第1部 2006年度における中小企業の動向 

第4節 中小企業の事業承継

1 事業承継の現状

 中小企業では、どの程度頻繁に事業承継が行われているのだろうか。ここでは、全国約120万社のデータを持つ株式会社帝国データバンクのデータベースを用い、社長交代がどの程度行われているか分析する。過去1年間における企業全体の社長交代率は、2006年で3.08%と過去最低となっている。従業員規模別に見ると(第1-2-38図)、規模が小さいほど社長交代率が低下する傾向にあり、団塊の世代が引退時期に差し掛かる状況下、特に小規模企業において、事業承継がなかなか進んでいないことが分かる。
 
第1-2-38図 従業員規模別社長交代率(2006年)
〜規模が小さい企業ほど、事業承継が進んでいない〜
第1-2-38図 従業員規模別社長交代率(2006年)
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 次に、従業員規模ごとに事業承継の経緯について見ていく。株式会社帝国データバンクの企業概要データベースから、5年前と社長が交代している企業について、現在の社長の就任経緯を、従業員規模別に比較したものが第1-2-39図である。大企業の場合、親族以外への承継が85%以上を占めるのに対し、規模が小さくなるにつれてその割合は著しく低下している。小規模企業では創業メンバーや親族への承継が約70%を占めており、中規模企業23においても約50%を占めている。さらに、規模別に後継者の有無について見ると(第1-2-40図)、現時点で後継者を決めている企業の割合は、規模が小さくなるほど低い。

23 中小企業のうち、小規模企業を除いたものを指す。

 
第1-2-39図 社長交代企業の社長就任経緯
〜小規模企業では、同族継承が半数以上を占める〜
第1-2-39図 社長交代企業の社長就任経緯
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第1-2-40図 後継者の決定状況
〜規模が小さくなるほど、後継者が決まっている企業の割合が低い〜
第1-2-40図 後継者の決定状況
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 以下では、特に中小企業において事業承継が円滑に行われない要因について、見ていく。

2 事業承継が進まない理由

 中小企業においては、様々な要因から事業承継が円滑に進まないと指摘されているが、主要な要因の1つとして、事業を承継したいという後継者がいないことを挙げることができるだろう。
 事業を承継したいという後継者がいない背景には、事業者として得られる収入が雇用者収入を下回っている現状がある。事業者と雇用者の収入を比較すると(第1-2-41図)、事業者の収入は雇用者の収入を下回っており、その差は拡大している。
 
第1-2-41図 事業者対雇用者収入比率の推移
〜事業者対雇用者収入比率は低下を続けている〜
第1-2-41図 事業者対雇用者収入比率の推移
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 中小企業にとって後継者の第一候補は社長の子息、子女であるが、親の経営する会社に入社せずに自らの生活基盤を築いているケースも多い。一旦生活基盤を築いてしまうと、リスクを取って中小企業を承継するという選択肢は取りにくいというのが、事業承継がスムースに進まない要因の1つであろうと推測される。
 また、上記に加えて、後継者がいる企業においても、準備不足により事業承継に支障をきたすケースは多い。そこで、円滑な事業承継を行うための条件について見ていく。
 円滑な事業承継を行うための主な条件としては、〔1〕関係者(ステークホルダー)の理解、〔2〕後継者教育、〔3〕株式・財産の分配、〔4〕個人保証・担保の取り扱いの4つを挙げることができる。中小企業白書(2006年版)によると、後継者が決定している企業に限定しても、事業承継に関して「十分に準備を実施している」と回答した企業は約2割にとどまっている。また、対策を実施している企業の中でも、後継者を事前に自社勤務させることや、経営に必要な知識を取得させること、役員・従業員・金融機関などステークホルダーの理解を得ることなど、〔1〕関係者の理解や、〔2〕後継者教育については、何らかの準備を実施している企業は比較的多いが、〔3〕株式財産の相続・移譲準備については、特に対応が遅れている。財産の分配に当たっては、これまでの借入に伴って提供されてきた〔4〕個人保証や担保の取り扱いも決めておく必要があるが、この点についても対応が進んでいないと考えられる。
 そこで、代表者による個人保証や個人資産の担保提供の問題と、相続を中心とした事業用資産引継ぎの問題について見ていく。

(1)個人保証、担保提供している個人資産の引継ぎ
 中小企業、特に小規模企業の場合、資金調達を借入に頼る割合が高く(第1-2-42図)、債務超過となっている企業も規模が小さくなるほど多くなっている(第1-2-43図)。
 
第1-2-42図 調達に占める金融機関借入の割合(従業者規模別)
〜規模が小さな企業ほど金融機関借入への依存度が高い〜
第1-2-42図 調達に占める金融機関借入の割合(従業者規模別)
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第1-2-43図 債務超過企業の割合(従業者規模別)
〜小規模企業では債務超過企業の割合が高い〜
第1-2-43図 債務超過企業の割合(従業者規模別)
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 また、多くの中小企業においては、借入の際に代表者の個人保証を求められる24。事業承継を行う場合には、後継者がこれらの借入に係る個人保証を引き継ぐように金融機関から求められるのが通常である。しかしながら、後継者はこうした個人保証を不満に感じる場合が多い。特に、前の経営者とつながりの薄い者が事業を承継する場合には、その割合が高くなる。個人保証への不満を感じている企業を集計すると(第1-2-44図)、創業者自身や親族内で承継を行った代表者に比較して、親族以外のものから承継を行った代表者は、個人保証に対して不満を感じている割合が高くなっていることが分かる。創業者であれば、借入は自ら判断したものであり、個人保証を提供することにも抵抗は少ないであろう。また、親族内で承継した代表者の場合、早い段階から事業を承継することについての準備を行うことができ、先代の資産を相続するケースも多いため、自らの個人保証を提供することにも抵抗が比較的少ないと考えられる。一方で、親族以外の者が事業を承継する場合、先代の資産を譲り受けることができるケースはそれほど多くないため、株式などの裏付けとなる資産がないままで、継続して個人保証を提供することに対して、抵抗感が生じると考えられる。

24 第2部第3章

 
第1-2-44図 個人保証への不満を感じている企業の割合
〜親族外から事業を承継した経営者は、個人保証への不満を感じている割合が高い〜
第1-2-44図 個人保証への不満を感じている企業の割合
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 個人保証に加え、経営者自身が個人資産を担保提供するケースも多い。その割合は、企業規模が小さくなるほど高くなる(第1-2-45図)。担保提供されている個人資産の扱いも、事業承継に際しての大きな問題となっている可能性がある。社長個人資産の担保提供の有無と社長交代率の関係を見ると、担保提供を行っている企業では、社長交代率が低い(第1-2-46図)。経営者が個人資産を担保提供する企業ほど、経営者の事業への思い入れが強く、社長交代が起こりにくいとも考えられる。しかしながら、経営者と企業が一体である度合いの強い小規模企業においても、担保提供が社長交代率を引き下げている。経営者の個人資産の担保提供が、円滑な事業承継を何らかの形で妨げている可能性がある。
 
第1-2-45図 社長個人資産を担保提供している企業の割合
〜規模が小さな企業ほど、社長個人資産を担保提供している割合が高い〜
第1-2-45図 社長個人資産を担保提供している企業の割合
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第1-2-46図 担保提供(社長個人資産)の有無別に見た社長交代率(5年間)
〜社長個人資産が担保提供されている企業では社長交代率が低い〜
第1-2-46図 担保提供(社長個人資産)の有無別に見た社長交代率(5年間)
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 担保資産をすべて後継者が相続、もしくは譲受することができれば、さほど問題は生じないのであろうが、後述するように資産の相続にも課題は多い。さらに問題となるのが、従来提供されていた担保資産が、経営者の引退に伴い経営と関係ない者に譲受されるケースである。この場合、(1)従来から担保提供されていた資産を引き続き担保として提供してもらう、(2)後継者の個人資産など代替の担保物件を用意する、(3)金融機関に担保を外してもらうなどの手段が考えられるが、いずれの対応もハードルがかなり高く、実行には大変な労力を要すると言えるだろう。
 事業承継を円滑に進めるためにも、〔1〕承継前に、債務を圧縮する、〔2〕後継者の個人保証等の負担を軽減できるよう、金融機関と粘り強く交渉する、〔3〕後継者に対して、個人保証などの負担に応じた報酬を用意するなど、少しでも後継者の負担を軽減するための準備を進めていくことが必要となるだろう。

(2)事業用資産の承継
 中小企業においては会社の所有と経営が分離しておらず、経営者に株式の過半が集中しているケースが多い。さらには、経営者の個人資産を事業用に投入もしくは会社に賃貸しているケースも多く、経営者個人の事業用資産を円滑に後継者に引き継ぐことが重要となってくる。
 中小企業庁で行った「中小企業の事業承継の実態に関するアンケート調査25」から、中小企業経営者の個人資産に占める事業用資産の割合を見ると(第1-2-47図)、法人、個人共に事業用資産が金額ベースで約2/3を占めていることが分かる。特に、事業用資産の内訳について見ると、事業用不動産が約31%、自社の株式が約27%を占めている。事業承継に際しては、これらの事業用資産を後継者になるべく集中することが望ましいが、実際には円滑に進まないケースも多い。親族内承継においては、生前贈与や遺言を作成することなどで、ある程度資産を集中させることも可能であるが、遺留分など民法上の制約が障害となるケースも多い。また、従業員などへの承継の場合には、さらに課題も多くなる。特に株式については、経営安定化のためにも後継者に一定程度集中させることが必要であると考えられるが、資力等の問題もあり、親族外の後継者が十分な株式を取得することは難しい。

25 日本商工会議所及び全国商工会連合会の協力により、中小企業庁が実施。発送数:6,000 回収率:39.5%

 
第1-2-47図 中小企業経営者の個人資産に占める事業用資産の内訳
〜代表者の個人資産は、自社株式と事業用土地が大きな割合を占める〜
第1-2-47図 中小企業経営者の個人資産に占める事業用資産の内訳
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 後継者への株式の集中を円滑に進めるためには、給与を増額するなどして、後継者による株式買取りを少しずつ進めていくことのほか、(1)会社による自社株式の取得を行い後継者の持株比率を上げる、(2)後継者以外の人に相続する予定の株式を議決権制限株式にしておくなど、会社法を活用した対策も考えられるところであり、専門家を交えた早期の対応が有効と考えられる。また、事業用不動産についても後継者へ承継することが望ましいと思われる。経営上必要不可欠な不動産に関しては、あらかじめ会社が購入し、会社所有とするなどの対策が必要となるケースもあるだろう。
 親族内承継で、事業用資産を相続できるケースでも、相続税などの税負担が問題となってくる可能性がある。中小企業経営者に予想される相続税負担額を企業形態別に見ると(第1-2-48図)、17.9%の株式会社で5,000万円以上の相続税負担が発生するとしている。会社に貸し付けている宅地については、面積要件などを満たせば、相続税評価額を80%軽減する措置が受けられる。非上場株式については、相続税評価額の10%軽減措置が存在するが、会社の収益に応じて税負担が高額となる傾向にあり、事前に十分な準備を行うことが重要だろう。
 
第1-2-48図 中小企業経営者に予想される相続税負担額
〜株式会社のうち17.9%の企業経営者には、5,000万円以上の相続税負担発生が予想されている〜
第1-2-48図 中小企業経営者に予想される相続税負担額
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 廃業によって、雇用や、企業固有の技術・ノウハウなどが失われてしまうのは我が国経済にとっても大きな損失であると言えるだろう。これまで見てきたように、事業承継に際しては課題も多いが、早期に準備を進めることで、克服できるものも多い。様々な制度を活かしながら、各種専門家を交えて事業承継の準備を進めることで、小規模企業を含めた中小企業において円滑な事業承継が行われることが望まれる。

 第2章 開業・廃業と小規模企業を取り巻く環境

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