第2部 中小企業の生産性の向上に向けて 

第1節 経済構造の変化と労働生産性

1 経済構造の変化と中小企業の認識
 我が国経済は、グローバル化、IT化、少子高齢化等の大きな構造変化に直面している。
 グローバル化は、各国の政府による貿易自由化交渉の進展や東西冷戦構造の終結等に伴い、輸出入や企業の海外展開の拡大という形で急速に進展している。また、インターネットの急速な普及に代表されるIT革命の進展は、消費者や企業が情報の収集や発信を行うための物理的・地理的な障壁を低くし、グローバル化を加速化させるとともに、国民生活や産業の姿を大きく変貌させてきている。
 こうした変化と並び、とりわけ我が国経済に大きなインパクトをもたらす変化が少子高齢化の進展である。第2-1-1図は、我が国の人口のこれまでの推移と将来の推移の推計値を示している。これによると、15歳から64歳までの、いわゆる生産年齢人口は既に減少に転じており、今後も65歳以上の人口が増加する一方で、生産年齢人口は大幅に減少していくと推計されている。
 
第2-1-1図 将来人口の推計
〜15歳から64歳の人口は減少すると推計されている〜
第2-1-1図 将来人口の推計
Excel形式のファイルはこちら

 以上の社会経済構造の変化について、中小企業はどのように感じているのであろうか。第2-1-2図は、(株)日本アプライドリサーチ研究所が実施した「生産性に関するアンケート調査」2(以下「アンケート調査」という)をもとに、グローバル化、IT化、少子高齢化に対する中小企業の認識を示したものである。これによれば、「ITの広まりに伴うビジネス環境の変化」を「チャンスである」、「どちらかといえばチャンス」と歓迎する企業の割合は他の項目に比べると高い一方で、「少子高齢化・人口減少の影響」については、「脅威である」、「どちらかといえば脅威」と認識している企業が約半数に上っており、少子高齢化・人口減少に対して中小企業の危機感が強いことが分かる。

2 2007年11月、営利法人20,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率27.8%。

 
第2-1-2図 経営環境の影響
〜ITの広まりはチャンスとして、少子高齢化・人口減少の影響は脅威として受け止められている〜
第2-1-2図 経営環境の影響
Excel形式のファイルはこちら

2 人口減少による影響と経済成長のための方策
 中小企業が少子高齢化・人口減少をネガティブに捉えている背景には、マクロ的には需要サイドと供給サイドの両面の懸念があると考えられる。
 需要サイドの懸念とは、総人口の減少が家計部門の消費支出額を減少させ、国内市場を縮小させる原因になるという懸念である。他方、供給サイドの懸念とは、総人口の減少が労働者数の減少をもたらし、労働投入の成果物であるGDPを減少させる原因になるという懸念である。このような懸念が顕在化することを避けるためには、主に2つの方法が考えられる。
 第一の方法は、総人口が減少したとしても、国民のうち就業している者の割合を増加させることにより、労働投入量の維持を図ることである3。そのための具体的な方策として様々な取組が考えられるが、例えば、高齢者や出産・育児を終えた女性のうち、働く意欲があるにもかかわらず就業の機会が与えられていない者を労働力として活用することが考えられる4

3 これまでの労働力率の推移は、付注2-1-1参照。
4 2006年版通商白書11頁では、労働人口の減少を、単に量的に外国人労働者の受け入れで補おうと考えることには限界があると指摘している。


 第二の方法は、労働投入量当たりの付加価値額を伸ばすことである。仮に総人口の減少に伴って就業者数も減少し、それにより労働投入量が減少したとしても、1人の労動者が1時間働くことにより生み出す付加価値額が増大すれば、付加価値額の総計であるGDPを減少させず、むしろ増大させることも可能である5。ここで述べた労働投入量当たりの付加価値額が「労働生産性」と呼ばれる概念であり、後で詳しく述べることとする。

5 生産性年次報告書2007年版では、「経済成長率=労働生産性上昇率+就業者数増加率」という関係があるため、生産性の向上がこれまで以上に重要な役割を担うことが期待されるとしている。


 第一の方法については、2006年版中小企業白書で詳しく採り上げたことから、本書では第二の方法、すなわち労働生産性の向上という方策に焦点を当て、分析を行っていく。
 なお、第一の方法と第二の方法は、いずれも労働力に着目したアプローチであり、供給サイドの方策であるが、潜在的な労働力が就業を通じて賃金を稼ぎ出すことや、労働生産性の上昇に伴い就業者1人当たりの賃金が増加することは、家計部門の所得額の増大を通じて消費需要の増加に寄与し、人口減少が消費に与える負の影響を相殺する効果がある。したがって、第一の方法も第二の方法も、供給サイドと需要サイドの両面からGDPの増大に寄与しうるものである。

3 経済成長と労働生産性
 前項では、労働生産性の向上が人口減少下の我が国経済の成長率を維持・向上させていくために重要であることを述べてきたが、ここで労働生産性という概念についてより詳しく見ていこう。
 労働生産性は、産出量を付加価値額とした場合、一般に次のように定義される。

 労働生産性 = 付加価値額/労働投入量

 ここで労働投入量としては、労働時間あるいは労働者数が用いられる。こうした労働生産性の向上を図るためには、大まかに整理すれば次の2つのアプローチが考えられる。
 〔1〕分子の付加価値額に着目し、企業が製品やサービスの開発等を通じて新たな付加価値を創出すること等により、同じ水準の労働投入量が産み出す付加価値額を増大させること
 〔2〕分母の労働投入量に着目し、企業が業務の合理化や生産効率の高い設備への切替え等により、同じ水準の付加価値額を産み出すために必要な労働投入量を減らすこと
 このように労働生産性の向上を2つの視点から捉えることは、労働生産性を巡る議論を整理し、検討していく上で有益であるが、我が国が労働生産性の向上のために実際の行動に移していく上では、これら2つのアプローチの間には相互作用があるため、両アプローチに基づく取組は整合性を確保しながら実施する必要があるという点に十分に留意する必要がある。その理由は、仮に多数の企業が〔2〕のアプローチによる従業員の削減に大々的に取り組み、総人口に占める就業者数の比率が低下した場合、雇用者所得の減少を通じて消費需要が減少し、かえって付加価値額の減少による労働生産性の低下を招き、縮小均衡に陥るおそれがあるからである6
 以上のとおり、我が国全体の労働生産性の向上のためには、個々の企業による生産性向上の努力と、マクロ経済のパフォーマンスとの調和を図ることが重要である。

6 平成19年版経済財政白書では、マクロ経済段階で労働投入の削減による労働生産性の上昇を目指すことは、結果的に失業増加に繋がるおそれがあり、慎重な対応が必要であると指摘している。


 第1章 中小企業を巡る構造変化と生産性

前の項目に戻る     次の項目に進む