第6節 経営の動向

1 収益力の低下

(1) 総資本利益率の推移

 1) 一般的な不況の進展に伴って,中小企業の収益力は,低下してきており,38年度の回復期において,顕著な向上を見せなかっただけに,39年度に至って一段の低下を見せたことは,中小企業経営を圧迫する大きな要因となっている。中小企業の総資本利益率の推移をみると,景気が回復した33年度下期以降,35年度下期まで急速な上昇を示したが,36年度下期に大幅な低下を示した後,39年度上期までほぼ横ばいに推移し,とくに,不況が進展した39年度下期は,上期の5.6%から4.3%へとさらに大幅な下落を示した。
 これに対して,大企業の総資本利益率は,34年度下期以降比較的なだらかな下落傾向を示しており,39年度においても,上期の3.5%から下期の3.3%へ若干の低下を示したにすぎない。そのため,大企業と中小企業の総資本利益率の差は,39年度上期の2.1%から下期は1%へと縮小した。
 中小企業の総資本利益率が大企業のそれよりも高い水準にあるのは,後で述べるように,主として,中小企業の総資本回転率が労働集約的な企業形態を反映して,資本集約度の高い大企業のそれに比べ,かなり高いということに基づくものである。したがって,以上のような総資本利益率の水準の差だけをもって,中小企業の収益力が大企業のそれよりも高いと判断することは,必ずしもできないことに注意する必要がある。
 2) 総資本利益率は,景気の変動に対応して大きく変化するが,今回の景気調整期においても,事業活動の不振を反映して下落した。
 景気調整期における1期当たりの総資本利益率の低下の幅が,中小企業においては,前々回1.30%,前回0.77%,今回0.70%であるのに対し,大企業においては,前々回0.98%,前回0.37%,今回0.35%となっており,大企業よりも中小企業の方が不況の影響を強く受けていることがわかる。
 以上のように,前々回,前回の景気調整期に比べて,今回は,大企業,中小企業とも,総資本利益率の下落の幅が小さくなっている。
 しかしながら,この期間における総資本利益率の低下が企業経営にもたらした影響は,前回に増して大きなものであったといわなければならない。
 第1-23表にみられるように,前々回の引締緩和期においては,企業の総資本利益率は,1期当たり平均0.73%の上昇を示し,高度成長過程を通じて,高水準に推移した。しかし,前回の引締緩和期において,中小企業の総資本利益率は,1期当たり平均0.10%の増加と非常にわずかな回復を示したにすぎず,その後で今回の景気調整が行なわれ,一段の総資本利益率の低下がもたらされたため,自己資本の過少等企業の経営体質のぜい弱さと相まって,企業経営は,前回以上に困難な局面にたたされている。
 3) 総資本利益率は,売上高純利益率と総資本回転率の積である。そこで,この2つの動きによって,総資本利益率低下の要因をさぐってみることにしよう。
 (a) まず,売上高純利益率からみてみよう。中小企業の売上高純利益率は,39年度上期2.7%(対前期比3.6%減)下期2.2%(対前期比18.5%減)と,不況の浸透度合の深まった下期において,とくに大きな下落を示した。これに対して大企業は,上期3.1%(対前期比8.8%減),下期2.9%(対前期比6.5%減)となっており,むしろ下期の下落幅が小さくなっている。
 以上のような売上高純利益率の低下は,単に39年度においてみられるだけでなく,ここ数年来の傾向となっている。ちなみに,32年以降,売上高純利益率の最も高かった35年度下期から38年度下期にかけての下落率をみると,中小企業は,3.5%から2.2%へ37.1%の減少,大企業は,4.2%から2.9%へ31.0%の減少を示している。また,39年度下期について対前年度同期比増減率をみても,中小企業は21.4%減,大企業は14.7%減で,やはり中小企業の方が減少度合が大きい。
 後に述べるように,長期的にみて,資本装備率の上昇等から生産性は増加する傾向にあるが,それでは,生産性が上昇しながらも,なぜ売上高純利益率が傾向的に低下したのであろうか,その原因について考えてみよう。売上高純利益率は,つぎの式のように,附加価値率と附加価値の利益分配率との積である。
 売上高純利益率=付加価値/売上高×純利益/付加価値
 付加価値率は,第1-24表のとおり,大企業が停滞的な動きを示しているのに対し,中小企業の場合は,傾向的に上昇している。この理由としては,中小企業では,労働集約的な形態をとるものが多く,人件費,その他の費用の上昇を生産性の向上によって吸収できないため価格が上昇していること,他方,製造業にみられるように,生産技術の進歩による原材料の歩留り向上,あるいは卸売物価にみられるような材料価格の相対的停滞等から,原材料費比率が傾向的に低下していること等が考えられよう。
 このような付加価値率の上昇傾向のもとで,利益分配率は,中小企業の場合は,36年度の14.7%から39年度10.2%へ30.6%の減少を示したのに対し,大企業は,18.0%から15.5%へ13.9%の減少を示した。このように利益分配率が下落することは,反面においては,労働分配率,資本費分配率等の上昇を意味している。
 利益分配率の減少度合は,先にみたように,中小企業の方が大きいが,その原因としては,中小企業の場合は,労働分配率の増加が,大企業の場合は,資本費分配率の増加が,それぞれ最も大きい。
 つぎに,労働分配率をみると,大企業の2.3%増に対して,中小企業の場合は,7.2%増となっており,労働力需給のひっ迫による人件費の上昇が収益力に与えた影響は,中小企業においてより大きかったといえよう。
 また資本費の増加率は,中小企業,大企業ともに大きく,設備投資過剰,自己資本の不足等による財務構造のひずみが,企業の収益力を圧迫する一つの局面をここにみることができる。
 以上のような事情によって,売上高純利益率は下落し,これが総資本利益率の低下に大きく貢献することとなっている。
 (b) つぎに,総資本利益率のもう一つの要因である総資本回転率についてみよう。
 中小企業の総資本回転率は,37年度下期以降,39年度上期まで2.1回と横ばいに推移したが,39年度下期になって2.0回に下落した。他方,大企業は,38年度の景気回復期において,上期1.1回から下期1.2回に増大し,39年度上期は横ばいに推移したが,39年度下期は1.1回に低下した。
 このように総資本回転率は,中小企業,大企業とも39年度下期に下落をみせたが,これは企業間信用の膨張や売上高の停滞等によってもたらされたものと考えられよう。
 そこで,総資本回転率を次式のように,従業員1人当たり売上高と資本集約度に分解して,その鈍化の要因をさぐってみよう。

 総資本回転率=売上高/従業員数÷総資本/従業員数

 第1-25表にみられるように,従業員1人当たり売上高および資本集約度は中小企業,大企業ともにかなりの上昇をみせたが,資本集約度の上昇が従業員1人当たり売上高のそれを上まわった結果,若干ではあるが,総資本回転率が低下する結果となった。
 以上述べた状況から,総資本回転率は低下をみせているが,その動きは比較的安定的であり,総資本利益率の低下に対する貢献度は,比較的低くなっている。
 ここ数年来の大幅な設備投資によって,需要を上まわる過剰供給能力が形成され,固定資産回転率が低下したこと,他方,それによって固定費の増大,損益分岐点の上昇がもたらされ,利益を確保するため販売拡大の圧力が強く働き,その手段として,売上債権の急激な増加がもたらされたことなどの要因がこれに強く働いていると考えられよう。

(2) 損益分岐点による収益率の推移

 1)収益性の状況について,もう少し角度を変えて損益分岐点から検討してみよう。
 損益分岐点とは,収益と費用がちょう度等しくなる売上高水準のことであり,売上高が損益分岐点を上まわれば利益が生じ,下まわれば損失が生じる。総資本利益率は,さきにみたように,中小企業の方が大企業より高い水準にあった。大企業では,資本集約的な生産形態をとるものが多いため,相対的に総資本利益率が低いという結果になりやすい。しかし,そのことによって,大企業の方が中小企業よりも収益力が劣るということは,一概にいえるわけではなく,もっと違った面からも分析してみる必要があろう。損益分岐点は,企業の損益構造から本質的に定まるものであって,損益分岐点から企業の収益力をながめた場合には,総資本利益率の場合とは異なった結果がみられることが十分考えられる。なお,損益分岐点は資料の制約上大まかに算出したが,大企業と中小企業の格差あるいは業種別の動向を把握するについては,あまり支障ないものと思われる。
 2) 損益分岐点は,変動費比率と固定費によって決定される。そこでまず,損益分岐点の変動要素である変動費および固定費について,売上高に対する比率をみよう。中小企業,大企業とも,変動費比率が傾向的に低下しており,固定費は,中小企業の場合傾向的に上昇し,大企業の場合はほぼ横ばいに推移している。
 中小企業の変動費比率は,32年度上期の82.8%から39年度下期の79.4%へ4.1%減,大企業では,同じ期間に81.9%から80.2%へ2.1%減とそれぞれ小幅な減少を示した。他方,固定費比率についてみると,中小企業では,同じ期間に14.7%から18.5%へ25.8%増,大企業では14.6%から16.9%へ15.8%の増加を示したために,中小企業と大企業の固定費比率の差は,32年度上期の0.1%から39年度下期には,1.6%へと増大した。
 このような変動費比率の漸減傾向は,主として資本装備率の上昇あるいは生産技術の進歩,原材料価格の停滞等によってもたらされたものと考えられるが,これに対して固定費の増加は,管理販売部門の人件費の上昇,活発な設備投資からくる資本費の上昇等によってもたらされたものと考えられる。とくに,中小企業における固定費比率の増加は著しく,38年上期あたりまでは傾向的に大企業のそれを下まわっていたのが,38年度上期を境として,ほとんど傾向的に上まわるようになってきた。しかも,39年度下期においては著しい上昇を示している。これによってみても,固定費の増大は,大企業よりも中小企業においてより大きな経営圧迫要因となっているといえよう。
 3) つぎに,損益分岐点の売上高に対する比率をみてみよう。
 損益分岐点比率が低いほど,企業経営は弾力性に富み,かつまた,安全性が高いといえるが,一般的にみて,損益分岐点比率は不況期に上昇し,好況期に低下する。そこで,過去の不況期と対比して損益分岐点比率の推移をみると,第1-26表のようになる。
 以上のように,不況期における損益分岐点比率の上昇の度合は,中小企業の方がはるかに大きく市場における価値実現力の格差が明瞭にみられる。
 しかしながら,不況期における損益分岐点比率の上昇の幅は,逐次減少してきている。これは第1-26表にみられるように,損益分岐点比率が傾向的に上昇しており,景気回復期における損益分岐点比率の回復力が弱まってきていることによるところが大きいものと思われる。
 それでは,なぜ景気回復期における損益分岐点比率の回復力が弱まったのであろうか。それについては,回復期における売上高の増加率が鈍化してきているという需要面の要因と,他方では,固定費の増大傾向が変動費比率の漸減傾向よりも大きいという費用構造面の2つの要因が強く影響しているからであると考えられる。
4) 損益分岐点が低いほど経営が安定しており,また,概して収益力も高いが,収益力を総合的に判断するため,次式のような収益率を算定してみよう。
 損益分岐点による収益率=売上高純利益率×安全率
 中小企業の損益分岐点による収益率は,39年度にはいってさらに減少し,とくに,下期には上期の36.7%から22.4%へ39%の大幅な下落を示した。これに対し大企業では,上期の45.9%から下期には41.8%へ8.9%の下落を示したにすぎない。
 損益分岐点による収益率は景況を反映して,大きく変化する。中小企業,大企業ともに,前回よりも今回の減少の幅が大きくなっており,とくに,中小企業の場合は,引締解除期にあたる38年度においても回復を示さず,39年度にはいって,さらに低い水準に落ち込んだ。36年度上期以降,損益分岐点による収益率は傾向的に低下してきており,39年度下期を36年度下期に比べると,中小企業は43.6%の大幅な下落を示したのに対して,大企業は43.6%と下落の程度が小さい。したがって,大企業と中小企業の格差比率(大企業=100)が36年度上期には91.2であったものが,39年下期には53.6となり格差は拡大した。

(3) 収益力の業種別動向

 金融引締めに伴う不況は,39年度後半以降,その浸透度合いが深まってきたが,39年度における収益力の業種別動向をみると,38年度に比べて収益力が低下したものは,中小企業の場合は15業種,大企業では11業種となっている。
 はじめに,中小企業の製造業についてみよう。重化学工業部門では,ほとんどの業種で38年度に比べ総資本利益率が低下をみせ,化学工業7.1%,金属製品製造業22.4%,機械製造業12.7%,電気機械器具製造業12.7%,輸送用機製造業6.1%とそれぞれ減少を示した。重化学工業部門においては下請企業の割合が高いが,大企業の生産調整による受注,売上げの停滞さらには販売激化による下請単価引下げが行なわれている例もかなりみられるところから,とくに不況の度合いが深まった39年度下期以降の収益力低下がかなり著しかったものと思われる。重化学工業部門では,鉄鋼業および非鉄金属製造業だけが,38年度に比べて総資本利益率が上昇しているが,これは,37年度の水準が0.9%と異常に低かっただけに,むしろそこからの回復途上にあるといったほうがよいと思われ,36年度の8.2%に比べれば,まだ低い水準にある。また,軽工業部門についてみると,38年度に比べ食料品製造業13.0%,繊維工業26.0%,衣服その他の繊維製品製造業40.8%,木材・木製品製造業35.2%,パルプ・紙・紙加工品製造業96.0%,出版・印刷・同関連産業29.9%,ゴム製品製造業15.1%,窯業土石製品製造業24.7%,その他の製造業20.3%とそれぞれ減少を示しており,概してその低下・BR> フ程度は,軽工業の方が高い。これらの業種では,売上高そのものは比較的堅調を示しているものが多いが,労働力不足による人件費の上昇,下請単価の引下げ(繊維工業および衣服・その他の繊維製品製造業),大企業の進出(出版・印刷・同関連産業),原材料費の上昇(木材・木製品製造業)等が収益力の圧迫要因となっている。
 そのほかでは,サービス業で対前年度比22.0%総資本利益率が低下しているが,ここでは人件費,資本費の増大が最も大きな収益力の圧迫要因となっている。
 中小企業で39年度に収益力の向上したものをみると,さきにあげた鉄鋼業および非鉄金属製造業のほかに建設業と卸売業があるが,それほど顕著な伸びを示してはいない。
 大企業の場合,39年度に収益力の低下した業種をみると,食料品製造業,繊維工業,パルプ・紙・紙加工品製造業,窯業・土石製品製造業,機械製造業,電気機械器具製造業,輸送用機械器具製造業,その他の製造業,卸売業,小売業,サービス業の11業種である。また,収益力の増加したものをみると,建設業,出版・印刷・同関連産業,化学工業,ゴム製品製造業,金属製品製造業の6業種で中小企業に比べてかなり多い。
 つぎに,やや長期的な視野に立って収益力の動向をみてみよう。
 一般的に,企業の収益力は,傾向的に低下しているが,前回引締期にあたる37年度以降,38年度の引締緩和期にも回復することなく,一貫して収益力が低下している業種をみると,中小企業では6業種,大企業では3業種となっている。それらについて総資本利益率の減少率をみると,中小企業の場合は,食料品製造業29.8%,出版・印刷・同関連産業42.7%,ゴム製品製造業44.6%,金属製品製造業42.2%,機械製造業47.6%,電気機械器具製造業58.3%となっており,大企業の場合は食料品製造業42.5%,機械製造業49.1%,電気機械器具製造業33.7%となっている。
 中小企業の場合は,軽工業と重化学工業とがあい半ばしているが,その収益力低下の大きな原因をなしているものは,人件費,資本費負担の増加あるいは競争激化に伴う販売費の増加等である。そのほかにも,出版・印刷・同関連産業における大企業の進出,金属製品製造業,機械製造業,電気機械器具製造業における下請単価の引下げや選別強化による受注減等も収益力の低下に大きな影響を与えているものと考えられる。大企業の場合,収益力低下の原因となっているものは資本費と販売費および一般管理費の増加である。また,販売競争の激化に伴う販売価格の低下も少なからぬ影響を与えているものと思われる。ただ,食料品製造業については,中小企業の場合と同様に人件費の上昇が最も大きな原因となっている。
 以上の業種についてみると,ほとんどのものが固定費の増加によって損益分岐点が傾向的に上昇しており,そのため損益分岐点による収益率が低下してきている。その減少率についてみると,中小企業では,食料品製造業16.7%,出版・印刷・同関連産業53.1%,ゴム製品製造業70.6%,金属製品製造業61.2%,機械製造業58.6%,電気機械器具製造業54.3%となっており,大企業の場合は食料品製造業25.7%,機械製造業57.7%,電気機械器具製造業54.3%となっている。食料品製造業と大企業の電気機械器具製造業を除き,その下落の程度は総資本利益率の下落の程度よりも大きくなっているが,その大きな原因は,総資本回転率がわずかの減少傾向をみせたのに対して,損益分岐点は,固定費の増大等から上昇の程度(したがってまた安全率の下落程度)がかなり大きかったことである。
 以上にのべたものは,37年度以降一貫して収益力が低下した業種であるが,逆に一貫して収益力が上昇している業種は皆無である。一般的には,好況期にあたる38年度に若干の回復をみせながら,傾向的に低下ないし横ばいに推移するものが多い。

2 財務内容の悪化

 企業の財務構造は,収益力にみられるように,景況の好不況に対応して著しく変化するというものではなく,むしろそれは長期的なすう勢として変化するという面をもっているので,財務内容の悪化については,年度ベースの資料をもとにしてみていくことにしたい。

(1) 財務構成の推移

 1) 資産および負債・資本構成(全産業)
 中小企業の財務構成の推移を第1-28表によってみると,まず目につくことは,長期的にみた場合,資産構成では固定資産の比率が上昇し,流動資産の比率が減少していることと,負債・資本構成では自己資本比率が減少していることである。昭和30年代の高度成長をささえた設備投資のめざましい増加は,必然的に固定資産比率の上昇をもたらし,資本調達面では,低い収益力とそれに伴う内部留保の不足から外部負債への依存度が増大した。そのため,高度成長の過程を通じて,むしろ,企業の財務構造は悪化し,不況に対する抵抗力が弱まった。このようなおお盛な設備投資による企業規模の拡大と所要資金の外部資金依存という企業ビヘイビヤーは,中小企業,大企業に限らず共通してみられるところである。そのような企業ビヘイビヤーは,いわば高度成長による高収益を前提としてはじめて許容されるものであって,経済成長率が鈍化する過程では,多くの困難な問題を生ずる結果になる。財務体質の弱さは,ひいては企業の成長力を制約し,大企業と中小企業の格差の拡大というような現象をもたらさざるをえない。
 このような企業体質の弱さが収益力の低下と相まって,企業の不況抵抗力を著しく弱め,企業倒産の増大をもたらすという結果になっている。それでは,つぎに資産構成および負債・資本構成について具体的にみてみよう。

(a) 資産構成の推移

 中小企業の流動資産の構成比率は,38年度の70.5%から39年度には71.2%へ1.0%増と若干の上昇をみせているが,これを長期的なすう勢でみるならば,32年度の74.0%から39年度までに3.8%の漸減傾向をみせている。38年度と39年度の対比においてみれば,大企業でも38年度の54.9%から39年度の55.6%へ1.3%の増加を示している。しかしながら,長期的なすう勢でみると大企業の場合は,32年度の53.3%から39年度までに4.3%の上昇を示しており,中小企業とは対象的な動きを示している。これは,主として固定資産の構成比率の推移の差によるものと思われる。固定資産の構成比率をみると,中小企業の場合,39年度は対前年度比1.7%と若干の減少を示したが,長期的にみれば32年度から39年度までに11.9%の増加を示しているのに対し,大企業では,39年度には対前年度比1.3%の減少をみせただけでなく,32年度から39年度までに5.2%減少している。このような差は,どのような理由によるものであろうか。第1に,固定資産額の増加はともに大きいが,大企業の場合,損益分岐点の上昇に伴う販売拡大の圧力が強く働いて,売上債権の増加率がより大きかったことによる。ちなみに,32年度から39年度までの売上債権の構成比率の増減率をみると,中小企業の
場合は3.2%の減少をみせたのに対し,大企業の場合は40.9%の大幅な増加を示している。
 第2に,現預金の構成比率の増加にみられるように,中小企業よりも大企業の方が流動性の改善の程度が大きいことである。現預金の構成比率の推移をみると,中小企業の場合は20.5%の増加であるのに対して,大企業は50.0%の著しい増加を示している。
 このような理由で,棚卸資産の減少は,大企業の方が大きかったにもかかわらず,流動資産の構成比率が大企業の場合には傾向的に増加するという結果になった。しかしながら,流動資産の構成比率の水準をみると,39年度では中小企業の71.2%に対して大企業55.6%となっており,かなり中小企業の方が大きい。その理由は,大企業の場合は,資本集約的な形態をとるものが圧倒的に多く,資本装備率にかなりの格差があることのほかに,中小企業の場合は,資金調達力の弱さからくる現預金固定化の度合が大きいこと,合理的な在庫管理の遅れからくる棚卸資産比率の高いこと等による。

(b) 負債・資本構成の推移

 38年度と39年度の対比で負債・資本構成をみるならば,中小企業の場合は,負債に対する依存度が若干の減少を示したのに対して,大企業の場合は上昇を示している。しかしながら,大企業,中小企業とも程度の差こそあれ,自己資本の構成比率がすう勢的に低下してきており,負債に対する依存度が高まっている。39年度に中小企業の負債依存度が微減を示したのは,景気調整期において外部資金の調達力が弱いために,結果的に自己資金に依存する割合が大きかったことが主たる原因であると考えられる。その意味では,一種のしわ寄せ現象と考えられるであろう。流動負債の構成比率をみると,中小企業では,38年度の75.1%から39年度は75.3%と横ばいに推移したのとほぼ同様に,大企業では,38年度の53.3%から54.3%へと1.9%の増加を示したにすぎない。つぎに,買入債務の構成比率についてみると,中小企業,大企業ともわずかな増加を示している。これに対して,金融機関借入金の構成比率をみると,中小企業が38年度の21.8%から39年度の18.5%へと15.1%の減少を示しているのに対して,大企業は1.1%と僅かな増加を示しており,ここにも中小企業と大企業の金融力の格差の一端をうかがうことができる。同様な傾向は固定負債についてもいえ・BR> 驍ェ,とくに,長期的なすう勢でみるならば,固定負債の構成比率が中小企業においては,32年度から39年度までの間に14.3%の増加を示したのに対して,大企業では,同じ期間に25.3%の増加を示しており,構成比率の水準の格差が拡大してきている。39年度についても,中小企業は金融引締めの影響もあって,固定負債比率は2.8%減少したのに対して,大企業では0.4%の微増を示している。自己資本の構成比率についてみると,大企業,中小企業とも傾向的に低下しており,その低下の程度は大企業の方が大きい。ちなみに,自己資本比率の低下の程度をみるならば,中小企業においては,32年度の17.2%から39年度の14.3%へ16.9%の減少であるのに対して,大企業では,32年度の30.5%から39年度の21.9%へ28.2%の大幅な減少を示している。しかしながら,自己資本比率そのものの水準を比較するならば,大企業の水準はなお中小企業のそれよりも高い水準にある。
 したがって,大企業の資本調達力を考慮に入れるならば,自己資本比率の低下は,中小企業にとってより大きな問題となっているといえよう。このような自己資本比率の低下は,高度成長の過程ではそれほど大きな問題とはならず,成長資金を外部資金によって調達するという企業ビヘイビアがある意味では妥当性をもっていたかも知れないが,不況期においては,その抵抗力を著しく弱めるという結果をもたらしている。

(2) 財務比率の推移

 以上にのべたような資産および負債・資本構成の推移が,企業の財務状況を示すいくつかの比率にどのような影響を与えているかをみてみよう。

1) 流動比率および当座比率

 中小企業の流動比率は,39年度には38年度に比べほぼ横ばいに推移しているが,長期的にみるならば,32年度から39年度までに6.7%の減少を示した。大企業では,39年度は対前年度比ほぼ横ばいに推移しており,32年度から39年度までにわずか3.1%減少したにすぎない。大企業と中小企業の流動比率を比べると,大企業のほうが依然として高い水準を示している。
 以上のように,流動比率は中小企業,大企業ともにゆるやかな減少傾向を示している。他方,当座比率についてみるならば,中小企業では,36年度をピークに一貫して下落しているのに対して,大企業では,傾向的な上昇を示している。当座比率について,32年度から39年度にかけての増加率をみるならば,中小企業においては,僅か0.3%の微増にとどまっているのに対して,大企業においては33.4%の上昇を示している。
 そのため,36年度までは傾向的に中小企業の当座比率の水準が大企業のそれを上まわっていたのに対して,37年度以降は逆転し,大企業の方が上まわっている。これは,大企業の方が売上債権の伸び率,現預金の伸び率ともに,中小企業のそれを大幅に上まわっていることによる。この面からみるならば,大企業の流動性の改善の程度が,中小企業のそれをかなり上まわっているといえよう。とくに,中小企業の現預金のうちで固定化しているものの割合が大企業のそれをはるかに上まわっていること,さらには,中小企業の売上債権のなかで長期に固定化している不良債権の比率が,大企業のそれを上まわっていると考えられることを考慮に入れるならば,企業の流動性をあらわす流動比率,当座比率の水準の差以上に実勢において大企業と中小企業の流動性の格差は,大きいものがあると考えられよう。

2) 固定比率および固定長期適合率

 固定比率および固定長期適合率は,固定資産に対する投資がどの程度長期資金によってまかなわれているかを示すものであり,いわば企業経営の安定度を示す指標であるといえよう。中小企業の固定比率は,38年度の202.8%から39年度は190.8%へと5.9%の減少を示しており,また固定長期適合率は,38年度の115.6%から39年度の114.4%へわずかな低下を示している。固定比率の低下は,固定資産比率の減少と自己資本比率の上昇によるものである。固定長期適合率の低下は,39年度において自己資本比率が微増を示したことのほかに,金融引締の影響で長期借入金の比率が減少したものの,固定資産の比率も減少したことが原因になっている。これに対して,大企業では,固定比率が38年度の193.7%から39年度には,200.6%へ3.6%の上昇を示しており,固定長期適合率は38年度の95.3%から39年度の96.1%へ0.8%の微増という推移を示している。これは,主として自己資本比率の減少によるものである。
 つぎに,もう少し観点を変えて,32年度から39年度にかけての長期的すう勢を追ってみることにしよう。

 中小企業 大企業
固定比率 24.7%増 31.8%増
固定長期適合比率 19.2%増 2.7%増

 以上にみられるように,固定比率の増加率は,中小企業と大企業でそれほど大きな開きがないのにもかかわらず,固定長期適合率では大きな開きがあり,経営の安定度は大企業の方がまさっているといえよう。これは,主として,長期資金の外部調達力の格差に起因するものと考えられる。

3) 負債比率

 負債比率は,自己資本に対する負債の比率を示しており,これもいわば経営の安定度を示す指標といえよう。中小企業の負債比率は,39年度において,自己資本比率の上昇を反映して若干上昇したが,長期的には,自己資本比率の低下を反映し,32年度から39年度にかけて23.6%の上昇を示している。これに対し大企業では,32年度以降,一貫した上昇をみせ,32年度から39年度にかけて,55.8%の著しい上昇を示している。それゆえ,この指標についてみるならば,中小企業よりも,大企業の方が悪化の度合いが大きいといえよう。しかしながら,問題はその水準の開きである。大企業の負債比率を100として,32年度には中小企業は211.8であったものが,39年度には,168.2に縮少したとはいえ,依然として,その水準の開きは大きい。そしてまた,中小企業と大企業の長期資金調達力の格差を考慮にいれるならば,中小企業の経営は,なお不安定の度合がかなり大きいといえよう。

(3) 財務比率の業種別動向

 1) 流動比率および当座比率

 39年度において流動比率,当座比率ともに低下した業種についてみると,中小企業の場合は,出版・印刷・同関連産業,鉄鋼業および非鉄金属製造業,金属製品製造業,機械製造業,輸送用機械器具製造業,その他の製造業,サービス業の7業種であるが,大企業の場合は,その他の製造業とサービス業の2業種であり,概して大企業の流動性向上が著しかったといえよう。
 中小企業では,重化学工業部門に属する業種のものが多く,それらの業種では,金融機関の選別強化が一部にみられたこともあって,買入債務に対する依存度が高まったが,とくに,39年度後半になってからの需要の減退,売上債権の長期化等によって資金繰りが苦しくなっている企業が多くなっている。ただ,中小企業の重化学工業部門では,化学工業と電気機械器具製造業において流動比率,当座比率ともに上昇しているが,電気機械器具製造業については,39年度後半になって受注売上の著しい停滞,下請再編成の強化,売上債権の長期化等から資金繰りの悪化する企業が増大している。
 中小企業の軽工業部門では,流動比率,当座比率ともに低下したのは,出版・印刷・同関連産業およびその他の製造業の2業種のみであり,一般的にいって,39年度についてみるならば,重化学工業部門に比べて,比較的流動性は高かったといえよう。
 中小企業のサービス業についてみれば,流動性は低下しているとはいえ,その内容をみると売上債権の回転率が増し,現預金の資産中に占める割合も増えていることからみて,資金繰りがそれほどひっ迫しているものとは考えられない。
 以上のような中小企業の動向に対して,大企業では,流動比率,当座比率がともに低下した業種はわずか上記の2業種のみであり,流動性が向上したものが圧倒的に多くなっている。
 大企業の流動性が高まったのは,主として販売拡大圧力からくる売上債権の増大によるものであるが,資金調達力が強いことを考慮にいれるならば,それほど資金繰りがひっ迫したとは考えられない。逆に,流動比率,当座比率ともに上昇している業種をみると,中小企業では建設業,食料品製造業,繊維工業,パルプ・紙・紙加工品製造業,化学工業,ゴム製品製造業,電気機械器具製造業の7業種であり,大企業では建設業,繊維工業,パルプ・紙・紙加工品製造業,出版・印刷・同関連産業,化学工業,ゴム製品製造業,窯業・土石製品製造業,鉄鋼業および非鉄金属製品製造業,金属製品製造業,電気機械器具製造業,小売業の11業種で,流動性の向上したものは,大企業の方が多い。

2) 固定比率および固定長期適合率

 39年度において,固定比率,固定長期適合率がともに悪化した業種をみると,中小企業では,出版・印刷・同関連産業,窯業・土石製品製造業,鉄鋼業および非鉄金属製造業,金属製品製造業,その他の製造業,卸売業,サービス業の7業種,大企業では,食料品製造業,化学工業,金属製品製造業,輸送用機械器具製造業,その他の製造業,卸売業,サービス業の同じく7業種となっている。
 これらの業種を中小企業についてみるならば,出版・印刷・同関連産業,窯業・土石製品製造業,金属製品製造業,サービス業においては39年度にはかなり活発な設備投資が行なわれたが,収益力が低下したため,自己資本の増加が固定資産の増加に追いつけず,また金融ひっ迫による長期借入金の調達困難から財務の安定性が悪化した。また,鉄鋼業および非鉄金属製造業,卸売業では設備投資はむしろ停滞したけれども,自己資本比率の低下,金融引締めの影響が大きく,財務の安定性が悪化した。
 これに対して大企業の場合は,中小企業に比べて自己資本比率の低下が最も大きな影響を与えており,金融要因はそれほど大きな作用を及ぼしてはいないといえよう。
 以上のものに対して,固定比率,固定長期適合率ともによくなった業種をみると,中小企業では,建設業,食料品製造業,木材・木製品製造業,化学工業,ゴム製品製造業,電気機械器具製造業,小売業の7業種,大企業では,建設業,パルプ・紙・紙加工品製造業,出版・印刷・同関連産業,鉄鋼業および非鉄金属製造業,電気機械器具製造業の5業種となっている。

 3) 負債比率

 中小企業の負債比率は,39年度に悪化したものと改善したものと相半ばしているが,大企業では,38年度に引き続き悪化するものが多かった。38年度,39年度を通じて負債比率の悪化した業種をみると,中小企業では,出版・印刷・同関連産業,鉄鋼業および非鉄金属製造業,金属製品製造業,機械製造業,その他の製造業の5業種であり,大企業では繊維工業,パルプ・紙・紙加工品製造業,鉄鋼業および非鉄金属製造業,金属製品製造業,機械製造業,電気機械器具製造業,輸送用機械器具製造業,卸売業および小売業の9業種で,重化学工業部門の業種に多くなっている。
 39年度についてみると,中小企業の場合,建設業,小売業,軽工業部門の多くのものならびに化学工業等,比較的受注,売上が順調に推移した業種で負債比率が改善をみせている。
 これらの業種は,概して38年度において収益力が高くなったか,あるいは収益性が低下しても水準自体が割合に高いものが多い。とくに,中小企業の場合は,外部資金調達力が大企業に比して劣るだけに,収益力の高さとそれに伴う内部蓄積力が負債比率に与える影響が大きいが,反面,金融引締めのシワ寄せを受けて,結果的に自己資金に対する依存度が高くなるという一面もあることを無視できない。それに対して大企業の場合は,資本集約度の急速な上昇とその豊かな資金調達力のため,外部資金に対する依存度が高くなるという企業ビヘイビヤーによって負債比率の悪化する業種が多い。

3 業種別経営動向

 さきにみたように,39年度においては,経営の悪化した業種が多かったが,39年度において,特徴的な動きを示した9業種について,その経営動向を追ってみることにしよう。

(1)建設業

 39年度は,オリンピックの年にあたったこともあって,建設需要は比較的堅調に推移し,中小企業の収益力は上昇した。ちなみに,総資本利益率の推移をみると,38年度の3.9%から39年度は4.3%へ増加した。その主な理由は,需要の堅調に支えられた総資本回転率の上昇である。しかしながら,人件費の上昇もあって,売上高純利益率は横ばいに推移したため,損益分岐点による収益率も同様の推移を示した。財務内容をみると,わずかながら改善のあとがみられる。すなわち,流動性が向上し,設備投資が顕著な増加をみせず,自己資本比率も増加したために,財務の安定性が改善された。しかしながら,自己資本比率が39年度で12.0%とかなり低く,不況抵抗力が弱まっているため,39年度後半以降,不況の浸透度合が深まるにつれて,企業倒産が増大した。
 大企業では,収益性は,38年度に比べ39年度はほぼ横ばいないしは若干悪化気味に推移した。これは,原材料費比率の上昇から売上高純利益率が減少したため,損益分岐点比率による収益率が下落したが,需要の堅調から総資本回転率がわずかながら増加したため,総資本利益率が若干上昇するという結果を示しているからである。しかし,財務内容は,わずかながら改善のあとがみられ,その経営内容を中小企業と比較するならば,収益力,財務内容ともにすぐれている。39年度にはいって,とくに,後半以降の大企業の中小企業分野への進出がみられるが,一般に,官公需関連の建設業,は比較的堅調な動きを示している。

(2) 繊維工業

 この業界における中小企業は下請企業が多いため,大企業の生産調整によるあおりを大きく受け,下請単価の引下げあるいは人件費の上昇等から収益力が悪化した。すなわち,39年度では人件費比率が対前年度比4.3%増,資本費が6.3%増と収益力低下に大きな影響を与えている。他方,大企業においても,39年度下期において,ナイロンを中心として過剰生産が表面化し,生産調整を行なっている。そのほか,綿スフ,絹・人絹の輸出停滞などの要因もあって,生産,売上げは不振を続け,販売競争の激化等から販売費が増加し,資本費も増加しているために収益力が低下した。
 財務内容についてみると,39年度には,中小企業,大企業ともに流動性は高くなっている。しかしながら,それは,売上債権の長期化,在庫の増加によるものであり,とくに,中小企業では,減産等による資金需要が強くなったことをみても,資金繰りがむしろ悪化したと考えられる。とくに,下請企業では,現金入金率の低下,受取手形サイトの長期化傾向がみられ,販売条件が悪化した。実需の不振,収益性の悪化のために,金融機関の融資の選別強化傾向がみられ,中小企業では,39年度において固定負債の比率が減少した。そのため,結果的に自己資金依存度が増大したのと,39年度の設備投資が減退したこともあって固定比率,固定長期適合率がわずかながら低下している。大企業では,自己資本比率が低下しており,負債比率,固定比率が悪化したが,設備投資が減退したのと固定負債の増加もあって,固定長期適合率はわずかながらよくなった。

(3) パルプ・紙・紙加工品製造業

 39年度の第1四半期まで好調を続けてきた生産も,第2四半期には頭打ち状態を示し,とくに,39年度後半以降,需要の停滞が強まるにつれて,市況も軟化してきたうえに,人件費および資本費の上昇が著しく,収益力は中小企業,大企業ともに減少した。しかし,その減少度合をみれば,中小企業の方が大きい。このような価格の下落とコスト高による採算の悪化に対処するため,一部に不況カルテルや調整規程による生産調整を実施しているものもあるほどである。
 中小企業では,自己資本比率が低下したため不況抵抗力が弱まった反面,固定負債の著しい増加によって,固定長期適合率が低下した。そのほか,流動性も若干ではあるが改善されたが,これも固定負債の増加による流動負債の減少に負うところが大きい。大企業の財務内容についても,ほぼ中小企業と同様の結果を示している。
 以上のような39年度の動向に対して,40年度にはいっても生産,価格等は関連業界の包装需要の停滞等から業況が低迷状態を続け,経営内容の悪化している企業が多くなっている。

(4) 窯業・土石製品製造業

 39年度を通じ,中小企業の生産は,比較的堅調に推移したが,一部に需給バランスがくずれたものがあったため,過度競争による値くずれをみせるものもあって,年央には価格が下落した。また,資材の値上がりから原材料費比率が上昇したこと等の要因のほかに,人件費率も上昇したため,収益力が低下した。
 これに対して大企業の場合は,建設投資の停滞から生産はほぼ横ばいで推移したが,価格が低迷状態を続けたため,売上原価率が上昇した。これに加えて資本費の上昇が著しく,収益性は前年度に比べてかなりの低下をみせた。
 財務内容についてみると,中小企業の場合は,自己資本比率の低下によって財務の安定性が低下したばかりでなく,売上債権の増加以上に買入債務に対する依存度が高まったために,流動性も低下した。大企業の場合は,自己資本比率が減少して,固定比率が悪化したが,自己資本の不足を固定負債の増加で補ったため,固定長期適合率が低下した。大企業では,売上債権の増加,在庫の増加が著しかったので,流動性は高くなった。
 以上のような39年度の動向に対して,40年にはいって,石こうボード,コンクリートブロック,ガラス製品などで過度競争が顕在化するなど,おおむね低調な推移を示しているほか,価格もわずかながら低落傾向を示していることもあって,経営が苦しくなった企業が多くなっている。

(5) 鉄鋼業および非鉄金属製造業

 中小企業の生産は,39年度の第3四半期あたりまでかなり伸びたため,収益力は改善をみせた。中小企業の総資本利益率をみると,39年度は38年度の2.2%から3.1%へ上昇したが,36年度の水準に比べれば,まだ著しく低い水準にある。大企業では38年度,39年度とも3.7%と横這いに推移した。
 以上のような収益性の増加にもかかわらず,中小企業の財務内容は悪化している。その大きな原因は,自己資本比率の低下および金融引締めの影響で長期借入金の調達が困難になったことである。そのため,流動性および安定性が低下しており,その程度は大企業よりも大きい。これに対して大企業では,39年度は流動性が若干増加したが,自己資本比率の低下により財務の安定性は悪化した。
 以上のような39年度の動向にもかかわらず,39年度第4四半期以降,生産,売上げの停滞が著しく,中小企業の比率の高い業種をみれば,過度競争および親企業の内製化で受注減の著しい銑鉄鋳物,輸出不振および代替品の進出により圧迫されているくぎ,関連産業の需要低迷で不振の著しい非鉄金属等,価格の低落,下請単価の引下げによりかなり経営は苦しくなってきている。

(6) 機械製造業

 中小企業では,大企業の生産,在庫調整等に基づく受注の減少から,過度競争による販売価格の低下が著しく,収益力低下の大きな原因となっている。
 39年度においては,附加価値率が低下しているが,これは,需要減退に伴う価格の低下が大きな圧迫要因になっているものと思われる。そのため,人件費や資本費の分配率が上昇し,反面,利益分配率が低下している。このような需要面での不振を反映して,39年度においては,総資本利益率が12.7%,損益分岐点による収益率25.0%とそれぞれかなりの低下を示している。大企業においても,設備投資の減退等から実需が伸び悩んだ反面,競争の激化から販売費等の固定費が増加し,収益力が低下している。
 財務内容についてみると,中小企業の場合は,売上債権の長期化,在庫の増加等から流動資産が増加したにもかかわらず,長期借入金の調達が困難なため,買入債務,短期借入金への依存度が高まって,財務の流動性が低下した。他方,自己資本比率の低下のために,固定比率,固定長期適合率,負債比率が悪化し,不況抵抗力が弱まった。大企業の財務内容をみると,売上債権が著しく増加しているために,当座比率が高まったが,棚卸資産が減少したため,流動比率は低下した。また,自己資本比率の低下によって,財務の安定性が低くなってきている。

(7) 電気機械器具製造業

 中小企業の生産は,39年度前半までは上昇傾向を続けていたが,後半以降,売上げの停滞が顕著になったため,収益力が低下した。とりわけ,下請企業においては親企業の生産調整による受注の減退,下請単価の引下げ,下請再編成のための選別発注等がかなりみられ,そのために経営が悪化するものが増えてきている。大企業においても,家庭用電気機械器具の需要停滞や設備投資の減退に伴う重電機械の受注減少から生産調整を行なうところが多いうえに,販売競争の激化による価格の低落等の収益力の圧迫要因が強く働いて,収益力が低下した。
 収益力の低下にもかかわらず,中小企業の財務内容は39年度は改善した。その主たる原因は金融引締めによって金融機関からの借入れが困難になり,自己資金に多く依存せざるをえなかったために,自己資本比率が増大し,固定負債や短期借入金の割合が低くなったことと,39年度の設備投資がかなり減退したため,固定資産の回転率が増加したことである。
 しかしながら,反面,売上債権の長期化,在庫の増加等,資金繰り圧迫要因もあったことを見のがすことができない。しかも,そのような圧迫要因は39年度後半以降,加速度的に増加した。
大企業の財務内容についてみても,39年度はほぼ改善をみせたが,中小企業に比べるとその程度は小さかった。それというのも,自己資本比率の減少のため負債比率が上昇したからである。しかしながら,自己資本比率の減少以上に固定資産比率が減少したこともあって,固定比率,固定長期適合率はよくなった。

(8) 小売業

 39年度後半になって消費需要の停滞傾向がみられ,売上げは前半堅調,後半停滞という動きを示した。
 このような売上高の推移を反映して,中小企業の収益力は横這いに推移した。卸売段階での競争激化や共同仕入れ,ボランタリーチェーン等の協業化,近代化が徐々に進展していることもあって,売上原価は若干減少してきているが,労働力不足よる人件費の上昇,金利負担の上昇,設備投資の増加による減価償却費負担の増加等から,売上高純利益率はほぼ横ばいに推移にした。しかしながら,損益分岐点比率は,固定費の増加にもかかわらず,売上原価率の減少による変動費比率の低下によって若干改善をみせたため,損益分岐点による収益率は若干増加した。
 39年度にはいって,大企業でも,売上げの停滞がみられ,売上原価率がわずかながら上昇したこと,金利負担が増大したこと等から収益性が悪化した。
 財務内容についてみると,中小企業では,39年度には改善されている。その主たる理由は,自己資本比率の増加,売上債権回転期間の短縮がみられたこと等である。反面,在庫は増加傾向にあり,その回転率は低下した。以上のような理由で,中小企業の財務内容は流動性,安定性とも高まっている。それに対して大企業では,売上債権の増加が著しかったため,流動性は高まったが,自己資本比率の低下により安定性は低下した。

(9) サービス業

 サービス価格は,39年度にはいって,やや騰勢は鈍化したものの,根強い上昇傾向を示し,需要も比較的堅調に推移したため,中小企業の売上高純利益率は対前年度比で10%上昇した。しかしながら,設備投資が高水準に推移し,固定資産の回転率がかなり低下したことによって総資本回転率が低下したため,総資本利益率は,逆に低下した。費用の面から見ると,人件費や資本費の上昇にもかかわらず,価格の上昇によってある程度それが吸収されたため,費用構成では固定費率,変動比率がそれぞれわずかながら低下し,損益分岐点は若干回復を示した。大企業の場合は,売上原価率が大幅に上昇したため,販売費および一般管理費比率が低下したにもかかわらず,売上高純利益率は減少を示した。そのほか,売上原価率の増加から損益分岐点が上昇しており,収益力は中小企業に比べて劣っている。その理由としては,大企業の場合は,資本集約的な形態をとるものが多く,それらのサービス価格は,中小企業の比率の高い対個人サービス料金ほどの値上りを示していないこと,設備能力が過剰気味で稼働率が低いこと等が考えられよう。
 以上のような収益力の推移を反映して,中小企業,大企業ともに財務比率は悪化しており,その主たる原因は,自己資本比率の減少に求められる。しかしながら,財務内容悪化の程度は,概して中小企業の方が軽微である。

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