第3節 下請企業の変動と問題点

 下請企業は,わが国産業のなかで,機械器具等の組立的生産形態にある産業に対する部品の供給,加工,また,繊維製品等の素原材生産部門に対してはその織物および2次製品の製造加工を行なう,いわば「補完的部門」として発展を遂げてきた。
 これまでのところ,その分野は,大企業が直接量産化,高度化を図りにくい労働集約的,小ロットの特殊な工程,製品に集中しており,その大半が労働力コストの小さい中小企業によって占められることとなっている。このため,下請企業は,中小企業の重要な存立分野であることともに,産地企業,零細企業とならんで,その代表的な存立形態の一つとなっており,中小製造業のなかば以上が下請企業であると推定されている。
 しかし,下請企業については,近年とくに問題が多い。その最近の動向をみると,一般的な受注,売上げの伸びの鈍化,下請単価の低下および代金決済条件の悪化がもたらされており,一方,資金調達の困難,財務構成の悪化が傾向的に進展しているため,収益力(企業採算)もとみに悪化を示している。とくに,最近の景気沈滞によってこの傾向が促進され,中小製造業一般の動向と比較しても,さらに著しい事業活動の鈍化,経営内容の悪化を示していることは周知のとおりであるが,このなかで,下請企業の業種,規模等の相違だけでなく,その取引を行なっている親企業の相違によって,さらには,同一の親企業の下請事業を営む企業の間においてもその近代化の状況等によって,事業活動,経営内容等に大きな差が生じてきていることが注目される。
 これまで,下請企業,とくに中小下請企業は,特定の親企業との取引関係を密接に保つことによって,その経営の存立基盤が確保されてきた。したがって,特定の下請取引関係が失われることは,多くの下請企業にとって重大な問題となっている。このような,いわゆる「下請系列の再編成」の急速な進展は,大きな経済的,社会的影響を及ぼすものであり,親企業に対し,単なる経済合理性の見地からだけでなく,その社会的責任を十分自覚した慎重な配慮が要請されている。しかし,下請企業においても,このような下請取引の整理,系列の再編成については,一方では,労働力需給のひっ迫化による賃金水準の上昇と賃金格差の大幅な縮小,技術革新の進展,需要構造の変化,量産体制の進展等,わが国経済の発展過程における変動の影響が基本的に及んでいること,他方では,このような変動に対する下請企業の適応が,これまでの体制がもたらした過度競争等による取引関係における弱さ,資金調達力,経営能力の不十分さなどから十分に行なわれ難いことが,その背景にあることに十分注意すべきであろう。
 このような構造的要因による下請企業構造の変化に対しては,長期的,総合的な見地にたってわが国経済の円滑で効率的な運営を図るためにも,急激な変動による大きな経済的,社会的摩擦の発生を防止するとともに,近代的,合理的な「補完分野」の育成に努めることが必要である。
 以上のような観点から,最近の下請企業の動向およびここに顕著となっている諸問題を概観することとしたい。

1 最近における下請企業動向

(1) 事業活動の停滞と経営の窮迫化

1) 事業活動の停滞

 中小下請企業の事業活動は,第2-14図にもみられるように,最近の景気沈滞の影響が強く,その受注,売上げの伸びも大きく鈍化している。とくに,中小企業の一般的な生産活動が前年水準を下まわるまでにいたっていないのに比べ,下請企業の売上げの動向は,39年末から前年の水準を下まわることとなっており,40年後半に至ってようやく回復のきざしを示してはいるものの,依然として停滞を続けている。
 これは,下請企業の性格から,親企業の活動が十分回復するまでは下請活動そのものの回復が進展しないこと,さらに,景気の回復過程においても,親企業の生産調整,減産体制が解かれないかぎり受注量の増加は期待されず,また,これまでの下請需要が親企業による自社生産(内製)に切りかえられている場合も少なくないこと等によるものと考えられる。とくに,中小下請企業,とりわけ小規模下請企業には,2次以下の下請企業が少なくないことからもこの傾向が一層強く示されている面もあろう(第2-10表)。
 また,これまで高い伸びを示してきた機械・金属関係での下請活動の停滞がとくに顕著であるが,最近その近代化,機械化が叫ばれ,下請企業の設備投資もさかんに行なわれてきた部門であるだけに,その経営内容に及ぼす影響も大きい。

(2) 経営の窮迫化

 以上のような事業活動の停滞は,当然下請企業の収益を低下させ,財務構成の悪化,資金ぐりの困難化をもたらすものであるが,とくに,下請企業に対する下請代金の決済条件の悪化は,これを一層著しいものとしている。
 現金入金比率の低下,受取手形の手形期間の長期化等は,最近数年におけるすう勢的なものであるが,第2-15図および第2-16図にみられるとおり,最近の景気沈滞によってさらに促進されてきている。
 現金入金比率については,とくに,金融引締めが緩和された40年において,繊維部門では傾向的な低下が続いていることが認められる。これに対し,手形期間については,第2-17図のとおり,機械・金属,繊維ともかなりの長期化を示しているが,機械・金属部門では,3カ月程度以下の手形がほとんどなくなり,5カ月程度以上のものの割合が3割をこえるのに比べて,繊維部門では,まだ3カ月程度以下の手形の割合が5割以上であり,5カ月程度以上の手形の割合は1割程度にとどまっている。
 一方,第2-18図および第2-19図に示すとおり,手形期間の長期化に伴って,受取手形の割引比率は39年から40年はじめにかけて低下ぎみに推移し,割引手形残高および短期借入金残高の伸びも鈍化して,40年はじめには前年水準を下まわることとなった。しかし,引締緩和の効果が次第に浸透してくるにしたがい,40年後半には資金事情が改善してきている。
 手形割引比率が40年にはいってから上昇していることについては,第2-20図に示すとおり,受取手形期間が長期化している機械・金属部門において金融が緩和したことを反映している。これに対して,繊維部門ではむしろ割引比率が低下してきているが,これは第2-11表にみられるように,金融機関による割引きの困難よりは割引利子の負担が大きいこと,あるいは最近手形を無理に割り引く必要が少なくなったこと等によるものとみられるが,なお,下請企業の2割に及ぶ企業で割引困難を示していることは,大きな問題といえよう。
 しかし,このような金融緩和の進展にもかかわらず,下請企業の資金ぐりは,最近一年間においてさらに悪化している。第2-21図は,39年9月と比較した40年9月における資金ぐり状況を示したものであるが,機械・金属部門を中心に,資金ぐりの悪化した企業の割合は全体の5割近くに達している。
 このような資金ぐりの悪化については,第2-12表のとおり,受注,売上げの減少の影響がきわめて強く,第2-22図に示すような受注単価の下落をはじめとする取引条件の悪化,資金借入れまたは手形割引きの困難化等も下請企業の資金ぐりを悪化させる大きな要因となっている。
 このような状況を反映して,下請企業の採算は,著しい悪化を示している。第2-23図は,39年9月と比較した40年9月の採算状況を示しているが,とくに受注,売上げの減少が著しく,下請単価の下落等取引条件の悪化の程度が大きい機械・金属部門において顕著になっている。
 また,第2-13表に示すとおり,代金決済条件の悪化に伴い,下請企業が,一般に受信超過となっている中小企業としては,異例の大幅な与信超過を続けていることも,大きな問題であり,親企業の倒産によって多くの下請企業の倒産が生ずる要因ともなっていることに注意すべきであろう。

(2) 中小下請企業の変動

1) 取引関係の不安定化

 中小企業のほとんどは,親企業との取引関係の密接さを経営の基盤とし,これによる経営安定を第1に求める反面,その経営の自主性をもつものはきわめて少ないと考えられる。
 中小下請企業において,特定の親企業に対する納入額の割合(取引依存度)がその全下請納入額の81%以上に達している企業は,第2-14表のとおり,小零細企業ほど高くなっている。
 また,第2-24図に示すとおり,繊維,衣服等の繊維製品,その他の製造業等軽工業部門において取引依存度81%以上の1社専属的下請企業の比重が高く,これは,これらの業種ほど小零細下請企業が多いことと対応している。
 一方,受注の態様の変化をみると,第2-25図にみられるとおり,輸送用機器,化学,石油石炭,衣服その他の繊維製品等を除いては受注の不安定化の傾向が強く,第2-24図にみる1社専属化は,必ずしも受注等の取引関係の安定化を意味しないことを示している。
 したがって,織物等を中心とする繊維部門において特定の親企業への依存度が高いことは,これらの業種に小零細下請企業が多いため,業界の中心的企業との取引を行なえず,また,2社以上の親企業との下請取引を行なうこともできないこととなっていて,比較的小規模な親企業に対する依存度を高めることが少なくないことを示しており,この結果,その取引関係における下請企業の安定性は必ずしも高くないこととなっている。
 また,重工業部門においては,1社専属的企業の比重が低下した業種が多いが,これは,後述するように,受注減対策としての「他の親企業からの受注確保」が進んでいる反面,親企業による下請企業の整理も進展しているためと考えられ業種による相違はあるものの,その取引の安定性が大きく低下したものが少なくないと考えられる。

2) 下請活動,経営内容等の変動

 さきにみたような取引関係の変動とも対応して,中小下請企業の業種別の事業活動,経営の窮迫化の状況にもかなりの相違がみられる。
 この業種別の相違は,最近の景気沈滞による需要の減退の程度が業種によって異なっていること,これまでの技術革新,労働力需給のひっ迫などの影響の及び方も業種によって異なり,その結果,親企業そのものの景況,下請政策等も異なっていること,さらに,直接取引を行なっている親企業の規模,企業力,安定性等も業種によって相違があることなどが総合的にあらわれてきたものである。
 第2-26図によって,受注量の増減の状況をみると,概して機械,鉄鋼,非鉄金属等の重工業部門での減退が著しく,軽工業部門では受注量が増加し,または減少している場合でもその程度が小さいことが認められる。化学,石油石炭製品も減退の程度は小さく,また,重工業部門のなかでも非耐久消費財的な性格の強い金属製品,精密機器では,ほぼ同様である。
 これに対する下請企業の対策は,「他の親企業からの受注の確保」が中心となっているが,第2-15表に示すとおり,その比重は受注減の著しい業種ほど大きくなっており,重工業部門においては,次第に取引関係が多角化していることを示している。
 また,下請取引条件の悪化,資金ぐり,企業採算の悪化の度合は,第2-21図および第2-23図にみたとおり,受注減の状況と同様に重工業部門において著しく,資金ぐりの悪化,採算の悪化にはこのような業種別の相違が強く反映されている。
 採算悪化の理由をみると,受注減と人件費上昇をあげるものが多いが,第2-16表に示すとおり,とくに重工業部門では,人件費の上昇よりも受注減をあげる下請企業が多い。これに対して,繊維,衣服その他の繊維製品等では人件費の上昇の影響が大きく,重工業業種のなかでも軽工業的性格の強い金属製品において同様の傾向が認められる。もちろん,需要減退の程度が重工業業種に著しいこともこのような結果に反映されてはいるが,重工業部門の下請では,技術,設備の改善,生産性の向上によって人件費の上昇にある程度対応できる反面,拡大してきた事業規模にみあう受注の安定的確保が困難となっていること,軽工業部門では,設備の近代化等による生産的向上が困難な場合が多いため,人件費の上昇がその経営内容に大きな影響を与えていることがその大きな要因と考えられよう。
 また,このような労働力需給のひっ迫による賃金上昇等の影響の大きいものほど労働力確保難の問題が生ずるため,第2-17表のように,労働力需給の業種別の相違がみられることとなっている。

3) 下請取引関係の変動

(a) 変動の状況

 以上に述べてきたように,下請企業の動向は,業種別にかなりの相違を示しているが,第2-18表にみられるとおり,下請関係の変動の内容についても業種別の特徴が明らかにされている。
 それぞれの業界においてみられる下請関係の変動については,親企業による下請企業の整理をあげるものが圧倒的に多いが,重工業部門でとくに多く,軽工業部門では,衣服その他の繊維製品を除き,あまり多くない。化学,石油石炭製品においては,その割合がきわめて少ないといえよう。
 これに次ぐものとしては,重工業部門では一部の下請企業に対する発注の集中があげられているが,軽工業部門では下請単価に差が生じているとするものが多い。これらの業種に対して,化学,石油石炭製品においては,最も多いのが下請代金の支払条件に差が生じているという点であるが,下請関係の変動が生じている事例そのものが少なく,下請取引関係は比較的安定していると考えられる。

(b) 下請企業の取引方針

 このように,下請企業の整理,発注の集中などが重工業部門を中心として進展しているなかで,下請企業の今後の取引方針もこれに対応してそれぞれに分かれてきている。
 第2-27図にみられるとおり,下請取引の整理,集中の激しい重工業部門では,現在の親企業との取引のほかに,他の親企業からの受注増加に努めようとする動向が強い。これに対して,現状維持のままで続けて行こうとするものは,化学,石油石炭製品のほか,軽工業部門に多く,重工業部門のなかでも軽工業的性格の強い金属製品,精密機器等においては,現在の取引関係の一層の強化,緊密化を図ろうとするものが多くなっている。
 これらは,すでにみてきたように業種によって需要の減退の程度が異なるほか,近代化の要請,労働力需給のひっ迫化の影響等の及び方が異なり,親企業の下請取引方針も異なっていることによるものであるとともに,それぞれの業種において,下請企業の近代化等の対応の程度,親企業の企業力などの相違が反映されているものと考えられよう。

2 下請企業の変動とその要因

(1) 下請系列等による差の拡大

 以上にみてきた中小下請企業の動向には,直接業界の中心的な企業との系列関係をもたない,いわゆる浮動的な下請企業が少なくなく,親企業そのものが不安定な経営を続けているため,取引依存度が上昇することによる経営の安定化は必ずしもみられなかった。
 しかし,業界の中心的な企業等との取引を行なっている下請企業においても,その依存している親企業の活動状況,企業力,下請利用方針等により,それぞれの事業活動,経営内容を異にしており,さらに,同一の親企業との取引関係に依存している下請企業の間においても,親企業の経営方針,下請企業の近代化,経営の合理化の相違等によって,大きな差を生ずることとなっている。

1) 事業活動の相違

 第2-28図は,機械,繊維部門等の主要な下請企業分野のうち,系列的な下請関係がかなりみられるものについて特定の親企業を抽出し,その系列ごとの受注量経営内容の変動状況をみたものである(注)。
 (a) 第2-28図では,業種による差(第2-26図参照)もあるが,同一業種内での系列親企業による差の大きいことが明らかである。
 系列による受注増減状況の差は系列企業の方が大きく,たとえば自動車部品のAとC,綿スフ織物のMとP,Qなどは,まったく逆の動向を示している。
 また,概して系列内企業においては,受注の増加または減少のいずれかに下請企業の割合が集中しているのに比べて,系列外企業では受注増と受注減とがいずれもかなりの比重を占め,下請企業間に,受注増加のものと減少のものとが分かれてきている。
 このような相違は,ナイロン織物を除き,系列外企業との取引関係においては,親企業の発注に一部の下請企業への集中がみられるが,系列内の下請企業については,親企業の業況等により系列間の差が強くあらわれていること,これに対して,ナイロン織物においては系列外企業への発注が総じて減少し,系列内企業について若干の発注の分化がみられることを示すものである。
 (b) つぎに,このような変動に対応して下請企業の採算状況にも大きな変化が生じ,系列間,さらには系列内において異なった動向がみられることとなっている。また,その動向は,ほぼ受注量の増減状況に対応しているが,受注の減少傾向よりも一般的に採算の悪化の傾向が著しいことが特徴的である。
 採算状況の変動については,平均すれば系列外企業の方が採算悪化の度合が小さく,採算の好転した企業と悪化した企業の分化は,家庭用電機,綿スフ織物等を中心として系列内企業において著しい。
 また,系列外企業は,比較的平均された悪化の動向を示しているのに比べ,系列内企業では,自動車部品,農業用機械,重電機等で,全般的に採算の悪化が大きいが,ナイロン織物,自動車部品では,A,Rなど一部の系列において,悪化の度合が小さく,同じ業種の他の系列内企業と,大きく差が生じていること等が認められよう。
 このような相違は,業種ごとの景況,親企業の企業力,系列関係の有無などによっているものであるが,下請系列関係に対する親企業の整備,選別の動向,下請利用にあたっての重要性の認識等からもたらされているところも少なくない。
 このような変動は,第2-29図にみるような系列関係の変動としてとらえられる。系列関係における変動として大きくあげられているのは,親企業による系列下請企業の整理,発注の一部への集中およびこれらに基づく下請企業間の競争激化である。
 これらの変動の内容は,業種および系列の有無によってかなり異なっているといえよう。繊維部門では,系列外企業で「下請企業の整理の進展」およびこれに基づく「競争激化」を大きくあげているが,発注の集中化はあまり大きな比重を占めていない。すなわち,繊維部門では,系列外企業に関しては発注量の増減,集中ではなく,直接的な下請企業の整理による系列変動が強く意識され,系列内企業では,発注の一部への集中もかなり認められることを示している。
 これに比べると,機械部門では,下請企業の直接的整理は系列内企業においてより強く認識されており,発注の集中化については,系列内企業よりも系列外企業に多くあげられている。このような変動の結果としての下請企業間の競争激化は繊維部門の系列外企業に最も強く,また,繊維部門の系列内企業では最もその比重が小さいことは,業種等におけるこれまでの系列化の進展の程度,系列内外の下請企業の行なう事業内容等の親企業における重要性,下請企業間の体制整備の程度(過度競争性の程度,共同体制の確立等)によって,このような変動の態様がかなり規定されていることを示すものといえよう。

2) 取引条件等の相違とその決定の態様

(a) 取引条件

 下請企業における取引関係の変動は,取引条件の相違にもかなり顕著にみられる。
 まず,下請単価の状況については,第2-20表のとおり,さきにみた中小下請企業一般の場合よりも下請単価が下落した企業が多く,機械部門のうちの重機械および繊維関係ではナイロン織物にその傾向が強い。また,繊維部門では,若干系列外企業に下落の傾向が強く,機械部門ではその逆になっている。
 代金決済条件については,第2-21表のとおり,下請単価ほどではないが,39年9月から40年9月まで全体として悪化傾向にあるといえよう。
 このうち,繊維部門においては,機械部門よりも手形期間,売掛期間の長期化,現金受取比率の低下の傾向が若干強い。系列内企業と系列外企業との差についても,機械部門ではほとんど同一の動きを示しているが,繊維部門では,系列外企業の方が下請代金支払条件の悪化の程度が小さいこととなっている。
 代金決済条件と関連して資金ぐり状況をみると,第2-22表のとおり,業種によってかなりの変動があるが,さきにみた中小下請企業の平均的な程度よりは悪化の度合が小さい。また,自動車部品,重電機,ナイロン織物等の系列内企業において,若干ながら系列外企業よりも悪化の程度が著しくなっていることは,代金決済条件の動向に対応しているものと考えられる。

(b) 取引関係内容の決定の態様

 取引関係の決定態様は,第2-23表にみるとおり,「親企業のリーダーシップ」によって決定される場合(第2-23表中A〜Cの場合)がきわめて多い。
 とくに,系列内の下請企業の希望どおりになる場合は,いずれにおいても少なく,機械部門の方が若干多いもののあまり差はみられないが,系列外企業に関しては,繊維部門で系列内企業よりもかなり高い比重が認められる。
 しかし,その結果としての取引条件の変動の推移は,すでにみたとおり,39年9月から40年9月までにそれほどには悪化していない。これは,特定下請企業系列においては,親企業に対する経営の従属性が強い反面,親企業も系列内企業については自己の生産,流通体制の円滑化を図るために下請企業の経営の問題を配慮していること,特定系列の場合の方が親企業の企業力がはるかに大きく取引条件も高度のものとする余裕があること,その結果,系列企業においては親企業に決定を委ねる傾向もあること,等がその要因と考えられる。
 もっとも,繊維部門の系列外企業などでは,系列内企業よりも規模の大きい企業(独立的企業)が少なくないこともあって,親企業に対して自主性を若干強く出しており,取引条件の悪化の程度も小さくなっている。
 しかし,たとえば親企業による一方的単価引下げの状況は,第2-30図のように多くの系列内企業にかなり顕著になっていることからも,最近の系列関係の変動の過程において,もっぱら親企業に単価決定のリーダーシップを委ねる系列内企業の態様は,さきにみた下請企業間の競争激化の一つの要因ともなっているといえよう。

(c) 親企業からの援助・要請の変動

 下請企業が親企業から受ける援助,要請の内容は,第2-31図のとおりである。
 要請のうちでは,品質向上が最も多く,コストダウンの要請がこれに次いでおり,親企業が品質,価格競争の激化に対応する下請企業の協力体制を強く求めているといえよう。
 系列外企業については,繊維部門においては品質向上の要請が強く,機械部門ではコストダウンの要請が最も多く認められる。
 これは,それぞれの部門における系列外企業に対し,親企業がもっている問題意識を明らかに示すものであり,同時に,系列内企業となる条件の一つがこの点での協力度合にあることを示しているといえよう。
 したがって,親企業からの援助も,第2-32図にみられるように,技術,設備面および経営面での指導等が多い。また,機械関係では経営管理の近代化,改善の指導,設備工具の貸与等が強いのに比べて,繊維部門では資金的な援助が多くなっている。これは,機械部門においては経営,技術管理の合理化とともに,量産体制の確立,機械設備の高度化等の要請が強いため,親企業の援助もこの点に集中するのに対して,繊維部門では,品質向上のための特殊な技術,高度の技術等がある程度必要となるものの,むしろ,下請企業における運転資金の不足による生産の不円滑化等をカバーする必要性が大きいことを示している。
 このような親企業からの援助は,さきにみた取引関係の変動等と対応して,第2--24表のような変動をみせている。
 援助の変動は,業種,系列関係等により異なっている。系列内下請企業の方が,若干変動が大きく,機械部門では,自動車部品における系列内下請企業について援助が強くなっており,車両農業用機械,建設機械については援助が弱められた系列内企業が多い。一方,繊維部門では,最近下請企業に対する要請が強まっているナイロン織物で援助が弱くなった企業の割合が若干多い。
 このような動向は,これまでの各業界,親企業等における下請系列体制の整備の程度,技術,価格等に関する業界の競争激化の状況,量産体制等の確立を要請する経済条件の変化の進展状況等によって生じてくるものであり,最近における景気沈滞の影響も,以上の要因から,下請企業に対して異なった及び方を示しているものと考えられる。

(2) 下請企業の変動の要因

 以上にみてきたような下請企業における多くの変動の要因となるものは,下請企業全般を通じてその今後の動向を規定するものであり,それぞれの下請企業の形態について今後の方向を考えて行くにあたり,重要な問題である。このような観点から,各業界の主要な親企業について行なった実態調査に基づき,下請企業の系列化,その最近における変動等について概観して行くこととしたい。

1) 下請企業系列化の内容

(a) 下請利用の必要性

 各業界の主要な親企業が下請事業を利用しているのは,機械部門に多くみられる部品,附属品の製造または加工あるいは製品の一部の製造工程および繊維部門に多くみられる自社の生産する原材料に対する2次加工製品の製造等であって,親企業が直接もっていない生産技術,設備等を必要とするものまたはとくに労働集約的な部分といえよう。
 親企業についてみると,機械部門では,多くの部品,附属品等の組立てを主とする組立生産的形態を中心としており,「部品,附属品等のうちで,精度,品質等から,きわめて重要性が強く,その生産に高度の技術,設備を必要とし,かつ,大量生産が可能であるもの」については,直接親企業が自社生産(内製)を行なっている。繊維部門では,ナイロンフィラメント,ステープルの紡糸,綿糸の紡績を行ない,その加工(製織,染色加工等)を外注する場合(ナイロン織物,綿織物等),大量生産方式による生産の可能なものを内製し,その他の銘柄の製品に関する製織,染色加工等を外注する場合(綿織物等),商社的性格をもち,原糸を購入してその加工(編立て,染色加工等)を外注する場合(メリヤス製品のうちセーター,染色整理等)または自社の生産するメリヤス製品のうち,一部の労働集約的部分を外注する場合(メリヤス製品のうちのセーター等)と種々の形態がみられる。また,これらの外注部分の委託を受けた下請企業からは,さらにその下請企業である2次下請企業,3次下請企業等へとより労働集約的な部分の外注が行なわれるのが通常であり,このように下請外注が細分化されるにしたがって,下請企業も小零細企業,内職的企業が多くなっている。
 これらを通じて,親企業が内製を行なわない理由,あるいは親企業が外注する必要性は,つぎのように考えることができよう。
 (i) 本来,生産工程,部品の製造とその組立て等の関連において,分業体制をもつことが合理的なもの
 分業関係が合理的と考えられるものとしては,いわゆる大量生産方式の導入を行ない,近代的,合理的生産体制による規模の利益をあげるため,部品の生産からその組立て等までを一貫して製造するよりは,それぞれを分業する方が合理的な場合,製品の特殊性,高級さがポイントとなり,本来,多種小量生産を必要とする製品について,その原材料の量産体制と多種,小ロットの加工技術,設備の運営を分業とすることが合理的な場合等である。
 なお,繊維部門における「製造卸問屋」といわれるような商社的色彩の強いものについては,本来その生産技術設備を一部しか保有していないもので,むしろ商品の企画,販売等の危険負担を行なうところにその特色があり,製造業における下請関係とは若干問題を異にしている。
 (ii) 本来的に分業化することの合理性よりは,下請企業における賃金の相対的低さなどによる,当面の経済合理性が大きいもの
 これは,下請企業における賃金が相対的にかなり低いことから下請利用による製造コストの低下が大きく,この点に着目して行なわれるもので,とくに,技術革新が行なわれない場合の労働集約的加工形態を必要とする部分などにみられるものである。
 大別すると,このような2つの要因から,下請企業への外注のメリットあるいは必要性がこれまでの下請関係において存在していたといえよう。
 しかし,これらの要因は,実際には相互に関連し,さまざまな比重をもって,各下請関係を規定している。すなわち,自己の設備,技術の不備を補完するための外注も,同時に当該設備技術の保有,内製等による経済性の低下(下請企業においては,賃金水準が相対的に低く,残業手当,退職金等のコストも小さいこと,また親企業に設備投資資金の余裕がなく,あるいは,これを保有しても生産規模の問題等から十分な設備投資効率が期待できないこと等)が,その外注に関する大きな要因となっており,また,逆に本来多種,小ロットの生産形態を必要とする品種については,その適正規模は親企業が直接行なうには小さい場合などが当然あるものと考えられる。
 このほか,繊維部門では,原糸のまま販売するよりは,その加工を行なって織物またはその2次製品として販売する方がより高い附加価値をうることができ,あわせて,その生産する原糸の需要の維持拡大を図りうること,その織物製造技術,染色2次加工技術については,さきにあげた2つの要因から内製が経済的でないということがあいまって,これを外注する例もみられる。

(b) 下請企業の系列化の要請

 ところで,このような下請関係において,特定の下請企業との関連をとくに密接なものとして行くのが系列化といわれるものであるが,その範囲,方法,理由も多岐にわたっている。
 親企業の多くは,その下請企業について,つぎのような基準によってランキングを行ない,選別する。
 (@) 技術設備が特殊的なものまたは優秀なものであり,品質がよいこと。
 (A) 生産コストが低く,下請単価が安いこと。
 (B) 納期を遵守すること。
 (C) 親企業の要請に対する協力度が高いこと。
 (D) 親企業に対する下請企業の依存度および当該下請に対する親企業の発注割合が高いこと。
 (E) 経営管理能力があること。
 (F) 資金調達力があること。
 (G) その他(地域的条件,労働組合の状況等)
 これによる下請企業のランキングは,平均的にはおおむねつぎのようになっている。
 (@) 経常的取引を維持し,その育成,集中化に努めて行く必要のあるもの
 (A) 現在は,経常的取引関係があるが,将来,(@)への集中に伴って,整理する必要のあるもの
 (B) 技術的特殊性等があり,経常的ではないが取引関係の維持が必要なもの
 (C) 小零細企業などであって,整理を行なって行く必要のあるもの
 親企業が,とくに下請企業のなかでも重要度が高いと認め,自己との関連の密接化を図るとともに,経営,資金,技術の多くの面について指導,援助を行ない,その育成に努めているという意味での「系列下請企業」とは,このようなランキングの上位に属し,概して,重要工程部門における大規模な下請企業が多い。また,そのうち,とくに重要な部品の製造を行なう企業,技術的にすぐれており,製品の競争力の向上に大きく影響する企業等について,親企業がこれを専属化し,あるいは資本系列,人的系列などの関連をもった子会社としている例も少なくない。
 これまで,親企業がこのような下請企業の系列化を進めてきた理由は,親企業の事業の内容,業種等によって異なっているが,大体つぎのように考えられよう。

(親企業の経営政策面からの要請)

(i) 直接的なマーケットシェアの拡大,維持

 これは,合成繊維等の繊維部門に強い要因であって,ナイロン織物等においては,新しく開発されたナイロン原糸による新たな製織技術を研究し,下請企業に習得させることによって品質のすぐれた製品の供給体制を整備し,ナイロン織物(ナイロン原糸)の需要確保,マーケットシェアの拡大を図ることが必要であり,そのための手段として,優秀な下請企業と関連商社を確保する必要があった。また,メリヤス製品(セーター),綿スフ織物などにおいても,特殊な独自の銘柄,高級品の生産によってそのマーケットシェアーを維持,拡大して行くためには,これに対応する下請体制を確定する必要があったものである。
 他方,機械部門のなかでも,自動車部品工業等においては,親企業である自動車工業の下請系列化の体制に対応して次第に発展し,現在はさらに独立化へのみちを歩んでいるが,その過程において,自己のシェアーを確立するため,その下請企業の体制整備に努めることが必要であったものといえよう。

(A) 価格競争,品質競争等の一般的な競争力の強化

 これは,いうまでもなく技術革新,量産体制の進展,生産構造の高度化等に伴って,その価格,品質における競争力の向上も一層重要となり,その生産,販売における競争力の向上,具体的な生産計画の円滑な運営体制の確立のため,下請企業の協力体制の整備,系列化を行なう必要が生じたものであり,とくに通信機の場合などにおいては,海外市場における競争力強化からの要請が強い。

(B) 企業利潤の拡大(下請コストの引下げ)

 以上に述べてきた要因は,相互に因果関係をもち,必ずしも対立するものではないが,それぞれの親企業について,とくに強く直接的に要請された問題として理解することができよう。
 このような経営政策面からの要請は,当然,親企業における生産体制の問題として,つぎのような生産,技術的関連においても,系列化を促進することとなっている。

(生産技術的関連)

(C) 大量生産体制,流れ生産方式の導入等に伴う下請企業の量産体制確立
(D) 技術水準の向上,設備の高度化等に伴う下請企業の技術向上,設備の近代化,高度化の促進
(E) 大量生産体制の確立に伴う一部生産工程の外注必要性の増大

 (C)は,主として機械関連部門,(D)は,主として繊維部門にみられる要請である。
 また,(E)については,ナイロン,綿スフ織物等において,ナイロン原糸,綿糸の量産体制の確立に伴い,設備の設置規制等が行なわれているために内製化が困難なこともあって,その製織段階を外注することが必要となったものなどがあてはまる。

2) 下請企業の変動とその要因

(a) 下請企業の変動

 以上のような要請から下請企業の系列化が進められ,とくに,量産体制の確立と競争力の向上が要請された自動車工業,新たに開発されたナイロン繊維等の量産体制の確立と市場の確保の要請,さらには新製品の生産技術面の要請が強かった合繊部門等において発展が著しい。しかし,その他の産業においても程度の差こそあれ,これまでに,下請企業の重要度によって,次第にその選別,集中が進められてきている。
 しかし,その下請企業の利用,外注管理の方針には,最近かなり大きな変動がみられ,いわゆる「下請系列の再編成」もそのような事情から進められているものと考えられる。

 (i) 親企業による下請管理体制の変動をみると,全般的に,下請企業に関するランキングに基づき,選別,集中化を行なう体制がとられている。
 機械部門では,量産体制の発展,確立に対応できない小零細下請企業の整理,品質,価格等の点で問題の多い下請企業への発注の縮小または停止,技術革新により従来の労働集約的生産形態から資本集約的,大量生産形態が可能となったものの内製化または大規模,優良下請企業への発注切換え,将来の整理対象に予定している下請企業についての発注量の削減などを行なうとともに,技術革新,機種変更等を契機として,集中発注(専門,大量生産体制の促進)および一括発注(単体部品の生産等の工程を結合し,アセンブルを行なう総合部品の生産体制の促進)等を進める傾向を示している。また,小零細企業に対しては,取引関係をコマーシャル・ベースで処理し,下請援助的な配慮をもつ発注内容とすることを回避する動向がみられるが,通信機の例においては,競争入札によって発注先を決定する方法もとられている。さらに,この場合,競争関係を適正に保つための配慮として,原則的に新規な下請企業との取引の排除,さらには一部の下請企業(モデル・ショップ)だけに限定して,その間での競争入札を行なう等の措置がとられているが,これも発注の集中を前提とするものと考えられる。
 さらに,最近の景況の沈滞の影響は,業種,企業,機種等により相違はあるが,とくに重要と考えられる下請企業への集中を促進する結果となっており,ランキングの低い企業ほどその影響を強く受けている。とくに,通信機の場合等では,官公需の拡大により景況沈滞の影響をあまり受けていない部分であるが,技術革新の進展が著しく,新機種の生産等を契機とし,新技術,設備の主要下請企業への導入により発注を集中的に行なって,体制整備を行なっている例もみられる。
 一方,繊維部門については,系列下請企業に対する直接的な発注の停止等の事例は比較的少ない。しかし,最近の景況の沈滞の影響は,とくにナイロン織物,綿織物などで顕著になっているため,在庫調整等に伴う下請発注の減少も需要減の大きい品目についてかなりみられることとなっている。
 また,繊維部門で特徴的なことは,商社の管理下に移る下請企業が増加していることで,親企業は,一部について技術指導等を行なうほかは直接の関連をもたず,取引関係については,商社が管理することとなっているものも少なくない。これは,とくにナイロン織物の先発メーカーにみられるものであるが,最近,需要拡大の速度が鈍化している反面,初期とは異なり,商品の一般化が進んで安定的な需要が確保されてくるとともに,生産技術も普遍化し,多数の下請企業の系列化を行なう必要性がなくなっていることのほか,下請企業からの親企業に対する全面的な依存を排除し,下請取引を一般的なコマーシャル・ベースにおいて処理したいという考え方がとられているためである。この場合,親企業が直接管理する下請企業は,比較的大規模で量産体制の可能なものであり,需要の変動に対応して品種の切換え,新製品の開拓を行なう必要が大きい多種少量生産的品種に関する下請企業は,概して商社の下請系列に移ることとなっている。
 このほか,繊維部門では,製品の独自性を保ち,特殊な銘柄,高級さ等により需要に対応する小ロットで多種にわたるものの場合など,種々の特殊技術をもった下請企業を保持する必要があり,また,量産体制の確立も困難なため特定の下請企業への集中に限界がある場合もみられるが,そのなかでも,品種により,また,需要と技術の変動により,発注の変動がみられ,あるいは経営能力が乏しい企業,品質向上やコストダウンの要請に対応しない企業に対する発注の縮小,停止もとられている。

 (A) 親企業がこのような動向を示している背景の一つとして,下請系列関係における親企業の問題意識をみると,つぎのようになっている。

a) 経営管理能力が不十分であること。
 機械門部では,@総合的管理能力の不足が著しく,計画性,計数的管理能力(個別原価計算等)に欠けていること,Aいわゆる「ワンマン的経営」が合理化を阻害していること,B管理能力,管理体制の不十分さが企業発展の制約となっていること(家内工業的,同族会社的性格を脱皮できないこと),C下請企業に対する経営指導は,親企業における管理者需要を増大させていること,D下請企業の依存心が強いことは自主的経営を阻害するものであり,その点からも,100%の専属は回避したいこと,等があげられている。
 また,繊維部門においては,@自主的経営力がなく,依頼心が強くなりすぎていること,A需要の変動等に対応する品種転換,新製品の開発能力に欠けていること,B輸出関連部門において,国際的感覚が遅れており,品質,銘柄などの対応が十分ではないこと,C労務管理が不十分なため,納期遅延,品質の低下,労働力の確保難等も大きいこと,等があげられている。

b) 技術,設備面において改善すべき余地が大きいこと。
 機械部門では,@設備の老朽化,A技術者不足,B優秀な技術の確保の必要性,等があげられている。
 また,繊維部門では,@ナイロン織物等で自動織機,サイジングについての温度調節機の導入が必要なこと,A小規模な下請企業に技術,設備の不十分な点が大きいこと(品質向上,均一化が遅れていること),B銘柄,品質等の特殊性,独自性を重点とする品目についての必要な技術の向上等が要請されること,等をあげている。

c) 資金調達難が著しいこと。
 @設備資金の調達難が大きなネックとなっているほか,A運転資金の不足から円滑な活動を行なえないものも多いこと,B過去の設備投資などにおける借入金の負担が大きいこと,C下請企業の信用力が弱く,金融が不円滑なこと,等があげられている。

d) その他(労働力の確保難,賃金コストの上昇等)
 下請企業について,とくに問題となるものの一つがこの点であり,@賃金の上昇により,コストの上昇がもたらされ,下請企業における低コストのメリットが失われてきていること,A技術者,熟練労働者が不足していること,B若年労働力等の確保難が著しいこと,等が大きな問題とされている。また,親企業における問題としては,@親企業が部品工業などであるため,自己の親企業からはコストダウン,品質向上を強く要請され,自己の下請企業に対する取引条件との差に圧迫されること,A親企業の業界における競争が激しく,下請関係の合理化を図りにくいこと,B親企業の内部において,計画的,統一的な下請管理を行なう体制が整備されていないこと,等があげられている。

 (B) このような問題からも,親企業は,さきにみたような下請取引関係の整理に努め,優良下請企業の育成を図っているのであるが,今後の親企業の系列強化,優良下請の育成と下請企業の整理,集中には,かなり強い意欲がみられる。
 その内容は,業種,親企業の内容,製品の性格等によって分かれているが,おおむね,つぎのとおりとなっている。

a) 重要部門における主要な下請企業への発注等の集中
 これは,主として,大量生産が可能な機械部門の業種に顕著にみられるもので,量産化によるコストダウン,品質向上等,親企業の要請に応えうる下請企業に発注を集中し,その他の下請企業を整理して行くことによって下請系列の再編成を図ろうとするものである。
 その方法については,ランキングによる発注等の集中,削減を行なうとともに,下請企業の共同化,合併を促進し,適正規模の実現を図ること,体質改善のための資金面等についての配慮を行なうこと,等が考えられている。また,企業によっては,重点部門の下請企業の資本系列化を図ろうとするものもあるが,下請企業の依存度を高めることにより,自主的な経営を阻害するおそれがあるということからこれを排除するものも多い。

b) 特殊技術のある下請企業の重点的育成
 これは,セーター,綿織物など,製品の性格が本来多種少量生産的であり,品質,デザイン等の特殊性,独自性によって需要の変動に対応して行く分野において顕著であって,下請企業の技術が多彩に分かれていることが要請されている反面,量産体制の確立が可能でないため,特定の下請企業への集中には限界が生じている。ただ,人件費の上昇等の問題がそれだけ強く反映される部門であるため,技術の向上,設備の更新,新製品開拓能力の強化等について,技術,資金面の援助等を重点的に集中することが考えられている。

c) 量産体制をとりうるものと多品種少量生産形態のものとを分離し,後者について商社系列化を図るもの
 これは a)に近いものであるが,ナイロン織物等についてみられるもので,設備合理化,新製品の開発,品質の改善とコストダウン等を行ないうる下請企業への集中により,下請企業の大規模化,量産体制の確立を図るものであるが,その方法として,商社系列の活用を図る点において特殊なものといえよう。
 以上のような形態をとりながら,次第に系列企業の集中,整理が現在進展して行こうとしているが,一般的には,先進的な系列関係の場合を除いて,あまりその変動は進んでいない。むしろ,従来までの系列関係における経緯や急激な摩擦の生ずることに対する配慮から,このような集中化は急速には進められていない。
 しかし,最近における景況の沈滞による親企業の発注量の減少などは,このような傾向をある程度顕在化させており,業種,規模,系列などによって,下請企業の事業活動,経営内容などに相違が生じているのも,このような動向が促進されて顕著になったものである。

(b) 下請企業変動の要因

 以上のような下請企業の系列化とその変動をみると,最近の不況による変動もかなり認められるが,より長期的,構造的な問題がうかがえるであろう。
 すなわち
(i) 労働力需給のひっ迫
 わが国経済の急速な成長に伴う労働力需要の増大等により,労働力需給のひっ迫,賃金水準の上昇と,これに伴う賃金格差の解消が一般的に進行していることは周知のとおりであるが,これに伴い,下請企業について大きなメリットとされていた「相対的に低い賃金による低コスト」は,当然失われてきている。
 しかし,国民所得水準が上昇を続け,労働力の価値が上昇しているなかで,労働集約的な部門の製品ほどその賃金コストは上昇し,これを吸収するための生産性の向上が要請されている反面,下請コストについても上昇がもたらされることとなっている。この下請製品価格の上昇を最小限にとどめるため,親企業としては,極力労働集約的部分の近代化,合理化による生産向上を求めることとなっているが,それは,また,技術革新などに伴う資本集約的形態,量産体制への移行を要請する場合が多くなり,これに伴う適正規模の問題,資金調達の問題等とともに,下請企業のなかでの選別が進められる結果となっている。

(A) 需給構造の変化
 上のような労働力事情の変化とあいまって,わが国経済における著しい技術革新の進展は,生産性の高い資本集約的,量産体制への移行を合理的なものとし,労働集約的な産業部門の相対的な不利を明らかにしてきた。これは,とくに重化学工業部門において顕著であったが,経済発展に伴う需給の拡大の過程で,軽工業分野においても画一的な消費財の大量消費,大量生産を可能とし,労働集約的生産形態をとるものは,その特殊性,高級性等により,趣味,し好等の対象として需要を確保することが可能なものに限られてきている。
 下請企業においても,現在,量産体制の確立,技術,設備の向上,経営の近代化,合理化等,親企業の量産体制に対応する早急な近代化が要請されているものといえよう。また,消費財の一部については,このような産業構造の変動が進むにしたがって製品の特殊化,高級化の要請が強まり,下請企業にもこれへの対応が要請されることになっている。
 さらに最近において,わが国経済が本格的開放経済体制に移行したことは,親企業についても内外にわたる品質,価格等の競争力の急速な強化を要請することとなった。また,最近における景況の沈滞,重工業を中心とする需要拡大の鈍化の事態を克服するためにもこのような競争力の向上がより強く要請され,このような事態を一層促進することとなっている。

(B) 下請企業における経営力,資金調達力の弱さ等
 (@)(A)に述べたような環境の変化に対応して行くにあたり,下請企業は多くの問題に直面している。これまで,下請企業の多くは,経営力の不十分さのため親企業への依存が大きく,計画的な経営の実施,新しい体制への順応力に欠けるところが大きかった。
 とりわけ,次第に強くなる親企業からの要請への対応において,その競争激化がみられ,価値実現力の低下を招いているところが少なくないと思われる。
 このため,賃金水準の上昇に対する生産性向上が十分でないにもかかわらず,下請単価の低下,取引条件の悪化などがみられる場合も少なくなく,経営の窮迫化をきたすものが多い。一方,労働から資本への代替に努め,近代化を進めようとする下請企業においても,その資金調達力等の弱いことは,事業の円滑な運営,計画的,合理的な設備投資等についても大きな支障をきたしている。
 このほか,新技術の開発,新製品への転換,あるいは高度技術の獲得等が,下請企業についてとくに強く要請されていることは,すでにみたとおりであるが,一般に下請企業における技術革新のおくれが大きいことも多くの下請企業の窮状をもたらす要因であり,また,この点からも下請企業間の事業活動,経営内容の差を生ずることとなっている。
 以上のような,わが国経営における長期的,構造的変動および下請企業構造にある問題によって,下請企業間にさまざまな相違が生じ,また,親企業による系列変動等がもたらされている。そして,次第に進行して行くこれらの変動が,とくに最近の景気沈滞によって促進され,顕著となったものといえよう。
 このような諸要因による下請企業構造の変動に対しては,長期的,総合的な見地から,近代的,合理的な下請関係の確立,下請企業の近代化,協業化に努めることが基本的に要請されている。
 そこで,最後に,これらの下請企業が現在の変動をいかに認識し,系列関係においてどのような問題をもっているかについて概観することとしよう。

(3) 下請企業における問題点と対応の状況

1) 系列関係の評価

 第2-25表は,各業界の主要な親企業との取引関係はもっているが,その系列にははいっていない下請企業について,系列にはいらない理由をみたものである。
 機械部門では,「系列関係がなくても十分経営できる」こと,および「経営の自主性に制約がある」ため系列関係にはいるのを控えているものがかなり高い比率を占めており,系列外下請企業の独立性が高いことが明らかになっているが,繊維部門では,はいる希望はあるものの「親企業が系列化しないため」,すなわち親企業の系列化の選外にもれたことが理由となっているものの比重が最も高く,「系列にはいらなくても十分経営ができる」ものとで,2つの層を形成していることがわかる。この結果,将来の方針についても「将来ともはいらない」ものが機械部門では最も多いのに比べて,繊維部門では,「はいる必要あり」とするものが全体の約半数を占めており,繊維部門の方が,より系列化をめぐっての競争激化を招いていることが推定さるれ。
 一方,系列にはいっている系列内企業の考え方については,第2-33図および第2-34図のとおりである。
 系列関係により「経営の安定性が大きい」とする企業の割合は,業種により分かれており,家庭用電機,通信機,綿スフ織物等に多くなっているが,その他の業種では「安定性がとくに大きくならない」とするものも全体の2割ぐらいに達している。さらに,経営の自主性の制約の有無については,概して繊維関係の業種に「制約がある」とするものの比重が高い。
 そして,第2-34図にみられるとおり,各業種とも,現在のところは系列関係において経営の安定性を第1にしているが,将来は,若干ながら自主的な経営の実現に努めて行こうとする傾向がみられる。しかしながら,何といっても,現在,将来とも,経営の安定性の確保を系列関係に求めているものが圧倒的に多く,この傾向は,最近の下請企業の一般的な経営の不安定化,窮迫化により,一層,強くなっているものであろう。

2) 系列関係における問題点の認識

 このような系列下請企業が,現在の取引関係において問題があるとすることは,第2-35図のとおりである。
 経営面の問題としては,運転資金の不足が最も多く,不況期における「つなぎ資金」の必要が高いこと,一方,設備の近代化に関しては,設備資金が不足していること,設備投資をした場合には十分な需要が確保できないこと,反面,財務構成が悪化していること,等があげられている。また,設備技術面の問題にあるように,これらの設備投資が一部工程への偏重等をきたし,計画的なものとなっていないことが非常に大きい問題とされており,下請企業において,近代化に関する資金調達難が著しいほか,需給関係の正しい判断が少なく,また,長期的,計画的でない投資が多いという問題点が明らかにされている。
 一方,労働力確保難が若年労働力,技術者,熟練工について大きな問題とされていることが認められ,そのほか,組合の共同事業の実効があがらないことも問題の1つとなっている。
 つぎに,取引関係そのものから生ずる問題については,下請企業の取引関係に対する長所と短所という形で第2-36図に示されている。
 系列関係からのメリットは,安定的に受注を確保できること,指導援助を受けられることに集中している。
 一方,系列関係から生ずる問題としては,下請企業の近代化,合理化等によるコストダウンの利益について,親企業からの単価引下げの要求に対応して行くのに精一杯で下請企業の利益として還元されないことが最も大きい問題とされている。この問題とも関連して,つぎに大きな問題としては,近代化,合理化の負担が大きすぎることがあげられている。
 このように,近代化,合理化による生産性の向上により,賃金コストの上昇をカバーすることが必要となっているのに対し,その負担が大きすぎてなかなか実施できないということは,大きな問題であろう。下請企業については,やはり,近代化による生産性の上昇を図ることが本質的に要請されるものであり,ただ,その際に共同化,協業化,合併,転換等によって過度競争を排除し,適正規模を確立することが大きな前提となっている。
 他方,親企業の品質向上,価格引下げ等の要請の強化についてはすでにみたところであるが,現在でも,下請企業の方が賃金コストが低いため下請企業に外注している場合が少なくないことは大きな問題である。次第に賃金水準の上昇,賃金格差の縮小が進展している現在,その加工部分が技術的に労働集約的なものであり,必要性の高いものであれば,それ相応により高い価格を必要とするものである。したがって,親企業としても下請コストの低下を図るためには,下請企業の共同化,合併等を前提としつつ,その適正規模の実現と量産体制,自動化,合理化等の体制等によるコストダウンを図ることが肝要であろう。

3) 下請企業の対応

 現在の長期的あるいは短期的な変動による受注減に対し,下請企業は,第2-37図のような対策を講じてこれに対応している。対策の内容のうち,機械部門を中心に受注の多角化を図ろうとする動向が認められよう。
 共同組合による共同受注の割合がまだかなり小さいことについては,今後の下請企業の行き方の一つとして共同化,合併等が重要なものと考えられるだけに,一層その推進に努める必要があろう。第2-38図は,これらの共同組合における効果,実施している主要事業を示したものである。これは,親企業に対する地位の向上,過度競争の排除にかなり寄与していると考えられるが,さらに進んで,適正規模化を前提としての近代化,共同化を進めることが必要となろう。また,共同事業のうち,資金調達の面での事業が多いことは,それだけこの面での要請が強いことを示している。
 最後に,下請企業の今後の取引方針は,第2-39図のとおりである。当面の方針としては,現在の系列関係を前提としての着実な拡大が必要であろうと思われるが,長期的には,下請企業の独立化,近代化,合理的な分業関係の実現を期待したい。

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