第5節 金融の動向

1 資金の調達,運用状況

 (1) 中小企業の資金の調達,運用面の動向を,第1-48図を中心にみることとする。資金調達面からみた特色としては,第1に,外部資金の占める比重が大企業に比べて高いことであり,このことは,内部留保,増資等自己資本の調達力が大企業に比べ著しく弱いことを反映している。また,外部資金の内容をみると,安定的な長期借入金の比重が低く,不安定な買入債務への依存度が大きい。このため,金融引締めの過程では,買入債務が圧縮されること等により,金融引締期における中小企業の外部資金調達は,大企業に比べ,大きく縮小してきている。第2に,増資の比重をみると,中小企業の証券市場を通ずる資金調達がほとんど不可能であることから,大企業に比べ,著しく低くなっている。なお,引締過程では,むしろ,その比重が高まっているが,これは,外部資金による資金調達が大幅に低下することによる面が大きいであろう。
 つぎに,資金運用状況をみると,第1に,中小企業の固定資産への運用の比重は,大企業に比べ低いものの,漸次増加してきている。第2に,棚卸資産の比重は,大企業と大差がなく,また,引締過程では,製品在庫が相対的に増大する一方,原材料在庫が大幅に低下することにより,総体としての比重は,低下を示している。
 第3に,現・預金の比重は,中小企業の方が大きいものの,大企業の37年以来の増加傾向に対し,中小企業では,逆に低下傾向にあり,さらに,中小企業では,売上債権の比重が大企業に比べて高くなっている。
 このように,中小企業では,自己資金,長期借入金等の安定的な長期資金の調達力の弱さから,これらの資金で設備資金をまかない難い場合も多く,また,とくに金融引締下では,外部資金による資金調達の割合が縮小されている。
 (2)つぎに,今回(39年)の引締過程下における中小企業の資金調達,運用状況をみることとしよう(第1-15表参照)。
 1) 資金調達面では,外部資金の比重は,買入債務,短期借入金の減少により,ほとんどの業種で低下し,38年度の72.7%から39年度の64.2%へと落ち込んでいる。とくに,買入債務は,38年度の28.5%から,39年度の20.0%へと大幅に低下しており,前回(37年)の引締下において,36年度の24.8%から37年度の17.9%へと落ち込んだのに比べ,今回引締下の落込みは大きく,これは,資金繰りを圧迫する大きな要因となったものと思われる。これを業種別にみると,出版・印刷,窯業・土石製品を除き,ほとんどの業種で低下しており,とくに,ゴム製品,衣服・その他の繊維製品,繊維,食料品等軽工業関連業種において著しかった。
 借入金については,前回引締下の37年度において,36年度の38.1%から44.1%へと比重をむしろ増大させたのとは対照的に,今回引締下にあっては,38年度の37.0%から39年度の36.4%へと低下した。このような動きは,後に述べるように,主として民間中小企業専門金融機関の貸出動向に依存している。
 業種別にみると,借入金合計で低下を示したのは,窯業・土石製品,電気機械器具,ゴム製品,鉄鋼・非鉄金属,金属製品,パルプ・紙・紙加工品であり,衣服・その他の繊維品,繊維,化学,食料品等では増大を示した。もっとも,借入金の比重が増大したことは必ずしも借入金の増大を意味するものではなく,化学を除き,資金調達総額の大幅な落込みによって相対的な比重の増大を示したものであり,借入金の絶対額では,衣服・その他の繊維製品,繊維,食料品等においても,前年度に比べ減少している。
 借入金のうち,とりわけ,長期借入金の比重は,従来と同様,中小企業では,引締下において減少してきている。とくに,今回引締下で減少の著しかったのは,窯業・土石製品,ゴム製品,輸送用機械器具,金属製品,電気機械器具,機械等であり,化学,パルプ・紙・紙加工品等一部業種では増大した。
 増資,内部留保については,前回引締期同様,今回引締期の39年度においても,38年度よりその比重の増大を示しているが,これは,買入債務の大幅減少による相対的な比重の増大を示している面が少なくない。業種別にみると,増資については,ゴム製品,窯業・土石製品,鉄鋼・非鉄金属を除き,ほとんどの業種においてその比重を増大させているが,38年度に比べて絶対額の増大したのは,化学,電気機械器具,機械,輸送用機械器具等の一部の業種であり,また,内部留保についてもほぼ同様のことがいえよう。
 2) 資金運用面からみると,資金調達総額では,実額で,前年に比べ,16.7%減と資金調達難であったこと等から,固定資産への運用は,実額で6.5%減少したが,構成比でみると,38年度の38.4%から39年度の43.1%へと増大した。
 業種別にみると,固定資産への運用の構成比は,機械,輸送用機械器具,窯業・土石製品を除き,各業種とも上昇しているが,これら業種のうち,大半は相対的な比重の増大にすぎず,実額で前年度を上まわったのは,繊維,パルプ・紙・紙加工品,化学工業等の一部の業種に限られた。
 棚卸資産は,前年度の11.0%から39年度の8.1%へと減少を示しているが,棚卸資産のうちわけでみると,不況を反映して,製品在庫が機械,輸送用機械器具,鉄鋼・非鉄金属,パルプ・紙・紙加工品等の業種を中心として,38年度の3.7%から39年度の4.9%へと増大したのに対し,原材料在庫は,ほとんどの業種にわたる減少から,38年度の4.0%から39年度の0.2%へと大幅な低下を示した。
 売上債権についてみると,前年度の32.4%から39年度には31.4%へと若干の落込みを示したにすぎず,資金調達源泉としての買入債務が,28.5%から20.0%へと大幅な落込みを示したのとは対照的であり,企業間信用の面からみても,中小企業にとっては,資金繰りが一層困難になったことを示している。
 現・預金についてみると,前年度の14.9%から39年度には12.8%へと落ち込んでおり,これは,資金調達難の下で固定資産への運用にまわすため,現・預金の積増し分が圧縮されたことも一因となっていると思われる。
 3) 以上のような資金調達,資産運用の状況を総体としてながめてみると,まず目につくのは,すでに述べたように,引締下において外部資金の減少が著しい反面,内部資金がこれを補てんするには至らず,資金調達総量は,前年度の水準をかなり下まわらざるをえなかったことである。こうした状況のもとにおける企業の資産運用のビヘイビアをみると,近代化の要請が強まっていることを反映して,固定資産への運用はあまり落ちず,また,不況の影響から製品在庫もあまり低下しなかったので,資金調達総量減少に伴う調整は,原材料在庫や流動性(現・預金)積増しの圧縮によって行なっている。
 このような傾向は,ほとんどすべての業種にわたってみられ,わずかに設備能力の水準が高まっている機械,輸送用機械器具,窯業・土石製品の部門において個定資産への配分をへらして,原材料在庫,売上債権への運用を拡大し,稼動率の向上を図る動きがみられる。

2 金融機関貸出し

 (1) 38年12月の預金準備率の引上げにはじまった金融引締政策は,ほぼ39年いっぱいで終り,39年12月の預金準備率の引下げ,40年1月,4月,6月と再三にわたる公定歩合の引下げ等あいつぐ金融緩和措置が講ぜられ,これに伴い,金融市場も緩慢化してきた。中小企業の資金需要は,第1-16表の政府関係中小企業専門金融機関への申込状況が示すように,事業活動の停滞に伴い,落ち込んでおり,また,短期運転資金需要も伸び悩んでいるが,反面,とく設備資金需要に,生産調整等に伴ういわゆる後向き資金を中心とする長期運転資金需要は,依然として根強いものがあった。この間,民間金融機関は,40年春以降,一般的には積極的な貸出意欲をもつに至ったものの,中小企業の経営悪化等から,その貸出態度は慎重をきわめ,ようやく40年度後半から,金融緩和のきざしが中小企業段階に及んできたものと考えられる。このように,40年にはいっての引締解除後の動向は,38年の引締解除後のそれに比べ,引締緩和の影響が企業段階に及んでくるのが遅く,一部優良中小企業を除き,一般中小企業者にとっては,金融情勢は,かなり厳しいままの状態で推移してきたといえよう。
 (2) 以下,最近の金融機関貸出しの動向を,過去の引締期と対比しながら検討しよう。
 まず,今回(39年)の金融引締後および40年にはいってからの引締解徐後の中小企業向け金融機関貸出状況をみると,中小企業向け金融機関貸出しの年間増加額は,前回(36年〜37年)の引締期において,むしろ若干その水準を高めたのに対し,今回においては,設備資金の面で,前回に比して比較的堅調に推移したものの,総体としては,第1-17表にみられるように,前年に比べて27.6%の減少を示し,引締めの影響は,大きかったといえよう。
 ただ,前回引締下におけるこのような貸出増加は,民間中小企業専門金融機関(相互銀行,信用金庫および信用組合)が,高度成長期において,取引先中小企業の収益性の好転,店舗の増設等によって貸出しを顕著に増加させており,引締期においても,設備資金は,伸び悩んだものの,運転資金は,増大を続け,全体としては,貸出残高増加額の減退をみせなかったことによる面が大きく,引締期における動きとしては,むしろ異例ともいうべきものであった。今回の引締期における上記のような中小企業向け貸出しの動きを,大企業向けのそれと比べてみると,後者は,前年同期比で17.5%減にとどまり,ここでも,前者の伸び悩みがめだっている。この結果,金融機関貸出残高増加額中に占める中小企業向けの比重は,前回金融引締期においては,40.8%であったものが,今回は32.6%と,前々回の25.0%には至らないとしても著しい低下を示した。
 40年にはいって,引締解除後の中小企業向け貸出しをみると,1〜9月の増加額は,引締下にあった前年同期を2.7%下まわっている。このような現象は前回,前々回の引締解除期にはみられなかった特徴的な動きといえる。
 このような最近の中小企業向け貸出しの動きは,景況の低迷の影響をうけて,資金需要が減少したこと,中小企業の経営内容が悪化してきたために,金融機関の貸出態度が慎重になったこと,さらには,コール・レートの上昇から,民間中小企業専門金融機関が余裕資金をコールに多くまわしたこと等によってもたらされていると考えられ,前回引締期において,資金需要が比較的根強く,金融機関側の貸出態度もかなり積極的であり,とくに民間中小企業専門金融機関の業容拡大期にあったこと等のため,貸出しがかなり円滑に行なわれたことと比べて対照的である。
 また,40年にはいって,金融市場が緩慢化してきたにもかかわらず,民間金融機関の貸出しが企業段階に浸透するまでに,従来の引締解除後に比べて長い期間を要し,貸出しが低調をきわめている要因としては,中小企業の資金需要が,生産,在庫調整等のための後向き長期運転資金需要はおお盛なものの,設備資金需要を中心として減退しており,また,中小企業の倒産が激増する等中小企業の経営内容が悪化しているので,金融機関の融資態度が優良中小企業を除き,極度に慎重であること等に求められよう。
 なお,以上のような引締期における金融機関貸出増加額の動向からみるかぎり,第1-49図にみるように前々回の引締期には,中小企業金融へのしわ寄せ現象が中小企業向け貸出しと大企業向け貸出しの時間的ずれといった形であらわれていたが,前回引締期以降,大企業向け貸出しと中小企業向け貸出しは,ほぼ同じような動きを示すようになってきている。
 しかし,引締期には,中小企業向貸出が相対的に低くおさえられており,とくに今回引締期の中小企業向貸出の比重は,すでに第1-17表でみたように32.6%と前回引締期の40.8%より低くなっていることからみても,引締過程での中小企業金融へのしわ寄せは,依然としておこなわれてきたとみることができよう。
 (3) 中小企業向け貸出しの金融機関別の動きを貸出残高の対前年同期比でみると,第1-50図に示すとおりである。都市銀行貸出しは,景気変動に応じて増減をくりかえしながら,一貫して伸びが低下してきていること,地方銀行貸出しは,従来は,景気変動に応じで増減をくりかえしながらほぼ同じ振幅で推移してきたが,今回引締下では著しく落ち込んでいること,さらに前回引締期に減退を示さなかった民間中小企業専門金融機関の伸び悩みが大きいことが注目される。とくに,民間中小企業専門金融機関の伸び悩みが大きかった理由としては,これらの機関では,高度成長期を通じて,中小企業の収益性の好転等から法人預金の吸収を基軸に資金量の拡大をつづけてきたが,今回引締期には,中小企業の不振,歩積み両建ての自粛整理等の影響をうけ,その資金吸収がかなり低下したこと,都市銀行の資金ポジションの悪化からコール・レートが第1-51図こみられるように著しく上昇したので,これら機関が余裕資金をコールに多くまわすようになったこと等が働いたと考えられる。
 このように,民間金融機関の貸出増加率が,著しく低下したなかにあって,政府関係中小企業専門金融機関の貸出増加率は,金融引締後かえって上昇し,補完的役割を果たしたことが指摘されよう。しかし,その中小企業向け貸出残高に占める比重は,第1-52図に示すとおり,依然として,ほぼ10%弱となっている。
 (4) また,信用補完の状況をみると,第1-53図に示すように,保証債務残高は,一貫して増大してきている。40年9月には,対前年比25.0%増の4,190億円にのぼっており,保証債務残高の中小企業向け金融機関貸出残高に占める比重もほぼ一貫して上昇し,40年9月では3.9%になっている。このような信用補完面での充実により,信用力の弱い中小企業者も,民間金融機関等から借り易くなり,これが中小企業金融の円滑化に果たしている役割は,かなり大きいものがあろう。
 (5) 中小企業の外部資金調達の中心は,金融機関からの借入れであり,その資金コストも金融機関貸出金利の動向によって左右される。最近の金融機関別貸出金利の推移をみると,第1-54図に示すように,都市銀行は,公定歩合に比較的即応して動いている。
 一方,相互銀行は,39年の引締過程でも,むしろ一貫して低下してきたが,40年にはいり,金融市場が緩慢化してきたときにも,金利の低下幅がきわめて少なく,中小企業の金利負担をあまり軽減するにはいたらなかったものと推測される。
 表面金利を試算してみると,第1-18表に示すように,中小企業においては,大企業に比べて相当高いが,さらに,中小企業においては,拘束性預金の貸出しに対する割合が歩積み,両建て預金の整理によって低下をみせているものの,大企業に比べて高いこと等を考慮すると,中小企業と大企業との実質金利の差は,さらに大きくなるものと考えられる。

3 企業間信用

 買入債務は,金融機関貸出しとならんで,中小企業の大きな資金源泉であるが,最近におけるその動きをみると,すでに述べたとおり,39年において著しい伸びの鈍化をみせた。他方,売上債権は,それほど大幅な落込みをみせず,このため,増減ベースでみた受信超過幅は,第1-19表にもみられるように,39年全体としてかなりの減少となった。
 このような動きを残高ベースにより売上高との関連でみると,第1-55図に示すとおりであり,大企業の伸びがとくに著しいが,中小企業においても売上高を上まわる増大をみせ,ことに,39年下期の金融ひっ迫期において,買掛期間の縮小と売掛期間の伸長がみられる。大企業では,船舶,繊維,電気機械器具,鉄鋼等を中心として,供給能力の増大が著しく,操業度の維持の必要から,延払い販売等の増大によって売上債権を著しく増大させてきた。しかし,買入債務もそれに伴って増大し,資金繰りはさして困難にならなかったといえよう。これに対し,中小企業では,船舶,機械,電気機械器具等では,大企業とほぼ同様の動きを示してきたが,繊維,パルプ・紙・紙加工品等の業種では,売上債権の伸びが買入債務の伸びを上まわり,企業間信用面からも資金繰りが困難化してきたものといえよう(第1-21表参照)。
 以上のような中小企業における企業間信用の問題点は,とくに,下請企業に顕著な形であらわれている。すなわち,この分野においては,恒常的は与信超過をつづけているが,40年にはいり,引締解除後かえって不況が深刻化したのに伴い,現金入金率の低下,受取手形期間および売掛期間の長期化等下請企業の販売条件は,親企業の不振等から悪化してきている。このような販売条件を反映して,第1-20表に示すとおり,下請企業の与信超過幅が,増加して,経営の不安定性はかなり強まってきており,親企業の倒産による下請企業の連鎖倒産の発生等の事態もみられるに至っている。

4 決済条件

 今次不況が,引締解除後かえって深刻化してきたことを反映して,中小企業の決済条件は,第1-22表にみるように,悪化を続けてきている。売掛期間,手形サイト等は,長期化してきており,また現金入金率は,引締期間中低下しつづけ,40年にはいっても改善がみられない。このように,中小企業に対する決済条件が悪化を続けているのは,親企業の不振によるところが大きいが,また,受注難によって中小企業の受注競争が激しく,決済条件の悪化を甘受せざるをえない状況下におかれていることから,もたらされた点も見のがすことができない。かかる状況は,とくに,今回不況下での,重工業関連業種の沈滞を反映して,鉄鋼・非鉄金属,一般機械,電気機器等の業種で著しく,また,これら業種にあっても,親企業の下請再編成の強化等から,企業間格差が目立ってきていることが注目されよう。

前へ 次へ