第4節 不況下の主要分野における変動と諸問題

 下請企業,小規模企業および産地企業など各分野の中小企業の活動は,不況の進展とともに停滞を示し,その経営内容も悪化している。
 下請企業においては,とくに受注減が著しくなっているが,とりわけ,この不況によって,一部に系列再編成等の動きもみられ,下請企業構造の変動が顕著になってきている。
 小規模企業においては,賃金水準の上昇に比べて生産性の上昇が停滞し,出荷額等に占める比重も低下してきているが,今後,下請企業,小規模企業の協業化,組織化を進めつつ,近代化による生産性の向上を図ることが強く要請されている。
 また,産地企業の転換も逐次進展しているが,それぞれの産地の実態に即して,より一層適切な近代化,協業化を進めて行くことが必要となっている。

 現在の不況現象は,中小企業全般に大きな影響を与えているが,なかでもその影響が大きく,特徴的な問題が顕著となっている下請企業,小規模企業および産地企業について,その実態と問題点を概観することとしよう。

1 下請企業の変動と問題点

(1) 不況下における下請企業の動向

1) 事業活動の停滞
 すでに述べたとおり,中小企業の生産活動は,景況の沈滞とともに伸びの鈍化を続けてはいるものの,まだ,前年水準を下まわるほどの減退は示していない。これに対して,下請企業の売上高は,機械・金属関連部門の下請企業を中心に伸びの鈍化をきたし,前年水準を大きく下まわることとなっている。
 第8表および第33図に示すとおり,40年9月における下請受注状況を39年9月と比較すると,受注量の減少した企業の割合が圧倒的に多い。なかでも,設備投資動向の沈滞,家庭用電気製品需要の停滞などを反映して,機械,電気機器,輸送用機器,鉄鋼・非鉄金属等において,この傾向が著しい。
 このような下請企業の受注減少は,景気の後退による親企業活動の沈滞そのものからもたらされているところが大きいが,さらには,親企業における不況打開策としての生産調整の進展や,一次下請企業などにおける二次下請企業への外注部分の内製化等が大きな影響を及ぼしており,その結果,下請企業の事業活動には,親企業以上の停滞がもたらされている。

2) 取引条件の悪化

 下請単価の状況をみると,第9表のとおり,最近の1年間(39年9月〜40年9月)において,機械関連部門を中心に,単価が下落したとする企業の割合がかなり大きい。
 つぎに,代金の受取条件の推移をみると,まず,第34図にみるとおり,現金入金比率が傾向的に停下しており,39年10〜12月の41%程度から,40年7〜9月には,36%程度にまで落ちこんできている。
 このように,手形による下請代金支払が増加していることに加えて,第35図にみられるように,受取手形の手形期間が次第に長期化してきており,その割引きの困難化をもたらしていることが問題となっている。
 この手形期間や売掛期間の長期化は,最近数年間において傾向的に進展し,38年ごろにおいて,すでに極度の悪化の状態であると考えられていたが,最近の不況下において,さらに若干の悪化がもたらされている。とくに,最近における手形期間5カ月程度以上の手形の割合の増加,2カ月程度以下の手形の割合の減少が顕著である。ただ,40年にはいるとともに,金融緩和の影響が次第に浸透し,受取手形の割引きは,若干容易になってきている。
 下請企業における取引条件の悪化は,さきにみた受注減少とともに,その経営を悪化させる大きな要因の1つであるが,さらに,第10表にみるとおり,下請企業の信用取引において,大幅な与信超過をもたらすこととなっており,親企業の倒産によって多くの下請企業倒産が生ずる要因ともなっていることに注意すべきであろう。

3) 経営の窮迫化

 以上のような大幅な受注減,取引条件の悪化などから,下請企業の採算の悪化,資金ぐりの困難化が著しい。
 第11表にみられるとおり,40年9月における前年同月との比較で,採算が悪化した企業の割合が大きく,とくに,機械関係において著しい。
 これに比べると,資金ぐりの状況は,悪化の度合がそれほどには著しくなく,40年にはいってからの金融緩和措置の影響が,若干ずつではあるが,浸透してきていることを示すものと考えられる。
 つぎに,採算悪化の理由としては,第12表にみられるとおり,受注減少が強く影響しているが,繊維関係の業種では,人件費の上昇を要因とするものの割合が大きい。また,下請単価の引下げによるものも,機械関連業種および衣服等において,かなりみられる。

(2) 下請企業構造の変動

1) 下請系列関係等による活動内容の差の発生

 これまでにみてきたように,受注の減少,採算の悪化は,機械関係部門等親企業業界そのものの需要減退の著しい業種については,一般的に顕著であり,また,規模別にも小規模のものほど悪化を示している。
 しかし,同一業種のなかでも,親企業との系列関係,親企業の経営内容,業況等の相違によって,系列下請企業の活動状況も系列ごとに差がみられ,不況の進展とともに次第に顕著となってきている。さらに,同じ親企業の系列企業のなかにおいても,不況の進展とともに,受注,採算等において差が拡大してきている。
 第36図は,同一の系列に属する下請企業について,39年9月から40年9月までの1年間における受注量の変動を示すものであるが,自動車部品のAおよびB,農業用機械のD,家庭用電気機器のFからI,綿スフ織物のN,ナイロンフィラメント織物のRなどの系列企業においては,受注量が増加したものと減少したものとの分化が認められよう。これに比べると,C,L,P,Qなどの系列企業では,ほとんどの下請企業が受注減を示し,また,Mの系列企業では,ほとんどが受注の増加をみることとなっており,同一系列内の下請企業間における相違の程度も,また親企業によって異なってきている。
 これと対応して,下請企業の採算状況にも同様の分化がみられる。家庭用電気機器(F.H.I.J),綿スフ織物(N.P),ナイロンフィラメント織物(R)などで,それぞれ程度の差はあるが,採算の悪化したものと好転したものとの分化が認められる。
 このように系列下請企業のなかにおいて,受注量,採算状況が異なってきているだけでなく,下請単価,代金支払条件,指導援助の内容等にも差が生じてきている。すなわち,一部の優良下請企業への発注の集中,拡大等によるその育成,確保に対し,その他下請企業への発注の削減,停止,一次下請企業の二次下請企業化等によるその整理,統合という,いわゆる「下請系列の再編成」が進展している(第13表参照)。
 このような動向は,これまでも少しずつ進められていたものであるが,最近では,本格的な開放体制への移行に際して,親企業の近代化,合理化が進められるに伴い顕著となってきた。また,とくに最近の不況のもとにおいては,親企業においても需要の減退が著しいため,発注量が減少するとともに,下請企業に対する品質向上,コストダウン等を強く要請することとなり,優良下請企業への集中,小零細下請企業の整理がより積極化している。このほか,親企業における変動がこのような系列の再編成を促進している場合がみられ,親企業の合併に伴う新しい系列の再編成などの例も生じている。
 もちろん,このような下請企業構造の変動は,最近におけるわが国全体の経済変動の過程において,労働力需給のひっ迫化による賃金水準の上昇がもたらされ,他方,需給構造の変化に伴い,親企業において大量生産方式,流れ生産方式等の導入,あるいは製品の特殊化,高級化が進展するにつれて,下請企業と親企業との近代化の格差が拡大した結果もたらされてきたものであるが,とくに最近の不況のもとにおいて,一部小零細下請企業の整理が進展する情勢にあることは,大きな問題であろう。

2) 取引関係の多角化

 これまでの下請企業においては,特定の親企業に対する専属的な取引関係をもち,他の親企業との取引が行なわれないという傾向がみられた。しかし,たとえば最近の受注減対策としても,他の親企業からの発注を確保する動きが,第14表のとおり,とくに機械部門を中心にみられる。機械部門を中心とするこのような動向は,第15表の今後の系列関係に関する下請企業の方針にもあらわれており,次第に,下請取引関係が特定の系列における閉鎖的な関係から多角的,開放的な取引関係へと移行していることが認められる。

(3) 下請企業問題への対応の方向と問題点

1) 下請企業の近代化

 (a) 最近の需給構造の変化,労働力需給のひっ迫化などに対応して,親企業における設備,技術の近代化は,急速に進展してきている。しかし,これに対応し,近代的な補完分野となるべき下請企業における近代化の遅れは,下請企業自体の発展,経営の安定化の大きな障害となっているばかりでなく,わが国経済全体の均衡ある発展を遅らせることとなるが,現在,その近代化の推進にあたって,多くの問題が生じてきている。
 すなわち,下請企業の設備,技術面における問題としては,第16表にみられるように,計画的な近代化が行なわれず,一部工程にかたよったアンバランスな投資が行なわれていること,また,親企業との間に,設備,技術の格差が拡大してきていることがその大きな問題となっている。
 さらに,このような近代化が円滑に行なわれない理由を,第16表によってみると,近代化の実施に関して,近代化のための資金不足と能力拡大にみあう需要の不足,さらに,資金の固定化による財務内容の悪化が問題となっている。
また,近代化に関する一般的な問題として,心要な量,質両面における労働力の不足も大きくあげられている。これらのほか,下請企業は,近代化を行なって行くにつれて,高度の生産管理技術を必要としており,この面での向上が伴わない場合には,納期,品質等において問題を生ずることが少なくなく,また,計画的な近代化そのものが円滑に進展しない場合がみられる。
 さきに述べたような急速な近代化の要請に対応し,設備技術面,経営管理面において総合的な近代化を図って行くために,このような諸問題の解決を図ることが,下請企業の当面する課題であるといえよう。
 この点に関して,これらの問題がそれぞれの個別の下請企業の力だけで容易に解決し難いものがあることを考え,主要な生産施設等を共同化し,過度の競争を排除して適正規模の実現を図るとともに,個々の企業におけるいたずらな能力拡充による負担の増大と競争の激化を解消するための協業化を進めることは,きわめて重要であるといわねばならない。
 (b) また,中小下請企請の多くが小零細企業であることについては,その近代化のためにも,事業協同組合等の組織化を推進し,共同受注,原材料の共同購入等の共同事業の実施,共同施設の設置等を通じて,その近代化の基盤を形成して行くことが重要である(第17表参照)。

2) 下請関係の近代化

 (a) 下請企業の特徴的な問題として,その価値実現力の弱さが大きな問題となっている。
 この価値実現力の弱さは,親企業と下請企業との間の下請企業の低賃金性に依存する非近代的な関係からもたらされているところが大きく,さらに,下請企業において過度の競争が存在していることが,これを一層激しいものにしているといえよう。
 このような問題に対しては,第1に,下請企業において事業協同組合を結成し,その取引関係における地位の向上を図ることが重要である。これは,また,過度の競争を緩和あるいは解消し,その近代化を進めるものとして重要なものであることは,さきにみたとおりである。
 このような事業の共同化は,これまでにも次第に進展しており,第17表にみられるように大きな効果をあげているが,なお,小零細下請企業において,一層その進展を図ることが必要である。
 (b) つぎに,さきにみたような取引条件の悪化,小零細下請企業の整理等に対する親企業の社会的責任の自覚は,下請問題に関して,強く要請されるところである。
 とくに,適正な近代的取引条件の確立を親企業が進めて行くことは,下請取引関係近代化のための大きな要件である。同時に,最近の系列再編成の進展についても,下請企業に対して急激な変動がもたらされることにより生ずる社会的,経済的影響につき,十分な配慮が望まれる。
 (c) 今後,下請企業を近代的な補完的産業として育成して行くため,一層その近代化を促進して行くことも,親企業における社会的責任の一つである。小零細下請企業に関しても,その共同化,合併等により,適正規模化,近代化が進展するよう強力な指導を要請したい。また,これまでの専属下請等による閉鎖的取引関係から,より開放的,近代的取引関係への移行に努めることも重要であり,親企業と下請企業との間に近代的分業体制が確立し,下請企業の専門企業化が図られるよう,親企業においても,下請企業の受注の多角化,親企業業界における規格の統一,発注方法の整備等を進めることが重要である。

3) 下請問題に対する国の基本的方策
 このような下請企業の適切な近代化を促進し,その取引関係の適正化,近代化を図ることによって,近化的な下請企業を育成するための国の施策については,第4章に述べるとおりであるが,その基本的方向としては,下請企業の協業化等を通じてその近代化を推進するものである。
 また,事業の共同化,組織化を進めるとともに,適正な取引条件の確立の促進等取引関係の適正化を図ることによって,その不利の是正と経営の安定化を進めて行くことが重要である。
 さらに,最近の景気の沈滞が下請企業の経営の不安定をもたらす最大の要因の一つであることについては,何といっても経済全体の回復を促進することによって,下請企業の受注の増大を図ることが重要であり,この関連からも早急に需要の喚起を考慮して行かなければならない。

2 小規模企業の変動と問題点

(1) 不況下における小規模企業の動向

1) 事業活動の動向

 小規模製造業の売上げ等の動向は,第37図にみられるとおり,一般的な景況の沈滞を反映して,39年以降伸びの鈍化を示している。とくに,38年後半には,中小企業全体の活動よりも高い伸びを示していたものが,39年後半には,中小企業全体の伸びをかなり下まわることとなり,その後40年にはいってからも伸びの上昇はみられない。
 商業部門の小規模企業では,売上げの伸び率が小さく,これまで百貨店を除く小売業の伸びを下まわってきた。さらに,40年後半に至り,1〜4人規模を中心とする鈍化が著しくなって,前年水準を下まわる場合も生じている。
 これらに比べて,サービス業の小規模企業では,38年から39年にかけて次第に伸びの増加を示しており,40年にはいってからも伸びがあまり鈍化していないことが注目される。

2) 経営内容の悪化

 最近の不況の影響を強く受けて,小規模企業の経営内容も次第に悪化してきている。
 小規模企業の営業利益率は,第38図のとおり,サービス業において40%程度と最も高く,製造業では23%程度,商業では18%程度で,これまで若干ながら上昇する傾向にあった。しかし,39年にはいると,いずれも2〜3%程度の低下を示し,これまでの上昇傾向が大きく停滞している。このため第39図に示されるように,採算の悪化が次第に進展し,39年にはいると,製造業,商業とも採算が悪化した企業の割合が好転した企業の割合を大きく上まわることとなり,40年においては,その傾向が一層強くなってきている。

(2) 小規模企業における変動と問題点

1) 労働力不足の進展と賃金水準の上昇

 労働力需給のひっ迫に伴う若年労働力の不足は,小規模企業に一層強くあらわれているが,とりわけ製造業において著しい。
新規中学卒労働者の充足状況をみても,製造業平均では,充足率が35年の44.7%から39年の24.6%まで低下しているが,そのなかで,小規模企業の充足率は,35年においても25.1%と低く,39年にはさらに12.6%へと低下している。一方,商業部門では,全体を平均した充足率が35年の30.6%から39年には22.0%へと低下しているのに対し,小規模企業での低下は,同期間に27.8%から20%になる程度であって,商業全体よりは低い充足率であるが,製造業の場合ほど著しい低下とはなっていない。しかし,小規模企業の経営においては,商業,製造業とも,労働力の不足がその最大の問題の一つとなっていることが認められる。
 このように,小規模企業においては,新規学卒者を中心とする若年労働力,技能労働者等の吸収がきわめて困難な状況にあることに加えて,その雇用する若年労働力がより高賃金の他部門へ流出することも少なくなく,小規模企業における労働力の年令構成は,とみに高年令化している。これは,39年度における40才以上の従業者の比重が,全産業平均では23%であるのに対し,常用労働者9人以下の規模では46%(個人事業主および家族従業者を含む。)に達していることでも明らかであろう。
 他方,労働力需給のひっ迫による賃金水準の上昇は,これまで小規模企業の賃金水準がきわめて低かったこと,および上に述べたような労働力不足が進展していることとも対応して,小規模企業においてとくに著しい。40年1〜11月平均の賃金水準の対前年同期比をみても,小規模企業では12.9%増と30人以上の規模の平均9.7%増を大きく上まわっている。この結果,製造業における中小企業と小規模企業の賃金格差も,格差比率(20〜299人規模の賃金水準を100とする小規模企業の賃金水準)で,32年の74.3から38年には90.4へと大きく縮小することとなっている。

2) 附加価値生産性上昇の停滞

 賃金水準が上に述べたように急速な上昇を示している反面,これを補うだけの附加価値生産性の上昇がみられないことは,小規模企業における大きな問題であろう。もちろん,小規模企業の生産性そのものも次第に上昇してきているが,その水準が依然として低く,また,賃金水準の上昇にみあうだけの生産性の上昇とはなっていないところに問題が生じている。
 製造業の小規模企業について,これまでの生産性と賃金水準の動向をみても,32年から38年までに生産性は2.2倍の伸びを示したが,賃金の伸びは2.3倍に達しており,しかも,中小企業のなかでも,20〜299人の層と小規模企業との賃金格差は,前述のとおり縮少したにもかかわらず,附加価値生産性の格差は,61.1から73.0にまでしか縮小していない。これは,20〜299人の層と小規模企業との間に経営内容の大きな差を生じていることを示すものであり,小規模企業において,より急速な生産性の向上を図るための生産体制の近代化,経営の合理化が必要となっていることを示すものである(第40図参照)。

3) 小規模企業の比重の低下傾向
 小規模企業の比重は,事業所の数でみると,その数が圧倒的に大きいためほとんど顕著な変動を示さないが,製造業,商業などにおいて,若干ずつ低下する傾向が認められる。
 製造業全体に占める小規模企業の比重を出荷額でみると,第41図に示すとおり,とくに労動集約的,小規模の生産形態に適した分野の多い食料品,衣服,織物,木材・木製品,家具・装備品,皮革製品およびその他の製造業等において20%から40%程度と比較的大きく,重工業部門のなかでは,金属製品,精密機器などにおける比重も10%から20%程度でそう小さくない。これに対して,化学,鉄鋼・非鉄金属,機械,電気機器,輸送用機器などに占める比重はきわめて小さく,ほとんどが5%にみたないものである。
 しかし,最近の需給構造の変化,市場条件の変化によって,消費財についても画一的な大量生産体制の導入,特殊化,高級化のための設備,技術の導入が進むとともに,輸送の迅速化,大量化等による市場の広域化等がもたらされることによって,大企業あるいは中企業の比重が飛躍的に増大している一方,これまで小規模企業が依存してきた雑貨,工芸品,衣服等の分野にも代替品が進出し,あるいは需要者の嗜好の変化による需要の減退をみるような場合も生じている。出荷額の比重においても,このような変動を反映して,小規模企業の比重は次第に低下しており,とくに,小規模企業の比重が比較的大きな業種ほど低下が著しい。重化学工業部門での比重の低下はあまり著しくないが,これは,32年における比重そのものがきわめて小さかったこと,この部門での小規模企業は,本来限られた特殊な分野に存立するものであり,これまでのところではあまり大きな変動を生じていないこと等によるものであると考えられる。
 一方,商業部門には小規模企業が多く,とりわけ小売業では90%程度が小規模企業である。しかし,最近における需給規模の拡大,輸送手段の迅速化,大規模化等に対応する中間卸売機構の排除,スーパーマーケット等の進出等により,小規模企業は,次第にその固定的地域需要を失ってきており,全体の企業数に占める小規模企業の比重も,卸売業では35年の50.5%から39年には46%へ,また,小売業では90.2%から89.6%へと低下している。とくに,卸売業の1〜4人規模では,企業数そのものが35年の6万2,200から39年には5万6,000と減少してきていることが注目されよう。

4) 諸問題への対応

 以上にみるとおり,小規模企業の地位は低下し,経営内容は悪化を示しているが,このような変動に対応するためには,早急に製品の特殊化,高級化のための技術,設備の導入,店舗,輸送施設等の近代化,近代的サービス施設の導入とサービスの向上を行なうなど,体制の整備,拡充を図る必要がきわめて大きくなってきている。
 しかし,小規模企業では,32年から37年までに,製造業で全企業数の16%以上に及ぶ開廃業がみられたように,過度の競争が行なわれ,企業の浮沈も激しく,このため適正規模の実現が阻害されることが多い。また,金融機関等からの必要資金の借入れも小規模になるほど困難な場合が多く,十分な経営管理能力が不足していることとあいまって,小規模企業の適正な対応が容易に行なわれ難い現状にある。
 このように,個々の小規模企業の能力では十分解決し難い問題に直面しているため,対応が不十分なままに転廃業を行なう小規模企業も,これまでにかなりみられた。しかしながら,共同して必要な設備,技術を導入することにより,安定的な経営を続けているもの,あるいは協業化により分業体制を確立し,個々の小規模企業の専門化を行なうこと等によって,近代的な体制を確立しているものも少なくない。
 この点に関して,中小企業庁の行なった調査においても,今後の対応の方法については,商業およびサービス業の57%は同業者との協業化を図り,過度の競争を排除するとともに,近代化への対応を図ろうとしており,また,製造業についても,その50%が協業化と機械化の必要性を強調している。とくに,機械部門で,機械化とともに協業化の必要性を強調するものが多いことは,個々の企業の能力では,機械部門で必要となる設備の導入が十分には行ない難いことを示すものと考えられよう。

3 産地企業の変動と問題点

(1) 不況下における産地企業の動向

1) 産地企業活動の停滞

 産地企業の生産活動は,すでに38年末から伸びの鈍化を示し,39年から40年にかけて次第にその傾向を強めている。とくに,39年4〜6月期以降は出荷額の伸びを下まわっており,製品在庫の圧迫も次第に強くなっているものと考えられる。これに対して,出荷額の伸びの低下がとくに著しくなった39年後半から,輸出額が大きく伸びてきていることは,不況下における産地活動の維持に大きく貢献したものといえよう(第42図および第43図)。
 このような事業活動を反映して,産地企業の採算,資金繰りは,38年からつねに前年水準を下まわっており,40年にはいってからは,資金繰りの回復への動きがみられるのに対して,採算の悪化は,若干ながらさらに進展していることが問題となろう。
 業種別には,産地企業のなかで圧倒的な比重を占める繊維製品の出荷額の伸びの鈍化が急速であり,40年にはいってからは,ほとんど前年の水準から伸びを示していないこと,さらには,機械・金属部門の出荷額が前年水準を下まわっていることが認められ,他方,食料品,紙製品などでは,40年にはいってから次第に回復を示している。

2) 産地構造の変動とその問題点

 産地企業においては,織物を中心とする繊維製品製造業の比重が5割以上と圧倒的に高く,また,規模別にも1〜3人規模の企業が6割,4〜9人規模の企業が2割と小零細企業の比重がきわめて高い。
 最近においては,次第に,この零細企業および中小企業上位の100人以上の規模の比重が増加し,中間の20〜99人までの規模の比重が低下している。他方,業種別にも,繊維関連の産地企業の比重が増加し,木材・木製品,窯業・土石製品等の比重が低下している反面,少しずつではあるが,平均的な事業活動の規模が前者では縮小し,後者では拡大する傾向を示している。
 さらに,産地企業の業態において,第43図にみられるように,独立的企業(その製品の消費市場を直接もっているもの),貿易商社の下請企業の比重が次第に低下し,一般の大企業,国内取引商社等の下請企業の比重が次第に増加していることも注目される。
 これらの変動は,後述するように,第1節にみた諸要因の影響によってもたらされているものであるが,その結果,これまでの伝統的な製品から一般的な画一化された製品への転換が進み,ほとんどの産地において,旧来の工芸品的製品の比重がかなり小さくなっている。これは,また,転換によって製品の個性が失なわれる場合が多いだけに,その転換の態様によって不況下の動向もかなり異なり,産地企業の構造の変化ともなってあらわれていることが注目されよう。

(2) 転換等の要請とその問題点

1) 転換等の進展

 産地企業は,39年において,需要の変化への対応のため(転換産地のうち,72%),供給される原材料が変化したため(13%),その他の条件変化が生じたため(15%)という理由から,全産地の23%において生産品種の転換を行なっている。これまでに,33年から37年までの5年間で全産地の約56%,38年には25%の産地において,もっぱら需要の変化を主要因として生産品種の転換が行なわれている。
 一方,産地企業の立地条件の一つとして,これまで原材料,水利等とともに,地域労働力を豊富に使用できたことがあげられるが,最近における全般的な労働力需給のひっ迫から,技術者の確保,養成の困難化,若年労働力の流出,従業者の高年令化等がもたらされており,また,これまでの生産形態によっては,賃金水準の上昇に対応して行くことが困難となっていることからも,より労働節約的生産形態をとる新品種への転換が促進されることとなっている。
 このほか,需要構造の変化と関連して,産地製品がこれまでにもっていた地域的需要が,輸送手段の迅速化等によって,次第に,より広い市場へと開放されたため,一般的代替品の流入による需要の減退をみる一方,大企業の販売力,宣伝力などによる進出の影響も大きく受けることとなって,産地製品の規格化,量産化,あるいはより一層の特殊化,高級化への転換が要請されたところも大きい。さらに,海外市場における発展途上国との競合において,綿織物等の繊維製品,合板などの木材・木製品,その他の雑貨等におけるわが国のシェアーの低下がもたらされているが,このような輸出市場に依存してきた産地企業においては,労働節約的生産形態への移行または特殊化,高級化によって,これと対抗して行くことが強く要請されている(第18表参照)。

2) 条件変化への対応とその問題点

 つぎに,産地転換にあたっての問題点をみると,最も大きいのは所要資金の確保難であり,地方公共団体等における転換助成策に対しても,資金の融資,借入れのあっせんが第1に要望されている(第19表参照)。また,新しい販売経路,市場の確保等と関連して,産地企業間あるいは産地相互間における過度の競争等が激化していることも,問題となっている。
 これらのほか,新技術の習得,確保,必要な労働力の確保,さらに適切な転換計画の作成および実施の問題がある。新しい設備,技術をもって効率的な経営を行なって行くためには,優秀な技術者,若年労働力を確保することが必要となり,また,転換を行なうには,一層近代的な経営管理を必要とするとともに,転換に際しても,需要動向の適確な把握と適切な転換計画をたてることが要件である。これらの面における努力が,転換の成否に大きな影響を及ぼしていることを見のがしてはならない。

3) 産地企業における転換の努力

 産地企業の転換は,徐々に,また,上位規模の企業から次第に小規模企業へと進展してゆくものであり,一時的に問題が集中して生ずることは,比較的少ない。
 しかし,以上に述べてきた多くの問題を克服しながら転換を適切に行なって行くことは,個々の産地企業には困難な場合が少なくない。
 この点において,多くの産地においては,組合組織をもち,工場集団化,共同施設の利用,情報の提供,資金借入れのあっせん,輸出市場の調査,展示会の開催等による販路確保,経営および技術の講習などの共同事業を積極的に進め,また,転換指導に努めていることの意義は大きいが,なお,次第に進展してゆく今後の変動に対して,それぞれの産地の実態に即した適切な対応を図るため,産地診断の実施を推進し,これに基づく協業化等を進めてゆく努力が,一層強く要請されている。

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