第2部 経済構造変化と中小企業の経営革新等 

(4)海外における中心市街地活性化への取組

〔1〕欧米主要国の都市計画等街作り関連制度の概要
 このように、様々な課題に直面し厳しい状況にあるわが国の中心市街地商店街であるが、我が国に先行し、中心市街地の衰退に直面した欧米各国における活性化への取組事例と、その基盤となる制度の概要を、今後の対応策の参考事例として紹介する(コラム参照)。

コラム 欧米の都市計画制度比較一覧

 
コラム2-3-1 欧米の都市計画制度比較一覧
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 以下では、イギリスにおける中心市街地活性化の背景や手法などについて紹介しよう(コラム参照)。

コラム イギリスにおけるタウンセンターの再生に向けた取組

[都市再生施策の背景]
オイルショックを契機とした不況により、特に北部工業都市の失業率が高まり、1970年代には全国的に逆都市化(都市からの脱出)が強まり、人口と雇用の空洞化がインナーシティに集中した。旧工業大都市における工場、倉庫や産業用地の利用転換が大きな課題となり、サッチャー政権時代(1979〜1990年)において、開発コントロールの規制緩和を行い、都市開発公社を設立し、指定地域(中心市街地に近接した倉庫・工場地帯などを中心に)で、開発を進めたが、同時にその緩和政策は、郊外型商業施設の建設に非常に有利であったこともあり、郊外にある大規模な空閑地の新規開発が積極的に行われ、1971年には21店舗しかなかった郊外型スーパーマーケットやショッピングセンターは1980年には143店舗、1992年には719店舗となるなど急成長を遂げた。一方、中心市街地では、交通渋滞や、車による環境汚染、万引き、喧嘩などの軽犯罪の増加の他、台頭してきた郊外型の商業施設との競争の結果、目抜き通りの商店に空き店舗が目立つようになっていた。

[「持続可能な開発―英国戦略(1993年)」宣言]
そうした背景の下、カントリーサイド保全指向の国内世論の高まりなどにより、市場志向・開発志向のサッチャリズムは修正され、環境重視などの観点から都市の拡散抑制が大きなテーマとなり「持続可能な開発―英国戦略(1993年)」が宣言された。これにより、サスティナビリティ戦略が政府の公式方針となり、産業構造変化にともなう中心市街地の再活性化が大きなテーマとなった中で、ブレア政権は、2000年の「アーバンルネッサンス報告書」「都市白書」で、都市開発における経済的側面の重視と持続可能な発展をコンパクトシティの都市像(複合機能、高密度化、自動車依存の低減など)で進めることを強調している。

[都市再生の意味]
「都市再生」とは、衰退した地域を対象に、新たな政策に基づいてビジョン、計画を立案し、行政、コミュニティ、企業などが共同して保全、修復、開発を進めることによって、地域が持続的に発展出来る条件を整えることである。不動産経営の側面でみれば、衰退し価値が極めて低下した土地を再開発することにより不動産価値を高めるプロセスであり、未整備な土地の整備により、土地の所有者には譲渡・運用の可能性が生じ、自治体にとっては税収や雇用の増加、地域のイメージアップ、市民にとっては安全・安心の確保、魅力ある街の実現などの効果が期待できるところである。イギリスでは、こうした再生の実現に当たり、自治体がさまざまな計画、事業の促進者となっており、また、地域住民が中心となったコミュニュティも、自らが意識を持って立ち上がり、まちの姿を形づくるための意志を開発計画に反映する形での参加が見られるなど、住民サイドも主体的にまちづくりに関わっている。

(参考文献)海道清信著「コンパクトシティ−持続可能な社会の都市像を求めて−」学芸出版社(2001年)他

コラム イギリスにおけるタウンセンター再生の具体的方策について

[タウンセンター再生の具体的方策]
1996年に改訂されたサスティナブル(持続可能性)なまちづくりと商業施設の開発に関する政府の計画方針ガイダンス(PPG6)が改訂され、各地方自治体に対し、独自の「タウンセンター再生の具体的方策」を作成することが奨励され、タウンセンターの活性化に向けて、魅力的な環境づくりと自動車交通の規制、そして多目的な用途(商業施設、レジャー、ビジネス、住宅)を持つまちづくりを推進することが提言されている。
この政策を具体化し、各地で実践されている代表的な方策は以下の通りである。
【政策の具体化実践方途メニュー】
〔1〕ペデストリアナイゼーション(Pedestrianization)
目抜き通りや広場、マーケットプレイスから自動車を追い出しタウンセンターに歩行者専用の空間を確保する。通常、商店の営業時間内の搬入アクセスは認められない。この導入には、町全体の交通の流れと交通規制システムを根本的に見直す必要があり、また、様々な利害関係者間の調整を必要とするため、実現までに数年を要することが多いが、タウンセンターの賑わいに大きく貢献している。
〔2〕タウンスケーピングとアーバンデザイン(Townscaping&Urban Design)
ペデストリアナイゼーション実施の際には、煉瓦、石、タイルなどを使いデザインされた美しい舗装やベンチ、街灯、ごみ箱など通りの家具の新たな設置や、花壇の設置、植樹などにより、歩行者に心地よい魅力的な空間が提供され、屋台やストリートパフォーマーが町に彩りをそえる。
〔3〕カーパーキング(Car Parking)
駐車場は自動車利用者を減らす方向で運営されている。長時間滞在と短時間滞在の2種類のパーキングが設けられ、地方自治体が駐車料金の設定を行い、超過駐車者を厳しく取り締まり、罰金の支払いを義務づけている。人口10万人以上の都市では、駐車料金および超過時の罰金額が非常に高く設定されている。
〔4〕パーク&ライド(Park&Ride)
中心市街地に乗り入れる自動車の数を減らすために効果的な方法として、パーク&ライドが多くのまちで活用されている。中心市街地途上の高速インターチェンジの出口などに隣接した敷地に、数百台規模の無料の屋外駐車場を設置し、中心市街地と駐車場のピストン輸送バスを運行する制度。来街者はバス往復切符の購入で長時間駐車が可能。
〔5〕イブニング・エコノミー(Evening Economy)
夜間の中心市街地の経済活動で、営業時間の延長など、夜間の活性化への取組。PPG6が推奨する多目的な用途をもつまちづくりは、町の中心に人口を呼び戻すことを前提とし「24時間都市」を目指している。
〔6〕マーケティング(Marketing)
蘇った中心市街地を、住民や新規出店希望小売業者、通勤者など、対外的に宣伝する。各種イベントの企画やミニ情報誌の発行、観光案内所の設置などから、長期にわたる投資家向けの経済開発計画のコンサルタント業務に至るまでの多様な活動。
【タウンセンターマネジメントの役割】
上記のような具体的方策は、各地方自治体の、主に都市計画セクションの指揮によって実施されてきたが、その際に、各種プロジェクトの運営に大きく貢献しているのがタウンセンターマネジメント(TCM)であり、TCMは主に○高質で安全な環境の提供○マーケティング○商業施設やサービスの向上○街路・公共広場・駐車場のメンテナンスの4点を担っている。現在、300以上の市や町で専属のタウンセンターマネージャーがいるとされるが、それぞれのTCMあるいはタウンマネージャーに期待される役割、業務内容、運営資金の調達方法やタウンマネージャーの雇用形態は地域の状況に応じてさまざまとなっている。

(参考文献)
大塚紀子オックスフォード・ブルックス大学博士課程「地域開発」2003.4vol463

〔2〕海外における中心市街地活性化に向けた特徴ある事例の紹介
 これらの制度の他、商店街・商業集積の活性化に向けた特徴的な取り組みを紹介する。
 商店街が衰退している大きな要因に、空き店舗の存在と、その増加に伴いシャッター通りが生じていることがある。そのような商店街が、衰退度を増していく状況への対応策は大きな課題である。
 海外においては、景観対策、未利用資産の活用等の観点から、参考になる取り組みが行われている例がある(事例2-3-16〜17)。

事例2-3-16 商店街の空き店舗対策に有効な荒れ地、景観対策課税制度:ベルギー・ハッセルト市

 ベルギーでは地域政府レベルの政令により、空き地、空き家の放棄防止を目的とした課税制度が施行されている。
 フランダース地域のハッセルト市では、1982年より景観対策の観点から美観を損なうような建物を放置させたままで修繕、改装など何も措置をしない所有者に対する解決策として制度を創設した。
 課税対象は景観上荒れている建物及び空いている建物、土地であって、具体的な適用は郊外の住宅、工場等が多かった。こうした措置により、1982年に450棟が課税対象となったが、2004年時点では20棟になっている。空き店舗のまま放置するよりは賃料を下げてもテナントを入居させようということで、都心部の空き店舗解消にも効果が出た。

[ハッセルト市の空き家および放置された建物および住宅に関する直接税(景観課税)]
 (2002年1月1日から2006年12月31日まで適用)
<課税対象基準>
・関係当局によって、住宅に適さないと宣告された住宅
・関係当局の解体指令が出されている住宅および建物
・人の住んでいない住宅
・会計年度の期間中に建物の50%が有効に利用されていない建物
・市長治安官団体により権限の付与された、官吏によって作成された、放置に関する技術報告書を伴う住宅
・災害、老朽化もしくはその他に見舞われた、建物の残骸を伴う用地
・目的に沿った使用をされず、未完成のままになっている、新しく建てられた建造物
・もはや使用されていない、商業用および工業用建物
<基礎税額>
公道と境を接している建物もしくは住宅の正面部分の長さ1m毎に75ユーロ=公道と境を接していない建物、住宅orその一部:建築面積1m2毎5ユーロ
<課税対象者など>
その会計年度の1月1日時点での、完全な所有者、建物保有者、長期借地人もしくは用益権者であって初年度は基本額、2年目から基本額の2倍、3年目3倍、4年目4倍、5年目5倍を課税する。

事例2-3-17 日本と同じ課題を抱える小都市での、商店街再生に向けた取り組みを成功させたタウンセンターマネジャーの役割など:イギリス・ヒッチン

 小都市でのTCM(タウンセンターマネジメント)などによる商業集積のテナントミックスの再構築などにより、郊外大型商業施設の立地により衰退した中心市街地を活性化させた事例。以下に挙げる様々な成果は、タウンセンターマネージャーが情熱を傾け、地元住民、行政、商業者の共通認識を醸成し、1つ1つ課題をクリアし、達成をした。
〔1〕20年来、再開発を進め、町並みを整備。郊外の大型SC(ショッピングセンター)への対抗策として、地元消費者を取り込めるスペシャリティのある商業集積を目指してきた。大きな変化のきっかけとなったのは、ペデストリアナイゼーション(注)を導入し、歩行者専用道路と広場を確保したことであった。
〔2〕地権者、商業者によるイニシアチブ設立。民間商業者による会費収入の拡大。
〔3〕タウンセンターマネジャーによる初期の店舗誘致活動。以後、安定的な発展により大手企業も出店。店舗の入れ替わりも進む。
〔4〕活性化した商業環境に立地する個店で、環境維持のための維持費用等を支払わず環境のみ享受しようとするフリーライダー(ただ乗り)対策としてのBID導入に取り組むこととした。
(注)ペデストリアナイゼーション:商業店舗が密集しているハイストリートや商店街の中の広場、マーケットプレイスから自動車を追いだし、タウンセンターに歩行者専用の空間を確保する。

 我が国の消費者も中小小売店に期待するものとして、接客態度・接客サービスへのニーズは高いものがある。既存の業種構成、店舗構成であっても、個店の取組方や、意識変革などにより、魅力向上を図ることができる(事例2-3-18)。

事例2-3-18 消費者ニーズに応える接客サービス:フランス・ランス市

[シャルト・カリテ・コマース(Charte Qualite Commerce)]
 「シャルト・カリテ・コマース」(商店品質憲章)は、1997年のシャラント・マリティーム県での取り組み以来、現在、フランス国内20県以上で普及してきている商店・自営業者の接客とサービス品質向上のための取り組みである。
 ランス市(マルヌ県ランス市)のシャティヨン地区は住民約2万人のほとんどが低所得者層に属す労働者階級地区であるが、そこに政府が設立した住宅公益会社レフォール・レモアが管理する公営住宅の1階は商店が入居していた。 
但し、その20店ほどの商店街は郊外の大型ショッピングセンターとの競合により、深刻な商業不振に直面し、空き店舗の増加や家賃が払えない店舗が出るなど厳しい状況となっていた。そこで、2000年に地方自治体の支援の下、住宅公益会社、商工会議所、小売店協会などのパートナーシップにより、それまで主に観光商業地で展開されてきた「シャルト・カリテ・コマース」を地元商店街活性化のために導入することにした。具体的には、近隣地区の消費者の獲得を目的として、接客サービス、店舗の外装、内装、ディスプレイ等、業種を問わず求められる小売・サービス店としての基礎的な品質基準を設定し、それに基づく表彰制度が設けられた。
[制度の概要]
 この品質憲章事業に参加する商店は、80項目の評価基準についての研修を受けた後、「覆面客」の抜き打ち査定を受け、合格すると1年間「シャルト・カリテ」マークが授与される。店頭でのラベル掲示だけでなく、地元新聞等でも表彰を受けた商店のPRが行われ、近隣消費者獲得へのマーケティングツールとして利用される。
[主な査定評価基準]
○ウィンドウ・ディスプレイ、全般的な外観(清掃状況も含め)
○営業時間:表示されているか、時間が守られているか。
○買い物客にとって、清潔で心地よい空間か(照明、音楽、温度など)
○接客時の対応:ていねいな挨拶、受け答え(電話の応対も含む)
○買い物客の質問に対する対応:親切かつ有用な受け答え
○買い物客のクレームへの対応:適切かつていねいに対処できるか否か
○商品配達やサービス提供時に時間が厳守されているか
[査定とフィードバック]
○最初の覆面調査における各店への評価点数は合格基準の50%に満たなかった。外観や清潔さについては比較的高い水準であったが、電話応対や接客サービスなどの顧客サービスの質に問題があった。しかしながら、こうした問題点についての商店への説明は困難を極め、約半年間の冷却期間の後、再チャレンジとなった。
○再チャレンジに際しては商工会議所が中心となり、顧客サービスとコミュニケーション能力を向上させるトレーニングを重点に昼食時の閉店時間の対応や社会的役割などについて集団レッスンを行うとともに、各店や店員の特徴やニーズに基づいた個人レッスンも実施した。
○こうした努力を積み重ねた結果、2001年4月に査定に臨んだすべての店舗が「シャルト・カリテ」の授与を受けるまでになった。
○その成果は、新聞、ラジオで紹介されたほか、ロゴマーク入りの表示板やビニール買物袋等を支給し、その他グッズの配布も行われた。
[取り組みの成果]
○現在、シャティヨン地区での取り組みは4年を経ているが、2001年以降、商店街の空き店舗はなく、地区イメージは大いに改善し、銀行の支店も開設された他、店舗営業権の買い手もあらわれるなど、地区の状況は大きく改善した。
○「シャルト・カリテ・コマース」への参加商店も当初の10店から15店へと増加してきている。
○「シャルト・カリテ・コマース」に参加した店主達は、来客数や来店頻度、売上げも増加していると感じているが、それ以上に、自分では気付くことができなかった視点からの指摘を受けられることのメリットを挙げる声が多い。特に「シャルト・カリテ」の査定評価が一年毎の更新であることが、店主側に取り組みの継続・定着と共に自信や誇りをもたらしているようである。また、同業者組合が中心であるフランスにおいて、地域内でやる気のある商店間の新たなネットワーク形成に寄与している面もある。特に、一定の成功を収めている優良店も、この取り組みにあえて参加することで商店街全体のレベルアップにつなげていこうという個人主義の国での連携意識の高まりなど、うれしい動きも顕在化している。

 第3節 中心市街地と商業の活性化

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