第4節 設備投資の動向

1 最近の設備投資動向

 (1) 39年度における中小企業の投資活動は,金融引締期にもかかわらず,積極的な近代化,合理化意欲を背景に,第1-41図に示すとおり,過去の景気調整期にはみられない高水準な投資活動を示した。これを法人企業統計季報によってみると,39年度には,前年度に比べて,14.3%増と大企業の対前年度比16.8%増にほぼ匹敵する上昇を示した。
 しかしながら,金融引締効果の浸透とともに需要減退等が顕在化し中小企業の投資活動も,39年7〜9月期をピークに,その後急速に沈滞化する傾向を示した。すなわち,39年上期(1-6月)には,中小企業は,対前年同期比28.4%増と大企業の23.7%増を上まわる活発な投資活動をつづけてきたが,景気の下降に伴い,下期(7-12月)では,大企業の対前年同期比23.0%増に対して,中小企業では16.5%増と増勢鈍化を強め,さらに40年上期には,中小企業は大企業の対前年同期比0.2増に対して大幅な減退を示し,対前年同期比5.9%の減少となった。
 (2) 産業別に,39年度における中小企業の設備投資活動をみると,つぎのとおりである。
 まず,製造業についてみると,38年度ほどの活発な投資活動はみられなかったが,設備の近代化,さらに労働力不足による労働節約投資などの必要性もあって,対前年度比7.4%の増加を示した。
 製造業の設備投資動向を,中小企業金融公庫の調査によって,さらに詳細にみると,第1-13表にみるとおり,39年度においても,前年度に引き続き,重化学工業部門の停滞と軽工業部門の活発化がみられた。すなわち,重化学工業部門では,その中心となる一般機械(対前年度比13.7%減),電気機器(同21.3%減),鉄鋼(同0.4%減)などの投資が,需要の伸び悩みや設備の過剰などもあって大幅な減退を続けたことから,対前年度比0.3%の増加にとどまった。しかしながら,これに対して,軽工業部門での投資活動は,労働力不足や消費の高度化などに対応した設備投資を背景に,対前年度比12.9%増の高い水準を示した。とくに,技術革新投資の著しい出版・印刷(対前年度比50.7%増),需要の好調な木材・同製品(同22.8%増),窯業・土石製品(同39.1%増)などにおいて,その投資活動は顕著であった。
 つぎに,卸小売業では,38年度の金融緩和期に,店舗の新増築や改築などによる大幅な設備投資を行なってきたが,39年の金融引締期にはいると,その資金調達力の弱さを反映して急速に沈滞化した。すなわち,39年度上期(4-9月)には,対前年度同期比7.0%増と増勢を続けてきたが,39年度下期(39年10〜40年3月)にはいると,金融のひっ迫化に伴い,その活動は,沈滞化を強め,対前年度同期比17.3%の減少となった。この結果,39年度における設備投資は,対前年度比6.2%の減少を示すこととなった。
 これらに対し,サービス業では,堅調な個人消費需要などにささえられて,39年度では,対前年度比48.6%の大幅な増加を示した。
 (3) このように,中小企業の投資活動は,産業間にかなりの差がみられたが,また,規模別にみてもかなりの差を示している。
 法人企業統計季報によって,資本金2〜9.9百万円層の動向をみると,第1-41図に示すとおり,その変動は,かなり不安定であるが,総じて金融引締めと同時に投資活動の縮小傾向がみられ,39年度では,資本金50百万円以上の対前年度比16.8%増に対して,対前年度比1.6%の減少を示した。とくに,製造業における小規模層の減退が著しく,38年上期以降傾向的に縮小しており,38年度の対前年度比49.7%の著増から,39年度では,一転して対前年度比16.6%の大幅な減少を示した。
 さらに,製造業の規模別動向を,中小企業金融公庫の調査によって,重化学工業,軽工業の部門別にみると,第1-42図に示すとおり,従業員10〜49人の比較的規模の小さな層では,重化学工業,軽工業部門とも,39年度は,その他の規模層ほど投資活動の活発さはみられず,とくに,重化学工業部門は,対前年度比1.0%増と伸びの鈍化が著しい。また,高水準の投資活動を示した軽工業部門においても,重化学工業部門ほどの差はみられなかったにしても,従業員50〜99人および100〜299人層が,それぞれ対前年度比23.2%,17.2%の増加であったのに対して,従業員10〜49人の規模層では,5.7%増にとどまるなど規模間にもかなりの差がみられた。
 (4) 目的,内容別にみると,第1-14表に示すとおり,投資の目的は,ここ数年漸次変化を示しはじめている。もちろん生産能力の拡充投資が,大きな比重を占めていることは,これまでの傾向と同じであるが,単なる生産能力の拡充投資からコスト・ダウン,品質向上のための合理化投資や新製品の生産,試験研究施設への投資の比重が次第に高まっている。
 すなわち,生産能力の拡充に対する投資配分は,37年度の47.8%から39年度では,43.7%に低下しており,40年度計画では,37.3%とさらにその比重を低めている。これに対して,合理化への投資配分は,37年度の34.5%から39年度では,36.1%と高まり,40年度計画では,41.5%と生産能力の拡充を上まわる最も高い比重を示している。このことは,親企業のコストダウンの要請が強まっていること,資本費の増大,賃金の上昇が企業収益を圧迫していることなどを反映したものと考えられる。この傾向は,とくに,従業員100人以上の規模層において著しく,100〜199人層では,40年度計画において,生産能力の拡充投資を6.5ポイント,200〜299人層では,11.1ポイントと各々大きく上まわることがみこまれている。
 このような投資目的の変化から,機械・装置に対する投資配分は,合理化投資の活発化による設備の更新投資を反映して,37年度の43.8%から39年度の46.5%へと,その比重を高めており,土地,建物・構築物等に対する投資の比重は低下している。しかしながら,従業員50人未満の規模層では,労働力の確保のため,最近,土地,建物・構築物等に対する投資配分を高めてきていることは注目される。
 (5) 以上のように,39年度における中小企業の設備投資は,業種間,規模間にかなりの差をみせながらも,高水準で推移したが,40年度にはいると,急速に沈滞化の度合を強めた。商工組合中央金庫の調査によって,40年度における中小企業の設備投資活動をみると,第1-43図に示すとおり,重工業,軽工業部門とも,40年度にはいって,「低調」とする企業の割合が,傾向的に増加しており,とくに,重工業部門において,その不振の度合が著しく,40年6月以降「低調」とする企業の割合が,全体の50%以上を占めるに至っている。中小企業金融公庫の調査によって,40年度の設備投資計画をみると,第1-13表に示すとおり,大企業の対前年度比5.8%の減少に対して,中小企業では,25.4%の著しい減少がみこまれている。このなかでも,一般機械(対前年度比30.6%減),輸送用機器(同36.6%減),繊維(同33.8%減),衣服・その他の繊維製品(同46.2%減)などの下請的色彩の強い業種や出版・印刷(同37.6%減)などの減退がとくに顕著である。
 また,規模別にみても,第1-42図に示すとおり,すべての規模層において,沈滞の度合を強めることが予想されているが,なかでも,39年度まで比較的順調に推移してきた軽工業部門の沈滞化が顕著である。

2 不況下の設備投資の特徴

 (1) 以上のように,中小企業の設備投資は,金融引締め後も増勢をつづけ,緩和期に入って,むしろ,逆に沈滞化を強めるといった過去にみられない動きを示している。
 このように,今回の中小企業の設備投資活動が,従来の動きとかなり異なった基調を示したのは,以下に述べるように,需要,金融の面で従来とかなり異なった環境にあったこと,企業における収益性の低下と財務内容の悪化から,中小企業経営の窮迫化が強まってきたことなどがその原因と考えられるが,39年において,需要が,金融引締下にもかかわらず比較的堅調な動きを示したものの,40年にはいって,むしろ減退を示したことに,その主因がもとめられよう。なお,経営窮迫の問題は,今次不況下に限った問題ではないが,とくに,設備投資をも消極化させるほど強く影響してきているところに大きな特徴があると考えられる。
 (2) 中小企業の設備投資と需要との関係についてみると,第1-44図に示すとおり,前回および今回ともかなりの相関々係が認められる。すなわち,前回には,引締め開始と同時に売上高は下降に転じ,その後引締め解除時まで大勢として横ばいで推移したなかで,設備投資も引締めと同時に下降局面にはいり,解除時まで一貫して縮小傾向をつづけた。これに対して,今回は,引締め後も輸出の好調等から売上高は,傾向的な上昇を示し,この間,設備投資も増勢をつづけてきたが,39年7-9月期を転機として,売上高は伸び悩みを示し,同時に設備投資も下降に転じている。40年にはいっても,売上高は,回復のきざしをみせず,むしろ減退しており,設備投資も沈滞の度合を強めていることから,設備投資が需要によって規定される面の大きいことを推測させるものといえよう。
 次いで,金融との関係についてみると,金融引締下において,中小企業の設備投資は,金融市場のひっ迫化による資金調達難から急速に沈滞を示してくる。しかしながら,今回は,第1-44図に示すとおり,全国銀行の限界預貸率が引締め後漸次上昇しているものの,前回の金融引締期に比べて落ちついた動きを示したことから,中小企業の設備資金調達は,都市銀行,地方銀行を中心に,第1-45図にみるとおり,前回に比べて比較的順調であったといえよう。
 ところで,金融緩和期にはいると,前回では,限界預貸率の動きに反映されているように,金融市場が急速に緩和されてきたことから,中小企業に対する設備資金貸出しは,第1-45図にみるとおり,順調な動きを示したが,今回は,金融緩和措置から金融市場が緩漫化してきているものの,設備資金貸出しは,むしろ縮小している。これは,需要の減退,景気の先行き見通し難,さらに既往の借入金返済の重圧などから,中小企業の設備資金需要が全般的に沈滞化していることにその主因がもとめられるが,金融機関の貸出態度が慎重化していることによる面もあると考えられる。
 (3) このように,40年にはいって,中小企業の設備投資は,需要および金融の面の制約から,沈滞化する傾向を示しているが,また,企業採算,収益の悪化が,設備投資を消極化させる要因となっていることも見のがすことはできないであろう。
 中小企業は,大企業に対する近代化,合理化のたち遅れを取り戻すため,おお盛な設備投資を行なってきたが,反面,外部資本への依存度を高めたこと,人件費,資本費の増大がもたらされたことなどから,中小企業の財務内容および収益性は,第1章第6節および第2章第1節で述べるとおり,36年以降傾向的に悪化している。また,こうしたおお盛な設備投資には間接投資への増大が著しかったことに加えて,販売競争の激化から価格の引下げが強行されてきたことなどもあって,設備投資効率も有形固定資産残高の増勢と逆に低下の傾向を示している。このため,中小企業の経営は,著しく弾力性を阻害され,不況抵抗力を弱めることとなっている。
 このような財務内容の悪化ならびに収益性の低下を,経営者は,どの程度意識し,またこれは,今後の設備投資に対してどのような影響をもたらしているのであろうか。この点について,中小企業庁の「経営状況等に関する調査」をみると,第1-46図に示すとおり,コスト引下げが必要な理由として,人件費,金利負担の増大のためとする企業の割合が全体の30%以上を占め,さらに財務の健全化の必要な理由としてもほぼ同様の傾向がみとめられるように,企業経営窮迫化の大きな要因として,販売価格の低下に次いで,人件費,金融費用の増大をあげている。このため,今後の設備投資に対しては,第1-47図にみるとおり,設備資金調達の方法は,金利負担の軽減を意図して,政府系金融機関や地方公共団体に期待する割合が全体の50%以上を占め,さらに,投資態度についても,自己資金と政府系金融機関等の低利な資金調達のできる範囲内で行なうとする企業の割合が全体の50%以上を占めている。
 需要の減退や景気の先行き見通し難のなかで,このように,中小企業の収益性が低下し,財務内容が悪化していることは,設備投資を消極化させる大きな要因となっているものと考えられる。
 (4) 以上のように,景気回復期において,中小企業の設備投資が,需要の減退を主因に,沈滞化を強めていることは,産業構造の高度化が急速に進展しているなかで,中小企業の近代化,合理化が緊要とされていることから大きな問題であろう。

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