第1部 2006年度における中小企業の動向 

第2節 創業者の個人属性と創業環境について

1 近年の創業活動の特徴

 「タウンページデータベース」から、ここ5年の期間で見ても、開業動向が変化してきていることが分かった。近年の創業活動の特徴について把握するため、2001年と2006年に行われた「創業環境に関する実態調査」から、創業の動機や経緯について見ていくことにしたい。
 調査対象が異なるため単純な比較はできないが10、創業の動機について5年前の調査と比較すると(第1-2-11図)、2001年調査、今回調査共に、「自分の裁量で仕事をしたい」と「仕事を通じて自己実現を図りたい」が上位となっている。一方、「年齢に関係なく働くことができるから」を挙げる企業の割合が、今回調査において30.9%と大幅に高くなっている。人口構造の高齢化が進展する中で、就業形態の1つとして事業を興すという選択肢を採用する人が多いということであろう。ちなみに、アンケート調査に回答した創業者の創業時年齢について比較すると(第1-2-12図)、今回調査の方が比較的若い層が回答している。若い層も含め、就業形態に関する意識が変化しているということができるだろう。

10 2001年の創業環境に関する実態調査では1991年以降に創業した企業、今回2006年調査では2001年以降に開業した事業所を選んでいる。加えて、今回の調査はタウンページデータベースの名簿に基づいて行われており、外見からでは判断しにくい小規模な形での開業をより多く含んでいる可能性がある。

 
第1-2-11図 創業動機の比較(2001、2006)
〜2006年調査では「年齢に関係なく働くことができる」と回答した企業の割合が大幅に高くなっている〜
第1-2-11図 創業動機の比較(2001、2006)
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第1-2-12図 アンケート回答企業の年齢構成比較(2001、2006)
〜2006年調査は比較的若い層の回答割合が高い〜
第1-2-12図 アンケート回答企業の年齢構成比較(2001、2006)
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 次に創業した事業分野の選択理由について見ると(第1-2-13図)、いずれの時点の調査においても、「専門的な技術・知識等を活かせる」ことを、事業分野選択の理由として挙げている企業が最も多くなっているが、2001年調査と比較すると、今回調査は回答割合が低い。また、2001年調査では46.2%の企業が事業分野選択の理由として挙げていた「創業前までの人脈が活かせる」と回答した企業の割合が19.3%と低くなっている。一方で「少ない資金で創業できるから」と回答した企業の割合が、今回調査において比較的高い。
 
第1-2-13図 創業者の事業分野選択理由比較(2001、2006)
〜2006年調査では「創業前までの人脈が活かせる」と回答した企業の割合が低い〜
第1-2-13図 創業者の事業分野選択理由比較(2001、2006)
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 創業経緯について比較しても(第1-2-14図)、今回調査では「他社での勤務経験がなく独自に開業した:独自型」創業の割合が高い一方で、「既存企業の指揮系統下で創業した:分社型」創業の割合が低い。それまでの職場で培ってきた経験・ノウハウ・人脈を活かした創業ではなく、ネットビジネスなどの少額な資金でも創業可能で、長い事業経験をそれほど必要としない分野での創業が多いと言えるだろう。
 
第1-2-14図 創業経緯の比較(2001、2006)
〜2006年調査では「独自型」の割合が高く、「分社型」の割合が低い〜
第1-2-14図 創業経緯の比較(2001、2006)
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 創業者は、我が国の創業環境についてどのように考えているのであろうか。第1-2-15図を見ると、創業者のうち半数以上は我が国の創業・開業数は多いと感じており、そのうち8割以上がそのために廃業数や倒産数を増加させている懸念があると考えている。こうした創業者の認識の背景には、創業することのリスクがリターンよりも大きいと考えられている現状がある。第1-2-16図を見ると、約7割の企業がリスクに見合ったリターンを得るのは難しく、創業しがたい環境であるとしている。既存の市場には新たな企業が参入する余地が少なく、新規事業者が参入すると過当競争に陥らざるをえないということであろう。創業希望者は、新たな市場、ニーズを開拓する必要があり、そのことが創業の高いハードルとなっている可能性がある。
 
第1-2-15図 創業者の我が国における創業・開業数についての考え
〜創業者のうち、半数以上は我が国における創業・開業数が多いと感じている〜
第1-2-15図 創業者の我が国における創業・開業数についての考え
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第1-2-16図 創業者から見た日本の創業・開業環境
〜約7割の創業者がリスクに見合ったリターンを得るのは難しいと考えている〜
第1-2-16図 創業者から見た日本の創業・開業環境
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2 創業を阻害する要因について

 我が国において、創業を阻害する要因は具体的にはどのようなものであろうか。2006年の創業環境実態調査から、創業準備段階での苦労した点について見ても(第1-2-17図)、開業資金の調達に苦労している企業の割合が最も高く、人材の確保、販売先の確保がこれに続いている。開業を阻害する最も大きな要因は、資金調達の難しさであると言えるだろう。そこで、創業時の資金調達先について見たのが第1-2-18図であるが、自己資金や友人・知人からの出資金・借入金が圧倒的に多く、民間金融機関や公的機関、ベンチャーキャピタル11などから資金を調達できている企業は一部に限られている。民間金融機関との関係においては(第1-2-19図)、調達希望金額通りの融資を受けることができたのは24%に限られ、減額された企業が12%、融資を断られた企業が6%となっている。一方で、民間金融機関からの借入は必要なかったと回答した企業が41%、申請しても難しいだろうと判断して融資を申請しなかった企業も16%ある。これは一般の中小企業が借入申込みをした場合に比して、創業時には相当厳しい資金調達状況に直面していることを示している12

11 創業前の資金調達先について聞いているため、ベンチャーキャピタルや民間金融機関など、第3者からの融資や出資を受けられるケースは、非常に限られることに留意する必要がある。創業後間もない段階での資金調達先については、付注1-2-3参照。
12 第2部第3章参照。

 
第1-2-17図 創業・開業の準備期間中の苦労
〜開業資金の調達に苦労する割合が高い〜
第1-2-17図 創業・開業の準備期間中の苦労
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第1-2-18図 創業・開業前に利用した資金調達先
〜開業時には、ほとんどの企業で自己資金を投入している〜
第1-2-18図 創業・開業前に利用した資金調達先
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第1-2-19図 開業・創業前の民間金融機関への融資申込みとその対応
〜創業時の資金調達は比較的厳しい状況にある〜
第1-2-19図 開業・創業前の民間金融機関への融資申込みとその対応
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 次に、創業した後の経営上の課題について見ていく(第1-2-20図)。「資金調達」を経営上の課題として挙げる企業は32.1%と創業後も引き続き高いが、44.7%の企業が「質の高い人材の確保」を経営上の課題として挙げており、創業後は経営者の関心が移っていることが分かる。創業後の民間金融機関との取引状況について見ると、約4割の企業が必要額の調達が可能と回答している。もちろん、開業後5年を経ても存続している企業だけを対象とするバイアスは存在するが、これらの企業で資金調達がうまくいかないケースは限られていることが分かる。
 
第1-2-20図 創業・開業後、現在までの経営上の課題
〜創業後は、「質の高い人材確保」を経営上の課題として挙げる企業の割合が高い〜
第1-2-20図 創業・開業後、現在までの経営上の課題
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3 創業が活発な業種の特徴

 それでは、創業活動が活発な業種とそれほど活発となっていない業種ではどのような違いがあるのであろうか。「タウンページデータベース」で開業率を見た時に、開業率の高い「情報・通信」、「事業活動関連サービス」を開業率上位業種、開業率の低い「工業用素材」、「食料・衣料・身の回り品」を開業率下位業種と定義し13、両者を比較することで、違いを見ていく。

13 農林漁業は除いた。


 開業率上位業種と下位業種で実際に開業した企業の収益状況を比較すると(第1-2-21図)、開業率下位業種は赤字企業の割合が高い。また、事業分野の選択理由について比較しても(第1-2-22図)、開業率上位の業種においては「成長性のある分野であるため」、「少ない資金で創業できるから」と回答した企業の割合が下位の業種に比較して高く、インターネット関連や介護サービスなど、個人が少額で開業でき、今後の成長性も見込まれる業種で開業が活発になっていると言えよう。また、「事業活動関連サービス」の中に介護サービスやシルバー人材センターなどが含まれていることもあり、「社会に貢献できる分野であるため」との回答割合も高いが、少子高齢化が進む中、社会貢献分野に成長性があると判断していることが分かる。次に、開業時の苦労について比較すると(第1-2-23図)、開業率上位業種は下位業種に比較し、「開業資金の調達」を挙げている企業の割合が低く、「質の高い人材の確保」を挙げている企業の割合が高い。設備投資など、開業に多額の資金が必要な業種は敬遠され、人手を確保できれば開業できる業種での開業が活発化していると言えるだろう。
 
第1-2-21図 開業率上位業種と下位業種における収益状況比較
〜開業率下位業種で開業した企業は、赤字企業の割合が高い〜
第1-2-21図 開業率上位業種と下位業種における収益状況比較
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第1-2-22図 開業率上位業種と下位業種の事業分野選択理由比較
〜開業率上位業種では、「成長性があること」や「少額で開業できること」を事業選択の理由としてあげる企業の割合が高い〜
第1-2-22図 開業率上位業種と下位業種の事業分野選択理由比較
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第1-2-23図 開業率上位業種と下位業種における創業・開業準備期間中の苦労比較
〜開業率上位業種では、「質の高い人材の確保」に苦労する企業の割合が高い〜
第1-2-23図 開業率上位業種と下位業種における創業・開業準備期間中の苦労比較
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 それでは、どのような人がこれらの業種で開業するのであろうか。創業者の最終学歴や開業時の年齢を見ると(第1-2-24図、第1-2-25図)、開業率上位業種では大学出身者が多く、年齢も高くなっている。また、開業前に勤めていた企業の従業員規模を比較しても(第1-2-26図)、開業率上位業種の創業者の多くは、規模の大きな企業に勤めていたことが分かる。高度成長期に多く見られた「家業的」な個人商店や町工場のような形の開業だけではなく、大学を出て、大企業に勤めた人がスピンアウトして開業するという新しい形の開業も増加していることが分かった。この傾向は特に、「情報・通信」のような流動性が高いと考えられている業種でより明確に見られる。我が国経済の活性化のためにも、シニア層の開業など、多様な担い手による、多様な形の開業が増加していることは、望ましい状況と言えるだろう。
 
第1-2-24図 開業率上位業種と下位業種における創業者の最終学歴比較
〜開業率上位業種の創業者は大学出身者が多い〜
第1-2-24図 開業率上位業種と下位業種における創業者の最終学歴比較
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第1-2-25図 開業率上位業種と下位業種の創業者の創業年齢比較
〜開業率上位業種は高年齢者層での開業が多い〜
第1-2-25図 開業率上位業種と下位業種の創業者の創業年齢比較
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第1-2-26図 開業率上位業種、下位業種の創業者が勤めていた企業の従業員規模比較
〜開業率上位業種の創業者は、大企業出身者が多い〜
第1-2-26図 開業率上位業種、下位業種の創業者が勤めていた企業の従業員規模比較
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 第2章 開業・廃業と小規模企業を取り巻く環境

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