第3部<テーマ分析[2]>少子高齢化・人口減少社会における中小企業 

第3節 中小企業における若年者の採用・登用

1.中小企業における若年者確保の状況とフリーターに対するイメージ
 中小企業が若年者の正社員としての確保を思いどおりに行えていないことは、前章(第3部第2章)の最後で触れているが、中小企業における若年者確保の状況について再度確認してみよう。(株)野村総合研究所「若年労働者活用実態に関するアンケート調査」16(2005年11月)によると、若年者の正社員としての確保について、新卒人材は26.0%の企業が「確保が容易」と回答しているのに対し、「確保が困難」と回答した企業は38.3%となっている。中途人材についても、「確保が容易」と回答した企業が21.3%であるのに対し、「確保が困難」であるとした企業は44.5%にものぼっている(第3-3-12図)。

16 中小企業基本法に基づく中小企業10,000社を対象に実施したアンケート。回収率17.8%。


 
第3-3-12図 若年者の正社員としての確保
〜新卒人材・中途人材ともに「確保が困難」と回答した企業が「確保が容易」と回答した企業を上回っている〜

第3-3-12図 若年者の正社員としての確保
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 また、中小企業が若年者を正社員として確保する上での問題点について具体的に見ると、「求める人材や必要な能力をもった応募者が少ない」、「募集を行っても応募者が集まらない」と回答した中小企業が多く(第3-3-13図)、中小企業が若年層の正社員を確保していくためには、新規学卒者だけでなく、フリーターからの採用も視野に入れる必要がある。

 
第3-3-13図 若年者を正社員として確保する上での問題点
〜求める人材や必要な能力をもった応募者が少ないことが若年者を正社員として確保する上での一番の問題となっている〜

第3-3-13図 若年者を正社員として確保する上での問題点
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 新規学卒者の採用が困難である中小企業にとって、フリーターの増加は若年者を確保するチャンスが広がっているという見方もできる。正社員として勤務する場合の企業規模について、「大企業でも中小企業でも問わない」とするフリーターが過半数を占めており、フリーターは、正社員として働くことができるならば企業規模に特にこだわりを持っていないと言える(第3-3-14図)。

 
第3-3-14図 正社員として勤務を希望する企業規模
〜フリーターは正社員として働くことができれば企業規模にこだわりはない〜

第3-3-14図 正社員として勤務を希望する企業規模
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 しかしながら、一般的にフリーターは新規学卒者と比較してマイナスイメージを持たれがちであり、フリーターを採用することを躊躇する企業も少なくない。若年者を採用するに当たってフリーターであったことをどのように評価するかについて、「マイナスに評価する」と回答した企業は約3割に達している(第3-3-15図)。

 
第3-3-15図 若年者を採用するに当たってのフリーターであったことの評価
〜採用に当たってフリーターをマイナスに評価する企業は約3割、プラスに評価する企業はほとんどいない〜

第3-3-15図 若年者を採用するに当たってのフリーターであったことの評価
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2 企業の若年者に対する満足度
 では、実際に元フリーターと新規学卒者では、中小企業が正社員として採用した後の満足度に差があるのだろうか。まず、採用時にフリーターであったことをマイナスに評価していた企業について、採用時におけるフリーターへのイメージを確認してみよう。第3-3-16図によると、「責任感、就業意欲がなく、真面目に働くかわからない」(64.4%)、「根気がなく、いつ辞めるかわからない」(62.7%)といった就業意識や仕事に対する取組姿勢に関するものが上位を占めている。次いで「年齢相応の知識、経験がない」(34.8%)、「教育する時間的・金銭的余裕がない」(21.7%)といったキャリア面が挙げられている。

 
第3-3-16図 「フリーターを採用しない」と回答した中小企業についてその理由
〜働くことへの意識に関する項目が上位を占めている〜

第3-3-16図 「フリーターを採用しない」と回答した中小企業についてその理由
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 これら採用時にフリーターをマイナスに評価した理由で上位に挙げられている項目について、実際にフリーターを正社員として採用したことがある企業に対し、採用した正社員に対する満足度をたずねてみた(第3-3-17図)。これによると、フリーターを避ける一番の理由である「就業意識・態度」や「仕事に対する熱意・責任感」といった項目は、過半数の企業が満足している。それ以外の各項目でも、「あまり満足していない」、「全く満足していない」と回答した企業はそれぞれ全体の4分の1程度に収まっている。また、新規学卒者との比較では、企業規模に関係なく7〜8割の企業が「差があると感じない」と回答している(第3-3-18図17)。これらを総合すれば、フリーターというだけでマイナスに評価することは不適当であると言えよう。
 一般的にフリーターは敬遠されがちであるが、実際にフリーターを正社員として採用した企業によれば、新規学卒者からの採用とフリーターからの採用では、採用時に企業が持っているイメージほど両者の間に差異はなく、企業の満足度もそれほど変わらない。中小企業は若年者の採用に際して、フリーターと新規学卒者を区別することなく平等に評価することも若年者を確保していく上で必要である。

17 第3-3-18図は総合評価での比較である。項目別の比較は付注3-3-5参照。


 
第3-3-17図 正社員として採用した若年フリーターに対する満足度
〜若年フリーターの就業意識や仕事に対する取組姿勢については、過半数の企業が満足している〜

第3-3-17図 正社員として採用した若年フリーターに対する満足度
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第3-3-18図 フリーターと新卒者の間で正社員となったときに差があると感じるか
〜企業規模に関係なく7〜8割の企業が元フリーターと新卒者の間に差がないと回答している〜

第3-3-18図 フリーターと新卒者の間で正社員となったときに差があると感じるか
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3.自社アルバイトからの登用
 フリーターを正社員として受け入れるケースとしては、外部から採用するだけでなく、自社内でアルバイトとして働いている者を正社員に昇格させるケースが考えられる。ここでは、自社アルバイトからの登用について見ていこう。
 まず、正社員への登用の環境について見てみよう。第3-3-19図によると、従業員規模300人以下の企業において、自社アルバイトから正社員への登用実績がある企業の割合は46.0%、登用制度がある企業の割合は44.8%となっている。自社アルバイトからの登用は珍しいことではなく、フリーターが正社員となるための有力なルートのうちの1つとなっていると言えよう。

 
第3-3-19図 自社アルバイトから正社員への登用
〜登用実績がある企業は46.0%、登用制度がある企業は44.8%〜

第3-3-19図 自社アルバイトから正社員への登用
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 しかしながら、アルバイトとして働いている若年者がその企業で正社員として採用されるためには、その企業内で一定の評価を得なければならない。企業が正社員に登用するか否かの判断をするためには、アルバイトと正社員の仕事の内容が全く異なっているよりも、ある程度共有している方がよいであろう。第3-3-20図は、パート・アルバイトの正社員への登用実績の有無と仕事の分担状況を表したグラフである。これによると、正社員へ登用したことがある企業の方が正社員とパート・アルバイトの仕事の共有が行われていることが分かる18

18 中小企業白書(2005年版)によると、規模が小さい企業ではパートと正社員における職務・責任の違いが小さいと分析されている。


 
第3-3-20図 正社員への登用実績の有無と仕事の分担状況
〜登用実績がある企業は正社員とパート・アルバイトの仕事の共有割合が高い〜

第3-3-20図 正社員への登用実績の有無と仕事の分担状況
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 では、中小企業では正社員とパート・アルバイトの仕事の共有状況はどのようになっているのであろうか。中小企業庁「人材活用実態調査」(2004年12月)によると、規模が小さい企業ほど、正社員と同レベルの仕事を行っているパート・アルバイトの割合が高いことが分かる(第3-3-21図)。これらをまとめると、評価のしやすさという観点からは、規模が小さい企業ほどアルバイトから正社員への登用が行われやすい環境であると言える。

 
第3-3-21図 パート・アルバイトの中で正社員と同レベルの仕事を行っている者の割合
〜規模が小さい企業ほど正社員と同レベルの仕事を行っているパート・アルバイトの割合が高い〜

第3-3-21図 パート・アルバイトの中で正社員と同レベルの仕事を行っている者の割合
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事例3-3-1 正社員の経験がない若年者を積極的に採用している企業

 東京都台東区に本社を構える(株)算法設計(従業員100名)は、1981年創業のソフトウエア開発業であり、金融系や医療系など様々な分野の業務における管理支援システムの開発を行っている企業である。
 同社では主に技術者を確保するために幅広く採用活動を展開しており、シルバー人材・外国人労働者とともに若年者の採用を積極的に行っている。若年者の採用については新卒採用・中途採用ともに力を入れている。中途採用の一環として、正社員としての経験がないいわゆるフリーターの採用経験もあり、年平均で2〜3名の採用実績がある。
 フリーターであった者の採用基準は、「同分野でのアルバイト経験の有無」や「独自で勉強をしており相応の知識があるか」などが挙げられるが、一番重視しているのは「就業意欲」である。働く意欲があれば、技術やノウハウについては入社後の教育により戦力化させることが可能であるからである。
 同社では、フリーターを正社員として採用するケースの他、まずアルバイトとして雇い一定期間をおいてから正社員に昇格させるケースもある。どちらのケースも本人の希望を聞いた上で柔軟に対応している。
 採用したフリーターの処遇については、入社直後は同分野での職務経験や資格の有無等を考慮して決められるが、入社2〜3年経過すると、新卒者や他の中途採用者と平等に評価している。フリーター出身者の働きぶりは、新卒者と比較しても遜色なく、フリーター出身者で現在中核人材となっている者もいる。このように、正社員としての経験がない若年者も含めた幅広い採用活動により有能な人材の確保を可能にしているのである。

 次に、自社アルバイトからの登用の決め手について見ると、従業員規模にかかわらず「意欲」が最も多くなっている。規模別の特徴としては、従業員規模が大きい企業ほど「能力」、「成果」といった項目を重視している。従業員規模が大きい企業はアルバイト同士の比較を行うことが可能であり、登用基準として実力主義を用いることができるからであろう。一方、従業員規模が小さくなるほど「人柄」の割合が高くなっており、家族主義的経営の色彩が強い小規模企業ならではの、人物本位の登用が行われていることが分かる(第3-3-22図)。内部からの登用は既に自社で雇用している者の評価であるため、ある程度働きぶりや企業への貢献度、性格などを把握することができることから、外部からの採用と比較して、詳細かつ正確な情報を得やすいと考えられる 。

 
第3-3-22図 正社員に登用した際に重視した項目
〜企業規模を問わず「意欲」が多いが、企業規模が大きい企業は実力を、小さい企業は人柄をより重視する傾向にある〜

第3-3-22図 正社員に登用した際に重視した項目
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事例3-3-2 自社アルバイトから正社員への登用実績がある企業

 東京都杉並区のK社(従業員148名、資本金4,000万円)は1951年に創立された精密機械製造業であり、主に鉄道建設・保守に関する計測機器の設計・製作・販売に取り組んでいる中堅企業である。
 同社では、若年者を確保する際に、新卒者の採用(毎年理系の大学卒を2〜3名採用している。)の他に中途採用を行っている。中途採用で正社員として採用した若年者の中には、フリーターであった者も含まれており、若年者に広く門戸を開いている。
 フリーターであった者の正社員への採用のうち、約半数は自社で働いていたアルバイトを正社員へ登用したものである。自社アルバイトから正社員への登用は、社内に明確な制度があるわけではない。しかし、自社アルバイトであれば、同社が正社員として採用する際に重要と考える〔1〕人柄、〔2〕就業意欲、〔3〕コミュニケーション能力、〔4〕技術力などについて事前に把握することができるため、同社で正社員として活躍できるか否かの判断が比較的行いやすいというメリットがある。
 自社アルバイトからの登用プロセスについては、基本的にアルバイト本人の意向を尊重している。アルバイトとして働いている者から、「同社で正社員として働きたい」旨の申出があった場合に、まず所属長が人柄や普段の就業姿勢等から正社員へ登用することの的確性を判断する。的確であると認められれば、所属長から社長へ推薦を行い、その後2度の面接を経て正社員としての採用が決定される。
 自社アルバイトから登用された者は、就業意欲・技術などの面で他の正社員と比較しても全く問題なく、かなり活躍しているという。

コラム3-3-1 縁故で採用したフリーターへの満足度

厚生労働省「雇用管理調査」(2004年)によると、フリーターを正社員として雇用した企業のうち、その理由が「縁故」と回答した企業は約15%となっている。中小企業は同族的な企業の割合が高く、経営者自身の判断で経営方針を決められる要素が強いため、縁故による採用が多いと予想される。縁故採用は一般的にはあまり良いイメージでは捉えられていないが、実際の企業の満足度はどうであろうか。フリーターを正社員として採用したことのある中小企業のうち、その採用が縁故によるものだった企業の満足度について見ると、縁故採用を行っていない企業よりも高くなっている。縁故による採用は、企業にとってはその者の身元がはっきりしているという利点があり、働く側にとっても企業の情報が入社前に入手できるといったプラス材料があるため、必ずしもネガティブに捉える必要はなく、ある面で中小企業にとって有効な採用ルートと評価することもできよう。

 
正社員に採用した元フリーターへの満足度

正社員に採用した元フリーターへの満足度
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 ここまでの分析から、若年者の採用・登用についてポイントをまとめると、主に以下の3点となろう。
〔1〕フリーターは正社員として働くことを希望しているが、企業側がマイナスイメージを持っているためなかなか正社員になれない。 〔2〕だが実際は、新規学卒者から採用した正社員とフリーターから採用した正社員の間には、採用前に企業が抱いているイメージほどの差はない。中小企業は若年者の採用に際して、「フリーター」ということで偏見を持たず、やる気と能力を平等に評価することが重要である。 〔3〕自社アルバイトからの登用は、フリーターが正社員となるための有力なルートのうちの1つとなっている。登用は、規模が大きい企業は「実力主義」、規模が小さい企業は「人物本位」で行われている。

 第3節 中小企業における若年者の採用・登用

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