第5節 中小企業価格とその問題点

 中小企業製品の卸売物価は,不況下にも若干の上昇を示し,消費者物価は,一貫した上昇を続けている。これは,農業,中小企業,サービス業,商業など近代化による生産性の向上が遅れている部門で,賃金,所得の上昇が十分吸収されていないことによる面が多く,資本集約的な中小工業製品の卸売物価は,ほとんど上昇していない。今後,これらの生産性向上が遅れている部門では,より一層の近代化を進め,生産性の向上に努めるとともに,協業化を進めて,近代的,効率的な流通機構の確立を図ることが要請されている。

1 最近の価格動向

 中小企業製品の卸売物価動向は,第45図に示すとおり,金融引締期の39年にはいるとともにやや低下をみせたが,同じく39年9月から40年6月まで,大企業製品の卸売物価が低下傾向を示したのに対して,39年9月から反転上昇を示しており,その結果,40年にはいってからの価格上昇(40年9月まで)は,中小企業1.3%増,大企業では0.2%減となっている。
 しかし,その内容をみると,第46図にみられるように,中小企業のうち,比較的資本集約的とみなされる業種の製品は,卸売物価の上昇がほとんどみられず,他方,比較的労働集約的とみなされる製品の価格上昇が著しい。中小企業の卸売物価の上昇の要因は,労働集約的部門の占める比重が約82%にも達しており,これらの労働集約的な業種では,最近の賃金上昇に対応するだけの生産性の向上がみられなかったことにあるといえよう。
中小企業製品の卸売物価を財別にみると,生産財,資本財および建設資材では,ほぼ横ばいに推移しているのに対し,非耐久消費財では,一貫した上昇を示している。
 また,業種別にみると,食料品,繊維製品,非鉄金属,木材製品,窯業製品などの卸売物価が39年3月以降上昇し,または上昇を続けているが,これらには労働集約的なものが多く,他方,資本集約的なものが多い鉄鋼,機械,化学製品等では,低下傾向にある。
 このような中小企業製品の卸売物価の動向は,経済の急速な発展に伴う賃金水準の上昇によって,労働集約的部門での価格が相対的に上昇し,資本集約的部門での価格が相対的に低下するという,相対的物価体系の変化によるものであり,しかも,その結果としての工業製品全体の卸売物価は,35年平均を下まわる水準で推移している。
 なお,以上のような中小企業製品の卸売物価動向については,中小製造業の半数以上に及ぶとみられる下請企業の受注単価の39年9月以降における大幅な低下が,ほとんど反映されていないことを考えれば,中小企業製品価格の上昇傾向は,より小さいものと推定される。

2 消費者物価の上昇と中小企業

 消費者物価の動向は,卸売物価の場合よりも一層労働集約的部門の比重が高いため,不況にもかかわらず一貫した上昇を示している。
 このように,卸売物価がほとんど上昇を示していないのに対し,消費者物価が上昇を続けいることについては,第1には,農業,サービス業,中小工業および流通部門においては,近代化,合理化の遅れから,生産性の向上が進んでいないものが多いため,最近の賃金水準の上昇に対する生産性の上昇によるカバーが十分に行なわれず,他方,製造部門の大企業などにおいては,賃金上昇以上に急速な生産性の上昇によりこれが吸収されていること,第2に,消費者物価には,生産性の急速な上昇がみられない部門の製品,サービス等の比重が圧倒的に大きく,卸売物価には,製造部門の大企業の製品が大きな比重を占めているところから,もたらされているものと考えられる。
 そこで,中小企業と関連する問題として,まず,消費者物価の上昇について比重の大きい製品,サービスの動向をながめ,次いで流通部門の問題を概観することとしよう。

(1) 消費者物価の主要な構成要素の動向

 消費者物価指数は,40年において,総合で対前年比7.6%の上昇を示したが,その内容をみると,第47図のとおり,14.0%の上昇を示した農水畜産物価格による影響が49%程度に及んでおり,このほか,理髪料,美容料,教育費等の対個人サービス(この間の上昇寄与率18.5%),家賃,地代(4.1%)などのサービス価格が上昇し,中小工業製品も5.2%(39年12月から40年9月までの平均による対前年同期比上昇率)の上昇を示している。
 これらの製品,サービスの価格動向については,農業構造の近代化,生鮮食料品等の流通機構の改善,サービス業の近代化とその質的向上,また,中小工業の近代化,合理化等が要請される。

(2) 流通機構の合理化

 卸売物価と消費者物価のかい離の要因の一つとして,流通経費の上昇があげられている。
 商業における売上高総利益率上昇の動向をみると,中小企業の卸売業が35年の9.8%から39年には11.4%へ,また,小売業では同期間に20.4%から20.7%となっている。これに対して,大企業では,卸売業は同期間に5.1%から6.1%へと上昇しているが,小売業では,21.9%から21.1%へと低下を示している。
 このように,売上高総利益率の上昇は中小企業の方に強くみられるが,その内容を大企業と比較して,とくに中小企業に特徴的なことは,この総利益のなかに占める人件費の比重が高く,次第に上昇してきていることである。もちろん,大企業においても人件費の比重は次第に上昇しており,また,かなりの大きさをもっているが,中小企業ほどではない。
 このように,流通コストの上昇は,流通部門においてとくに小零細企業が多く,賃金水準の上昇をカバーするだけの生産性の向上が行なわれていないことおよび流通機構が複雑であること等によるものと考えられる。
 とくに,中小商業においては,最近の賃金水準の上昇に対応する生産性の向上に努め,あわせて,需給規模の拡大に対応する効率的な流通機能を実現するためにも,その近代化,適正規模化を進めることがきわめて重要である。
 もちろん,この問題については,今後さらに商品別の流通過程の具体的把握に努め,それぞれの流通過程の実態に応じて,近代的,効率的流通機構の確立を進めて行くことが肝要と考えられる。
 最近,卸売業における輸送,通信,倉庫,包装等の物的流通の近代化等を中心とする卸団地の造成,小売業においても,大規模化,低コストの実現のための寄合い百貨店,スーパーマーケット等の運営,同一企業が多数の小売店舗を運営するレギュラー・チェーンや,各地に分散する独立の小売商が継続的連鎖関係を設定し,共同購入,共同広告等の共同事業を行なうボランタリー・チェーンなどが次第に進展してきていることも,このような要請への対応と考えられよう。
 これは,卸売業,小売業とも,個別企業の適正規模化あるいは近代化には制約が少なくないため,協業化を通じてその実現に努めようとする努力のあらわれであるが,今後とも,十分な認識と近代化への努力により,これらの協業化を通じてより一層の近代化を達成し,あわせて,流通機構の合理化を図ることが強く要請される。

前へ 次へ