第3部 経済構造の変化にチャレンジする中小企業 

第2節 中小企業における人材構成

 前節で述べたように、90年代における中小企業における雇用のリストラは、賃金の抑制、新規採用の抑制、正規雇用から非正規雇用へのシフトを通じて企業内に蓄積された人的資本に大きな影響を及ぼすと考えられる。近年、従業員の確保が困難になる中で、正規雇用者の不足感が高まってきているが、その不足感は業務区分ごとにばらつきがみられ、90年代における雇用のリストラにより、中小企業内に蓄積されてきた人的資本が損なわれていることが懸念される。
 本節では、この影響を評価するために、中小企業が理想とする人材の構成、現在の人材構成、10年前の人材構成を比較することにより、90年代における雇用のリストラの影響を評価する。

1 企業における人材構成とは

 企業を円滑に運営するためには、それぞれの職務に適した人材を最適に組み合わせることが必要である。人材のタイプの分類については決定的な考え方はないが、ここでは、人材のタイプを「企業特殊的能力」4の高低と「業務レベル」5の高低の2つの軸で区分し、4タイプに分類する(第3-3-24図)。なお、4区分については、個々の企業の特殊性などにより一律的に論じるべき概念ではないことに留意が必要である。

4 「企業特殊的能力」とは、企業内において、自社固有のやり方や仕組みを理解・実践し業務を円滑に遂行する能力である。企業内で蓄積される知識・ノウハウを身に付け、企業のもつ技術や戦略、市場、顧客、歴史的背景などを理解した上で、初めて付加価値を生む能力である。こうした企業特殊的能力は、他の企業では通常、あまり役に立たない。
5 「業務レベル」とは、企業の特殊性の有無に係わらず、業務遂行に必要な知識や技能などのレベルを指す。レベルの高い業務の例としては、企業経営における戦略を考えることや財務、法務を、レベルの低い業務の例としては、定型的な単純作業などを挙げることができる。

 
第3-3-24図 企業における人材構成概念図
第3-3-24図 企業における人材構成概念図

 まず、企業内で蓄積される知識やノウハウなどの「企業特殊的能力」を持ち、かつ知識や熟練技能などの「業務レベル」が高い人材を「プロデューサー型人材」と呼ぶ。具体的な例として、経営幹部やその候補者、技術リーダーや営業のマネジメントリーダーが挙げられる。
 他社でも通用するような知識や熟練技能などの「業務レベル」は高いが、「企業特殊的能力」はあまり持たない人材を「スペシャリスト型人材」と呼ぶ。具体的な例として、法務、会計などの業務を担う専門性の高い人材、高度な熟練技能を持つ人材が挙げられる。
 企業内で蓄積される知識・ノウハウなどの「企業特殊的能力」を持つが、業務レベルはあまり高くない人材を「熟練スタッフ型人材」と呼ぶ。具体的な例として、業務の流れや仕組みをよく知る一般職員、一般マネージャーが挙げられる。
 「企業特殊的能力」をあまり持たず、「業務レベル」もあまり高くない人材を「スタッフ型人材」と呼ぶ。具体的な例として、定型的業務や単純作業を担う人材が挙げられる。

2 人材構成の理想と現状

(1)理想とする人材構成
 まず、それぞれの人材タイプの望ましい構成比、ならびにこれらの人材がどの程度正規雇用・非正規雇用として確保されるべきと企業が考えているかを見る。
 (株)野村総合研究所「キーパーソンの育成や確保の実態に関するアンケート」(2006年11月)6によると理想とする人材構成は、プロデューサー型人材が30.7%と一番多い割合を占めており、スペシャリスト型人材が26.0%と続き、スタッフ型人材が22.5%、熟練スタッフ型人材が20.7%となっている(第3-3-25図)。

6 法人企業15,000社を対象に実施したアンケート。回収率8.4%。

 
第3-3-25図 企業における人材構成割合(理想)
〜理想とする人材構成の割合は、プロデューサー型人材が30.7%で一番多い〜
第3-3-25図 企業における人材構成割合(理想)
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 また、それぞれの人材タイプについて理想とする正規雇用の比率は、プロデューサー型人材で最も高く95.4%、スペシャリスト型人材では85.5%となっている。一方、熟練スタッフ型人材については71.6%、スタッフ型人材については43.1%で正規雇用者が必要とされるに過ぎない。

(2)現在の人材構成
 次に、現在の人材構成と正規雇用、非正規雇用の比率を調べる。(第3-3-26図)。
 
第3-3-26図 企業における人材構成割合(現在)
〜プロデューサー型人材が、現実には最も小さい割合にとどまっている〜
第3-3-26図 企業における人材構成割合(現在)
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 当調査によると実際の企業における人材構成は、プロデューサー型人材が17.0%を占めており、スペシャリスト型人材が23.3%、スタッフ型人材が28.8%、熟練スタッフ型人材が30.9%となっている。
 理想としては最も大きい割合を占めていたプロデューサー型人材が、現実には、最も小さい割合にとどまっている。
 それぞれの人材タイプにおける現実の正規雇用の比率は、プロデューサー型人材では、91.6%、スペシャリスト型人材では、85.8%となっている。一方、熟練スタッフ型人材では、76.5%、スタッフ型人材では52.5%となっている。プロデューサー型人材で最も正規雇用比率が高く、スタッフ型人材で最も低いという点で、理想と現実の乖離は比較的小さい。

3 人材構成の変化

 当調査では、企業に対して10年前の人材構成と正規雇用比率についても尋ねている。これを用いて、過去10年間人材構成にどのように変化があったのか、理想に近づいたのか乖離したのかを確認する。第3-3-27図は、人材構成について10年前、現在、理想の割合を正規雇用、非正規雇用の別に比較した図である。
 
第3-3-27図 人材構成割合の変化
〜非正規雇用者のスタッフ型人材は、10年前と比較して理想に近づく形で増加している。正規雇用者のプロデューサー型人材は、10年前と比較して理想から離れる形で減少している〜
第3-3-27図 人材構成割合の変化
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(1)流動性の高い人材(スペシャリスト型人材、スタッフ型人材)の非正規雇用化の進展
 特徴的なのは、10年前には少なかった非正規雇用者の割合が、理想とする割合を若干超過するまで増加している点である。これは、企業が全体として正規雇用を減らし、非正規雇用を増やした結果と解釈できる。

(ア)スタッフ型人材の非正規雇用化の進展
 非正規雇用者の中で最も増加幅が多いスタッフ型人材については、10年前の10.0%に対して、現在が13.7%である。理想とされた12.8%を若干上回るものの、理想に近づく形で増加したと言える。

(イ)スペシャリスト型人材の非正規雇用化の進展
 また、非正規雇用者のスペシャリスト型人材について、割合は小さいが10年前は2.4%であったのに対し、現在が3.3%である。理想とされた3.8%に近づく形で非正規雇用化が進められたことがうかがえる。

(2)プロデューサー型人材の減少
 もう1つの特徴は、正規雇用されている層の中でもプロデューサー型人材において、過去10年間で理想との乖離が広がった点である。
 正規雇用されるプロデューサー型人材の割合が10年前においては19.1%であったのに対して現在が15.6%と、理想とされた29.3%から乖離幅が拡大している。一方、熟練スタッフ型人材、スタッフ型人材については理想に近づく形で減少し、スペシャリスト型人材についても理想に近づく形で増加している。

4 人材構成の変化に伴う懸念

 人材構成において、プロデューサー型の正規雇用者が減少している。次に、プロデューサー型の正規雇用者の増減と業況感の関係を見る(第3-3-28図)。
 
第3-3-28図 正規雇用プロデューサー型人材と業況感
〜業況感の悪い企業は、正規雇用であるプロデューサー型人材の従業員が占める割合を低下させている〜
第3-3-28図 正規雇用プロデューサー型人材と業況感
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 業況感を「非常に良くない」または「良くない」、「どちらでもない」とした企業においては、プロデューサー型の正規雇用者をここ10年間に減少させている。一方、「非常に良い」または「良い」としている企業においては、プロデューサー型の正規雇用者が増加しており、ここ10年間におけるプロデューサー型の正規雇用者割合の増減と当該企業の業況感には相関が見られる。
 過去10年間の人材構成の変化は、非正規雇用者の積極的活用という点で特徴付けることができる。一方、正規雇用者の育成という観点からは、プロデューサー型人材の減少が進むことによる人的資本の劣化と企業業績への悪影響が懸念される。

事例3-3-1 事業戦略に応じた人材構成の形成

 沖縄県那覇市の株式会社沖縄教育出版(従業員130名)は1977年に設立された企業。沖縄の薬草「ウコン」を中心に安心、安全素材にこだわったオリジナル商品を展開し、通信販売を行っている。従業員は、正社員が30名、準社員(長期勤務のパート社員)が20名、パート社員が80名である。
 同社では、事業戦略に応じた適切な人材構成により、毎年平均24%の経常利益率、98%の顧客リピート率、高い顧客満足を達成しているとしている。また、従業員の離職率も非常に低い。
 同社は社員全員に対してそれぞれの役割における中核的な人材として成長して欲しいと考えており、それぞれの人材のタイプに応じたマネジメントを実施し、能力の伸長を促している。
 正社員として雇用し、企業経営において中核的な人材となることが期待される人材に対しては、社歴の浅い時期に部門のリーダーを任せることや、中核的な立場で各部門をローテーションさせることにより、中核的な人材への成長を促している。また、既に中核的な人材として活躍する人材に対しては、関連会社へ経営者として送り込むことで経営者としてのスキルを学ばせている。
 また、商品開発・商品企画など専門的な知識を必要とする人材は、中途採用や外部の専門家への業務委託をすることで確保している。
 商品販売や営業の電話オペレーター業務を担当するパート社員や準社員については、「情報自立人」という人材像が設定されている。これは、情報を判断して新しい価値を生み出すことが出来る人のことを指す。情報自立人になるために、「委員会活動」(チームを組んで環境問題や業務改善等について検討する活動)、「日本一長い朝礼」(毎日1時間程度行われる、委員会活動結果の報告や寸劇、ダンス等シナリオのないチームによる発表の場)の設置により、「一人一人が自ら企画し、実行・発表し、評価する」活動を通して成長する機会が提供されている。通常、長期勤務で業務に習熟したパート社員が昇格して準社員となり、電話オペレーターのとりまとめ役等を担っている。
 以上のようなマネジメントにより、社員一人一人が自らの役割を明確に認識し、高いモチベーションをもって業務を遂行する組織文化が出来上がっている。
 
日本一長い朝礼での一コマ
事例3-3-1 日本一長い朝礼での一コマ 株式会社沖縄教育出版

 第3章 人的資本の蓄積に向けた中小企業の取組

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