第1部 2005年度における中小企業の動向 

第3節 「3つの過剰」と中小企業

 第1節においては、今回の景気回復局面において、これまでと異なり、「債務、設備、雇用」の3つの過剰がおおむね解消し、企業にとって収益が上がりやすい環境が整い始めていることを指摘した。本節では、この点について、中小企業に焦点を当ててより詳しく分析してみることにしたい4

4 本節の検討は、主として財務省「法人企業統計調査」における「四半期別調査」(いわゆる法人企業統計季報)及び日本銀行「短観」をもとに展開している。日本銀行「短観」の調査対象は前述のとおり資本金2千万円以上の企業であり、また、法人企業統計季報の調査対象も資本金1千万円以上の法人企業に限られていることから、本節の議論は、中小企業のうちこれらの規模に該当する企業を対象としたものとなっている点、留意が必要である。


1.中小企業の資金調達状況
 「3つの過剰」の第一として、まず中小企業における負債及び借入れ動向について概観してみよう。中小企業の有利子負債残高償還年数を調べてみると、2005年第IV四半期末時点で11.0年と、バブル崩壊後のピーク時(1994年第I四半期)の18.5年に比べ相当程度、償還年数の低下が見られている。このように、依然として大企業と比べれば、中小企業の借入残高は多く、財務体質は脆弱であるものの債務の削減は中小企業においても進みつつあると言えるだろう(第1-1-22図)。

 
第1-1-22図 中小企業の債務償還年数の推移
〜中小企業の過剰債務も相当程度改善〜

第1-1-22図 中小企業の債務償還年数の推移
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 また、この結果、中小企業の自己資本比率についても、同様に大企業の平均に比べれば低いものの、近年は上昇傾向にあり、財務体質は一時に比べ改善していると言える(第1-1-23図)。

 
第1-1-23図 中小企業の自己資本比率の推移
〜97年を境として、中小企業は大幅に財務体質を健全化〜

第1-1-23図 中小企業の自己資本比率の推移
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 このような財務体質の改善は、第1-1-24図に見られるように、中小企業が設備投資額を手持ち資金(キャッシュフロー5)の範囲内に押さえ、残余を借入金の返済に充てる動きを続けていることが大きな理由である。こうした動きは、中小企業向け貸出残高が長期的に減少傾向をたどっていることからも確認できる(第1-1-25図)。

5 ここでは経常利益×0.5+減価償却費で計算した。


 
第1-1-24図 中小企業のキャッシュフロー額と設備投資額の推移
〜長期的には、設備投資の原資は外部借入れから内部調達の範囲内へと縮小してきた〜

第1-1-24図 中小企業のキャッシュフロー額と設備投資額の推移
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第1-1-25図 中小企業向け貸出残高の推移
〜長期的には、中小企業向け貸出残高も減少傾向にあるが、足元では変化の兆しが見られる〜

第1-1-25図 中小企業向け貸出残高の推移
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 それでは、このような、「設備投資を抑制し財務体質改善を優先する」という経営行動は、中小企業が自らの判断で選択した自主的なものだったのだろうか。
 この期間における中小企業の銀行からの借入れ難易度の推移を見ると、1997年の金融危機を契機として急激に悪化し、最近になるまで金融危機以前の水準へと回復していないことが分かる(第1-1-26図)。このことから、金融機関の厳しい貸出態度(いわゆる「貸し渋り」)により、中小企業が手持ち資金の範囲内で設備投資を行わざるを得ないという、いわば「我慢の経営」をせざるを得なかったことが設備投資の抑制につながっていると考えられる。すなわち、中小企業の財務体質の改善は、後述するようにデフレ環境下において中小企業が設備投資より借入れの返済を優先し、債務の圧縮を図ったことも要因として挙げられるが、金融機関からの借入を円滑に行えず、設備投資を手控えざるを得なかったことによる「結果」である側面も強い。

 
第1-1-26図 中小企業の借入れ難易度DIの推移
〜借入れ難易度は金融危機以前の水準へ回復しつつある〜

第1-1-26図 中小企業の借入れ難易度DIの推移
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 金融機関からの借入れ難易度に関しては、景況感の差異と同様、業種による差異が見られ、前掲第1-1-26図からも、近年になって非製造業の短期借入れ難易度が製造業の長期借入れ難易度の水準すら下回っていることが確認できる。このような差異はあるものの、全体としては中小企業における金融機関からの借入れは以前より容易となってきており、さらに資金借入れに対する中小企業のマインドも変化しつつあるものと考えられる6。この結果として、足元では中小企業向け貸出残高の減少傾向にも歯止めがかかりつつある。

6 第1部第3章参照。


2.中小企業の設備状況と今後の設備投資
 次に、中小企業の設備投資の状況について見てみよう。日本銀行「短観」によれば、中小企業(製造業)の設備判断DI(「過剰」超−「不足」超)は、2005年第IV四半期には0ポイントと、1991年第IV四半期以来15年ぶりに「過剰」超過を解消した(第1-1-27図)。実際の設備投資額を見ても、2004年に高い伸びを記録した後、2005年前半においてこそ若干昨年水準を下回ったものの、同年後半からは2004年の水準を更に上回る伸びとなっており、総じて見ると引き続き堅調に推移している様子がうかがえる(第1-1-28図)。こうした動きに伴い、企業設備年齢(ビンテージ)にも、これまでの上昇傾向に歯止めがかかっている(第1-1-29図)。

 
第1-1-27図 中小企業の生産・営業用設備DIの推移
〜中小企業の設備不足感に大企業との差異は見られない〜

第1-1-27図 中小企業の生産・営業用設備DIの推移
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第1-1-28図 中小企業の設備投資動向の推移
〜2005年においても増加しつつある中小企業の設備投資〜

第1-1-28図 中小企業の設備投資動向の推移
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第1-1-29図 製造業設備ビンテージの推移
〜設備ビンテージの上昇傾向にようやく歯止め〜

第1-1-29図 製造業設備ビンテージの推移
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 こうした設備投資の勢いは、今後も続くことが見込まれるだろうか。
 まず、企業が内部資金(キャッシュフロー)を設備投資の原資とする場合を考えてみよう。第1-1-24図に示したとおり中小企業のキャッシュフロー額は近年最高水準に達しており、中小企業の財務体質が好転していることも勘案すれば、各企業における設備投資余力は高まっているといえる。しかしながら、手元資金が潤沢であったとしても、企業自身が「将来の需要が増加する」という予測を立てなければ、企業は設備投資には踏み切らない。このように、設備投資の動向を探る上で企業の将来需要の予想が重要になってくるが、内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」をもとに見た企業の将来需要の予想7は、2003年以降増加傾向に転じており(第1-1-30図)、2005年1月調査における値も1.3%と比較的高く捉えられている。

7 ここでは「貴業界の需要の実質成長率(今後3年間の見通し)」の値を用いた。

 
第1-1-30図 企業の期待成長率と投資性向の関係
〜企業の将来需要の予想が高い場合、中小企業の投資性向も増大する〜

第1-1-30図 企業の期待成長率と投資性向の関係
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 次に、企業が銀行からの借入れにより設備投資資金を捻出する場合を考えてみよう。企業が借入れをして設備投資を行う際には、実質借入コストが重要な判断要素となる。これまで長く続いたデフレ環境下においては、物価が下落するという見通しの下で、仮に名目ベースの借入金利が低く抑えられたとしても、実質ベースでの借入れコストが高いと判断していた中小企業が多かった可能性がある。第1-1-31図は企業の期待インフレ率を加味して推計した実質金利及び名目金利の値であるが、近年、名目金利が一貫して低下し続けたのに対し、デフレ期待の定着を反映して実質金利は高止まりとなっており、このことが企業において投資よりも債務の返済を優先する動きの一因となっていたことが分かる。ただし、昨年末以降、いわゆる「デフレ脱却」の糸口が見え始めたことを受けて、実質金利も低下傾向を辿っており、このまま名目金利が緩和的な状態で推移すれば、借入れに対してより積極的な行動をとる中小企業が増えていくことが予想される。
 こうしたことを踏まえると、2006年以降の設備投資についても、当面、堅調な動きが期待できるのではないだろうか。

 
第1-1-31図 企業の借入れ金利の推移
〜企業の実質借入れコストは低下傾向〜

第1-1-31図 企業の借入れ金利の推移
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3.中小企業の雇用動向
 最後に、中小企業の雇用動向について見てみよう。最近、雇用については一般に逼迫感が見られており、日本銀行「短観」によれば、中小企業(全産業)の雇用人員DI(「過剰」超−「不足」超)は大企業より中小企業においてより早くから過剰感の解消が見られている(第1-1-32図)。このように、雇用の過剰感が解消し、むしろ足元では不足感が高まりつつあることから、労働分配率8についても、2005年度に入ってからは下げ止まり感が見られるようになっている(第1-1-33図)。これを要因別に見ると、売上高増加が押し下げ要因となっている中で、人件費要因が押し上げ要因となっていることが分かる(第1-1-34図)。このように、売上げが伸びている中で労働分配率が下げ止まりつつある背景に、賃下げ圧力やリストラ圧力が低下した結果として、中小企業においても若干ではあるが人件費も増加基調にあることが要因となっていることがうかがわれる(第1-1-35図)。

8 労働分配率(Ls)とは付加価値額に占める人件費の割合で、人件費をW、付加価値額Vを売上高Tで割ったものを付加価値率vとすると、Ls=W/V=W/(v・T)で表される。労働分配率は人件費総額の減少又は付加価値額の増加により低下する。


 
第1-1-32図 雇用人員DIの推移
〜中小企業の方が大企業よりも雇用の逼迫感が見られている〜

第1-1-32図 雇用人員DIの推移
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第1-1-33図 労働分配率の推移
〜労働分配率は非製造業を中心に足元では下げ止まり感〜

第1-1-33図 労働分配率の推移
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第1-1-34図 中小企業の労働分配率の要因分解
〜人件費の上昇が売上高の上昇を相殺しているため労働分配率は低下しにくくなっている〜

第1-1-34図 中小企業の労働分配率の要因分解
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第1-1-35図 企業規模別賃金の推移
〜小企業を中心に賃金は若干増加傾向〜

第1-1-35図 企業規模別賃金の推移
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 この結果、依然として大企業に比べて十分とは言えないものの、中小企業の収益性は、売上高経常利益率の高さで見ても損益分岐点比率の低さで見ても、ここ十年来の最高の状態となっており、全体的に見て、バブル発生前の水準にほぼ匹敵する水準に戻ってきている(第1-1-36図、第1-1-37図)。また、第2部で詳しく見るように、企業倒産件数も2005年には大きく減少し、12,755件(全規模企業では12,998件)とバブル崩壊後の最低水準となっている(後掲第2章第1-2-23図9

9 全国の信用保証協会の代位弁済件数も、こうした動向の中、2005年度は前年度比で件数・金額ともに減少傾向にある(第1-1-38図参照)。


 
第1-1-36図 中小企業の売上高経常利益率の推移
〜中小企業の売上高経常利益率は非製造業も含めて改善〜

第1-1-36図 中小企業の売上高経常利益率の推移
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第1-1-37図 中小企業の損益分岐点比率の推移
〜損益分岐点比率もバブル崩壊前の水準に近づきつつある〜

第1-1-37図 中小企業の損益分岐点比率の推移
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第1-1-38図 代位弁済件数・金額の推移
〜代位弁済件数・金額は減少傾向〜

第1-1-38図 代位弁済件数・金額の推移
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 第3節 「3つの過剰」と中小企業

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