第4節 小規模企業の変動と問題点

1 わが国経済に占める地位

 わが国の小規模企業数は,第2-26表のとおり約325万を数え,全企業数(390万)の83%を占めている。また,これに従事する従業者数も,第2-27表のとおり約900万人で,全従業者数(3,000万人)の30%に達している。さらに,従業者数について業種別にみると,卸小売業においては,41%が小規模企業によって占められているのをはじめ,建設業において33%,サービス業において28%,製造業においても26%と,かなりの部分が小規模企業の従業者によって占められている。
 このように,小規模企業は,事業所数でも,従業者数でも,わが国経済のなかで,非常に大きな割合を占めているが,その出荷額,販売額についてみると,製造業では,全体の11.7%,卸小売業では,全体の12.1%と,その比重の低いことが注目される。
 つぎに,これらの小規模企業の業種別構成をみると,まず,第3次産業が圧倒的に多く,商業,サービス業あわせて全小規模企業の71%を占め,これに従事する者も,全小規模企業従業者の51%におよんでいる。次いで,製造業においては,事業所数では16%と少ないが,これに従事する者は30%と,かなり大きな割合を占めている。
 これは,これらの産業に,小規模企業の存立分野が多いことを示しているものにほかならない。なお,小規模製造業は,主として織物,衣服等種々の日用品や輸出向製品の産地を形成し,あるいは機械工業の下請の一角をにない,商業,サービス業における小規模企業とともに,わが国の経済において重要な役割を果たしている。

2 最近の小規模企業の動向

(1) 売上高の推移

 最近の小規模企業の事業活動を,その調査対象のほとんどが小規模企業とみられる,総理府「個人企業経済調査」および国民金融公庫「中小企業景況調査」によってみると,製造業の売上高は,第2-40図のとおり,39年にはいってからしだいに伸びの鈍化を示しており,40年にはいってからも,第2-42図のとおり,その傾向が続いている。
 一方,商業については,第2-43図のとおり中小企業(10人以上の小売業)の売上高は,伸び率が高いまま40年に至ってもあまり大きな鈍化をみせていないのに対し,小規模企業(1〜4人規模の小売業)では,39年後半から,中小企業に比べ伸び率が小さくなり,40年に至って,売上高はまったくの横ばい状態となって,前年の水準を下まわる場合も生じている。
 サービス業の売上高の伸び率は,第2-40図,第2-41図のとおり38年中は,製造業,商業を下まわる伸びであったが,39年にはいると,製造業,商業の増勢鈍化のなかにあって,一貫した上昇を示している。

(2) 設備投資の動向

 小規模企業の設備投資の動向を,同じく「個人企業経済調査」によってみると,第2-44図のとおり製造業については,中小企業が,39年10〜12月期を転機として,その後下降しているのに対し,小規模企業では,39年1〜3月期の金融引締めと同時にいち早く下降に転じ,以後急速に沈滞の度合を深めている。
 これに対して商業,サービス業の設備投資は,39年中にも店舗改装,車輌購入等を中心に活発に行なわれており,なかでも,サービス業では,39年の1〜3月期頃から堅調な設備投資がみられた。

(3) 経営の動向

 つぎに,経営動向についてみると,製造業の営業利益率は,第2-45図にみるとおり36年以降漸増傾向を示してきたが,39年の後半から減少傾向に転じている。
 このような最近における営業利益率の低下は,商業,サービス業についても同様にみられた。
 すなわち,サービス業の営業利益率は,39年1〜3月期以降低下しており,これに約半年遅れて,商業の営業利益率も低下している。
 このように,小規模企業における利益率は,いずれの産業においても低下し,経営内容の悪化がみられる。国民金融公庫の調査によっても,第2-46図,第2-47図のとおり,製造業,小売業ともに,39年の1〜3月期以降採算が悪化したとするものの割合が増加しており,なかでも,中小製造業全体と1〜4人規模の小売業については,40年の4〜6月期以降悪化傾向が顕著となっている。

(4) 資金ぐりの動向

 小規模企業の資金ぐり状況も,製造業にあっては,すでに,38年の後半ごろから悪化したとするものの割合が増加している(第2-48図参照)。
 また,製造業ほどではないが,小売業についても,39年の1〜3月期から資金ぐりの悪化の傾向がみられ,39年の10〜12月期に一時好転したものの,その後,ふたたび悪化傾向が続いている(第2-49図参照)。

 (5) 以上のように,小規模企業の事業活動は,39年のなかばから早くも沈滞してきており,中小企業庁「小規模企業実態調査」によって,その原因をみると,不況の影をあげたものが33%と最も多い。しかし,一方において,人件費の上昇(24%),同業者の乱立(15%),大企業の圧迫(7%)などの要因をあげたものもかなり多く,後述するように,小規模企業のなかには,このような経済環境の変化の影響を強く受けているものが少なくないことがうかがわれる。

3 小規模企業にみられる構造変化

(1) 労働力の不足

 1)この数年間顕著になった労働力不足の問題は,従来,低廉な労働力に依存してきた小規模企業の今後のあり方に,大きな問題をなげかけている。
 すなわち,新規学卒者等の求人難の進展およびこれに伴う初任給の上昇傾向が続いているが,その影響は,賃金水準が低く,その他の労働条件も劣る小規模企業に最も集中的にあらわれ,なかでも,製造業部門においてとくに著しい。
 製造業部門の小規模企業における新規中卒者の充足率をみると,35年には25.1%であったものが39年には12.6%となっており,小規模層での求人難は,今回の不況期にあっても改善されていない(第2-28表参照)。
 全国中小企業団体中央会「中小企業労働力事情調査」によっても,第2-50図のとおり,労働問題が最も大きな問題の一つとなっており,製造業についてみると,人手不足を第1のあい路としたものは,1〜9人規模においては26%に達し,中小製造業平均の20%を上まわっている。また,商業において,1〜4人規模の26%が人手不足を最大のあい路にあげており,これも中小商業平均の21%を上まわっている。
 2) 若年労働力の需給ひっ迫から,賃金の上昇がもたらされ,この影響をうけて,小規模企業の賃金水準上昇には著しいものがある。労働省「毎月勤労統計」によれば,40年1〜11月における従業者5〜29人規模の月間平均定期給与は25,233円で,前年同期に比べ,12.9%の上昇となっており,30人以上の規模で9.7%増であったのに比べると,それをかなり上まわっている。32年から38年への製造業の賃金上昇率を規模別に比較してみても,10〜19人規模では131.0%増を示し,20〜299人規模の89.5%増をはるかに上まわっている。このために,32年には,20〜299人規模の賃金を100とすると小規模企業の賃金水準は74.3であったのが,38年に至って90.4と,両者間の格差は大きく縮小してきている。しかしながら,小規模企業に雇われている労働者の月平均賃金は,第2-29表に示すように,いまだに低い水準を示していることが注目される。
3) このように,賃金格差の縮小が進展しているものの,小規模企業における賃金水準は低く,他の労働条件の改善も遅れていることから,新規学卒者を中心とする若年労働力の吸収が困難であり,加えて,若年労働力の他部門への流出が見られる。このために,小規模企業に従事する者の年令構成は,第2-30表のとおり老令化しており,その問題の性格は,農業の場合と共通のものとなっている。その結果,第2-51図に明らかなように,常雇9人以下の規模の企業においては,40才以上の従業者数(事業主および家族労働者含む。)が全従業者数の46%を占め,全産業雇用者平均における比率23%の2倍に達している。さらに,60才以上の者が全体に占める比率をみても,10人以上の規模では2%にすぎないのに対して,常雇1〜9人規模では10%にも達している。

(2) 生産性上昇の停滞

 1) つぎに,附加価値生産性は,どのように推移したか,まず,その上昇率を賃金の上昇率と比べながらみることとしたい。
 小規模製造業の賃金は第2-31表のとおり,32年から38年にかけて2.31倍となっており,なかでも,賃金水準の低い衣服,繊維,紙・パルプなどの軽工業部門においては,著しい上昇を示した。
 これに対して,附加価値生産性の上昇率は,第2-52図のとおりであるが,とくに,小規模企業のなかで高い比重を占める食料品,繊維,衣服,木材などの業種で,附加価値生産性の上昇率が賃金上昇率を下まわったので,製造業全体の附加価値生産性の平均上昇率は2.20倍となり,賃金の上昇率2.31倍を下まわることになった。
 2) 小規模企業における賃金および附加価値生産性の上昇によって,第2-31表および第2-32表にみるとおり,中小企業と小規模企業との賃金格差および附加価値生産性格差はかなり縮小するにいたった。しかし,賃金格差は90.4までに縮小したのに対して,附加価値生産性の格差は73.0にとどまっているが,そのなかで,第2-53図に示すとおり,鉄鋼,機械,金属など重化学工業部門においては,附加価値生産性の格差縮小の度合が大きかったのに対して,附加価値生産性の低い繊維,衣服,木材,家具などの軽工業部門では,ほとんど格差の縮小がみられなかったことが注目される。
 また,中小企業と小規模企業との附加価値生産性の格差を絶対額でみても,ほぼ同様のことがいえる。すなわち,第2-33表のとおり,附加価値生産性が比較的に高い重化学工業部門においては,20〜299人規模と小規模企業との差額による格差(絶対額の差)が縮まった例が多かった。たとえば,鉄鋼においては32年の28万円から38年の4万円へ,また機械においても32年の19万円から38年の6万円へと,それぞれ縮小している。これに対して,附加価値生産性の低い軽工業部門の食料品,繊維,衣服,木材などでは附加価値生産性の伸びが小さかったため,中小企業との差額による格差は,たとえば食料品が32年の10万円から38年の18万円へ,衣服が32年の24万円から38年の36万円へと,それぞれ拡大している。その結果,製造業全体を平均すると,中小企業と小規模企業との附加価値生産性の差額は,32年の17万円から35年の19万円,さらに,38年の22万円へと拡大を示した。
 以上のように,中小企業と小規模企業の附加価値生産性格差を,比率と差額の両方でみると,比率では縮小し,差額では拡大するという動きを示したのである。
 3) 最後に,中小企業と小規模企業の,附加価値生産性格差と業種構成との関係をながめてみたい。
 第2-53図にみられるように,各業種における規模別格差は,ほとんどの業種で80内外になっており,とくに,電気,計量器,皮革での格差比率は,90以上になっている。これに対して,平均を下まわったのは,わずかに食料品,パルプ・紙,出版,化学,金属の5業種のみと少ない。それにもかかわらず,製造業全体の平均格差が73と低い水準にとどまっているのはなぜであろうか。これは,小規模企業(10〜19人規模)においては,附加価値生産性の低い軽工業部門が主力を占めているのに対して,中小企業(20〜299人規模)では,附加価値生産性の高い重化学工業の比重が大幅に増加しており,このような中小企業と小規模企業との業種構成の相違が反映されているからである。
 以上にみたとおり,中小企業と小規模企業との附加価値生産性格差は,製造業全体でみると32年の61.2から35年の65.4,38年の73.4へと少しずつ縮小してきたが,これは,小規模企業のなかでも,とくに,重化学工業部門における附加価値生産性の伸びが大きかったことによるものである。それに対して,さきに述べたように,軽工業部門では附加価値生産性格差がほとんど縮小せず,その水準もいまだに低い。
 このように,小規模企業の付加価値生産性の水準は,全体としてみれば,依然として低く,これに対して,賃金の上昇が傾向的に続いており,これが,小規模企業の経営の窮迫化をもたらしている。
 さきにみた,最近における利益率の低下も,売上げの鈍化に伴う附加価値生産性の低下の影響しているところが大きい。さらに,このような動向は,後述するような小規模企業のシェアーの低下をもたらし,小規模企業の活動は,以上に述べてきたような動向に対応して,変動を示すこととなっている。
 4) また,小規模企業において,附加価値生産性が低いことは,小規模企業の事業主,家族労働者さらにはその雇用者の月間平均所得を依然として低水準にとどめている(第2-34表)。
 とくに,小規模企業のなかでも,事業主および家族労働者だけで構成される企業においては,事業主および家族労働者の一人あたり月平均所得は,わずかに2万円(39年9月現在,以下同じ。)にすぎず,雇常1〜4人規模の企業でも,事業主および家族従業者1人あたり月平均所得は,4万円前後にとどまっている。
 これに対して,常雇5〜9人規模では,事業主および家族従業者1人当たり5〜8万円,常雇10〜19人規模では12〜16万円と,規模の拡大に伴い,所得が急速に高くなってはいるが,20人以上の規模と比較すると,なお,相当の格差がみうけられる(第2-34表)。このように,同じ小規模企業のなかでも,規模によって,従業者所得の水準が異っていることが注目されよう。

(3) 比重の低下

 商業,サービス業における小規模企業のシェアーは,道路,交通の発達や百貨店,スーパーなどの進出により,最近縮小してきている。また,製造業においても,食料品をはじめ,全国各地の産地企業(そのほとんどが小規模企業の分野である。),下請企業等にも需給構造の変化などの影響は大きく,第2-54図のとおり,小規模企業全体のシェアーも,次第に縮小をしていることが認められる。
 1) このうち,製造業における小規模企業の出荷額シェアーの推移についてみると,32年の13.4%から38年の11.7%へと低下しており,なかでも食料品,その他(雑貨),窯業,家具,木材,化学(医薬品,油脂)など,従来小規模企業のシェアーの高かった業種において,その低下が著しいことが認められる。
 すなわち,その大部分を小規模企業によって生産されていた,みそ,しょう油,パン,菓子類,清酒などにおいては,消費の伸び悩みや技術革新,流通機構の変化によって,大企業,中小企業のシェアーが拡大した反面,小規模企業の転廃業がかなりみられた。また,家具,木材においては,大量生産製品が進出しており,小規模企業のシェアーが縮小している例が多い。また,漆器製品(その他製造業)や陶磁器製品,粘土瓦,れんが(窯業)などは,そのほとんどが小規模企業によって生産されていたが,プラスチック,新建材など技術革新による新原材料の出現と,これに応じた大量生産方式による代替品の進出により,これらの業種では小規模企業のシェアーが縮小した。
 つぎに,従来小規模企業のシェアーの小さかった電気など多くの重化学部門においても,そのシェアーは,ますます小さくなっており,39年には,32年の約8割ないし9割に落ちているが,鉄鋼,輸送機械では,小規模企業の比重がとくに小さいものの,比較的安定したシェアーを維持した。
 これに対して,小規模企業のシェアーが依然として大きいまま変わらないものは,各種の織物や衣服をはじめ手袋,かばんなどの皮製品,ゴム製品および出版印刷や紙器類等にみられた。 また,洋食器,敷物,手工具類,金属打抜,ボルト・ナットなど金属製品の分野においても小規模企業の比重が比較的大きく,そのシェアーは,32年の21.4%から38年の20.5%へと比較的安定したまま推移した(第2-55図参照)。
 2) つぎに,商業部門における小規模企業のシェアーの推移をみると,卸売業,小売業,いずれにおいても,小規模企業の出荷額のシェアーは縮小を続けている。
 例えば,小売業についてみると,31年の55.3%から,37年には45.2%へと,この6年間で,約10ポイントの縮小がみられた(第2-35表参照)。37年から39年へかけても,さらに,小規模企業のシェアーは,縮小してきており,この傾向は,とくに卸売業において強くあらわれている。商店数の構成比の推移をみると,小売業については,1〜4人規模平均で0.1ポイントの縮小であるが,1〜2人規模だけをみると,1.0ポイントの縮小となっており,(第2-36表および第2-56図参照),商店数構成比の減少幅としては,31年来最高の記録を示した。
 商業,とりわけ小売業では,商店数の90%を小規模企業が占めている。この場合においては,小規模企業とはいっても,製造業の1〜19人規模とは異なり,そのほとんどがいわゆる生業的事業を営むもので,従来から開廃業がひんぱんに行なわれ,平均営業継続年数も短かかった。ところが,31年,33年当時に比べて,35年,37年と少しずつ開業率が落ちてきており(2-57図参照),商店の平均営業継続年数も,卸売業については31年の5年から37年の10年へ,小売業については31年の8年から37年の11年へと長期化している(第2-37表)。
 これは,地価,建築費等の上昇,あるいは開業にある程度の店舗の規模が必要とされてきたことなどから,開業費用が増大していることに加えて,雇用難がみられるため,これまでのように簡単には開業することができなくなっているものと思われる。他方,廃業状況をみると,第2-58図にみられるように,廃業率は,総じて開業後継過年数の短かいものにおいて高くなっている。さらに,前述の小規模企業の動向のところでふれたように,40年にはいって販売額の上昇率は低下しており,また,スーパー・マーケットの進出など,いわゆる流通革命の進行がみられることからも,小規模企業の地位は,今後とも変化するものと思われる。

4 小規模企業の問題点とその対応

 小規模企業は,賃金水準が上昇している反面,生産性の上昇が停滞していること,企業数,従業者数,出荷額等における比重も低下してきていることなど,多くの問題をかかえている。
 そこで,このような諸問題に対し,小規模企業者がいかに対応しようとしているか,また,その際にどのような問題が生じているかについてみよう。
 (1) まず,これまでに述べてきたような小規模企業をめぐる環境の変動が,小規模企業に与えてきている影響を明らかにするために,通商産業省「工業統計表」によって,32年から38年にかけて大幅な事業所数の減少がみられた業種(小分類,細分類)をひろいだし,この間の業種転換および廃業の動向をみることとしよう(第2-38表参照)。
 事業所数の減少した業種は,食料品に8業種ともっとも多く,ほかに化学に4業種,その他に4業種など,第2-38表のとおりとなっている。
 以下業種別にみると,つぎのようになっている。
 (食料品) パン菓子類,水産食料品,精穀,精粉,みそ,しょう油,飲料など全般にわたる。
 (繊維,衣服) 絹・人絹織物をはじめ,製糸や毛織物,染色整理の一部,レインコート,マフラー,スカーフ,ふろしき等
 (木材,家具) 木材,家具については,屋根板,窓,扉,障子,ふすまなどの建築資材,サラダボールなどの食器類,下駄,竹とう製の容器やすだれ等
 (鉄鋼,金属,機械類) くわ,すき,かまなどの農具をはじめ,木造船改修理業,自転車リヤカーや,バケツなどの金属製容器食器類
 (化学,石炭石油) 動植物油脂,塩,しょう脳,煉炭豆炭等
 (窯業,土石) いぶし瓦,粘土などの建築材料のほか,陶磁器製品
 (その他の製造業等) 漆器製品,手すき和紙,事務用書類ノート類,万年筆,シャープペンシル,ペン先,絵画用品,以前は必需品であった和がさ,扇子,ちょうちん,うちわ等
 以上のとおり,転廃業の事例は,小規模企業の多い業種に,ほぼ全般的にみられた。
 このように,事業所数の減少は,第2-39表のとおり,総出荷額の伸びが年20%以上を示した万年筆,シャープペンシル,ペン先などの業種にもみられたが,その大半は,38年の総出荷額が33年のそれを下まわった業種や年平均10%内外あるいはそれ以下の伸びがみられた業種に多い。
 (a) 33年よりも総出荷額が減少している業種においては,塩製造業を除き,一般に,規模の拡大を図る余地が存在しなかったために企業整理に至る企業が多かったなかで,多くの小規模企業が残存し,むしろ小規模企業のシェアーが拡大するという注目すべき結果があらわれている。たとえば,木製履物,手すき和紙,木造船の製造修理業,和がさなどは,この顕著な例であろう。
 (b) 33年に比べて,出荷額の伸びがきわめてわずかであった業種については,小規模企業のシェアーが大幅に縮小した例は比較的少なく,反対に,シェアーの拡大した業種が7業種もみられる。たとえば,うちわ,扇子,ちょうちんやマッチなどがこの例であり,需要が限定されているために,出荷額がほとんど伸びず,しかも,大規模化の利益があまりないために,小規模企業の事業所数は減少しているが,そのシェアーはむしろ拡大している。また,粘土瓦やみそ,しょう油なども,出荷額がわずかしか伸びず,小規模企業のシェアーは縮小したものの,38年には33年における小規模企業のシェアーの75%以上を保った。
 (c) しかし,出荷額の伸びが10%をこえる業種になると,技術革新,大量生産方式の導入等によって,小規模企業が中小企業へと成長したり,大企業,中小企業が生産を拡大したりすることによって,小規模企業のシェアーが著しく縮少している例も多くなっている。たとえば,総出荷額が20%以上伸びた食料,有機質肥料や万年筆,シャープペンシル,ペン先,また,総出荷額が20%近く伸びた精穀,精粉,ぶどう糖,水あめなどの業種では,38年には小規企業のシェアーが33年の半分以下になっており,10%以上の伸びをみせたでん粉,動植物油脂,調味料,自転車リヤカー部品なども,小規模企業のシェアーが50%ないし75%に縮小している。
 このように,需要の伸びの大きい業種では,大企業,中小企業の発展の速度が大きく,小規模企業のシェアーが低下することとなっているが,反面,小規模企業においても,共同化,協業化等を通じて,その近代化,適正規模化を図って行く余地も大きい。また,需要の伸び悩みがみられる業種においては,小規模企業の数は減少しているがシェアーが拡大しているものが多く,むしろ,小規模の企業形態に適した分野が少なくないものと考えられる。このような分野については,組織化,共同化等を通じて,過度の競争を排除し,他方,その近代化を図って行くことが要請されるとともに,需要が将来とも絶対的に減少して行く分野については,適切な転換を円滑に進めて行くことも必要となろう。
 (2) つぎに,小規模企業者が,すでにみてきたような諸問題に対しいかに対応しようとしているかを,中小企業庁の行なった「小規模企業実態調査(41年1月」によって見よう。
 これによると,事業の将来に対する見通しに不安を覚える小規模企業者が多い。すなわち,事業の将来に「多少の不安」をおぼえたり,「見込みなし」とするものは,回答者の43%にも達しており,また,将来の後継者につき,「自分一代でやめる」「将来どうしたらよいかわからない」とするものも,23%とかなり大きな比率を示している。
 業種別には,鋳物製造業,万年筆,和がさ,豆腐・油揚げなどを中心に,同業者の事業行詰りからくる転廃事例が「沢山あった」とするもの(6%),「少しあった」とするもの(36%)との合計が42%をこえており,今後も,そうした事例が予想されるとするものの比率も約半数に達している。このことから,小規模企業のなかでは,事業の先行きに対して現状のままでは不安があり,早急に適切な対応を図る必要性があることがかなり強く意識されているものと推測される。
 以上の傾向を,産業別にみた場合,製造業よりも商業,サービス業においてあまり不安感がなく,小規模企業の存立に対する諸要因の影響が製造業ほどには強く及んでいないことが認められる。
 つぎに,同業者に転廃事例がみられたとする小規模企業のなかで,自分の事業の停滞ないし悪化の原因として,「不況の影響」をあげるものが全体の29%と最も多いが,長期的な変動に関しては,「人件費の高騰」(24%),「大企業の進出」(10%),「同業者間の過度競争」(19%),「消費者の好みの変化」,「新製品の出現」等の諸要因をあげるものの比率があわせて60%にもなっている。業種別にみても「人件費高騰」と「過度競争」が全業種において上位を占め,「不況の影響」に比肩する比率をみせている。
 (3) それでは,小規模企業者は,事業内容の悪化に対処する対応策として何を考えているかをみてみよう。解答者のなかには,「やめたい」(6%)とするものや,「このままじっとたえる」(22%)とするものなど,小規模企業者の経営の困難さを想像させる回答も約4分の1に達しているが,「良い機械をほしい」(12%),「同業者と協調したい」(33%),など,積極的に対応して行こうとするものも多く,また,転換を考えているものも10%ある。
 このように,小規模企業者は,過度競争の排除,新式の機械の導入などの強い要望をもっているが,とくに「機械の導入」等については,小規模企業の資本調達能力の不足から,個々の企業によって実現することが困難な場合も多い。この点に関連して小規模企業における機械設備の導入の必要性を中小企業庁「機械貸与制度アンケート調査」によってみると,全産業の59.2%の企業において早急に実施すべきものとしている。また,現在早急に実施する必要はないが,将来において必要であるとしているものも34.6%に達し,現状で十分としたのはわずかに4.4%にすぎない(第2-41表参照)。
 このように,ほとんどの小規模企業者が,新しい機械設備の導入によって現下の経営難に対処してゆく必要性と意欲をもっており,これを早急に実現して行くことへの要請はきわめて強い。このため,小規模企業について,協業化,組織化等を進めるとともに,機械設備の導入のための資金調達等における困難を解消するための具体的な指導,援助措置を適切に講じて行くことが必要になっている。

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