第2節 企業倒産等の増大とその原因

1 欠損企業,企業倒産等の動向

 中小企業経営は,すでに述べたような経済環境の変化のなかで,困難さを強め,赤字経営あるいは経営破たんをきたす場合が最近きわめて多くなってきている。以下にこのような点について,その動向をみることとする。

(1) 欠損企業,不渡手形発生の状況

1) 欠損企業の状況

 欠損企業の状況を中小企業庁の「中小企業の経営指標」によってみると,第2-9表に示すとおり,10%以上の企業でつねに経営の赤字をもたらしている。とくに,最近においては,需給構造および市場条件の変化などといった諸条件の変化と循環的要因とが相互に関連して強く影響を及ぼしていることもあって,その増勢が強く,40年度では23%の割合を占めるに至っている。業種別にみると,所得水準の上昇や生活様式の変化に伴う消費構造の変化に加え,不況の深化に伴う個人消費の停滞などを反映して,卸売業,サービス業が製造業をも上まわる増勢を示している。ついで,日本銀行の「中小企業経営分析」によって規模別にみると,第2-10表に示すとおり,各規模層とも37年以降増勢を強めているが,とくに,従業員50〜99人の規模層において16.8%と最も高い割合を示していることは注目される。
 いずれにせよ,中小企業のなかで,その20%以上の企業が経営の赤字を示しているということは,経済的にも社会的にも大きな問題であろう。

2) 不渡手形発生の状況

 不渡手形の発生状況を東京手形交換所の調査によってみると,第2-9図に示すとおり,37年以降,枚数,金額とも著顕な増勢を続けてきたが,とくに,39,40年での増勢はきわめて著しかった。40年の全国不渡手形発生は,枚数では対前年比9.3%増,金額では5.6%増を示している。とくに不渡手形発生比率において,枚数比率の上昇が金額比率を大幅に上まわっていることからみて中小企業における不渡手形の発生の著しさがうかがわれる。
 不渡手形の多発化から,取引停止処分を受けた者の数も40年には前年のそれを23.823人,13.7%も上まわる記録を示すこととなった。これを,全国銀行協会連合会の調査によって規模別にみると,第2-11表に示すとおり,圧倒的な割合を占めている資本金100〜1,000万円未満の規模層が,さらにその比重を高めてきている。

(2) 企業倒産の増大

1) 最近における企業倒産の特徴

 企業倒産は,近年,高水準をつづけてるが,いま36年以前と37年以降とに区分してその動向をみると,すくなくともつぎの4つの点で大きな変化がみられる。
 第1には,企業倒産が過去の景気循環過程では,金融引締期において増大し,緩和期にはいると減少するといったパターンを示していたが,今回においては,金融引締期はいうにおよばず,緩和期も企業倒産が高水準をつづけていることである。
 第2には,企業倒産が,すべての業種にわたってみられることである。企業倒産は,従来,繊維,金属などの一部の業種に,とくに多くみられたが,最近においては,成長業種といわれてきた電気機械器具,輸送用機械器具などの分野においても数多くみられるようになった。
 第3には,企業倒産があらゆる規模層に波及していることである。不況抵抗力の弱い中小企業に多く倒産が発生していることは,今でも変わりないが,最近,過大な設備投資を主因として,大企業の一部にまで倒産が波及してきている。
 第4には,企業倒産が,全国的にみられることである。倒産は,従来,大都市周辺の企業に多くみられ,比較的地方への波及は少なかったようである。それは,地場産業が商品流通の地域性に存立基盤を有し,比較的安定した需要層を確保していたことから,景気循環との関連性がそれほど高い産業ではないと考えられていた。しかしながら,高度成長過程において,流通機構の近代化,消費構造の多様化,高度化といった経済環境の変化によって経営基盤の弱体化が顕在化してきたことから,この分部にも,最近企業倒産がめだってきている。

2) 企業倒産の動向

 (a) このように大きな変化を示した企業倒産は,38年秋頃から急増傾向を示し,その後金融引締期中著増を続けてきたが,引締緩和後も依然として高水準のままで推移している。
 このような倒産動向を前々回(32〜33年)および前回(36〜37年)引締期の場合と比較してみると,第2-10図に示すとおり,前2回の場合はほぼ景気循環に対応した動きを示してきたが,今回は,引締め以前から著増を示し,しかも,前2回の水準をはるかに上まわるものであった。公定歩合が,実質的に戦後最低の水準にまで引き下げられたにもかかわらず,40年中の全国企業倒産は,東京商工興信所の調査によれば,件数では6,141件,負債総額では5,624億円と引締期の39年よりも件数では45.8%,金額では21.4%も上まわる著しい増加を示したのである。
 (b) 業種別にみると,第2-11図に示すとおり,すべての業種にわたって39年以降急増をつづけているが,とくに,従来,成長産業と目され,著しい発展を続けてきた建設業での増勢が著しく,40年中の倒産件数は,1,050件と対前年比69.6%の増加を示している。また,商業の倒産も,40年にはいって,個人消費の停滞などを反映して急増を示し,40年中の倒産件数は2,092件,対前年比40.5%増と製造業をも上まわる増勢を示したのである。
 一方,製造業では,他の2業種に比べて,その増加率が相対的に低かったといえるものの,全倒産件数の40.3%と最も高い割合を占め,しかも,40年中の倒産件数は2,476件で,対前年比36.8%増と著しい増加を示している。
 このように,製造業の倒産がさらに増勢を強めているのは,賃金の上昇,資本費の増大などから収益性の低下をきたしているなかで,販売競争の激化から価格の引下げ,売掛金回収難をまねき,企業経営を圧迫する度合を強めてきたためと考えられる。
 さらに,製造業について詳細にみると,第2-12表に示すとおり,倒産件数は,成長産業,衰退産業の区別なくほとんどあらゆる業種において増加している。そのなかでも,とくに鉄鋼(対前年比186.3%増),食料品(同95.4%増),ゴム,皮革製品(同86.0%増),出版・印刷(同85.1%増),木材・木製品(同49.0%増)などの業種での倒産の増加が顕著であった。
 (c) 規模別にみると,第2-12図に示すとおり,40年にはいっても各規模層とも顕著な増勢を続けているが,なかでも,資本金100万円未満(個人企業も含む。)および100〜500万円の規模層での増勢が目ざましく,40年中の企業倒産件数は,前者が1,835件,後者が3,210件と39年中のそれをそれぞれ52.3%,47.7%も上まわったことが注目される。
 また,資本金1,000万円以上の規模層での倒産が増加傾向を示していることも注目されよう。すなわち,40年中の倒産件数は,550件と前年に比べて33.8%の増加を示し,その構成比率も37年以降全体のほぼ10%を占めるにいたっている。
 東京商工興信所の調査は,負債総額1,000万円以上の倒産に限られており,小零細層の動向が十分に反映されていないので,さらに政府系中小企業専門金融機関の取引先倒産状況調査によってみると,第2-13表に示すとおり,個人および資本金100万円未満の零細層が全倒産件数のうち50%以上の割合を占め,高水準のままで推移しており,また,資本金1,000万円以上の規模層では,親企業による下請系列編再成の強化や大企業の中小企業分野への進出などの影響を個別的,直接的にうけて,大幅な売上げ・受注の減少をきたしたことなどから,全倒産件数に占める比重を漸次高めてきている。

2 企業倒産増大の原因

 以上のように,最近における中小企業の倒産は,著しく増大しており,しかも,景気循環とほぼ一致した従来のパターンと異なった動きを示している。これは今回の金融引締めが前回や前々回よりも短い回復期間で行なわれたことも大きな原因であろうが,しかし,単に景気変動の関連だけからでなく,さらに,その背景にもっと大きな要因が倒産の多発化をもたらしているものと考えられる。
 もちろん,中小企業の倒産が,ごく一部であることから,倒産した企業には,他の倒産しない企業に比べて個別的な経営上の欠かんがあったものと考えられるが,最近において,全般的に中小企業の経営難が深刻化しているといった事態に着目するかぎり,循環的要因および経営内部の要因などだけから最近の倒産現象を究明することはできないであろう。
 したがって,最近における企業倒産増大の核心を十分明らかにするためには,経済の構造的変動の過程において,中小企業をとりまく経済環境がすでに述べたように大きく変化していることも考慮しなければならない。
 中小企業の存立基盤をめぐる経済環境の変化については,すでに述べたとおりであるが,倒産との関連において主な点をごく簡単にふれてみると,第1には,不況の深刻化に伴う売上げ・受注の減退のなかで,労働力需給のひっ迫から,労働条件の悪い中小企業では,労働力の離散から生産計画にそごをきたし倒産をまねいている企業もみられ,また,賃金の上昇から収益性の低下をきたしているものも多くなってきている。第2には,大量生産方式の確立,輸送手段の近代化などから商品流通の地域性にその存立基盤をおいてきた中小企業製品は,大企業の進出によって次第に市場を狭められ,新分野への転換が緊要とされているものの,資本力に乏しい中小企業においては,その転換も円滑に行なえず,倒産をまねいている企業も少なくないことである。第3には,スーパー・マーケットの出現,メーカーの直売などによって,卸・小売業の販売競争は激化され,販売の不振および製品価格の引下げなどから中小商業の経営が悪化の傾向を強めてきていることである。

(1) 倒産企業にみられる諸問題

 このような経済環境の変化は,中小企業が従来から持っていた諸特性とともに中小企業に大きな影響を与え,企業経営の悪化を強めているが,とくに倒産企業については,このなかで,つぎに述るような諸問題が顕在化し,これが倒産にいたらしめる大きな原因となっている場合が多い。

1) 設備投資の過剰

 需給構造の変化および労働力需給のひっ迫などに対処するため,中小企業も設備投資を活発に行なってきたが,こうした設備投資も比較的無計画に,しかも無理な借入れによって拡大してきたものはもちろん,比較的計画的に行なってきたものも,産業構造の変動による予期以上の影響から,売上げ・受注の不振が顕在化するに伴い,借入金の返済,金利負担の過重などに悩むこととなり,さらに操業度の上昇による販売の強行から売掛金回収難におちいるなど,業績不振をもたらす大きな原因となっている。

2) 企業間信用の膨脹

 資本蓄積力,資本調達力の弱い中小企業にとって,企業間信用に依存する度合は強かったものと考えられるが,生産能力の増大および大企業の進出などによる販売競争の激化から,資金繰りを悪化させるような条件の悪い売掛金を増大させたり,さらに融手よって安易に資金操作を行なってきたことなどから,企業間信用の増大をもたらしてきた。こうした状況のなかで,不況が深刻化するに伴い,条件の悪い売掛債権をかかえている中小企業においては,売掛金回収難および取引先倒産による不渡手形の増大などから,企業経営,とくに資金面がさらに圧迫され,倒産にいたる事例が多くなってきている。

3) 放慢経営

 中小企業をとりまく経済環境が,近年急速に変化し,従来にまして経営の近代化,合理化が必要とされているにもかかわらず,旧態依然たる経営を行ない,とくに,財務,労務管理の遅れがめだち,資金繰りの悪化や生産,販売計画にもそごをきたし倒産する企業が少なくない。たとえば,放慢経営を原因とする倒産がつねに全倒産件数のうち10〜15%の割合を占めていることからも,この辺の事情がうかがえよう。

(2) 企業倒産原因の変化

 1) このように,中小企業経営を圧迫する幾多の要因が顕在化し,全般的に中小企業の経営は困難さを強めている。このため,中小企業の倒産原因も従来にまして複雑化し,基調的にも大きな変化がみられるにいたっている。
 東京商工興信所の調査による原因別倒産状況は,要因項目の過小性,要因間の関連性等から分析の対象としてやや問題があると思われるが,しかし,おおよそその傾向は把握できるので,以下に同興信所の調査によって概観することとする。
 まず,40年中の倒産原因をみると,第2-14表に示すとおり,「販売不振」を原因とするものが最も多く,全倒産件数のうち25.6%を占め,39年中の17.0%から2倍強の上昇を示し,ついで「放慢経営」の15.5%,「売掛金回収難」の13.9%,「他社倒産余波」の13.1%と前年に引き続き高い水準を示している。
 次いで,中小企業の倒産原因を長期的に時系列によってみると,37年を境にして基調的な変化がみられる。すなわち,従来の企業倒産は「売掛金回収難」「放慢経営」などを基因とした,いわば循環的要因と経営的要因との相乗的作用によるものを主体としてきたが,経済環境の変化の影響が,漸次経済実体に浸透しはじめるに伴い,37年以降「他社倒産余波」,「設備投資過大」などの構造変動に関連性の強いとみられる要因の比重が高まるにつれ,企業倒産は,こうした要因と循環的要因との相乗的作用によるものを主体とするに至っている。
 さらに,景気変動との関連において倒産原因の変化をみると,第2-15表に示すとおり,前々回(32,34年),前回(37,38年),今回(39,40年)との間にかなりの異なった動きが認められる。すなわち,金融引締期における企業倒産の動向をみると,前々回では,「在庫状態悪化」,「信用力低下」などの景気循環に関連性の強いとみられる要因の増加が顕著であったのに対して,前回および今回では「設備投資過大」,「他社倒産余波」などの構造変動に関連性の強いとみられる要因の増勢が著しく,金融要因の増加が,あまりめだった動きを示していないことは注目されよう。次いで,緩和期の動きについてみると,前々回では,高度成長過程での量的拡大偏重を反映して「在庫状態悪化」,「売掛金回収難」「放慢経営」などの要因による増勢が著しかった。しかし前回および今回では,倒産原因において引締期と基調的には大きな変化はみられなかったが,今回は,長期的,構造的要因に伴う需要減退の顕在化から「販売不振」がさらに増勢を強めていることが注目される。
 2) 以上のように,構造変動に関連性の強いとみられる要因によるものが最近著しい増勢を示しているが,こうした企業倒産の背景にある原因を中小企業庁および日本中小企業指導センターの調査によって,具体的にみると,第2-16,17表に示すとおりである。すなわち,まず外部要因についてみると,需給構造および市場条件の変化に伴う過度競争の激化によって,収益性の低下や受注・売上げの減少から倒産をまねいたものが少なくなく,とくに,鉄鋼,機械などの下請的色彩の強い業種では,系列下請企業の再編成が強化されるに伴い受注の減少,停止や下請単価の引下げによって,企業経営の行詰りをきたしているものが多いようである。
 また,建設業,機械,商業などの業種では,大企業の中小企業分野への進出,さらに技術革新に伴う新製品の出現などによる市場の狭あい化から,出血受注,販売,回収条件の悪化をきたし,倒産をまねいているものも少なくないようである。また,労働力需給の変化から,労務管理の遅れている企業では労働力の離散をまねき,このため納期におくれたり,製品の品質低下をきたしたりして受注の減少,停止から倒産している事例も建設業,繊維製品などの業種にみられた。
 次いで,このような外部条件の変化に適切に対応しえなかった内部要因についてみると,とくに中小企業の場合,決定的と考えられる企業者の経験不足,経営能力の欠如,独裁的,放慢的性格などの潜在的要因を背景とした企業倒産の事例が数多くみられたことである。このため,部門の管理も十分でなく,とくにほぼ全業種にわたって財務管理の不徹底がみられ,倒産をまねいている事例が多く,これがさらに経営の方針を誤まらせ採算を無視した取引を行なったり,過大な設備投資によってシェアーの拡大を図ったりして金融の不円滑や負債過多などを表面化し,倒産をまねいたものが少なくない。

(3) 倒産事例にみる原因の内容

 企業が倒産する場合の原因が,企業外の要因を直接主因とするにしろ,企業内の要因によるにしろ決して単一ではなく,いくつかの要因が複雑にからみ合って作用するのが通例であり,その要因の種類やからみあいのしかたは企業によって多種多様である。
 したがって,倒産事例をつぎのように類型化することには,多少の無理があるかと考えられるが,以上のような経済環境の変化や経営内部の要因が企業倒産にどのような作用を及ぼし,どのような経路をたどって倒産にいたらしめているかについて,具体的にみるため,以下に中小企業庁「倒産事情調査」によって,その事例を概観することとする。

1) 需給構造の変化による影響

 需給構造の変化による影響は,技術革新の進展による大量生産体制の確立から,親企業における下請系列の再編成が強化され,受注の減少,停止および下請単価の引下げから収益性の低下をきたしている場合と,技術水準の向上に伴う大企業製品の進出から売上・受注の減少をまねいている場合とがみられる。
 倒産事例をみても,系列下請企業の再編成の影響によって倒産をまねいた事例は少なくなく,とくに技術水準の向上の著しい鉄鋼,機械などに比較的多くみられた。また,新製品の出現から倒産に至った事例も多く,とくに機械,紙・紙加工品,化学工業などで他の業種に比べで多くみられた。
 まず,前者の事例についてみると,一般的にいえることは,財務内容を無視したシェアーの拡大を図ったが,需要の減退から受注の減少,停止および下請単価の引下げによる収益性の低下によって,負債過多,金利負担の過重が表面化し倒産に至った事例がきわめて多いことである。また,親企業からの受注の減少から,その対応策として,新規事業への投資を図ったものの失敗し,これが主要製品の生産計画にも影響を与え,倒産をまねいた事例もみられた。以下に,これらの事例について具体的にみることとする。

(a)親企業からの大幅な受注減から倒産をまねいた事例(自動車部品プレス加工業)

 自動車業界の著しい発展から,ラジエーターのタンクプレス加工設備の拡充を行ない,生産の増大を図ってきたものの,不況の深刻化を契機に親企業における系列下請企業の再編成が強化され,下請単価の引下げの要請が強まってきたため収益性がめだって低下してきた。こうしたなかで,経営能力の下足による事務,財務面の管理の不備もあって損失が増大し,加えて過去の大幅な設備投資による負債の累積などからさらに収益性の低下をまねいた。このため融手によって資金操作を行なってきたが,相手先の倒産から経営の不安定性をも露呈し親企業の受注が大幅に削減され倒産をまねいた。

(b) 親企業の下請系列再編成の進展による不安から新規事業への投資を行ない,失敗して倒産をまねいた事例(冷蔵庫断熱材製造業)

 家庭電機製品の需要の一巡や不況の深化などから需要が著しく減退し,業界における販売競争の激化から親企業の下請系列再編成は急速にすすめられ,下請単価の引下げ要求に加えて受注の減少が強まってきた。このため,冷蔵庫断熱材の生産に対する先行不安からマットレスの生産に着手したものの,同業者の乱立,乱売から採算の悪化をきたし,これが冷蔵庫断熱材の生産にも影響を与え,納期の遅滞をまねいたため親企業からの受注が停止され,加えて新規事業への投資から負債が累積したことから倒産に至った。
 次いで,後者の事例についてみると,新製品の出現による市場の狭あい化,需要の減退に伴う過度競争の激化から,売上げ受注の不振,さらに販売価格の引下げによる収益性の低下といった外部要因に加えて,放慢経営によるずさんな財務,事務管理から資金繰りの悪化を強め,倒産をまねいたものが多かった。また,新製品の開発といった環境変化への適応努力を行なったものの,経営力,資金調達力の弱さ等から失敗して倒産をまねいた事例もみられた。以下に,これらの事例について具体的にみることとする。

(c) 採算を度外視した受注と放慢経営から倒産した事例(冷凍機製造業)

 技術革新によって,いきおい大企業における製品の量産化が本格化し,業界の過度競争は激化され,採算を度外視した受注もうけざるをえなかったため資金繰りの悪化を強めた。加えて,経営者の放慢経営から経営の根本的な対策をたてることなくその資金不足を高利でまかなったため,金利負担の増大をまねき,負債の累積から倒産に至った。

(d) 新製品の生産に失敗し,倒産をまねいた事例(自転車製造業)

 オートバイ,スクーター等の普及から自転車の需要は著しく減退し,加えて発展途上国の海外市場への進出によって輸出も不振であったことなどから,モーターバイクの生産に着手した。しかし先発メーカーとの競争が激しく,製品価格の引下げによって対抗してきたものの,経験不足や技術者不足にわざわいされ,不良品の続出から返品が増大し生産の中止を余儀くされた。このため,モーターバイク生産のための設備投資による借入金の増大や主力製品である自転車の売上不振などから資金ぐりの悪化を強め,主力金融機関の融資打切りを契機に倒産に至った。

2) 市場条件の変化による影響

 市場条件の変化には,国内市場条件の変化と海外市場条件の変化との二面がみられる。まず,国内市場条件の変化による影響をみると,流通機構の近代化によって,大企業製品の進出による過度競争の激化から,売上げの不振や製品価格の引下げによる収益性の低下,消費パターンの変化による売上げ・受注の減少,さらに流通経路の短縮化による企業の整理淘汰などをきたす場合と,開放経済体制への移行によって外国製品との競合から売上不振におちいる場合とがある。次いで,海外市場条件の変化による影響をみると,発展途上国の進出に伴う輸出の不振や製品価格の引下げによって著しく収益性の低下をまねき,経営の悪化を強めている。
 倒産事例をみると,国内市場条件の変化による影響が強く,海外市場条件の変化の影響による倒産事例はごく僅かであった。前者の場合でも,とくに大企業の進出によって倒産をまねくといった事例が最も多く,食料品,機械,金属製品などの業種においてみられたが,機械,金属製品などでは,食料品などのように大企業製品との直接的な競合関係による影響といったよりも,むしろ大企業間の競争から間接的な影響をうけて倒産するといった事例が多いようである。ついで,消費パターンの変化や流通機構の短縮化による影響は,とくに商業関係に強くあらわれ,さらに外国製品の進出による影響は,紙・紙加工品,化学工業,機械などといった比較的精度の高い業種に強くあらわれている。また,発展途上国の進出については,繊維製品,木材・木製品などといった労働集約的業種への影響を強めているようである。
 国内市場条件の変化について,まず直接的な影響による事例をみると,一般的にいえることは,従来,比較的安定した需要層を確保していたため,販売管理の不徹底によって,大企業の進出による過度競争の激化から急速に販売の不振をまねいたり,また,安価販売の強行によって収益性を低下させ,資金繰りの悪化をきたし倒産するといった形態が多いことである。以下に事例について具体的にみることにする。

(a) 販売不振から事業意欲を喪失して倒産した事例(パン,アイスクリーム製造業)

 住宅地を裏地に控え比較的安定した需要層を確保していことから,経営者のマーケティング対策の努力が不十分であったため,周辺地への工場進出を契機に大企業製品の進出が激しくなり,周辺の個人消費層も知名度の高い大企業製品への選好性を強め,売上げの不振がめだってきた。このため,採算を無視した安値販売を強行したことから収益性が著しく低下し,加えて経営者の事業意欲の喪失から製品の改良努力も十分でなかったため,販売の不振が著しく,わずか数万円の材料支払手形の不渡りで倒産をまねいた。
 間接的な影響による事例についてみると,親企業への依存度を高めるため採算を軽視した取引や過大な設備投資を行ない,資金繰りの悪化を強めている企業に多くみられた。以下に事例によって具体的にみることとする。

(b) 親企業からの受注の削減によって倒産をまねいた事例(製鉄用,一般用,港湾荷役用起重機部品製造業)

 親企業の要請もあって,積極的に設備を行ない受注の増大を図ってきたが,経営者の積極的なシェアーの拡大意慾からかなり無理な取引関係をつづけてきたため,収益性の低下は著しかった。この間,不況の深刻化に伴う親企業製品の売上不振から,品質検査が厳格になってきたものの,量産に偏重して品質の向上が遅れていたため返品の増大をきたし,新規の受注が大幅に削減された。加えて,手形の長期化などから資金繰りの悪化を強め,過去の無理な設備投資による資金の固定化,負債の増大などとあいまって,経営の行詰りをまいた。

3) 労働力需給のひっ迫による影響

 労働力需給のひっ迫化による影響には,賃金水準の上昇に伴う人件費の増大が収益性の低下をきたし,企業経営を圧迫する場合と,量質両面において必要な労働力の確保難となって影響する場合とがある。
 倒産事例をみると,人件費の増大から,これに対する適切な対応としての経営の近代化,合理化が,後述するような資金調達力の弱さ,経営力の弱さ,技術水準の低さなどから阻害され,倒産に至る事例もみられるが,ここでは,後者の事例についてみることとする。
 こうした事例は,建設業,機械などの下請的色彩の強い労働集約的業種に多くみられ,一般的に,労務管理の改善の遅れによる技術者,労務者の確保難から,品質の低下による返品の増大や生産計画にそごをきたし,売上げ・受注の不振をまねき倒産するといった形態が多かった。以下に事例について具体的にみることとする。

(a) 技術者不足から品質の低下をきたし,返品の増大から倒産をまねいた事例(バックフィルター製造業,ステンレス加工業)

 量産体制の確立による大型機械の続出から,バックフィルター(集塵装置)も大型のものの需要が増大したため,多額の設備投資を行ない,大型バックフィルターの製造に着手した。しかし,労務管理の改善の遅れや工場が遠隔地にあったことなどから優秀な技術者の確保が困難となり,技術的な問題が多く返品の増大がつづいた。このため,その補修に追われ,新規の注文も獲得できず採算の悪化をまねき,これが設備投資による借入金の増大とあいまって,資金繰りの悪化を強め,倒算に至った。

(b) 従業員の離散から生産計画にぞごをきたし倒産した事例(建設業)

 過度競争の激化による取引条件の悪化から,収益性の低下を強めているなかで,経営者のワンマン的性格から労務管理の配慮が不十分であったため,従業員の土気の沈滞から離散が多く,新規の雇用も困難であったため,工事計画にそごをきたし,工事の遅滞から受注が大幅に削減され倒産に至った。

4)技術水準の低さ

 中小企業の技術水準の低さは,技術者の確保難,資金調達力の弱さによる近代化,合理化投資あるいは試験研究設備の不十分などに起因しているところが大きいと考えられる。
 倒産事例をみると,資金調達力の弱さが倒産の基本的要件となり,技術者の確保難が,これに相乗的作用を及ぼしている事例が多いようである。とくに玩具,家具製造業などといった流行のはげしい業種では,技術者不足による技術水準の低さを主因に倒産に至る事例が多い。以下,事例について具体的にみることとする。

 技術水準の低さが売上の不振をまねき倒産した事例(一般家具製造業)

 大量生産方式の確立による販売競争の激化から製品価格の引下げ競争が激しく,収益性の低下が著しかった。このため積極的に設備の近代化を図り,主力製品のタンス類から食器戸棚,鏡台等の生産にも着手したものの,経営者自身の技術能力の過信による労務管理の不徹底から技術者の離散がめだった。このため技術水準の低下をきたし,近代的設備の導入を図っても損失が大きく,これが品質の低下による返品の増大から出血販売も余儀なくされ,資金繰りの悪化を強めたことから倒産をまねいた。

5) 過小過多性

 中小企業の過小過多性による過度競争は,構造変動にともなう系列下請企業の再編成,市場性の広域化による新製品の進出などによって,さらに助長されている。
 倒産事例をみても,構造変動による環境の少ない分野での過度競争性を主因とする事例は比較的少なかったのに対して,構造変動による過度競争の激化から倒産に至った事例はきわめて多かった。ここでは前者の事例についてみることとする。
 このような事例は,手袋,工芸品などといった過少資本で家内労働力への依存度の高い業種にみられ,この倒産主因は,販売競争の激化から製品価格の引下げや手形の長期化などによって資金繰りが悪化し,さらに強まる親企業の製品価格の引下げ要求に応じきれず,発注の停止をうけたことに総じて求められた。以下に事例について具体的にみることにする。

 販売元の製品価格引下げの要求に応じきれず発注停止から倒産した事例(手袋製造業)

 経営者の経営態度が積極的であったことから,過度競争からの脱皮を図るべく設備の近代化を行ない,ビニール手袋から高級手袋への転換を図ったものの,性算管理の不徹底による損失の増大や過度競争による売上げの伸び悩み,さらに設備投資による資金の固定化,借入金の増大等が重なって採算,資金繰りの悪化をまねいていた。加えて販売元からは,輸出の不振を理由にビニール手袋に対する価格の引下げ要求が強まってきたが,コスト高をきたしているため,採算面から要求に応じきれず,このため発注の停止をうけて倒産に至った。

6) 経営力および資金調達力の弱さ

 経営力の弱さが,経営能力の不足に起因し,これが資金調達力を弱める要因となり,さらに資金調達力の弱さが優秀な人材確保を困難にして経営力の強化を図れないといった循環的な作用を示している。
 倒産事例をみても,一般的に,企業種にわたって両者の循環的作用による事例が多いようであるが,最近財務内容の悪化などの顕在化から資金調達力がさらに弱体化し,この面からの倒産事例もかなりみられる。とくに従来成長産業といわれていた建設業,金属製品,機械などで融通手形の活発を主因とする連鎖倒産が多かったことにもその一端がうかがえるのである。
 具体的にみると,ワンマン経営による公私を混同したずさんな事務および財務の管理から経営の計画性を欠き,設備投資も短期資金の流用や高利依存によって行なったり,また,採算を無視したシェアーの拡大から売掛金の増大をまねいたり,その必要資金を融手繰作でまかない,赤字の累積や融手先の倒産を主因に経営の行詰りをまねいたりする倒産形態が一般的であるようである。以下に事例について具体的にみることとする。

(a) ずさんな財務管理から資金不足をきたし倒産した事例(メリヤス製造業)

 経営者のワンマン的性格から,無理な借入れや短期資金の流用によって設備投資を行なったものの,需要の減退から売上げが減少し,設備投資による資金の固定化や経験のまったくない家族が経理を担当するといったずさんな財務管理から,赤字が累積し,運転資金不足が表面化した。このため,融手繰作や出血販売によって資金繰りを図ってきたが融手先の倒産から経営の行詰りを生じた。

(b) 過大な設備投資による運転資金の不足から倒産をまねいた事例(ポンプ製造,修理業)

 経営者の積極的な近代化,合理化意欲から大幅な設備投資を行なってきたが,運転資金による設備資金への流用が多かったこと,さらに積極的なシェアーの拡大から売掛金が増大し,その回収が困難になったことに加えて,金融機関の貸出態度が慎重になってきたことなどから運転資金不足が表面化した。このため必要資金を高利依存によってまかなってきたが,返済金の延滞から担保に入れていた機械設備が差押えられ倒産をまねいた。

(4) 以上みてきたように,中小企業の倒産が,38年秋以降急増を続け,40年にはいっても基調的な変化がみられず増勢を強めているなかで,経済構造の急速な変動による影響を主因に倒産に至る中小企業がかなりあることはいなめない事実である。しかし倒産事例によってみると,比較的企業経歴が浅く,経営の合理化,近代化の不徹底のまま業容の拡大を図ったため倒産をまねいているものも少なくない。
 したがって,構造変動の進展が強まっているなかで,これに適切に対応していくためには,経営上の問題点を十分認識し,一つ一つその問題を改善し,経営基盤の強化に努めることが期待され,政府としても早急に需要の喚起図るとともに,適応努力を助長するための諸政策を強力に推進する必要がある。

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