第3章 近代化,協業化施策の効果と問題点

 政府は,中小企業の近代化,協業化を図るため,種々の施策を行ない,中小企業の側においても,これに対する適応の努力が続けられ,成功している事例も多い。しかしながら,他方,近代化,協業化を実施するために必要な資金の確保難,協調精神の欠如,よい指導者が得られないこと等から,まだ十分な効果をあげていないものもあるので,今後における官民のより一層の努力が期待される。

 以上に述べてきたとおり,中小企業は,多くの困難に直面して,深刻な事態を迎えている。こうした事態に対処し,中小企業の体質を根本から強化するため,政府は,中小企業基本法の定めるところにしたがい,このような状況のもとにおける中小企業の適応の努力を助長し,支援するため,諸般の施策を講じてきた。中小企業者の側においても,このような施策を活用して,適応努力を効果的に実施し,その成果を享受している例も多い。
 他面,このように深刻な経済事情のなかにあるために,施策の期するところが十分に実現されない事例,中小企業者の側の施策の受入れ体制に問題があるため,あるいは施策自体に問題があるために,施策実施の過程で問題が生じてきている事例もみられないではない。
 以下においては,中小企業近代化促進法における近代化施策,中小企業構造高度化資金等による工場集団化および小売商業店舗共同化関係の施策について,施策実施の過程で生じてきた問題を把握するとともに,中小企業者の適応努力の一つのあらわれとして,最近重要な地位を占めつつある協同組合による協業化の現状と問題点を分析し,これら諸施策の反省と拡充に資することとしたい。

第1節 中小企業近代化促進法の指定業種における近代化の推進

1 概説

 最近における構造変動のもとで,諸般の困難に直面しつつある中小企業にとって,近代化による体質改善の必要性がきわめて大きいことは,すでに述べたとおりである。
 このような中小企業の近代化の推進にあたり,施策として最も留意すべきことは,中小企業の態様の多様性である。すなわち,ひとくちに中小企業といっても,業種によってその実態,問題点,その問題を評価して近代化を進める方策等は,著しく異なっており,業種ごとに,きめ細かい行政を行なわなければ,真の近代化は達成しがたい。
 中小企業近代化促進法は,このような趣旨により,中小企業を業種別に細かく実態調査し,その実態に即した業種別の中小企業近代化基本計画を策定し,その推進を図ることを主たる目的としている。そして,この基本計画には,業種,製品ごとに,少なくとも5年後における製品の生産,輸出の目標,製品の品質向上の目標,適正な生産の規模,方式等,業界の近代化が行なわれた後におけるあるべき姿を明示し,この目標を達成するための手段としての近代化設備の導入,経営の合理化,技術の向上,協業化,競争の正常化,需要の開拓等に関する諸事項が具体的に示されている。したがって,企業の努力も,国の施策も,この目標に向かって集中的に行なわれることにより,計画の達成,業界の近代化が達成されることとなる。また,この法律においては,金融,税制面において,企業の自主的努力を助長すべき種々の優遇措置を講じている。
 現在までのところ,同法の対象として指定された業種数は68,このうち,近代化基本計画が策定された業種数は38(残り30業種については,実態調査を実施している。)で,指定業種の生産額が中小企業全生産額に占める比重は,約36%となっている。以下,これらの計画がどのように策定され,どのような効果をあげたか,そしてその問題点はどこにあるか等を検討してみよう。

2 近代化計画の策定の意義

(1) 中小企業近代化促進法の業種指定が行なわれると,直ちに,その業種について,業者の個々にわたる徹底した実態調査が行なわれる。この実態調査は,すでに68業種,約20万の業者について実施された。
 このようにぼう大な業者の実態が,この調査によって明確にされたことは,単に行政のよりどころを明らかにするだけでなく,個々の企業についても,業界全体のなかで自己の置かれている地位を認識することを可能にした効果は,大きいといえよう。さらに,この調査およびこれに続く計画策定段階を通じて,業界の組織化が一層推進され,業者の近代化に関する意欲を喚起したという点も見のがしがたい。
 (2) 実態調査の結果に基づいて,近代化計画が策定されるが,ここにおいては,どのように設備近代化を行ない,規模の適正化を図り,さらに技術の向上を図れば,総合的な近代化が達成できるかを大局的に把握し,生産,輸出,コスト,品質,投資,適正生産規模等の目標を定量的に明らかにする。この近代化計画は,できるだけ具体的に近代化の目標を明らかにし,中小企業の経営指針,業界指導指針となりうるよう努力が払われている。中小企業についてこのような計画が確立されることは,それぞれの業界の近代化に不可欠な基礎的条件を整備するものであり,その意味においても,大きな効果をあげているものといえよう。

3 近代化計画の推進

(1) 適正規模への接近

 近代化計画のうちで,個々の企業にとり最も重要な課題の一つは,適正生産規模への到達であろう。この計画では,おおむね,5年後における適正規模への到達を予定している。現状では,計画策定後まだ日が浅く,かつ,この不況下における受注の大幅な減少等に直面して,必ずしも満足すべき状態にあるとはいいがたいが,多くの業種において,真剣な努力が続けられている。
 中小企業庁の実施した調査によってみると,40年度において,近代化基本計画に定められた適正規模をこえるものは4%,ほぼ適正規模に達したものは3%程度となっており,ことに金属製玩具,絹・人絹織物,メリヤス編物,機械すき和紙等において近代化への努力が大きい。また,企業合同についての努力もなされ,成功しているものもあるが,いまだその事例は少ない。

(2) 設備近代化の推進

 適正生産規模への到達を図るためには,生産のう回度を高め,生産性を向上することが不可欠であり,近代化設備の導入に努めなければならないことはいうまでもない。とくに,最近における労働力不足と賃金上昇に対処し,これを吸収してコストの引下げを図るためには,多額の設備投資を必要とする。このため,近代化計画においても,たとえば38年度指定20業種については,5年間に2,640億円の投資を予定している。
 1) 指定業種における設備投資動向を,中小企業庁の資料によってみると,景気の回復期に当たる38年度には対前年度比37.6%の著増を示したが,その後,39年度から40年度にかけては前年度の水準を5%程度下まわって推移している。これを業種別にみると,40年度における設備投資(見込み)額が前年度を上まわるものには,普通合板,金属洋食器,絹・人絹織物等輸出比率の高いものや,機械すき和紙,しょう油等需要が安定している業種があげられ,逆に著しい減退が見込まれているものとしては,銑鉄鋳物,しょうちゅう等があげられる。
 2) 一方,設備投資の内容においても第20表のとおり,従来最も比重の高かった生産能力拡大投資の比重が低下して,労働節約投資が増大する傾向がみられる。
 3) 設備投資に要する資金調達については,第21表に示すとおり,政府系および市中各金融機関からの借入れに対する依存度が,中小企業の平均的な水準よりも高い。たとえば,中小企業金融公庫の融資状況をみると,40年3月から12月までに,特別融資資金約44億円が織物,清酒,メリヤス,生パン,合板等に重点的に融資された。ただ,収益力が低下する傾向にあることから,自己資本の比率が漸減し,設備資金調達において買入債務への依存度が高まるという,設備資金調達方法としては好ましくない傾向がみられ,ことに,40年度においてその傾向が強まっていることが懸念される。

4 近代化の効果と問題点

(1) 以上みてきたとおり,近代化の努力は,いくつかの問題を含みつつも続けられてきた。そして,その成果も徐々に出てきている。
 近代化の効果の内容をみると,第22表のとおり,最も多いのは品質向上で,全体の28.2%を占めている。これに次いでは,能率の向上,人件費負担の軽減等が大きく,品質の向上を含めた実質的な意味での生産性向上の効果がかなり上がっていることが推測される。
(2) つぎに,このような近代化のコスト面への反映をみると,第23表のとおり,指定業種においてコストはほとんど変わらないものが62%と圧倒的に多いが,景況が引き続き低迷し,また,賃金の上昇等の要因が強い影響を及ぼしつつあるなかで,コストが指定前の80%まで下がったものが6%,90%前後が18%と,合計24%がコストダウンに成功していることは,やはり注目すべきものであろう。
(3) このような状況を反映して,売上高純利益率は,第24表のとおり,ほとんど変わらないとするものが65%とやはり多いものの,指定前の3〜5割ほど高くなったものが12%,1〜3割ほど高くなったとするものが15%ほどみられる。
(4) このような近代化計画の実施状況については,5ヶ年にわたる長期計画の初年度または第2年度を経たにすぎない現在では,各指定業種の詳細な調査と,これを基礎にした各業界の指針としての計画の策定が終り,逐次,その具体的な実施が進められている段階にある。これらの実施段階に移行した各業種とも,この計画達成をめざして,それぞれ努力を払っているが,なかには,不況の持続による需要減に際して,生産能力の拡大を伴う近代化投資が控えられ,その結果,必ずしも現在までのところ予期した成果をあげていないものもみうけられる。他方,コスト引下げ,品質向上等の合理化投資の実施,経営管理の合理化,企業規模の適正化等に努めた結果,不況による影響を最小限にとどめ,計画目標の達成に近づきつつある業種も少なくない。
 しかし,近代化計画の実効は,その具体的な推進の円滑化にかかっている。中小企業の実態は複雑多岐にわたり,他方,国の施策は,中小企業者自身の自主的努力を前提として,その助長を図ることを目的としているため,策定された計画を十分に普及徹底させ,企業者の近代化意欲をもり上げることが何よりも肝要である。しかしながら,これまでは,必ずしもその推進に対する十分な配慮が払われなかったうらみがあり,今後は,中央,地方に設置される推進協議会等を通じて,計画の徹底と推進を十分図ることが必要であろう。

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