第3部<テーマ分析[2]>少子高齢化・人口減少社会における中小企業 

第3章 「子どもを産み育てやすい社会」に向けた中小企業の役割

第1節 少子化の観点から見た雇用や仕事の状況

 我が国の現在の合計特殊出生率はきわめて低い水準にあり、それに伴って我が国が他の先進国に先駆けて総人口が減少に転じたことは第3部第1章で述べたとおりである。少子化を食い止めるためには、「子どもを産み育てやすい社会」に向けた取組が必要となる。
 若年者が子どもを産むという段階にたどり着くまでには、具体的に以下のハードルが存在する。
 第1 に、安定した雇用・収入を確保することである。我が国では婚外子が少なく若年者が結婚しなくては出生率の向上は見込めないが、雇用が不安定な状況では結婚はおぼつかない。結婚したとしても収入が少なく、かつ不安定であれば出産・育児をする決心がつきにくい。
 第2に、仕事と育児の両立を実現することである。これまで我が国の企業においては、「両立支援を行うことは企業にとって負担である」というイメージが根強く、両立支援は必ずしも進んでいるとは言いづらい。
 そこで、本章では「子どもを産み育てやすい社会」に向けた中小企業の役割について論じるに当たり、
〔1〕若年者の雇用・収入の安定化
〔2〕仕事と育児の両立の実現
の2点に焦点を当てていくこととする。

 それでは、各種統計やアンケート結果を用いて、若年者及び女性の雇用形態や結婚・出産の状況等を確認してみよう。まず、若年者1の就業状況別の配偶者・子どもの有無の状況について見ると、他の社会・経済状況が全く変わらないものと仮定して、現在20〜24歳の若年者が35〜39歳になった場合、配偶者がいてかつ子どももいる者の割合は、正社員2では全体の41.6%、非正社員では6.2%、無職では1.4%となると見込まれる3(第3-3-1図〔1〕)。これらを合計すると49.2%であり、配偶者がいてかつ子どものいる者の割合は全体の半分以下になると予想される。若年者の中でも、不安定な雇用形態で働いている者や無職の者は、結婚し子どもを産み育てることが経済的に困難な状況になっている。このような若年者が増加すれば、ますます少子化が加速していくであろう。

1 ここでは、「正社員」・「非正社員」については、「仕事をおもにしている」男性のみを集計対象としている。また、「無職」については、「仕事をしていない」男性のうち、「家事をしている」者・「通学している」者を除いて集計している。
2 総務省「就業構造基本調査」においては、「会社などの役員」以外の雇用者を、勤め先での呼称によって、「正規の職員・従業員」、「パート」、「アルバイト」、「労働者派遣事業所の派遣社員」、「契約社員・嘱託」、「その他」の6つに区分している。この章では、基本的に、常用雇用者(1年を超える又は雇用期間を定めない契約で雇われている者で「役員」以外の者)のうち、勤め先での呼称が「正規の職員・従業員」である者を正社員と定義している。
3 フローチャートの作成手順については付注3-3-1付注3-3-3参照。


第3-3-1図 少子化の観点から見た若年者及び女性の雇用形態や結婚・出産の状況

第3-3-1図 少子化の観点から見た若年者及び女性の雇用形態や結婚・出産の状況

 次に、就労女性の妊娠・出産について見てみよう。出産1年前に就労していた女性を100%としたとき、出産前後4に退職する者の割合は47.8%、育児休業取得後5に退職する者の割合は21.2%もおり、育児休業後も継続就業する者は31.0%に過ぎない6。また、こうして出産を機に退職した女性(計69.0%)のうち再就職している女性は17.8%のみである(第3-3-1図〔2〕)。我が国では、依然として育児は女性が担うことが多いのが現状であり、働く女性にとって出産・育児と仕事の両立は大きな課題である。また、企業において育児休業制度等の子育て支援のための制度が整備されていても、現実に制度を利用できるかどうかは別問題であり、経営者や従業員の理解の程度、企業周辺・企業内の保育施設の整備状況、夫や親族の協力状況など様々な要因に左右される。このまま女性の社会進出が進む中にあって、女性の就業環境の整備が進まなければ、未婚化や晩婚化に拍車がかかり、少子化が進行していく恐れがある。
 以上のことから、若年者が安定した雇用や収入を確保すること、育児をしながら仕事を継続することは、少子化対策として有効であろうと推測される。同時に、国民個々人の立場に立っても望ましい社会のあり方であろう。例えば、「一生結婚するつもりはない」と思っている日本人男性は5.4%である7が、実際の生涯未婚率8は12.6%にものぼっている。また、国民は平均で2.56人の子どもを持ちたがっているが、それに対して、実際には2.13人しか持てそうにない9。すなわち、「子どもを産み育てやすい社会」は、個々の国民がより自己実現が図れる、生活の質の高い社会を目指すために重要となっているのである。

4 出産前に退職する者と、出産直後(産休明け等)に退職する者を含む。
5 育児休業取得後、そのまま職場復帰せずに退職する者と、一旦職場復帰してからその直後に退職する者を含む。
6 フローチャートの作成手順については付注3-3-4参照。
7 国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」(2002年)
8 「生涯未婚率」とは、45〜49歳と50〜54歳の未婚率の平均値であり、50歳時の未婚率を表す。本文の数値は総務省「国勢調査」(2000年)をもとに国立社会保障・人口問題研究所が算出したもの。
9 国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」(2002年)

 本章では、第2節〜第4節で中小企業における若年者の雇用、第5節〜第8節で中小企業における仕事と育児の両立について現状と課題を明らかにし、「子どもを産み育てやすい社会」に向けた中小企業の役割について分析していきたい。


 第1節 少子化の観点から見た雇用や仕事の状況

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