第1部 2007年度における中小企業の動向 

第1節 2007年度の我が国経済の動向

 2007年度の我が国経済は、緩やかな景気回復を続けたものの、年度末に足踏み状態となった(第1-1-1図)。
 
第1-1-1図 実質GDPと鉱工業生産の推移
〜2007年度の我が国経済は、緩やかな景気回復を続けた〜
第1-1-1図 実質GDPと鉱工業生産の推移
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 2002年2月から始まった現在の景気回復は、2002年後半からと2004年後半からの踊り場的な状況を経つつも、6年を超える戦後最長の期間にわたるものとなっている1。この間の経済成長は海外の景気拡大に伴う輸出の高い伸びと、企業の収益改善に伴う設備投資の伸びによって牽引されてきた一方、家計消費は総じて伸び悩んでいる(第1-1-2図)。

1 付注1-1-1参照。ただし、月例経済報告の基調判断における回復期間を示した期間であり、政府として景気拡張期間を公式に示したものではない。正確な景気拡張期間を確認するには、内閣府経済社会総合研究所で開催する景気動向指数研究会による景気基準日付の設定を待つ必要がある。

 
第1-1-2図 我が国の実質GDP成長率とその寄与度
〜海外の景気拡大に伴う輸出の高い伸びと、企業の収益改善に伴う設備投資の伸びによって景気回復は支えられてきた〜
第1-1-2図 我が国の実質GDP成長率とその寄与度
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 こうした中、2007年度においては、サブプライム住宅ローン問題、原油価格高騰、改正建築基準法の施行後の建築着工件数の減少という3つの外生的ショックが発生した。原油価格高騰と建築着工件数の減少は中小企業の業況や建築関連の産業に悪影響を与え、サブプライム住宅ローン問題の発生と相俟って、我が国経済の先行き不透明感を増大させている。
 ここで、サブプライム住宅ローン問題、原油価格高騰、改正建築基準法の施行による建築着工件数の減少について、それぞれ振り返ってみよう。

サブプライム住宅ローン問題の影響
 2007年夏に顕在化したサブプライム住宅ローン問題は、アメリカを震源としつつも、世界的な金融市場の動揺とアメリカ経済の減速懸念の高まりにつながった。
 アメリカでは、2000年代に住宅ブームが到来し、住宅投資や家計消費の高い伸びによって堅調な経済成長を続けてきた。そうした中、住宅ローンを信用力の比較的低い者に対して供与するサブプライム住宅ローンが普及した。住宅価格が上昇し続ける局面においては、こうした家計のローン返済能力の低さが住宅の担保価値の上昇で補完されうるが、2006年以降、住宅価格の上昇が急速に鈍化し、下落に転じる中、サブプライム住宅ローンの延滞率、差押率は急上昇していった。また、こうした背景から、アメリカの家計に対する信用供与は収縮し、消費が減速する中で、我が国からアメリカへの輸出数量は2007年3月から、対前年比で減少傾向にある。
 一方、2007年7月に格付機関がサブプライム住宅ローン関連の証券化商品の格下げを行った。その結果、投資家の資金は「質への逃避」としてアメリカの国債等の安全資産に流れ、世界的な株価下落が生じた(第1-1-3図)。為替面では、アメリカ経済の減速への懸念等から、世界的にドル安が進行し、我が国のアメリカ向け輸出は2007年9月から金額ベース(円ベース)でも前年同月比マイナスの傾向を示している。
 
第1-1-3図 主要国の株価の推移
〜アメリカのサブプライム住宅ローン問題による世界的な金融市場の動揺で主要国の株価は大きく下落した〜
第1-1-3図 主要国の株価の推移

 これまでのところ、我が国の輸出は、アメリカ向け輸出の減少をアジア・欧州向け輸出の伸びが補っており、依然として我が国の景気を牽引している。我が国の金融機関によるサブプライム住宅ローン関連商品等の保有額は欧米と比較すると小さいとされており、サブプライム住宅ローン問題それ自体が我が国経済に与える影響は限定的と考えられるが、それが世界経済の本格的な減速をもたらし、我が国の輸出が大きく減少する事態も考えられるため、今後とも十分な注視が必要である。

原油価格高騰の影響
 2007年度は原油価格の代表的指標であるWTI2価格が史上最高値を更新し続けた一年であった。WTI価格は、2004年頃から上昇傾向を示し、2006年秋頃に暖冬による需要減少等のため一時的に価格は下落したものの、2007年夏以降急騰し、2008年1月2日には瞬間値で初めて1バレル100ドルを突破した(第1-1-4図)。こうした価格高騰の背景としては、中国等のアジアを中心とした世界的な石油需要の増加、資源開発投資の減少等による供給力低下といったファンダメンタルズ要因や、産油国の政情不安やテロ懸念等の地政学的リスクに加えて、金融面の要因が指摘されている。世界的な過剰流動性や低金利などを背景に、需給動向等を材料として、年金基金といった投資資金等が原油市場に流入し続けている。さらに、前述したサブプライム住宅ローン問題の発生後、投機目的の資金がWTI市場に流入し、原油価格高騰の傾向を加速させている。

2 WTI(ウエスト・テキサス・インターメディエイト)はニューヨーク商品先物市場で取引されているアメリカ産の原油の一種。

 
第1-1-4図 原油WTI価格の推移
〜原油価格は2004年以降上昇傾向にあるが、2007年に入って、急上昇している〜
第1-1-4図 原油WTI価格の推移

 このようなWTI価格の高騰に伴い、我が国の輸入原油価格も急上昇しており、円ベースの実質価格で見ると、第一次石油ショック時の水準はすでに超え、2007年末頃からは第二次石油ショック時に匹敵する水準で推移している3。ただし、これら過去2回の石油ショック時に比べて、我が国の石油依存度(一次エネルギーにおける原油の占める割合)はエネルギー源の多様化や省エネルギーの進展により77.4%から49.7%へ低下し、原油輸入量は第一次石油ショック時に比べ約17%減少している4。このため、灯油、ガソリン等石油製品の価格が上昇する一方で、これまでデフレが続いてきた経済環境と相俟って、企業物価や消費者物価といったマクロの物価の急激な上昇には至っていない。

3 付注1-1-2参照。
4 第一次・第二次石油ショック当時と比べ、〔1〕エネルギー源の多様化により、1973年度と2005年度を比較してみると、我が国のエネルギー使用量は増加しているものの、一次エネルギーに占める原油の割合が低下したことに加え、〔2〕我が国全体のエネルギー消費効率が石油ショック以降、技術開発等により約35%向上している。さらに、〔3〕為替については、1ドル=271円(1973年の各月末の平均値)から1ドル=118円(2007年の各月末の平均値)へと大幅に円高が進んでいる。これらの効果によって、我が国の産業は原油価格高騰の影響を受けにくい体質に強化されてきたといえる。付注1-1-2参照。


 他方、第1-1-5図は、原油価格の高騰が中小企業に与えている影響を示したものであるが、9割を超える中小企業が原油価格の上昇により収益を圧迫されているとしている。特に、窯業・土石製品、石油製品、パルプ・紙製品、出版・印刷、クリーニング、運輸、繊維工業等の業種で大きな影響が見られている。また、多くの中小企業が原油価格高騰によるコスト上昇分を自社の製品・サービスの価格に転嫁することが困難としており、全く転嫁できていないとする中小企業は6割にのぼる。
 
第1-1-5図 原油価格上昇による中小企業への影響
〜原油価格の上昇により収益を圧迫されている企業は9割を超える〜
第1-1-5図 原油価格上昇による中小企業への影響
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 さらに、穀物、素材等の原材料価格も顕著に上昇する中で、中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」においても、原材料仕入単価DI5が今回の景気回復局面における最も高い水準に達した。一方で、売上単価・客単価DIは伸び悩んでおり、価格転嫁が進まず、利幅が悪化している状況がうかがえる(第1-1-6図)。このように、原油・原材料価格の上昇は中小企業の業況を悪化させることとなった。

5 原材料仕入単価DIは、前年の同期に比べて、原材料仕入単価が「上昇した」と回答した企業数から「低下した」と回答した企業数を引いた値である。同様に、売上単価・客単価DIは、売上単価・客単価が「上昇した」と回答した企業数から「低下した」と回答した企業数を引いた値である。

 
第1-1-6図 中小企業の価格転嫁度合いの推移
〜原材料仕入単価DIが今回の景気回復局面における最も高い水準を示す一方で、売上単価・客単価DIは伸び悩んでいる〜
第1-1-6図 中小企業の価格転嫁度合いの推移
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建築着工件数の減少の影響
 住宅や工場等の非住宅の建築着工件数は、2007年6月の改正建築基準法の施行の後、大幅に減少した。建築基準法は、設計段階での建築物の安全性を審査することを求めているが、今回の建築基準法の改正は、2005年11月に発覚した構造計算書偽装問題の再発を防止するため、建築確認・検査を厳格化したものであった6。しかし、これに伴い、建築確認手続きに要する時間が増大するなどの副次的な影響が生じ、建築着工件数が大幅に減少するというショックが発生した。

6 〔1〕構造計算適合性判定制度の導入:高度な構造計算を行う建築物について、第三者機関による構造審査(ピアチェック)を義務付け、〔2〕建築確認の審査期間の延長:21日間から35日間に延長(大臣認定プログラムによらない場合等には最大で70日間)、〔3〕指針に基づく厳格な審査の実施:従来、建築確認申請書類が不十分な場合において、幅広く認められてきた審査段階での補正を厳格化、等の点が改正された。


 2007年7-9月の新設住宅着工件数は前年同期比で37%減(約21万戸)まで減少した(第1-1-7図)。特に8月、9月は年換算70万戸程度となり、最近の平均着工件数(年間130万戸程度)からほぼ半減した。これに伴い、建設業者のみならず建材・部材の製造業者等にも影響が生じた。建築向け鋼材メーカーが相次いで減産を表明したほか、セメントメーカーは出荷量が対前年同月比10%以上減少し、サッシや板ガラスの出荷も減少、家具関係でも受注への影響が一部で顕在化した7。こうした中、建設業の倒産件数が2007年10月に対前年同月比25.8%増、11月に29.6%増と大幅に増加した。

7 国土交通省の試算によれば、住宅着工件数が10万戸減少することによる関係産業の生産への影響は3兆円程度、中間投入を差し引いた付加価値ベースでは1兆4,661億円(GDPの約0.3%)とされている。

 
第1-1-7図 新設住宅着工利用関係別寄与度
〜新設住宅着工件数の減少幅は縮小しているものの、引き続き今後の動向を注視する必要がある〜
第1-1-7図 新設住宅着工利用関係別寄与度
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 住宅着工件数が2007年10月以降、前年同月比での減少幅が縮小し、持ち直しの動きにあり、また、政府が建築関連の中小企業者に対する金融支援等の対策を講じる中、建設業の倒産件数は12月7.7%減、1月8.4%増と一服感が見られるが、引き続き今後の動向を注視する必要がある。

 第1節 2007年度の我が国経済の動向

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