第3部 経済構造の変化にチャレンジする中小企業 

第4節 企業間信用取引の動向

 本節では、製品等の取引完了後の支払条件として、企業間信用取引(手形・掛取引)について分析を行う。具体的には、企業間信用のうち手形割合が年々低下しているという事実に鑑み、その原因や影響について分析する。加えて、我が国において、企業間信用サイト(製品等の提供完了から支払いまでの期間)を反映して支払価格が決まっているかについても検証する。

1 企業間信用取引の現状

 まず最初に、企業間信用取引の現状について確認する。近年、企業間信用が中小企業のバランスシートに占める割合は、短期借入金のそれよりも高く、中小企業にとって企業間信用は重要な資金繰りの手段である(第3-2-33図)。しかしながら、企業間信用割合は近年減少傾向にある。企業間信用の推移を買掛金と支払手形に分解したものが第3-2-34図であるが、これを見ると、企業間信用割合が低下した要因は、支払手形割合の低下であることが分かる。実際に交換されている手形の状況を見ても、手形枚数、手形金額共に急激に減少している。(第3-2-35図)。
 
第3-2-33図 企業間信用と短期借入金の推移
〜中小製造業の資金繰りにとって、企業間信用は短期借入と同様に重要である〜
第3-2-33図 企業間信用と短期借入金の推移
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第3-2-34図 企業間信用割合の推移
〜買掛金割合はほぼ横ばいだが、支払手形割合は低下している〜
第3-2-34図 企業間信用割合の推移
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第3-2-35図 手形交換の推移
〜金額、枚数とも減少〜
第3-2-35図 手形交換の推移
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 中小企業の手形取引に関して、もう少し詳しく見ていこう。第3-2-36図から、従業員規模別に支払手形割合の推移を見ると、従業員21〜300人の中小企業で比較的多く利用されていることが分かる。次に、手形取引を、手形決済割合と手形サイトに分け、それぞれ最近1年間の変化について見ると(第3-2-37図〔1〕〔2〕)、手形決済割合を低下させた中小企業が29.5%であるのに対し、手形サイトを短くした中小企業の割合は7.4%である。このことから、中小企業の手形利用が低下した要因として、手形サイトの短縮化よりも手形発行自体の減少が大きく影響していると言える。
 
第3-2-36図 支払手形割合の推移(従業員規模別)
〜支払手形は、従業員規模が21〜300人の企業で使われている割合が高い〜
第3-2-36図 支払手形割合の推移(従業員規模別)
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第3-2-37図 最近1年間の手形での支払状況の変化
〜支払手形割合の低下要因は、手形決済割合の減少〜
第3-2-37図 〔1〕手形決済割合

 
第3-2-37図 〔2〕支払手形の平均サイト
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 今後の支払手形の利用予定についても確認してみる。第3-2-38図によると、36.1%の中小企業が支払手形を「減少させる予定」であり、「増加させる予定」と回答した中小企業はわずか1.1%にしか過ぎない。この結果から、今後も手形の利用は減少していくものと推測される。また、支払手形を「減少させる予定」である中小企業においては、従業員規模の違いによりその理由が異なった(第3-2-39図)。従業員規模が小さい中小企業では、「自社の信用力を付けるため」、「不渡り・倒産リスクの回避・軽減のため」と回答した割合が高く、手形利用をやめることで信用力の向上を志向している。一方、従業員規模が大きくなると、「手形発行費用削減のため」、「手形取扱の事務負担軽減のため」と回答した中小企業が多い。これらの企業では、手形の事務処理負担を削減する志向が強いことがうかがえる。
 
第3-2-38図 今後の支払手形の利用予定
〜支払手形を減少させる予定の中小企業が3分の1を超えている〜
第3-2-38図 今後の支払手形の利用予定
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第3-2-39図 支払手形を減少させる理由(従業員規模別)
〜規模の小さい企業は信用力向上志向、規模の大きい企業はコスト削減志向〜
第3-2-39図 支払手形を減少させる理由(従業員規模別)
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2 支払サイト短縮化の影響

 企業間信用、特に手形取引は減少傾向にあるが、実際に企業間信用の減少が中小企業にもたらすメリット・デメリットについて見てみる。第3-2-40図は、支払サイトが短くなったことによる影響について示したものである。これによると、「以前より安い値段での仕入れが可能になった」、「経理・会計処理が楽になった」といったメリットと、「資金繰りが苦しくなった」、「預金を取り崩した」などのデメリットの双方が存在していることが分かる。従業員規模別に見ると、特に規模の小さい企業でメリット・デメリットを共に感じる場合が多くなっている。以上の結果から、企業間信用の変化は、特に従業員規模の小さい企業に対して、経理・会計処理面や資金繰り面に、プラス・マイナスの両面で、比較的大きな影響を与えていると言えよう33

33 中小企業白書(2005年版)では、「〔1〕企業間信用は銀行から円滑な借入れができない際の代替として利用されている、〔2〕その傾向は従業員規模が小さく銀行から借入れがしにくい中小企業や、手元流動性が低く短期的な資金に余裕がない企業ほど強い、〔3〕そのような企業の資金調達の手法として一定の役割を果たしている、〔4〕メインバンクから思いどおりに借りられた企業にも借りられなかった企業にもほぼ同じ割合で信用供与しており、銀行とは違った与信判断をしている」ことが指摘されている。

 
第3-2-40図 支払サイト短縮化による影響(従業員規模別)
〜従業員規模の小さい企業の方が、メリットもデメリットも大きい〜
第3-2-40図 支払サイト短縮化による影響(従業員規模別)
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3 企業間信用サイトと取引価格の関連性

 第3-2-40図において、「以前より安い値段での仕入れが可能になった」ことをメリットとして挙げている中小企業が、4分の1程度存在することは注目に値する。企業が金融機関から借入を行う場合には、その対価として金利を支払うのは当然である。同様に、企業が取引先の企業から財・サービスを受け取った後、一定期間を置いて代金支払いを行う企業間信用についても、財・サービスの受け取りから支払いまでの期間が長くなるほど、金利分を考慮して支払金額が高くなるはずである。しかしながら、我が国の企業間信用のやり取りにおいては、企業間信用のサイトが支払価格に影響するのかが明らかではなかった34。今回の結果を踏まえると、我が国においても、ある程度は企業間信用のサイトを考慮した上で支払価格が決定されていることが分かる。

34 アメリカでは、「2/10 net 30」、すなわち、「30日サイトの売掛金を10日以内に支払えば、支払価格を2%割り引く」という形態の企業間信用が存在する。これは、20日間分の前払いを企業間信用の支払価格に反映させている例である。

 企業間信用サイトと取引価格の関係について、販売サイドの視点からも確認してみる。第3-2-41図を見ると、「複数の企業に対して同じ製品等を販売する際に、回収サイトの違いによって異なる価格で販売した経験」がある中小企業は29.2%存在しており、中小企業が製品等を販売する際にも企業間信用サイトの長さを考慮した値決めが行われていることが分かる。

 
第3-2-41図 回収サイトの違いにより異なる価格で販売した経験の有無
〜約3割の企業が、回収サイトの違いにより異なる価格で販売した経験がある〜
第3-2-41図 回収サイトの違いにより異なる価格で販売した経験の有無
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 ただし、企業間信用のサイトを反映して価格を変えるべきとする企業の数は、実際にサイトの違いによって異なる価格で販売した企業数を大きく上回る。第3-2-42図によれば、「製品等を販売する際に回収サイトの変更に伴って価格を変更すること」について妥当であると考えている中小企業は全体で66.6%である。また、販売先数が多い中小企業の方が、サイトの違いを反映した価格設定を妥当であると考えている割合が高い。販売先数の多い中小企業は、多様な条件で代金回収を行っていく中で、「異なるサイトで販売する際には、取引価格にも差を付ける方が合理的である」と判断するようになっていると考えられる。
 
第3-2-42図 回収サイトの違いで価格を変更することの妥当性
〜販売先数が多い企業ほど、回収サイトと価格の関連を認めている〜
第3-2-42図 回収サイトの違いで価格を変更することの妥当性
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 企業間信用は、同じ中小企業が支払いと受け取りの両方を同時に行っている。また、サイトの長い企業間信用の支払価格が上昇するのか、それとも短いサイトの企業間信用の支払価格が下落するかは、取引企業間の交渉力に依存している。したがって、サイトの違いを反映した価格付けが広まることで、中小企業がメリット・デメリットのいずれの影響を受けるのかを一概には推測することはできない。しかしながら、企業間取引構造の「メッシュ化」が進展する中、多くの取引先を有する企業を中心に、サイトの長さに応じて企業間信用の価格を変えるケースが、今後増加するものと推測される。

事例3-2-9 販売先の多様化により価格交渉力を持ち、支払いの現金化により様々なメリットを享受

 埼玉県川口市の小原歯車工業株式会社(従業員80名、資本金9,900万円)は、1935年創業の機械部品製造業である。同社では、販売先を多様化することで価格交渉力を保持している。また、代金支払いを現金で行うことで、様々なメリットを享受している。
 同社の主力商品は、KHK標準歯車という自社製品である。通常、歯車は設計者の意図に沿った図面からの作成となるが、同社の場合、予め同社の規格に基づき歯車を設計・製造し、それらの仕様・データをカタログに記載し、在庫して販売している。また、顧客の要望に合わせたオーダー歯車、標準歯車の追加工(いわゆるオプション)も幅広く取り扱っている。販売方法は、売上の約90%が全国に8社ある販売代理店を通じたものである。
 取扱製品の販売価格の決定方法であるが、取引金額の大小や販売代理店との力関係などにより若干異なるものの、原則として同社が価格決定権を持っている。その理由としては、〔1〕販売代理店の同社の技術力に対する理解度が高いこと、〔2〕標準化された製品を販売代理店を通じてたくさんのユーザーに販売をしているため個々の販売先への依存度が低いこと、の2点が挙げられる。
 支払いに関して、現金決済をモットーとしていることも同社の特徴である。同社では、5年前より支払手形を減少させ、3年前には支払手形をゼロにした。現金決済にしたことにより、以下のメリットがあった。
〔1〕流動負債の減少による財務バランスの改善:支払手形がなくなったことで、自己資本比率が上昇するなどの効果が得られた。
〔2〕自社のイメージアップ:現金払いとすることで、調達先から感謝されるだけでなく、販売代理店からも「現金払いが可能であるのは、資金繰りに余裕がある証拠であり、安心できる」という評価を受けることができた。
〔3〕値引きが受けられる場合がある:手形払いから現金払いに変更すると、仕入先によっては1〜3%程度の値引きが受けられることもあるため、調達コストが下がり粗利益率の改善につながった。
 
KHK標準歯車
KHK標準歯車

 第2章 企業間の取引条件が中小企業に及ぼす影響

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