第1部 2007年度における中小企業の動向 

第3節 我が国経済の構造変化に直面する中小企業

 前節では、第1-1-11図において、今回の景気回復局面において、大企業と中小企業、特に小規模な企業との間の利益率の差が拡大していることを確認した。このような差は、現在の原油価格高騰の影響などの突発的、循環的な要因だけでなく、我が国経済社会の中長期的な構造変化を反映したものと考えられる。

消費の伸び悩み
 中小企業の利益率の低迷の背景には、原油価格高騰や改正建築基準法の施行後の建築着工件数の減少などの外生的ショックに加えて、中小企業が大きく依存する民間消費需要の伸び悩みがあると考えられる。中小企業庁「規模別産業連関表」によると、中小企業における民間消費需要の生産誘発係数は大企業に比べて大きく、中小企業は相対的に民間消費需要に依存していると考えられる(第1-1-18図)。一般に、輸出や設備投資の需要の伸びに牽引されて景気が拡大すると、労働市場が逼迫して賃金の上昇等により家計部門の所得が増大し、それに伴って民間消費需要が拡大するとされている。
 
第1-1-18図 最終需要項目1単位増加による生産誘発係数
〜中小企業は、大企業に比べて、輸出よりも民間消費や公的資本形成によって、生産が誘発される〜
第1-1-18図 最終需要項目1単位増加による生産誘発係数
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 しかし、今回の景気拡大局面では、この循環メカニズムが十分に機能していないことが、民間消費需要に未だ力強さが感じられず、中小企業の多くが景気回復の実感に乏しい原因の一つになっていると考えられる。
 民間消費需要について、今回の景気回復と、過去のいざなぎ景気やバブル景気を比較すると、今回の景気回復局面で民間消費は緩やかに拡大しているものの、スピードは非常に遅い(第1-1-19図)。
 
第1-1-19図 主な景気回復局面における民間消費の推移
〜過去の景気回復に比べ、今回の景気回復局面では民間消費が伸び悩んでいる〜
第1-1-19図 主な景気回復局面における民間消費の推移
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 このように消費に力強さがない背景には、家計部門の雇用者所得が伸び悩んでいることがある。賃金の動向について、厚生労働省「毎月勤労統計調査」によれば、賃金指数は1997年以降2004年までおおむね下降傾向が続き、2005年に持ち直したが、2007年は前年比0.3%減となっており、今回の景気回復局面が始まった2002年以降、賃金指数はほとんど伸びていない(第1-1-20図)。
 
第1-1-20図 賃金指数の推移
〜賃金指数は1997年以降2004年までおおむね下降傾向が続き、2005年に持ち直したが、2007年は前年比0.3%減少〜
第1-1-20図 賃金指数の推移
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 こうした所得環境の弱さの背景としては、〔1〕景気回復局面において失業率が改善したものの、歴史的に見ればなお高い水準にあり、労働市場での賃金上昇圧力が弱いこと、〔2〕正規雇用から非正規雇用への人員シフトが生じ(第1-1-21図)、賃金の押し下げ要因として働いていること等の要因が考えられる。
 
第1-1-21図 非正規雇用者比率規模別推移
〜正規雇用から非正規雇用への人員シフトが生じている〜
第1-1-21図 非正規雇用者比率規模別推移
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グローバル化に伴う海外製品との競合
 次に、グローバル化の進展も中小企業の業況に大きな影響を与えている。
 世界経済の拡大を背景として、我が国の輸出入額は拡大を続けてきており、2007年の我が国の貿易・サービス収支の黒字は10兆775億円(前年比37.2%増)に達している。しかし、主として中小企業が製造している製品9の輸出入の推移を見てみると、輸入超過の状態が続いており、足下ではその超過額は拡大の傾向を示している(第1-1-22図)。2000年と2006年を比べてみると、衣服・その他の繊維製品、木材・木製品、家具・装備品で、対アジア貿易を中心に、輸入超過額が大きく増加している(第1-1-23図〔1〕)。

9 中小企業性製品とは、経済産業省「工業統計表」に基づき日本標準産業分類細分類で従業員数300人以下の中小事業所の出荷額が70%以上(2000年時点)を占めるものを指す。

 
第1-1-22図 中小企業性製品の輸出入額の推移
〜中小企業性製品の輸入超過額は増加傾向にある〜
第1-1-22図 中小企業性製品の輸出入額の推移
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第1-1-23図 業種別の輸入超過額の推移と出荷額の変化
第1-1-23図 業種別の輸入超過額の推移と出荷額の変化
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 経済産業省「工業統計表」に基づき、業種別の出荷額動向を見てみると、衣服・その他の繊維製品、木材・木製品、家具・装備品、繊維工業で1997年から2005年の間の減少幅が40%を超える(第1-1-23図〔2〕)。また、経済産業省「鉱工業総供給指数」を業種別に見ると、繊維工業10では1997年から輸入浸透度11が大幅に上昇している(第1-1-24図)。これらのデータを総合すると、衣服・その他の繊維製品等の内需型製品を製造し、海外製品と競合している中小企業の多くは厳しい経営環境にあると考えられる。

10 鉱工業総供給指数における業種分類に関しては、通常の日本標準産業分類から組み替えを一部行っていることに注意する必要がある。ここでの繊維工業には、日本標準産業分類における繊維工業に加えて、衣服・その他の繊維製品の一部も含まれている。
11 輸入浸透度(%)は(業種別輸入指数×輸入ウェイト)/(業種別総供給指数×総供給ウェイト)×100で表され、国内の供給に占める輸入品の割合を示している。

 
第1-1-24図 業種別輸入浸透度の推移
〜繊維工業 では1997年から輸入浸透度 が大幅に上昇している〜
第1-1-24図 業種別輸入浸透度の推移
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公共事業の減少
 我が国の公共事業の減少は、中小企業の1割強を占める建設業を中心に業況に影響を与えている。国土交通省「建設総合統計」によると、我が国の公共工事は1993年には34兆6,219億円だったが、2006年には18兆385億円まで減少し、13年間でほぼ半減したことになる。建設業活動指数と鉱工業生産指数を比較すると、景気回復局面の中で生産を拡大させてきた製造業と建設業の差は大きい(第1-1-25図)。建設業の中においても、官公需中心型と民需中心型の中小企業の間で、2000年以降、業況が大きく乖離する傾向が見られている(第1-1-26図)。また、製造業でも公共事業への依存が大きい窯業・土石製品等では、建設業と同様に生産活動は低い水準で推移している。
 このように、公共事業の減少が続く中で、建設業をはじめ、公共事業に大きく依存する業種は厳しい経営環境にある。
 
第1-1-25図 産業別活動指数の推移
〜公共工事の減少等を背景として、建設業の活動は停滞している〜
第1-1-25図 産業別活動指数の推移
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第1-1-26図 建設業における官公需向割合別の業況DIの推移
〜建設業の中においても、公共工事の縮小を背景として、官公需中心型と民需中心型の企業で、業況が大きく乖離している〜
第1-1-26図 建設業における官公需向割合別の業況DIの推移
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業種間・地域間の景況感のばらつき
 製造業が我が国の輸出の増大と設備投資に牽引され、相対的に好調な一方で、建設業や小売業等は厳しい状況にあり(第1-1-27図)、これら業種間の景況感の相違は、各地域の産業構造の相違を反映し、地域間の景況感にばらつきを生じさせている。第1-1-28図は各都道府県の有効求人倍率を示したものである。主に外需型製造業である機械関連業種の割合が高い地域では1.0倍を超える有効求人倍率を示している一方で、建設業や内需型製造業の比率の高い地域では0.5倍を下回る水準で推移している。地域の業況については、第3部第1章において、より詳細に見ていくこととしたい。
 
第1-1-27図 中小企業の業種別業況判断DIの推移
〜製造業が、我が国の輸出の増大と設備投資に牽引され、相対的に好調な一方で、建設業や小売業等が厳しい状況にある〜
第1-1-27図 中小企業の業種別業況判断DIの推移
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第1-1-28図 有効求人倍率と機械関連業種の分布
〜都道府県の間に有効求人倍率の大きなばらつきが存在する〜
第1-1-28図 有効求人倍率と機械関連業種の分布
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 以上のとおり、我が国の経済構造が変化する中で、中小企業、とりわけ小規模な企業では収益が中長期的に低い水準で推移し、大企業との格差は拡大を続けている。こうした状況の下、第1-1-29図が示しているとおり、自営業者と会社員の収入を比較すると、製造業などでは1990年までは自営業者の方が高い収入を得ていたが、現在では会社員の収入の方が高い。
 
第1-1-29図 自営業者対会社員収入比率の推移
〜製造業などでは1990年までは自営業者の方が高い収入を得ていたが、現在では会社員の収入の方が高い〜
第1-1-29図 自営業者対会社員収入比率の推移
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 こうした中、自営業者は経営者の高齢化12も相俟って廃業する場合も多い。一方、開業率は足下で上昇しているものの、なお廃業率を下回る状況が続いている(第1-1-30図〔1〕)13。このため、我が国の中小企業数は減少を続けてきたところであり、2004年から2006年へかけても我が国の中小企業数は433万社から420万社へと減少した(第1-1-30図〔2〕)14。開廃業の動向についても、第3部第1章において、より詳細に見ていくこととしたい。

12 2006年版中小企業白書は、総務省「就業構造基本調査」をもとに1979年以降50歳以上の自営業主の廃業者が増え続け、2002年においては廃業者の43.0%が60歳以上となっていることを示している。そして、近年の廃業率の上昇は、個人企業における事業主(自営業主)の高齢化に伴う引退が大きな原因となっているものと考えられる、としている。
13 企業数ベースの開業率が2001年〜2004年の期間から2004年〜2006年の期間にかけて上昇しているが、その背景としては、景気回復局面にあったため、開業しやすい経済環境であったことや、政府が創業者向けの融資制度の拡充など創業支援策を講じたこと等が挙げられる。また、事業所数ベース等の開廃業率は第3-1-8図を参照。
14 総務省「事業所・企業統計調査」(2006年)再編加工。前回調査時(2004年)に比べて、約3.0%減となっている。

 
第1-1-30図〔1〕 企業の開廃業率(企業数ベース)と企業数の推移
〜開業率は一時に比べて上昇しているが、なお廃業率を下回っている状況が続いている〜
第1-1-30図〔1〕 企業の開廃業率(企業数ベース)と企業数の推移
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第1-1-30図〔2〕 企業の開廃業率(企業数ベース)と企業数の推移
〜2004年から2006年へかけて、我が国の中小企業数は433万社から420万社へと減少した〜
第1-1-30図〔2〕 企業の開廃業率(企業数ベース)と企業数の推移
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 第3節 我が国経済の構造転換に直面する中小企業

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