該媒体に広告を載せる事業へと転換した。
 2004年当時、札幌市内だけでも約40のフリーペーパーが存在し、クーポン付きが主流であったが、消費者に保管して貰えるもの、捨てられないものとして市内の料理研究家の先生が作成した1ヶ月分の料理のレシピを掲載し、スーパーマーケットで配布した。
 日々忙しく家族の健康に気を使っている主婦をターゲットに簡単・手軽に特化したレシピを掲載したことが功を奏し、消費者に次第に受け入れられるようになった。また、スーパーマーケットにとっても商品提案・販売コンサルティング機能を有する同誌は、ある北海道内のスーパーから評価され、道内全店で配布されるなど実績を積み重ねた。こうした実績を生かし、東京の会社を代理店として全国37都道府県で発行するまでに展開しているが、同社自身はコンテンツ作成業務のみに特化し、全国への営業は外部へ委託している。コア業務である消費者に視点をおいたコンテンツの作成に経営資源を集中させ、高い生産性を実現している。
 
同社のフリーペーパー「QuiCooking」
同社のフリーペーパー「QuiCooking」

4 事前の情報提供
 前節では、サービス産業に属する事業を営む企業が経営指標の中で重要とする割合が最も高かったのが顧客満足度であることを見た(前掲第2-2-5図)。顧客満足度は、顧客がサービスを利用する前における事前の期待とサービスを利用した後での事後の評価との差異に影響を受けるとされる21

21 山本昭二「サービス・マーケティング入門」では、顧客満足は一般的に次のような式で表され、この差が大きくなるほど、顧客満足は高まると考えられているとしている。
 顧客満足=実現された品質-期待された品質


 サービスは「無形性」という特性から、実際に利用するまでその品質を把握しにくいという性質があるため、上述したとおり、サービスの品質が事前に期待した水準に達していなかったと感じる顧客が多い。このため、サービスを提供する企業は、顧客の事前の期待が実際の品質と大きく乖離しないように、顧客に対しサービスの内容に関する十分な情報を事前に提供することが必要である。
 そこで、対事業所サービスに関する情報提供の内容について、サービスを提供する企業側とサービスを利用する企業側がそれぞれ重視する情報提供の内容について見ていく。
 まず、サービスを利用する企業では、重視する情報提供の内容として、商品・サービスの価格を挙げる企業の割合が最も高く、次いで個々の商品・サービスの具体的な内容、商品・サービスの目的や効果に関する水準を挙げる企業の割合が高い。一方、サービスを提供する企業では、商品・サービスを受けた顧客の声を情報提供のうち重視するものとして挙げる企業の割合が最も高く、個々の商品・サービスの具体的な内容や商品・サービスの目的や効果に対する水準を挙げる企業の割合は低くなっている(第2-2-22図)。
 
第2-2-22図 重視する情報提供内容
〜情報提供を受ける内容として、顧客側は商品サービスそのものの具体的な内容(価格、内容、サービス水準)を重視するのに対し、サービスを提供する事業者側は、サービスの内容を間接的に伝える内容(顧客の声、体制、スタッフ)を重視する傾向にある〜
第2-2-22図 重視する情報提供内容
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 このように利用者側がより具体的なサービス内容の情報を求めているのに対し、提供者側ではこうした直接的な内容ではなく、そのサービス内容や水準を間接的に表す情報を提供することを重視している傾向がうかがえ、提供者と利用者の間に情報提供に対する認識のギャップがあるように思われる。
サービスの「無形性」という特性から、提供者側もサービスの内容を正確に伝えることが難しい面もあるが、サービスを提供する企業には、顧客に対してサービスの具体的な内容や期待される効果に関する十分な情報を提供していく取組が望まれる。

5 品質に対する顧客の評価
 前項では、サービスの内容に関して顧客の事前の期待が実際に提供される品質から大きく乖離しないようにするための取組について述べたが、顧客がサービスを受けるかどうかを選択する際と実際に提供を受けた後とでは、サービスの評価をする基準に違いはあるのだろうか。業務委託に伴う対事業所向けサービスに関する評価項目について見てみる。
 業務の発注時に評価した項目(事前の期待)とサービスの提供を受けた後に評価する場合に重視した項目(事後の評価)について見てみると、いずれも着実な業務遂行力を評価する企業の割合が高い。事前の期待では高度な専門性を評価する企業の割合が2番目に高い一方、事後の評価では品質の安定性を評価する企業の割合が2番目に高くなっている(第2-2-23図)。
 実際のサービスの品質やそれが安定的に提供されるかは、サービスを受けるまで分からない。顧客が期待する品質のサービスを安定的に提供し、サービスの品質に対する事後の評価を継続的に高めていくことが重要であることが示唆される。
 
第2-2-23図 業務委託に関する評価項目
〜業務委託に関する評価項目は、サービスの提供を受ける前と後では異なり、事後的には品質の安定性を重視する傾向にある〜
第2-2-23図 業務委託に関する評価項目
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事例2-2-4 品質にこだわりスーツケースレンタルの全国展開

 広島県広島市の株式会社アイレンタル(従業員27名)は、スーツケースのレンタルというニッチな分野で全国的にトップレベルのシェアを持つ中小企業である。1987年設立の同社は、病院向けにテレビのレンタルを行っていたが、1994年にスーツケースのレンタル事業を開始した。
 当初は広島市内のみで自前で配送を行っていたが、市内に拠点を持つ大手旅行代理店と提携した際に、自前では困難な県内全域へ配送する必要が生まれ、配送は大手運送会社へ委託することとなった。大手旅行代理店と提携する同業他社では苦情等が多い中、同社では、顧客への営業は旅行代理店に委託するものの、顧客がレンタルの申込みをする際には、旅行代理店を介さず直接同社へ申込みを行う方式を採用するなど、レンタルに関する責任は全て同社が負える体制とし、サービスの品質向上に努めた。その結果、当初は大手旅行代理店との取引も県内のみであったが、同社のサービスの品質が評価され、中国・四国地域全域、西日本全域へと取引が広がり、現在は一部の地域を除く全国で事業展開するに至った。なお、現在では、旅行代理店との提携だけではなく、インターネットによる顧客との直接的な取引も増えてきており、売上の1割弱を占めるに至っている。
 同社は、競争相手を同業他社ではなく、スーツケースを廉価で販売する業者と考えており、こうした業者との差別化を図るため、スーツケースの品質にはこだわりを持ち、国内の大手メーカーと提携して高価でも高品質のスーツケースを特注している。病院向けのレンタルを行う経験を生かし、特注品は内装をビニール貼りにするなど衛生面に配慮したものとするなど工夫を施している。スーツケースの修理に関しても、市内の会社と提携して高い品質を維持している。
 また、広島という地域にこだわりを持ち、情報通信網や宅配便等の流通網が発達した現在では、むしろ土地代が安いこと等を利点と考え、配送センターも広島に構え、同地域で集中的なオペレーションを実施している。
 同社は、サービスの品質の向上を念頭に置き、営業・物流・生産といったノンコア業務をアウトソースすることによりコア業務に集中し、サービスの生産性を高めることに成功しているといえよう。
 
衛生面に配慮したスーツケースは使用後丁寧に消毒される
衛生面に配慮したスーツケースは使用後丁寧に消毒される

 第2章 経済のサービス化と中小サービス産業

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