第7節 労働力事情の動向

 昭和39年末から生産の停滞,投資活動の沈静化など,全般的な景気後退がみられたが,金融引締めが緩和された40年にはいって,むしろ,その傾向が強まり,とくに中小企業において顕著である。生産面におけるこのような動きを反映して,これまできわめてひっ迫していた労働力需給関係も,学卒者を除く一般求人の激減,雇用の停滞ないし低下等「緩和」の現象がみられるようになったが,やはり基本的には,若年労働力を中心として労働力需給がひっ迫していることを反映して,従来の景気後退期とはかなり異なった様相を示している。
 すなわち,@業種によってある程度異なるものの,中小企業においては,依然として若年労働力を中心とする労働力不足が続いているが,一方では,雇用の停滞がみられること,A賃金の上昇率は,39年末以来鈍化してきたものの,それはきわめてゆるやかな鈍化であって,これまでの景気後退期に比べ,根強い上昇基調を続けていること,B不況による需要の減退,事業活動の停滞のなかにあって,上に述べたような労働力事情の変化がもたらされていることは,中小企業の経営基盤を一層不安定にしていること,などがあげられよう。
 以下これらの諸点を中心に,最近の中小企業に関連する労働力事情について,概観することとしたい。

1 全般的な労働力需給の動向

(1) 労働力需要の停滞

 1) 39年末からの景気沈滞,経営の悪化等により,労働力需要は減少するとともに,雇用労働者数の伸びも低下してきている。
 労働省「職業安定業務統計」によって,学卒を除く新規求人の動向をみると,第1-66図のとおり,金融引締当初は,32〜33年,36〜38年の引締めの場合よりむしろ増勢の鈍化は小さく,求人は比較的堅調であった。しかし,39年10月ごろに38年の水準を下まわってからは,急速に,しかも著しく減少してきており,いまだ回復のきざしがみられない。しかし,新規学卒者に対する求人動向は,第1-67図のとおり,40年まではきわめて堅調な動きを示している。なかでも高校卒に対する求人は堅調で,これは,求人において雇用難が著しい中学卒から,終戦後のベビーブームを反映して供給が増加している高校卒へ代替がみられたものといえよう。このような新規学卒者に対する堅調な求人は,その申込みが景気後退の影響があまりみられなかった39年なかばごろから始ったという事情もあるが,何といっても,新規学卒者が適応能力,賃金等の問題から,景気の後退等による求人減少の影響を最も受けにくいことを示しているものと考えられる。
 このことは,一般労働者に対する年令別の求人動向をみても同様であって,第1-68図のとおり,全体では著しく減少している一般求人のなかにあって,若年層に対する求人減少の割合は,相対的に小さい。
 2) 以上のような新規学卒者を除く,全般的な求人の減少を労働省「職業安定業務統計」によって産業別にみると,産業計では11.5%減であるが,そのなかでは,製造業が18.7%減と最も大きく,一方,卸小売業,金融保険不動産業など,第3次産業での求人は比較的堅調である。製造業のなかでは,鉄鋼,機械,電気機器など,38年末から39年にかけて雇用を拡大したが,現在,設備投資の沈滞を反映して,生産面で停滞している投資関連部門での減少が大きく,他方,繊維,衣服その他の繊維製品あるいは食料品など消費財関連部門での減少は,比較的小さい。これらの部門では,労働異動が比較的高く,その補充のための労働力需要がかなりあること,40年度の新規学卒者の採用が十分でなかったため,充足されなかった労働力需要もかなり残っていること等によるものと考えられる。

(2) 労働力供給の事情

 1) 不況下においても,労働力供給については,あまり大きな変化はみられない。そのうち,新規学卒者については,昨年に比べ,若干供給が増加している。とくに,高校卒業生は,戦後最大の就職者を数えており,その増加数は,進学率の上昇等により減少している中学卒業生における供給の減少数を上まわっている。
 2) 新規学卒者を除く一般求職者の動向については,第1-69図にみられるように,従来の景気後退期とは異なった動きを示している。32〜33年の場合は,金融引締めによる景気の後退と対応して求職が増加している。また,36〜38年の場合は,労働力事情も33年ごろとはかなり異なってきたため,求職の増勢は,かなり鈍化しているが,金融引締後ほどなく増加に転じている。
 しかし,今回の引締期においては,求職者数は39年を通じて約4%の減少を示し,40年にはいって若干増加しているものの,現在までのところ,求職者の増加は,ほとんどみられない。
 40年にはいって,製造業を中心として企業の中途採用の手控えが急速に強まり,離職者の再就職が次第に困難になったのに加え,鉄鋼,金属製品,機械関係工業等で,若干の人員整理が行なわれたこと等によって,求職者が増加したものと考えられる。しかし,その増加がきわめて軽徴にとどまっているのは,不況下にあっても,建設業,サービス業,および製造業のなかでは,繊維,衣服その他の繊維製品製造業などにおいて,依然として労働力不足がみられ,他方,離職者が必ずしも職業安定機関によらずに就職する場合も多かったためであろう。
 求職のこのような動きと関連して,失業者は,従来の不況期と比べ,現在までのところそれほど顕在化していない(第1-70図)。総理府統計局「労働力調査」によって完全失業者の動向をみても,40年4月以降漸増しているものの,上期平均では前年同期と変わらず,その水準はなお低いといえる。
 3) 求職者の増加または失業者の発生状況も,労働力の内容によって異なっている。労働省「年令別求人求職就職状況調査」によって求職動向をみると,全体では前年同期にくらベ3.5%減となっているが,35才以上の中高年層では,むしろ増加しており,とくに,51才以上の求職者は,対前年同月比10.5%増となっている(第1-71図)。

(3) 労働力需給関係の緩和とその実態

 1) 新規学卒を除く一般の求人求職状況をみると,第1-29表のとおり,求職倍率は39年の1.3から40年の1.6へと上昇し,年々傾向的に低下していた充足率も39年の15.6から18.6へと上昇した。しかし,このような需給関係は,一般労働者のなかでも若年労働者と中高年労働者とでは異なっている。19才以下の若年層では,求職倍率は39年10月の0.4から40年10月の0.6へとやや緩和したものの,依然求人が求職を大きく上まわり,需給がひっ迫していることは変わっていない。
 これに対し,35才以上の中高年層では,求職倍率が39年の1.9から40年10月の3.1へと上昇している。なかでも51才以上の層では6.3から12.6へと上昇し,現在の労働力需給の緩和が中高年齢層を中心とするものであることが認められる。
 2) 新規学卒者については,中学卒の需給関係は一層ひっ迫しており,高校卒においては,求人倍率が39年の4.0から40年は3.5へと下落した。しかし,学卒を除く一般労働者と比べ,学卒者における需給はひっ迫を続けている。また技能労働力に対する需給関係も,景気の停滞のため若干緩和しいてるが,依然としてひっ迫基調が続き,不足率は21.7%に達している。これを規模別にみると,第1-31表のとおり,技能労働力の不足は,近年近代化の要請が強い中小企業において一層著しく,業種別には,建設業における左官,大工,修理業における自動車整備工,製造業,なかでも衣服その他の繊維製品製造業における洋裁工,ミシン縫製工,各種機械製造業における機械工,板金工,製カン工,金属プレス工,溶接工,配管工等において,深刻である。

2 中小企業における労働力需給関係

(1) 中小企業の求人求職状況

 39年末から40年にかけての景気停滞を反映して,中小企業においても,労働力需要は減退している。このような動向を,公共職業安定機関を通ずる新規学卒者求人の動向によってみると,中小企業では,100人未満の層を中心として中学卒,高校卒に対する求人の減少が顕著である。このような状況は,40年においてもさらに求人増加を続けている大企業の動きと対照的であるとともに,前回景気後退期の37年における中小企業の動向よりも一層著しかった。かかる減少をもたらしたものとしては,今回の不況期において,中小企業の事業活動の停滞が著しかったこと,経営の窮迫化によって,これまでの労働力不足が解消されないにもかかわらず,新規採用をおこないえないものも生じていること等によるものと考えられる。ただ,このような中小企業における労働力需要の減退は,この数年間,若年労働力需給がひっ迫基調を続けているため,とくに中小企業において,本来必要な労働力以上に増大していた求人がこのような景気後退を反映して急速に収縮したこともある程度影響しているものと考えられる。
 一方,このような需要の充足状況についてみると,中小企業においては,需要の減退によって充足率が若干上昇しているが,依然として大企業よりもかなり低い水準にあり,若年労働力確保難は,それほど緩和されていない(第1-33表)。

(2) 中小企業における雇用の停滞

 1) 全産業における雇用労働者数の伸び率は,35年ごろをピークとして傾向的に低下してきている。
 また,雇用の増加率は,景気の循環に対応して伸縮しているが,従来,好況期では大企業を中心として雇用が拡大し,不況期には大企業の雇用は鈍化し,一方,中小企業はそれほど鈍化せず,そのまま次の好況期に移るというのが過去2回の景気後退期における循環形態であった。ところが今回の景気調整期における動向をみると,第1-72図および第1-73図のとおり,これまでの景気後退期と異なって,中小企業の雇用は,大企業の動きと同様の鈍化を示している。とくに,製造業においてこの傾向が明瞭にあらわれており,その伸び率は,大企業のそれを下まわることとなっている。
 2) つぎに,各部門別の雇用の動向をみると,第1-72図および第1-73図に示すとおり,サービス業,食料品製造業,化学工業等においては,景気の後退の影響が比較的小さいため,雇用の伸びはあまり鈍化していないのに比べ,鉄鋼業,金属製品製造業,電気機器製造業等においては,景況の停滞を反映して,雇用の伸びが大きく鈍化している。
 そのほか,繊維,衣服製造業等においても雇用の減少が認められるが,これは,これらの業種における労働異動の割合が高く,しかも,企業の雇用吸収力が弱いこと等により,景気後退期での雇用減退が強くなっているものと考えられ,さきに述べた各業種においても,規模の小さいものについては,ある程度同様の事情が反映されているものと考えられる。

(3) 雇用の停滞下における労働力不足

 1) 以上のように,中小企業の雇用は,景況の動向を反映して,停滞を示した。しかしながら,他面,中小企業のなかには依然として労働力不足を訴えるものが多い。すなわち,中小企業庁「中小企業労働問題実態調査」(40年12月調査)によってみると,第1-74図のとおり,規模の小さいものほど労働力が不足とするものの比重が大きく,とくに,10〜29人の小規模層では約53%にも達している。一方,労働力が過剰であるとするものの割合は,規模の大きいものほど大きく,大企業では,約10%を占めているが,中小企業では,約5%と非常に少ない。さらに,不況の浸透とともに親企業からの受注を削減され,生産の停滞が最も著しくあらわれている下請企業においてすら第1-34表のように,100人以下の中小企業を中心として,労働力不足の状態にある企業の比重が大きい。
 2) 業種別には,第1-75図にみられるように,繊維,衣服その他の繊維製品,木材,家具,出版印刷をはじめとする軽工業において,労働力不足が顕者である。
 繊維,衣服その他の繊維製品製造業の場合,規模の大小を問わず,労働力不足とするものの割合がとくに高いが,これは,若年女子労働力という特定の労働力に依存しているためであろう。
 機械金属,化学工業においては,大企業と中小企業で労働力過不足の状態がかなり異なっている。化学工業の大企業については,資本装備率がきわめて高く,もともと雇用係数も小さいので,景況の変化によって労働力の不足がそれほど明確にあらわれてこないため,「適当な」状態にある企業の割合が最も多い。ところが,化学工業の中小企業では,比較的労働集約的であり,技能工を中心として依然労働力不足の状態にあるものが多い。一方,機械金属工業においては,大企業では生産および投資の沈滞を反映してかなり労働力が過剰となったものがみうけられ,現在なお労働力不足であるものは約3割にすぎない。しかし,中小企業については,ほぼ2分の1のものが労働力不足であるとしており,規模が小さくなるほどこの傾向は著しい(第1-76図)。この労働力不足の実態は,第1-35表において一層明らかである。これは,労働力不足の内容が昨年に比べて一層不足したのか,同じ程度なのか,昨年より緩和したがなお不足であるのかをあらわしたものであるが,これによると,規模の小さい企業ほど昨年より一層不足となったものが多く,昨年より緩和したとするものの割合は小さくなっている。この傾向は,とくに,繊維をはじめ衣服その他の繊維製品
,木材,石油・石炭,ゴム,電気機器などにおいて著しい。
 3) 小規模企業において,雇用の停滞と労働力不足の状況がとくに著しいことは,すでにみてきたとおりであるが,第1-77図においても,その状況が明らかにされている。
 このような状態は,入職の停滞,労働者の企業外流出での増大等によるものと考えられる。
 中小企業において,労働力不足を感じながらも,その必要な労働力を雇用し,維持していくことが思うにまかせないことは,雇用の拡大を続けてきた大企業と対照的であり,中小企業における雇用の拡大が,不況下の現在では,経営の窮迫から制約されていることを意味する。労働力需給が一般的には緩和している現在においても,第1-35表のように,中小企業の一部では,労働力不足が一層著しくなったという,一見矛盾した動きについても,中小企業,とくに零細規模層においては,その希望する条件では,労働力不足の補てんが困難となってきていることによるものといえよう。

(3) 労働力事情と中小企業経営

 1) さて,今まで述べてきたような労働力不足に対して,中小企業者は,種々の対策を講じており,また,今後講じようとしている。しかし,「これまでに何らかの対策を講じた」ものの割合は,規模が小さくなるほど小さくなっており,労働力不足を訴えている中小企業,とくに小規模企業において今後への課題を残すきわめて大きな問題であろう(第1-36表)。
 労働力不足対策は「求人条件の改善策」,「労働力の給源の転換策」および「その他の対策」に分けられるが,最も多くとられている対策は,「求人条件の改善策」で,次いで「その他の対策」が多く,「労働力給源の転換策」は最も少ない。「求人条件の改善」については,これまで「賃金の引上げ」,「労働時間の短縮,作業環境の整備などの労働条件の改善」に最も重点がおかれている。これらの対策は,9人以下の小規模層では今後とも重点項目となっているのに比べ,30人以上の層では「福利厚生施設の充実」に重点が変わってきていることが注目される。これは,後述するように,若年層に関してはほとんど賃金格差がみられなくなったのに対し,福利厚生施設は,これまでに比べて改善され,その格差は縮小したというものの,なお大きな差が存在することへの対応であろう。
 「その他の対策」のなかでは,「機械化などによる労働力の節約」の比重が圧倒的に高く,つぎに「下請外注」があげられており,下請企業が一種の雇用調整の役割を営んでいることを示している。「機械化などによる労働節約投資」は,品種が多様であったり,業種の性格上,生産ロットがまとまらないこと,さらに資金面などの障害もあって,必ずしも簡単に進められるものではないが,これまでに,労働節約の効果もある程度あがってきているものと考えられる。
 第1-38表は,中小企業において,単なる生産能力の量的拡大を図ることではなく,労働節約を意図した設備投資の比重が比較的大きいことを示しており,また,37〜8年ごろに労働節約的投資に重点をおいたものほど,現在労働力不足の程度が小さくなっていることを示している。また,今後の対策について,従来に比べ,配置転換,職業教育,職業訓練など,従業員の質の向上を図り,労働力の有効活用を図ろうとする動きがみられる。
 最後に,「労働力給源の転換策」について述べると,中小企業では,若年労働力の不足に対処して,中高年齢層に給源を転換している例がかなり多くみられるが,大企業では,その比重は非常に低く,むしろ重工業を中心として,「臨時雇いの採用」をあげているものがかなりみられる。
 2) 以上にみてきた労働力の不足対策のうち,とくに基本的なものの一つとなっている賃金,福利厚生費等の引上げについて,その動向をみることとしよう。
 39年の賃金(定期給与)を,労働省「毎月勤労統計」によってみると,39年の秋ごろまで,生産の順調な伸びにささえられて,前年同月の約12%増という堅調な動きを示したが,39年後半から伸び率はゆるやか鈍化を示し,40年10月では対前年同月比8.4%増にまで低下している。
 このような景気後退期における賃金上昇の鈍化は,おおむね景況の変動と対応しているが,前回の景気後退期ほどではないものの,所定外労働時間の縮小による超過勤務手当の減少もかなり影響しているものと思われる。また,その影響は第1-78図にみられるとおり,中小企業に比べ,とくに大企業において大きいと思われる。
 しかし,電気機械をはじめとして,前年の賃金水準を下まわるような事例がかなりみられた前々回(32〜33年)の減退に比べ,労働力事情の基調的な変化を反映して,前回(36〜37年)および今回(39〜40年)の不況期においては,最も鈍化した時でさえ伸び率はなお高く,今回の不況期においては,とくにその傾向が明らかになっている(第1-79図)。
 規模別の賃金の動向は第1-80図のとおり,規模の小さくなるほど賃金の上昇が著しいという傾向がここ数年を通じてみられ,規模別賃金格差の縮小がもたらされてきたが,38年の景気回復期ごろからしだいに中小企業の賃金上昇は鈍化し,最近では,大企業と中小企業との賃金上昇率の差は,従来ほど大きくなくなっている。しかし,なお規模別賃金格差そのものはかなり大きく,その縮小のテンポが弱まってきていることは,今後の中小企業における大きな問題であろう(第1-81図)。
 34年ごろから大企業が,新規学卒者を中心とする若年労働者を大量に吸収するようになって,中小企業には著しい労働力不足がもたらされ,中小企業は,新規学卒者の初任給の引上げ等,若年労働者の賃金を引き上げることによってこれに対処してきており,これが,賃金格差の縮小をもたらしてきたことの大きな原因の一つであった。
 しかし,新規学卒者の初任給の格差は,第1-39表のとおり,37年ごろからほぼ解消されてきており,また,一般の若年労働者の賃金格差についてもほぼ同様の事情が認められる。このため,これらの賃金の上昇率も,大企業と中小企業とで大きな相違はなくなり,賃金一般の格差縮小がこの面からもたらされる程度も小さくなっている。また,これまで,中小企業と大企業との間における雇用吸収力の差が大きいこと,労働力需要が若年労働力に集中していることなどにより,中小企業では若年労働力採用が困難となって,第1-82図に示すように,中小企業の年齢構成が老齢化し,一方,大企業では,相対的に賃金の低い若年労働力の比重が高まって,平均賃金の格差が縮小された面も大きいが,最近においては,大企業へ若年労働力が集中し,中小企業への就職割合が減少する速度がかなりおちているため,この面からの賃金格差縮小の速度も低下している。
 さらに,第2章第1節で述べるように,最近の不況のもとにおいて,中小企業の経営がきわめて窮迫しているため,賃金上昇への対応が困難になってきていることも,このような格差縮小の鈍化がもたらされている要因の1つであると考えられ,中小企業においては,早急に,近代化,合理化を進め,このような状況に対応して行くことを強く要請されているといえよう。
 3) 中小企業の人手不足対策として,求人条件の向上が最も努力されているが,そのなかでは,賃金の引上げとならんで,福利厚生施設の拡充が最も重要のものの一つとなっている。すでにみたように,最近,中高年齢層への求人が中小企業を中心として進められているが,その際,最も大きなあい路となっているのは,「住宅」の問題と考えられ,東京商工会議所「中高年労働者採用会社における採用の実態調査」(39年10月)においても,住宅問題の改善が進めば,中高年労働者を雇用するという企業が21.6%に達している。
 このような住居施設をはじめ,福利施設の充実は,企業における労働力の確保において,重要な問題となっている。
 まず,第1-40表によって規模別福利施設の設置率をみると,規模が小さくなるにしたがって設置率が低下している。教養娯楽施設,慶弔見舞金制度などについては,規模による差はほとんどみられないが,住居,食事,診療施設などについては,かなり大きな差が認められよう。
 中小企業において設置率の高い教養娯楽費の内容は,主として慰安旅行,各種のサークル活動等の援助費であり,慶弔見舞金制度,貸付金制度等とともに中小企業にとって簡易な福利厚生であり,また,労働者との親睦を図り,労働者の定着を図ることが中小企業の労務管理の重要な一環を構成していることを示すものと考えられる。
 労働力需給のひっ迫化が進むにつれて,36,37年ごろから,中小企業における福利厚生費は次第に充実し,一方,大企業では,委託形式をとったり,施設の利用にあたって,労働者から利用料金等を徴収するなどによって,むしろ伸び悩みの傾向もみられたので,これまで賃金格差以上の開きが見られた福利厚生費の規模間格差は縮小し,ほぼ賃金格差と同水準になるにいたった。なかでも,中小企業の法定外福利費はかなりの充実を示しており,これまできわめて低い状態にあった中小企業の住居施設,食事施設も急速に改善されているが,前述したとおり,教養娯楽費,慶弔見舞金等の支出が,福利厚生費の増加のなかで大きな比重を占めていることは,まだまだ中小企業の福利厚生費の水準が低いこととともに,問題を残しているといえよう(第1-41表)。
 なお,近年求人難を打開するため,中小企業者の共同による福利厚生施設,なかでも食事,住宅関係における充実が要請されているが,第1-42表に示されているとおり給食施設,診療施設等はともかく,住宅施設の充実はそれほど進展していないことは問題であろう。
 中小企業においては,以上のような労働力事情に対応し,賃金の上昇,福利厚生の充実を一層進めて行くことが要請されている。しかし,反面においては,中小企業経営における負担が増加してきていることも大きな問題であって,第1-83図および第1-84図に示すとおり,人件費比率,労働分配率の上昇がもたらされ,中小企業の収益性低下の大きな要因の一つとなっている。中小企業においては,このような問題を解決し,一層適切な対応を図って行くために,基本的には近代化を推進し,生産性の向上に努めるとともに,既存の労働力の有効活用等を進めることが必要となっている。

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