第2節 工場集団化の効果と問題点

1 概況

 わが国の中小工業は,自然発生的形態で発展してきたものが多いため,今日においては,かえってそれが企業合理化の障害の一因ともなっており,この傾向は,市街地の急激な過密化とともに,工場敷地の狭あい化による災害の増加,生産能率の低下,あるいは都市機能のまひによる公害の発生等,ますます憂慮すべき状態になってきている。また,一方において,このような環境にある中小企業を組織化しようとしても,各企業が市街地に散在しているため,有機的な結合による協力も,また,その効果も得がたく,機械設備についても二重投資が行なわれがちであるので,協業化の面でも行きづまりの状態にあるものが多い。
 このような多くの問題点を解決するためには,高度の共同化を中心として,中小企業者が一定の地域に集まって専業化,協業化等による経営の合理化を図り,集積の利益を享受するのが一番よい方法と考えられる。
 このため,政府においては,昭和36年度から中小企業高度化資金貸付制度を創設して,中小企業の工場集団化の助成,推進に努めてきており,現在までに,全国で94団地を助成の対象としている。
 以下,これらの助成の対象となっている工場団地を中心として,その計画の実施状況や,そこに生じている団地化の効果と問題点を明らかにすることとする。

2 団地建設計画の実施状況

(1) 昭和36年度に,中小企業の工場団地に対する助成制度が始められてから,昭和40年度までに助成の対象となった94団地について,その集団化の状況を形態別,業種別にみると,つぎのとおりである。

1) 形態別

(a) 伝統的な産地において,その近代化を目ざす産地集団形 12団地
(b) 同じ親企業に関連する企業が集まって,その生産性を向上しつつ,受注体制の強化を図る下請集団型 10団地
(c) 東京,大阪,名古屋等立地条件の悪化した過密地域から転出して地域開発に寄与,しつつ近代化を図る集団疎開型 13団地
(d) 市街地における公害問題の解消を中心に,都市計画の一環として集団化する都市計画型 59団地

2) 業種別

(a) 機械・金属部門 52団地
(b) 製材・木工部門 24団地
(c) 繊維関係部門 12団地
(d) 食料品関係部門 3団地
(e) 雑貨部門 7団地
(f) その他部門 5団地
計 103団地(連合団地の9団地を含む。)

(2) また,これらの団地の建設状況をみると,つぎのとおりである。
(a) ほぼ完成したもの 27団地
(b) 建設計画どおり進展しているもの 56団地
(c) 建設計画よりも遅延しているもの 9団地
(d) 団地建設を完成したが,不況等により,組合員企業の大部分が倒産または脱退し,再建中のもの 2団地
 なお,上記のうち,比較的に団地建設の段階からうまく行なわれているもの,計画よりも遅延しているもの,または再建中の団地の実態について,その成功,失敗の要因をあげると,つぎのとおりである。

1) 団地建設がうまく行なわれている団地

 団地建設がうまく行なわれ,集団化効果をあげている団地についてみると,まず,指導者に良い人材を得ていること,計画段階における建設計画および資金計画の検討を十分に行なっていること,組合員企業の協調性が高いこと,さらに,事務局に有能な人材を集めていること等が主要因となっている。とくに昭和36年度に助成の対象となった10団地は,計画に着手するまで2〜3年の準備,検討の期間を設け,よい指導者のもとに造成を進めたことから,完成に至るまで,ほとんど組合員の移動もなく,現在では,集団化前に比べて2〜3倍,なかには5倍の生産実績をあげているものもある。

2) 建設計画よりも遅れている団地

 建設計画よりも遅れている団地についてみると,まず,土地の取得について事前調査が不十分なため,予定どおり取得できなかったもの,業界の不振により,組合員企業が計画を延期し,または中止したもの,台風および豪雪等災害により,遅れたもの等がその主な例である。また,なかには,過大な計画による借入金の金利負担が原因となり,建設資金に窮し,組合員企業相当数が進出を一時中止している団地,低開発地域のため,投資額にみあう需要が地域開発の停滞等によって減少し,計画の縮小と一部の中止がもたらされている団地がある。

3) 再建中の団地

 再建中の2団地は,最近の不況による受注の減退,融通手形の発行による連鎖倒産が組合員の半数に影響を及ぼした場合および不況による受注の減退により,主力企業が倒産したため,これにつながる大部分の組合員企業があいついで倒産し,または脱退したことによる場合であって,いづれも,現在その再建を図っているが,事前における市場調査,生産計画,投資計画等の検討が不十分であったため,団地建設が挫折した代表的な事例といえよう。

(3) なお,集団化の重要な内容の一つである共同事業の実施については,それぞれ,団地構成員の業種,業態により異なるが,いずれの団地においても,生産加工,保管施設,技能教育または福利厚生施設等何らかの共同施設をもっており,集団化を契機とした共同化は,着々と進展している。ただ,生産工程のなかで,その中核となる部分を完全に共同化した事例はまだ多くなく,団地のあり方としては,この点の改善がとくに緊要であるとみられる。

3 団地化の効果

 助成団地は,稼動開始後の日が浅いため,団地化の効果はまだ十分に発揮されるまでに至っておらず,今後の発展に期待すべきであるが,現段階における昭和36年度10団地,昭和37年度16団地および昭和38年度8団地の移転企業の団地移転前と団地移転後の生産能力,生産実績,利益および稼動率について,昭和40年11月に調査した結果をみると,つぎのとおりとなっており,生産能力,生産実績,利益ともに集団化の効果が大きく認められる。
 これを業種別にみると,機械・金属団地については,まだ,団地移転前の水準まで達していないものが多いが,反面,製材・木工団地については,利益の伸びが高く,また稼動率もほぼ団地移転前の水準を維持しているのがめだっている。これは,機械・金属団地にあっては,機械加工,製罐,鋳物等の関連業種が同一団地にはいっている例が多いため,共同施設の利用による生産工程の合理化が十分行なわれ難いのに比べ,製材・木工団地については,ほとんど同一業種が集団しているために,乾そう工程の共同化により,コストの大幅な引下げを行なうことができることもその一因であろう。
 とくに,団地運営で顕著な効果をあげているいくつかの具体例をあげれば,機械・金属団地については,@茨城A団地は,その指導者を得たこともさることながら,団地建設の計画がすぐれ,かつ,組合員の協調にとんでいた好例とされ,A茨城B団地は,共同施設として総合検査所を設け,組合員の製品の品質向上に努めたため,親企業の信用も高まり,受注量が集団化前の2倍に伸びた例であり,B岐阜のC団地は,鋳物プレスおよび機械加工部門をもつ76組合員が各部別に共同施設をもち,協業化,分業化を行なって成功を収めた例である。製材・木工団地については,C愛知D団地は,受注材料,購入部品の生産,販売を共同化し,組合員工場においては,部品を組み立てるだけの完全協業化による大量生産を進めている例であり,また,繊維団地としては,D大阪E団地は,都市計画的マスタープランに基づいて,検反,縮絨等生産面の共同化と福利厚生施設の両面において,その完備を実現している。

4 団地運営上の問題点

 以上にのべたように,工場の集団化は大体順調に推移し,多くの効果をもたらしているが,反面,団地造成なかばで早くも問題を生じている団地や,一応完成した団地であっても,その運営にあたって種々の問題点をかかえている団地も生じてきている。これを具体的にあげると,個々の組合員が適正な生産計画をもたないで,団地化を企画したことによる当初計画の縮小,生産計画を度外視した進出計画をたてたことによる計画の繰延べ,不十分な資金計画のまま団地に参加したことによる資金繰りの圧迫,経営不振や脱落を招いたことによる計画の挫折,組合組織の不整備によるひんぱんな計画の変更,個々の組合員の実態把握が不十分であったことに基づく団地の建設資金調達計画の挫折などの結果を招いている。
 これらは,第1に,団地運営において適切な指導者がいなかったこと,第2に,組合員の協調性が欠けていたこと,第3に,組合の組織と責任体制が不十分であったことなどに原因があるものであるが,大部分が計画段階にその根源を発しているものが多く,あらかじめ事前に十分な検討を行ない,準備をしていれば防止できることからみても,今後の指導体制と中小企業者自身の反省が必要であろう。

5 今後の方向

 団地の造成および団地の運営において発生した問題点を解消し,さらに,団地造成および団地運営の円滑化を促進するため,政府あるいは実際に団地を指導する都道府県の側においてなすべき方向は,つぎの諸点であると考えられる。
(1) まず,第1に,工場等集団化制度における資金貸付条件等を再検討し,一層の拡充強化を図り,中小企業対策としての効率化を高めて工場集団化の促進を行なうことが重要であるが,とくに,小規模企業の集団化の促進を図るための方途を講ずる必要がある。
(2) つぎに,従来団地造成中において当初計画の大幅な変更および組合員の脱退等の修正が行なわれる例が多いので,計画の段階において計画診断を十分行ない,企業内容にふさわしい計画を作成するよう,関係機関,中小企業者などの指導に努めることが重要である。
(3) また,工場団地建設地の実態をつねに把握し,問題点が発生した場合には診断制度を積極的に利用し,問題の迅速な解決を図るよう指導体制を強化することが重要である。
(4) さらに,現在の不況の影響によって,団地内組合員が受注量の減退のために,資金繰りに支障をきたしている団地も少くない現状にかんがみ,政府関係金融機関に積極的な融資あっ旋を行ない,所要資金の確保に努めるほか,操業度の向上による組合員の安定経営を図るために,さしあたり官公需を共同受注できるよう,関係各省が協力することが重要である。
(5) そのほか,償還金に関する資金調達の一環として,あと地の迅速な処理を図るため,地元市町村の買上げ措置を推進することとし,財政的援助の方途を検討することも必要であろう。
 しかしながら,基本的には,団地組合が組織を強化し,共同経済事業を活発に行なえる体制を早急に整備することによって,共同事業の一層の拡大,強化を図り,組合員の協調意識を一層高めるとともに,集団化の効果を高めるために専業化,協業化,さらには合併等を推進することが何よりも肝要である。

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