第3部<テーマ分析[2]>少子高齢化・人口減少社会における中小企業 

第8節 中小企業が「仕事と育児の両立」に適している面がある背景

 では、具体的には、中小企業は、どのようにして仕事と育児の両立のハードルを克服しているのだろうか。仕事と育児を両立しやすくすると考えられる各種の取組について整備・利用状況を見ると、従業員規模が大きい企業ほど制度の整備により対応しており、従業員規模が小さい企業ほど制度は設けずに柔軟に対応していることが分かる(第3-3-44図)。つまり、中小企業では、仕事と育児を両立させるに当たってのハードルを、制度の整備ではなく、従業員の個別の事情に応じた柔軟な対応で克服していると考えられる。

 
第3-3-44図 仕事と育児の両立支援策の整備・利用状況
〜従業員規模が小さい企業ほど「柔軟に対応している」〜

第3-3-44図 仕事と育児の両立支援策の整備・利用状況
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 以下においては、中小企業のどのような側面が、仕事と育児を両立しやすい環境をもたらしているのかを検証していきたい。

〔1〕「その人の本来持っている能力」への評価
 仕事と育児を両立しにくい要因の1つとして、「3つのロス」による育児休業の取りにくさは前述したとおりであるが、これを従業員規模別に詳細に見ると、大企業の方が「昇進・昇給の遅れ」をハードルと感じる正社員が多い(第3-3-45図)。

 
第3-3-45図 正社員が育児休業や短時間勤務の利用を躊躇してしまう理由
〜従業員規模が小さくなるほどキャリアロスへの懸念が小さくなる〜

第3-3-45図 正社員が育児休業や短時間勤務の利用を躊躇してしまう理由
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 また、従業員規模が小さい企業ほど、「一定期間の休業を取得しても、昇進・昇格等に長期的な影響はない」と回答している(第3-3-46図)。

 
第3-3-46図 一定期間の休業を取得しても、昇進・昇格等に長期的な影響がない企業の割合
〜従業員規模が小さい企業ほど一定期間の休業は昇進・昇格に長期的な影響はない〜

第3-3-46図 一定期間の休業を取得しても、昇進・昇格等に長期的な影響がない企業の割合
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 すなわち、「3つのロス」のうち、キャリアロスについては、中小企業の方がハードルと感じない環境にあることが分かる。
 キャリアロスが少ない理由の1つは、中小企業と大企業における育児休業を取得中の社員に対する評価の違いがあるだろう。第3-3-47図を見てみると、育児で休業している社員に対する評価として、従業員規模が小さい企業ほど「育児休業中に能力が落ちるわけではないから、特に休業が昇進・昇給に影響しない」と回答する割合が高くなっている。逆に「休業していた期間は人事評価の空白期間となり、昇進昇格が遅れる」と回答する割合は従業員規模の大きい企業ほど高くなり、非常に鮮明なコントラストを描くのである。

 
第3-3-47図 育児のために休業している従業員への人事評価
〜従業員規模の小さい企業ほど休業が昇進・昇格に影響しない〜

第3-3-47図 育児のために休業している従業員への人事評価
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 すなわち、中小企業の場合は、定量的な成果や業績ではなく従業員一人一人が「本来持っている能力」によって人事評価をしている特徴があり、これが、育児のために仕事を休むことによる損失(キャリアロス)を軽減していると考えられるのである。
 このような評価が中小企業において可能な理由の1つは、中小企業は大企業に比べて人事ローテーションのスパンが長いことであろう。すなわち、従業員規模が小さい企業ほど異動周期が長く、また転居を伴う異動が少ない(第3-3-48図、第3-3-49図)。このように、従業員の異動があまり頻繁でないことで、人事評価者と評価される側とで長期的な人間関係が構築され、人事評価者は評価する従業員の「本来の能力」を把握することができる。また、一時的に育児などのために離職しても、職場復帰した時、休業前の「仕事の出来」を知っている同僚がいれば、その人の「本来の能力」に基づいた処遇を行うための大きな要素となると言えよう。

 
第3-3-48図 正社員の異動周期
〜従業員規模が小さい企業ほど異動周期が長い〜

第3-3-48図 正社員の異動周期
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第3-3-49図 転居を必要とする人事異動がある企業の割合
〜従業員規模が小さい企業ほど転居を必要とする異動がない〜

第3-3-49図 転居を必要とする人事異動がある企業の割合
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 したがって、人事異動が頻繁に起こらない異動慣行などにより、人事評価者が評価する従業員の「本来の能力」を把握できるよう仕組んでいくことは、仕事と育児を両立しやすい職場にするために有効ではないだろうか。

〔2〕フラットな組織と現場に近い決定権
 中小企業において一時的休業が昇進・昇格に影響しない、もう一つの要因として、中小企業の方が大企業よりも役職のポストが少なく、階層がフラットであることが挙げられる。
 大企業は中小企業に比べて、一般的にピラミッド型組織で役職がより細かく設定されているため、2、3年のブランクが「昇進の遅れ」として職業人生を通じて影響してしまいかねない。それに対し、中小企業はおおむね組織がフラットであり、休業による一時的なブランクはキャリアにさほど影響しないと考えられる。
 近年、大企業においても組織改革の一環として、組織のフラット化に取り組んでいる例がある。主に、意思決定の迅速化などを目的として行われているが、前述したとおり、仕事と育児を両立しやすい職場環境を生み出すという効果も期待できる。
 また、役職の階層がフラットであることは、仕事と育児の両立に関して、従業員の個々の事情に柔軟に対応することを可能にしていると考えられる。
 従業員規模が小さい企業では、最終決定権者である経営者が現場に近く、個々の従業員のニーズや現場の状況を踏まえ、責任をもって差配ができる状態がつくられている。つまり、最終決定権者が現場に近いことが、柔軟な対応を可能にしている要因の1つとなっていると考えられる。
 同様な状況を、より従業員規模が大きい企業においてつくりだすには、役職の階層をフラットにすることに加え、少なくとも職員の処遇に関し、経営者がもっているような権限を現場責任者に付与していくことで、従業員のニーズに合った柔軟な対応ができるだろう。
 事例3-3-6は、実際に社長が現場に権限の大部分を委譲したことで、大企業であるにもかかわらず、中小企業と同様に柔軟な対応を行い、仕事と育児を両立しやすい職場づくりができている例である。

事例3-3-6 現場への権限委譲をすることで仕事と育児を両立しやすい職場環境を実現

 未来工業(株)(岐阜県)は、従業員800名の電気機械器具を中心とする製造業である。
 同社は、女性の活用を経営方針として掲げ、女性従業員が継続就業できるようにするため、勤務時間の短縮などに取り組んできた。また、30年前から女性を営業職に配置しており、男女の役割分担意識のない職場環境が定着している。
 特筆すべきは、短い労働時間である。原則として、従業員に残業はさせず、年間の休日数は140日(日本企業の平均休日数は120日)、有給を含めると160日となっている。具体的には、ゴールデンウィークの連休は11日間、夏休みは10日間、正月休みは20日間。火曜や木曜が祝日なら、月曜、金曜を休みにして、4連休としている。その一方で、従業員の給料は、少なくとも地域の平均よりはかなり上回る水準となっている。創業者(現相談役)は「給料だけで満足させるには限度がある。工夫して労働時間を減らすのにカネはかからない」と言う。労働時間を短くして従業員の満足度を高め、やる気を最大限引き出している。
 また、従業員の管理は極力排除し、現場に最大限の裁量を与えて製品の差別化を生んでいる。売り上げ目標やノルマは一切ない。その代わり、新製品の投入計画や顧客の要望を基に、各自が目標をたてる。例えば、営業マンは商談で全ての権限を与えられている。一般企業で常識となっている「ホウレンソウ」(報告、連絡、相談)は、まったく不要とされている。「現場が一番現場を知っていて、無知な上司に相談するより、従業員に自分の頭で考えさせる」(同相談役)という企業文化が背景にある。
 こうした経営方針の下で、同社の従業員は勤務時間内で、能率や生産性を上げ、競争力を確保しようと必死になるという。実際に、同社の収益力を示す売上高経常利益率は常に10%以上を維持してきた。つまり、従業員800名の大企業であっても、本章で取り上げたような中小企業の特長とも言える現場への大幅な権限委譲によって、短い労働時間の中でも良好な経営パフォーマンスを維持した上で、結果的に仕事と育児を両立しやすい職場環境を実現しているのである。

 ここで視点を変えて、このような「下位の役職への権限委譲」や「組織のフラット化」を企業が意識して取り組むことで、従業員の仕事と育児が実際に両立しやすくなるのかを検証してみよう。第3-3-50図は、企業が過去3年間に行った組織・業務体制の見直しと各種両立支援策の利用度との関係についての分析である。これを見ると、下位の役職への権限の委譲につながるような取組や、組織をフラット化させる取組は、両立支援策の利用を促進させる度合が特に高いことが分かる。

 
第3-3-50図 企業組織・業務の見直しと両立支援策の利用度の関係
〜無駄な業務の削減、権限の下位への委譲、組織のフラット化が両立支援策の利用を促進する〜

第3-3-50図 企業組織・業務の見直しと両立支援策の利用度の関係
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 なお、本分析において両立支援策の利用度向上に最も影響のある取組は「部署間の重複業務の見直し」であった。これは、各従業員の仕事の分担関係を整理することと、無駄な業務を削減することで、職場全体の仕事量が減り、育児をしている従業員をフォローするゆとりがでるため、従業員が短時間勤務等の両立支援策を利用しやすくなるためと考えられる。

〔3〕職住近接の職場環境
 第3-3-51図から分かるように、中小企業になるほど、従業員の住居が職場と近い(職住近接)傾向があるが、これも仕事と育児を両立しやすくする特性の1つと考えられる。

 
第3-3-51図 女性従業員の通勤時間
〜通勤時間が短いほど小規模の企業が占める割合が高い〜

第3-3-51図 女性従業員の通勤時間
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 通勤時間と子どもの数の関係を見てみると、自宅から職場が近いほど女性従業員1人当たりの子ども数が多い(第3-3-52図)。つまり、女性にとっては、自宅と職場が近い環境の方が子どもを産み育てやすいと考えられる。

 
第3-3-52図 通勤時間別女性従業員1人当たり出生子ども数
〜通勤時間が短いほど女性従業員1人当たり子ども数が多い〜

第3-3-52図 通勤時間別女性従業員1人当たり出生子ども数
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 したがって、仕事と育児を両立しやすい職場環境づくりの観点からは、あえて都心に事業所を設けるよりは、従業員の住居付近や郊外に設置する方が得策である場合もあるだろう。もっとも、製造業など業種によっては、逆に住居と事業所が近接していると種々の不都合が生じてくる場合もあり、業種・職種ごとに考えていく必要があると思われる。だが総じて言えば、職住近接の「コンパクトなまちづくり34」は、仕事と育児の両立という観点から見ても有効であると言えよう。

34 第3部第4章参照。


〔4〕職場に子どもを連れてこられる環境
 職場と住居が近いと、職場に子どもを連れてくる従業員も多い。従業員規模別で、職場に子どもを連れてこられる環境の整備・利用状況を見ると、従業員規模が小さい企業ほど従業員が職場に子どもを連れてきやすい環境にあることが分かる(第3-3-53図)。

 
第3-3-53図 勤務先に子どもを連れてくること(企業内託児所を含む)に関する制度の整備・利用状況
〜従業員規模が小さい企業ほど柔軟に対応している〜

第3-3-53図 勤務先に子どもを連れてくること(企業内託児所を含む)に関する制度の整備・利用状況
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 職場に子どもを連れてくるというのは、ある意味で文字通りの「仕事と育児の両立」であり、この環境があるかどうかも仕事と育児の両立しやすさに関係してくるだろう。実際、職場に子どもを連れてこられる企業とそうでない企業を比較した場合、職場に子どもを連れてこられる企業の方が出産後に職場復帰する女性正社員の割合が高くなっている(第3-3-54図)。

 
第3-3-54図 従業員が職場に子どもを連れてきている企業と連れてきていない企業で比較した過去5年間に妊娠・出産した女性正社員が出産後、復職した割合
〜従業員が職場に子どもを連れてきている企業の方が復職率が高い〜

第3-3-54図 従業員が職場に子どもを連れてきている企業と連れてきていない企業で比較した過去5年間に妊娠・出産した女性正社員が出産後、復職した割合
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 このことから、中小企業においては、子連れ出勤できる職場環境があることにより、親の勤務中における育児サポート体制の不足が補われていると考えることもできる。
 子連れ出勤をしている従業員としていない従業員の通勤手段・通勤時間を比較してみると、子連れ出勤している従業員は、通勤時間が短く、自動車や徒歩の割合が高い傾向があるのに対し、子連れ出勤していない従業員は、通勤時間が長く、電車・バスなど公共交通機関を通勤手段としている割合が高い(第3-3-55図、第3-3-56図)。つまり、職場内に子どもを連れてこられる環境を整えることは、従業員の多くが自動車や徒歩などで通勤し、通勤時間が短い場合において、より有効であることが推測されよう。

 
第3-3-55図 従業員の通勤手段(子連れ出勤の有無別)

第3-3-55図 従業員の通勤手段(子連れ出勤の有無別)
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第3-3-56図 従業員の通勤時間(子連れ出勤の有無別)
〜子連れ出勤をしている従業員の方がしていない従業員よりも通勤時間が短い〜

第3-3-56図 従業員の通勤時間(子連れ出勤の有無別)
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 従業員が子どもを職場に連れてくる頻度を子どもの年齢時期別に見ていくと、3割の従業員は子どもが1歳未満のときは毎日子どもを職場に連れてきていた(第3-3-57図)。このことと、先に述べた低年齢児の待機児童数が多いことを併せて考えれば、低年齢児を連れてこられる託児ルームなどを職場内に設けることは、出産した女性の職場復帰にとって効果的な取組になると考えられる。

 
第3-3-57図 第1子を職場に連れてくる/連れてきた頻度
〜子どもが幼いほど職場に毎日連れてきている従業員の割合が高い〜

第3-3-57図 第1子を職場に連れてくる/連れてきた頻度
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 以上から見れば、職場に子ども、特に低年齢児を連れてこられる環境を整備することは、従業員にとっての仕事と育児の両立のしやすさにつながると言えるだろう。
 では、どのような職場が子どもを連れてきやすい環境なのだろうか。
 (株)富士通総研「中小企業の仕事と育児に関する調査」において、必要に応じて子どもを職場に連れて出勤している、あるいは出勤したことがあると回答した従業員に対して、職場に子どもを連れてきている職場環境の詳細を尋ねたところ、自分のそばに子どもを置いている状況が約6割で、企業内託児所や子どもの居場所がある職場は約3割であった。しかし、職場に子どもを連れてきている従業員に対し、職場に子どもを連れてきにくい側面を聞いてみると、子どもを連れてくることで「周囲に迷惑がかかる」、「自分の仕事に集中できない」、また「子どもが落ち着いて過ごせる環境がない」と感じている割合が高かった(第3-3-58図)。特に、職場に子どもを連れてきやすいと「思わない」従業員ほど、そう感じている傾向があった。つまり、子どもを連れてきやすい職場をつくるポイントとして、自分のそばに子どもを置いておくよりも、ある程度仕事スペースと分かれた子どもの居場所を確保するのが望ましいことが示唆されよう。

 
第3-3-58図 職場に子どもを連れてくることの難点
〜職場に子どもを連れてきやすいと思わない従業員ほど周囲・従業員本人・子どもが落ち着ける環境がないことを難点に感じている〜

第3-3-58図 職場に子どもを連れてくることの難点
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 同じく、職場に子どもを連れてきている従業員に対し、職場に子どもを連れてきやすい環境を整備するために重要なポイントを尋ねたところ、
〔1〕子どもの居場所となるスペースの確保
〔2〕子どもの面倒を見る人の確保
〔3〕子どもを連れてくることへの職場の理解
の3点が特に必要と考えられていることが分かる(第3-3-59図)。

 
第3-3-59図 職場に子どもを連れてきやすい環境にするための重要点
〜スペースの確保、子どもの面倒を見る人の確保、職場の理解が重要〜

第3-3-59図 職場に子どもを連れてきやすい環境にするための重要点
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 以上のことから、子連れ出勤をしやすい職場環境を整備するためには、従業員が勤務中は仕事に集中し、子どもは落ち着いて過ごせるように、職場内に子どもの居場所と面倒を見る人の確保をすることが必要であろう。その際、子どもの面倒を見る人の確保に関しては、職場に子どもを連れてきやすい職場にするための重要点として要望はあるものの、実際に職場に連れてくる際の難点としては、さほど影響していない(第3-3-58図)。このことから、子どもの面倒を見る人は、必ずしも保育士のように専門的な知識をもつ人に限る必要はなく、子育て経験のある従業員や従業員の配偶者、従業員OB、地域における互助や中小企業同士の協同組織など、様々なアイデアで取り組んでいくことが可能であろう。

〔5〕中小企業における女性の登用をめぐる多様性
 経営陣に占める女性の割合の高さも、職場における仕事と育児の両立しやすさにつながると考えられる。女性の活躍状況という観点から見ると、大企業では、どの企業もほぼ一律に、女性比率は従業員の半分以下であり、かつ、役職が上になるほど女性比率が落ちるという傾向がある。それに対し、規模が小さい企業ほど平均的にみて従業員・管理職に占める女性の割合が高い。その背景として、中小企業は企業による多様性が大きく、大企業以上に男性社会である企業も存在する反面、社長以下経営陣が全て女性であるような企業も存在することが分かる(第3-3-60図)。

 
第3-3-60図 従業員数と管理職に占める女性の割合の分布図
〜中小企業の方が管理職に占める女性の割合に多様性が出る〜

第3-3-60図 従業員数と管理職に占める女性の割合の分布図
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 企業における女性の基幹化の度合いの大きさと、仕事と育児の両立しやすさの間には、明白な相関関係が見いだせる(第3-3-61図)。これは、女性上司や経営陣の方が、自ら育児経験をしている確率が高く、育児に対する理解があるためであると考えられる。

 
第3-3-61図 職場の仕事と育児の両立のしやすさ(管理職に占める女性の割合別)
〜管理職に占める女性の割合が高いほど仕事と育児を両立しやすい職場環境である〜

第3-3-61図 職場の仕事と育児の両立のしやすさ(管理職に占める女性の割合別)
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 したがって、仕事と育児の両立を重視して仕事を探している者にとっては、管理職比率に占める女性の割合の高さなどが、仕事と育児を両立しやすい職場かどうかの1つの指標になりうる。このような指標が広く普及することは、求職者・企業双方にとって望ましいと考えられる。すなわち、求職者の側からは、仕事と育児の両立を重視している場合、就職先を決める際の有用な指標となる。また、企業側にとっても、人材を確保する際の広報・宣伝の指標として活用できるのである。

 以上の分析から、中小企業の特性より導き出せる仕事と育児を両立しやすくするための発想についてポイントをまとめると、主に以下の5点となろう。
〔1〕従業員が「本来持っている能力」に基づいた人事評価をすることにより、キャリアロスを軽減できる。(人事評価・異動慣行の見直し)
〔2〕役職の階層をフラットにすることでも育児休業を取得する際のキャリアロスを軽減でき、また役職の階層のフラット化と下位の役職への権限委譲を行うことで、各種両立支援のための取組を促進させる効果がある。(企業の組織形態・権限関係の見直し)
〔3〕職場と従業員の住居が近いことは、女性にとって仕事と育児を両立しやすい環境となるため、仕事と育児の両立支援という観点からも、職住近接のまちづくりは有効である。(コンパクトなまちづくり等)
〔4〕職場に子どもを連れてこられる環境を整備することで、仕事と育児は両立しやすくなる。子どもの居場所や面倒を見る人の確保は、様々なアイデアで取り組むことができる。
〔5〕管理職に占める女性の割合などを仕事と育児の両立しやすさの指標として普及させることは、求職者側だけでなく、企業側にとっても人材を確保する際の宣伝の指標となり、有益である。

 ここまで仕事と育児を両立しやすい職場環境づくりのための問題点とキーポイントについて述べてきた。では、このような仕事と育児を両立しやすい職場環境を整備していくことは、企業、特に経営資源にゆとりの少ない中小企業にとって、経営的にどのようなメリットがあるのだろうか。
 第3-3-62図を見ると、仕事と育児の両立を支援する取組が、企業業績に与えるプラスの面として、「優秀な人材がやめないですむ」、「優秀な人材を採用できる」、「従業員一般の労働意欲が向上する」、「支援を受けた従業員の会社への忠誠心が高まり、子育ての復帰後、貢献が期待できる」と考えている企業が多い。

 
第3-3-62図 仕事と育児の両立を支援する取組が、企業業績に与えるプラス面
〜人材の定着、人材の確保、従業員のモチベーションアップに効果的〜

第3-3-62図 仕事と育児の両立を支援する取組が、企業業績に与えるプラス面
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 すなわち、仕事と育児の両立を支援する取組は、従業員の定着、新規の人材確保、従業員のモチベーションアップによって企業経営にプラスに寄与すると言える。
 例えば、事例3-3-7は、仕事と家庭を両立しやすい職場環境づくりに力を入れた結果、製造製品不良率が低下するなど、企業経営に具体的な効果があった例である。

事例3-3-7 仕事と育児を両立しやすい環境により製造製品の不良率低下

 (株)カミテ(秋田県)は、従業員25名(うち女性16名)のプレス金型設計・制作及びプレス加工を中心とする製造業である。
 同社は、「少数精鋭主義によりお客様の成長発展に貢献する」「社員と会社双方の発展、幸福を追求し、明るく楽しい職場作りを目指す」「堅実と誠意を持って、地域社会の発展のために貢献することを心がける」ことを経営理念として掲げている。そのうち前者2つの理念を実現するために、仕事と家庭の両立支援に力を入れている。すなわち、「少数精鋭主義によりお客様の成長発展に貢献する」ために、人材育成に力を入れており、従業員が育児休業などのブランクが空いても、蓄積した技能とともに復帰し、能力を伸ばしていくことが会社にとって重要であると考えている。また、「社員と会社双方の発展、幸福を追求し、明るく楽しい職場作りを目指す」ためには、仕事と家庭の両立のために働きやすい環境を整えることが有効であると考えている。
 同社では、社長と従業員との個人面談を3ヶ月に1回行い、仕事に対する考え方、キャリア、各種制度に対する意見や要望等を話し合っている。このような個人面談を通じて、子どもの3歳の誕生日前日まで育児休業を取れる制度、育児休暇取得後の勤務時間短縮制度、企業内託児所など充実した両立支援制度が導入された。また、育児休業中の人員の空きに関して「すべての業務の無駄を見直す」ことで対処した。その結果、社員のモチベーションが上がるとともに、製造製品の不良流出率が20ppm※に低下するという企業経営へのプラスの影響が見られるようになった。


※ 1ppmは100万分の1。

 中小企業にとって、人材の能力とやる気は経営の命綱であろう。仕事と育児を両立させる取組は、ここまで分析してきたとおり、「ゆとりのある企業」だけが取り組めるようなものに限られないのである。それぞれの企業において、優秀な人材の獲得・確保という目標と照らし合わせて、この章の分析なども参考に、経営戦略として取り組んでいくのも良策ではないだろうか。

 第8節 中小企業が「仕事と育児の両立」に適している面がある背景

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